Honeymoon 4
−美しい服−



ダラットに滞在して数日目の朝。
悠理と龍之介は、ホテルの2人の部屋の専属客室係のニャンからスクーターを借り、
ホテルを少し行ったところの屋台街へと繰り出した。
悠理は二人乗りの後ろから、スクーターを運転する龍之介に声をかけた。

「ねぇ〜!りゅうのすけー、ベトナムってすごいよね〜!スクーターの数!」
「あぁ、HONDA製のドリームっていうスクーター、ほら、日本で郵便屋さんや蕎麦屋さんが乗ってるカブあるだろ、
あれと同じやつなんだが、それを持ってるってのがベトナム人のステイタスらしいよ?」
「へぇ〜!確かにクルマ、あんま見かけないもんな〜!」

悠理が言うとおり、ベトナムの道はどこもかしこもスクーターか自転車が横行しており、
自動車の数はわずかだ。
ほとんど我が物顔のスクーターに至っては、二人乗りどころではなく、
家族全員乗ってるのではないか?いや、曲芸か?というぐらいに人が乗っていたり。
しかも、道路の舗装の悪さといったらない。道の真中に石ころが落ちてるのは当たり前、
牛は横切る、がちょうは羽ばたく。
もう、驚きを通り越してただただ、その状況を楽しむしかない。
でもこれが、この国のふつーの日常。

そうこうしているうちに、たくさんの屋台がある並びについた。
いくつかの屋台を通り過ぎてから、
龍之介はニャンに教えてもらってすでに何度も来ている屋台の前にスクーターを停め、
悠理はその後ろから元気に飛び降りた。
その屋台を開く準備を始めていた女性が、2人に気づいて顔を綻ばせた。

「ユーリ!リューノスケ!イラッシャーイ!」
「トゥイッ、また来たぞ〜!」

悠理にトゥイッと呼ばれた彼女はニャンの妹で、一人でこの屋台を切り盛りしている。
料理上手のうえ、可愛らしい顔で愛嬌のある性格をしており、日本語のできる兄のニャンに教わっていて、
アクセントこそ少々違うものの、日本語の意味はほとんど理解してしゃべれるので、
悠理とはすっかり仲良しになってしまった。
悠理の後ろから来た龍之介もトゥイッに声をかけた。

「おはよ、トゥイッ」
「オハヨウゴザイマス!」
「すごいっ!トゥイッ、日本語じょーず!」
「アリガトゴザイマス!ケサハ、ナニニナサイマスカ?」

悠理と龍之介は屋台の前のテーブルの椅子を引くと向かい合って座った。

「ねぇ、りゅう何食べる?」
「そうだな、とりあえず鶏肉のフォーと、生春巻きと、五目おこわの蓮の葉巻かな。
後は食べてから頼むとして」
「じゃーあたいはねー、空芯菜の炒め物と、バインセオと、えびのネプモイ蒸しと、
生春巻きと揚げ春巻きと・・・」

まだまだ続きそうな悠理の注文を龍之介が慌てて止めた。

「こらこら、悠理も他の注文は一旦食べてからにしとけよ」
「だけど、これぐらいペロッといけちゃうぞ?」
「そりゃわかってるし、オレだってそうだけど、そんなにいっぺんに頼んだらテーブルに乗らないって」
「あ、そっかぁ。じゃぁ、とりあえず今言ったヤツね?」
「ハイ、ワカリマシタ!」





龍之介はベトナムコーヒー、悠理はミントソーダを飲んでいると、まもなく注文した料理が次々に揃い始めた。
自分のところにきた鶏肉のフォーに、龍之介は生のパクチーをちぎりながら入れる。
フォーから立ち上る湯気にパクチーの香りが混ざってなんとも美味しそうだ。
向かいの悠理がヌックマムをつけた生春巻きを頬張りながら唾をゴクンと飲みこむ。

「・・・あー、あたいもフォー頼めばよかったなぁ」
「後で頼めば?」
「んー、今食べたい。龍之介が葉っぱちぎって入れたそれがイイ〜」
「うっわ、わがままー。しょうがねぇなぁ」

