温泉2人旅
龍之介が、座敷の縁側に座り、そこからじっと外を眺めていた。
ここは、古い温泉町。
龍之介が幼い頃からよく訪れている温泉旅館の離れの一室である。
今までは、左肩に負った銃創からくる神経痛を和らげるための湯治で訪れていたのだが、
今回は先日刺された腹の傷を癒すためでもある。
龍之介が視線を送る先は、儚く叙情的な小説の一場面のような晩秋の日本庭園。
昼夜の大きな温度差が、楓に美しい紅をさしている。
空気も草木も、新しい季節を迎えるために大きく変わろうとしていた。
綿毛のような雪虫が、ふわふわと空を舞うのを見て、龍之介はつぶやいた。
「もしかしたら今夜は、雪が降るかもな・・・」
今でも少し寒いぐらいだから、夜はもっと冷えるだろう。
雪が降るとしたら、なおさらだ。
庭園が外界の音を吸い込むのか、離れは静かだった。
・・・ただ一人、彼の旅の道連れを除いて。
「龍之介!今ね、女将のおばちゃんが、おやつ持ってきてくれたよ~」
悠理が嬉しそうに小花が散らされた上品な箱を抱えて龍之介の元へと駆け寄ってきた。
「おぉ、よかったな。そこのおかきはうまいぞ」
振り返ってそういうと、悠理が少し変な顔をしている。
「・・・どうした?」
悠理はそれには答えず、龍之介の胸に顔を埋めた。
龍之介は優しく悠理の髪を指で梳いた。
悠理はそのままの状態で龍之介に尋ねた。
「龍之介、外見ながら・・・何考えてたんだ?」
「今晩は雪が降るかも、って考えてた」
「・・・それだけ?」
「それだけだよ。悠理、急にどうした?」
龍之介は自らに身を寄せる華奢な身体に両腕をまわした。
「・・・龍之介は・・・たまに、どこかあたいの知らない遠くを見ているような気がするから。
龍之介のそういう顔をみると、あたいは少しだけ、ホントに少しだけ不安になる。
だから、何も考えないであたいのことだけ、ずっと抱きしめていて欲しいんだ・・・」
・・・こんなこと、言うつもりじゃなかった。
こんなこと言うなんて、あたい、普通の女みたいじゃないか。
「遠くなんか見てない。悠理、オレはずっとお前を見てる・・・」
龍之介の言葉はいつも優しい。
そしてその言葉は嘘じゃない。絶対に。
でも・・・龍之介には、あたいが立ち入れない世界があるんだ。
龍之介はヤクザじゃないけど、例えば、もしも虎造おじちゃんや夏目さんに何かあったとしたら、
一人でだって、敵に立ち向かっていくと思うんだ。だって・・・ロンツォアの時もそうだった。
もしも・・・またそんなことがあったら、あたいはどうするんだろう?
行かないで、なんて・・・言っちゃうんだろうか・・・?
「・・・何か、余計なこと考えてるのか?」
龍之介の言葉に悠理は顔を上げた。
悠理は少し泣きそうになった。悠理の心は龍之介にはどうやったって隠すことができない。
「・・・何があったとしても、オレはお前の元に帰ってくる自信がある。わかるだろ?」
悠理は龍之介の胸を静かに濡らした。
「バカ・・・あたいは待ってるタイプの女じゃないぞ・・・」
「オレを待たないんならそれでもいい。
それなら、ずっと離さないまでのことだ・・・どこにも行かせやしない」
悠理を抱く龍之介の腕に力がこもった。
悠理はその腕に身を任せた。世界で一番大好きな男に抱かれていることが泣けるほど嬉しかった。
「違う・・・あたいが龍之介を離さないんだ。あたいはもう、置いてきぼりのままにはならない。
・・・でも離さないでいてくれるんならそれでいいや」
悠理は抱きしめられながらそっと目を閉じた。
「・・・悠理、キスしようか」
「・・・何だよぉ、急に改まって・・・いっつも勝手にしてくるじゃないか・・・」
「別にいつも勝手にはしてないだろ?言葉にしてないだけで」
確かに龍之介の言うとおりだ。
龍之介が悠理にキスしたいと思ったときは、いつも、じっと悠理の目を見つめて優しく頬に触れてくる。
そして、そういうときは、ほとんど悠理自身もキスしたいときなのだ。
「・・・そぉだけど」
改めて言葉にされると照れくさい。
そんな頬を桜色に染めた悠理を愛おしげに龍之介は見つめ微笑んだ。
「・・・そういう照れた顔の悠理も可愛いな」
「・・・ばか」
桜色がさらに色濃くなった。
「で・・・キスしたい?」
「・・・うん」
「じゃ、目を閉じて」
悠理が眼を閉じると、そっと触れてきた柔らかなくちびるの感触が心地良い。
・・・龍之介以外の誰ともこんなことしたことないけど、
龍之介のキスってきっと、誰よりも上手だと思う・・・だって触れただけでこんなにドキドキするんだ・・・
・・・そう言えば、龍之介のファーストキスっていつなのかな。
ダメだ・・・こんなこと考え始めたらどんどんやきもち焼いちゃうじゃないか。
多分・・・いや絶対、どこの誰よりもあたいが一番龍之介とキスしてるんだ!
それでいいじゃんか・・・。
そんなことをぼんやり感じているといつものように龍之介の舌が悠理の口の中に侵入してきた。
「・・・んん」
悠理も答えるようにその舌を絡める。
もう何も考えることはできなかった。
優しいキスが終わって、龍之介がつぶやいた。
「悠理・・・キス、うまくなったな・・・」
「・・・自分で教えたくせに」
「・・・そうか?それじゃもう一度。今度は悠理からして」
「あたい・・・から?」
「そう」
そう言うと、龍之介は目を閉じた。
長い睫毛と中性的な顔が悠理をときめかせると同時にその鼓動を速めさせた。
・・・龍之介ってきれい。
まるで、ロシアンブルーみたいだ。
悠理はまるで魔法にでもかかったかのように、龍之介の首に両腕をまわし、
そのくちびるに自身のくちびるを寄せた。
軽く触れるだけのキス。
わずかに震えた悠理のくちびるが離れると、
龍之介の目がゆっくりと開き、悠理を見つめた。
・・・こんな子供っぽいキスをするつもりじゃなかったのに。
悠理は少し恥ずかしくなって龍之介から顔を逸らせた。
しかし、ぐいっと顎を引き寄せられ、再び口付けされた。
先程よりも、激しく。
「あっ・・・ん」
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