とは言いつつも、龍之介は苦笑しながら、自分の前の器を悠理の方にやった。
結局、結婚しても悠理に甘い男、龍之介。代わりに悠理の頼んだ空芯菜の炒め物をつまむ。

「へへ、ありがと♪」
「あっついから、気ぃつけろよ?」
「ん♪」

米からできた麺をプラスチックの太くて白い箸ですくうと、フーっと一回冷ましてから、一気にすする。
トゥイッの作るフォーのスープは鶏がらのだしがよく出ててとてもおいしい。
さらに、龍之介の入れたパクチーの酸味がほどよく効いている。
美味しいものを食べてすっかり幸せそうな悠理の笑顔に、龍之介もつられて笑う。

「うまい?」
「うんっ、すっごーくうまいっ!この龍之介の入れた葉っぱさぁ、
ちょっとクセあって、最初は苦手だったけど慣れるとなんかヤミツキだな〜」
「パクチーは、あまり日本人の舌に合わないらしくて、日本のベトナム料理屋では使ってるとこ少ないんだよな」
「そう言えばそうだよね、この生春巻きも、日本で食べるやつにはたいてい大葉が入ってるもん」
「大葉の方が日本人受けがいいからな。パクチーって、英語圏ではコリアンダー、
中国圏では香菜シャンツァイつって、結構料理には欠かせない香草なんだけど。
悠理の言うとおり、クセは強いけど慣れるとこれほどうまいものないのになー」
「じゃぁ、日本じゃこの味、食べられないのかー?」
「ふふ、こりゃベトナム立つ前に、トゥイッにベトナム料理を習わなくっちゃな」
「龍之介が作ってくれるのか?」
「もちろんさ。奥さんがご所望ならば」

2人は顔を見合わせてにっこりと微笑みあった。





食事をしながら何となく向かいの通りを見ていると、
ベトナムの民族衣装、アオザイに身を包んだ女の子たちが通りすぎていく。
そろそろ近くにある高校の登校時間なのだ。
それを見て、龍之介がボソッと呟いた。

「・・・アオザイっていいよなぁ、なんか色っぽくて」
「そぉかー?チャイナドレスみたいだけど、ズボン穿いてるじゃないか。袖だって長いしー」
「だけど、思いっきり身体の線が出てるだろ。よほどプロポーションよくなきゃ似合わないよ、あれは。」

視線が女子高生たちの方を向きっぱなしの龍之介に、悠理は少々カチンと来た。

「トゥイッ!333ちょーだいっ!」
「おい、朝からビールかよ!?」
「うるさいなっ!龍之介なんか、アオザイでも青汁でも見てりゃいいんだ!」

・・・あちゃー。

仲良く楽しく、おいしい朝ご飯をしていたはずが、一気に空気が変わった。
帰りのスクーターでも、龍之介の背中につかまってはいるものの、悠理はふくれっ面のまま黙りこくっている。
ホテルの部屋に帰ってもそれは一緒。

「・・・悠理、いいかげん機嫌直せよ。オレは、普通にアオザイはいいなって言っただけだろ?
女子高生がどうとか、他の女に見惚れたわけじゃ・・・」

言い訳がましい龍之介に、悠理のキツイ一瞥。その視線は龍之介を固める。

・・・こ、恐い。

少々他の女性の方を見ていただけでこれだ。
浮気の一つでもしようものなら・・・おそらく命は無い。





面白くない顔つきをしたまま、ずっと部屋のソファに座り込んでいた悠理が急に立ちあがった。

「あたい、買い物してくる!」
「買い物って・・・一人でか?」
「さっき、トゥイッと一緒に買い物行こうって約束してたから!」
「・・・そっか。気をつけて行ってこいよ」

龍之介は、まだ悠理が怒っているのだろうと思い、ついていくのをやめた。
一人で出掛けるというのなら、無理にでも付いていくが、トゥイッと一緒というなら安心である。
龍之介を一人部屋に残し、悠理はホテルのロビーへ降りるため、エレベーターに乗った。
そろそろ下にトゥイッが来ているはずだ。
悠理はエレベーターの壁に寄りかかりため息をひとつついた。

・・・りゅうのばか。
あたい以外の女に見とれるなんて絶対許さないんだ!何がアオザイだ!
もぉ〜!ばかばかばかっ!

しかし、いつまでも拗ねているのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

・・・さ、買い物、買い物!いっぱい衝動買いしてやるぞ!

悠理がエレベーターを降りると、ロビーでニャンと話をしていた青いアオザイ姿の綺麗な女性が手を振ってきた。
すぐにはわからなかったが、それはトゥイッだった。

「トゥイッ!?うっそ、わかんなかった!綺麗だなぁっ!すっごいきれーだ!」
「フフッ、アリガトゴザイマス。セッカクユーリトオカイモノイクノダカラトオモッテ、オシャレシテキマシタ」

にっこりと笑うと、健康的な歯が白く輝く。
トゥイッには、その青いアオザイがとてもよく似合っていた。

「リュウノスケハドウシマシタ?」

本当は、龍之介も一緒に買い物に行こうということになっていたのだ。
悠理は、龍之介とのアオザイをめぐる一件をトゥイッに話してみることにした。

「ソウダッタノ。アサゴハンノアト、フタリチョットヘンダッタカラ、スコシシンパイシテタヨ。
デモ、リュウノスケガアオザイイロッポイッテイッタノ、アルイミタダシイネ。
アオザイハ、ジョセイヲウツクシクミセルフクナノヨ」
「女性を美しく見せる服?」
「ソウッ!」

急にトゥイッは何かを思いついて、嬉しそうにその両手を打った。

「ソーダッ!ユーリ、イイオミセイキマショウ!」





さて、悠理がトゥイッと買い物に出掛けて数時間後。
ホテルの部屋では、一人することのない龍之介がベッドでうたた寝中、
なにやら、おかしな夢を見てうなされていた。

「・・・うっ、うぁ・・ご、ごめん・・悠理。あぁ・・もぅ・・オレのばか・・・」
「・・・りゅう、りゅーう、龍之介、起きろ!」

買い物から帰ってきた悠理が、龍之介の上に馬乗りになって揺さぶる。
そうして、ようやく龍之介の目が覚めた。

「・・・あ、あれ?あ、夢か・・・ゆうり、帰ってたんだ」
「うなされてたぞ?何かヘンな夢でも見てたのか?」
「夢ん中で、悠理にキライって言われた・・・」
「・・・ばかっ!あたいは龍之介のこと、キライだなんて思ってないぞ!」
「・・・じゃぁ、好き?」
「・・・こら、ちょーしにのるな」

龍之介は自分の上に跨った状態の悠理の腰をギュッと掴み、悠理を捕らえる。
寝起きの龍之介は、少し甘えた感じでどことなくセクシーさを感じさせる。

「悠理がオレのこと、好きかどうか聞きたい。ちなみにオレは悠理のこと大好き♪」
「・・・ばっ、ばか、あたいだってりゅうのこと・・・ぅん・・んむ」

悠理の口はその続きを言う前に、龍之介のくちびるに塞がれた。
龍之介の舌がくちびるを割って、悠理の舌に絡みつく。
悠理は自分の両腕を龍之介の肩に回し、されるままに、優しくてちょっとエッチなキスを受け入れる。
そして、たっぷりキスを楽しんでから、2人はくちびるを離した。

「・・・なぁ、オレが他の女が綺麗だとか色っぽいとか言うのは、言ってるだけだってわかってるだろ?
オレがマジで惚れてるのは悠理だけで、
キスして、抱きしめて、裸に触って、可愛い声あげさせたいと思うのは悠理、
お前一人だけなんだぞ・・・?」

悠理を抱いている龍之介の手が、悠理の身体をさわさわとまさぐり、
悠理の感じる場所、一つずつに触れ始めた。悠理の声がにわかに甘く、蕩けた吐息に変っていく。

「・・・そんなのわか・・ってる。だけど、あたいだっ・・てヤキモチ・・やいたっていぃ・・だろ?
あた・・いだって龍之介のこと・・・大好きなん・・だから・・ぁ・・・」
「ゆーりっ♪」
「ひゃんっ!」

龍之介は自分の身体を返して、悠理をベッドに組み敷いた。
そっと顔を寄せられ、悠理は反射的に目を閉じた。
すると、くちびるをペロッと舐められた。今度は猫のようなお茶目なキス。

「なぁ・・・仲直りのエッチ、する?」
「・・・ん・・するぅ・・・」

再び悩ましいキスをしながら、龍之介は悠理に尋ねた。

「そう言えば・・・買い物って、何買ってきたんだ?」
「あっ!そーだっ!りゅう、ちょっと待ってろ!」

急に仲直りのエッチをお預けにされ、龍之介がきょとんとしていると、
悠理は、なにやら街で買ってきたものの入っている紙袋を手に、跳ねるようにしてパウダールームへと消えた。





― 数分後。

龍之介がよくわけもわからず、悠理がパウダールームから出てくるのを、
ベッドに腰掛けながらも、大人しく、だが猫をも殺す好奇心で待っていると、ドアが開き、悠理が出てきた。
その悠理を見て、龍之介は息を飲んだ。
悠理のその姿は純白のアオザイ。その上着の裾には銀糸で見事な龍の刺繍が縫われている。

「うっ・・わ・・・」

龍之介は思わず立ち上がり、悠理の傍に寄った。
悠理は薄く化粧をした顔ではにかんだように笑って、龍之介を見上げた。

「・・・どう・・だ?」
「・・・いぃ。すげぇいい。どうしたんだ、これ?悠理にぴったりじゃないか!」
「トゥイッがさ、知り合いの仕立て屋さんに連れてってくれたんだ。
すごいんだ。身体のいろ〜んなところのサイズ、20箇所以上測られたんだぞ。
龍之介の言うとおり、プロポーション出るってのよぉ〜くわかったよ」
「・・・サイズ、20箇所以上も測られたって・・・まさか男にじゃないよな?」
「まさかぁ。女の人に決まってるだろ?その人、すっごいんだ。採寸して、生地とデザイン選んでから、
あたいとトゥイッが買い物してる間に、これ仕立て終わってたんだよー!?」

それを聞いて、龍之介は安心したのかホッとした表情を見せた。

「・・・あ。もしかして心配した?あたいが身体測られたの男の人だったら許さねぇ!とか」
「・・・した。心配って言うより嫉妬。
オレは悠理の身体にどんなに触っても、こんなに悠理に似合う服は作れないから」

龍之介はそっと両手を伸ばし、悠理を抱き締めた。絹で出来たアオザイの生地の手触りがなんとも心地よい。
抱き締められながら、悠理は龍之介に尋ねた。

「・・・ね、りゅう・・仲直りのアレ、どーする?」
「すぐに脱がせるのはもったいないし、後にしよう。
それより、なんか大勢に見せびらかしたい気分♪オレの奥さんキレーだろ?って」

まるで子供のようにはしゃいでる龍之介に、堪らなく愛しさを感じ、
悠理は優しく微笑んだ。

「じゃ、ご飯でも食べに行く?」
「そうしよう。でもその前にー・・・」
「その前に?」
「オレの大事な大事な奥さんに仲直りのキスをしとかないとな・・・」

そう言うと龍之介は、あっという間に悠理のくちびるを奪った。
口付けは軽く、だが優しく、悠理のくちびるを吸う。
その抱擁と同じぐらい暖かなキスに、悠理は頬を染めて小さくため息をついた。
その様子を見て、龍之介はくすっと笑った。

「・・・キスならさっきしたのにー」
「あれは仲直りのエッチのオプションだろ?これは純粋な仲直りのキス」
「・・・エッチだってちゃんと後でするんだからな」
「そんなのと〜ぜん!」

おどける龍之介の腕に、悠理は嬉しそうに自身の手を絡ませ、
2人はベトナムで迎える最後の夜に溶けていった。


今回はちょっとエッチが少なかったな。
少ないというよりも、寸止めだし。
それよりなにより、芥川のベトナム料理を食いに行きたいという願望がそのまま・・・。

・・・ところで、お前さん達、ベトナムの次はどこに行くんだい?
↓行き先決定

Honeymoon5


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