今までにない強引な龍之介のキスに、悠理は戸惑った。
悠理の身体は離れの座敷に押し倒され、
さらに龍之介の手が、上着をたくし上げ、ブラジャーを上にずらし、
ジーンズの中に手を差し込み、荒々しく悠理の身体をまさぐった。
「ちょっ・・・りゅーのすけ・・・ちょと・・・待って・・・」
悠理の困惑したか細い声に、龍之介は我に返り、悠理からそっと身体を離した。
2人の見つめ合う視線には、今までにない沈黙が浸みていた。
「・・・ごめん」
「いや・・・あの・・・」
再び沈黙。気まずい空気。
2人とも、すぐには言葉が見つからない。
「オレちょっと、風呂入ってくる・・・」
先に視線を外し、立ち上がった龍之介は離れの内風呂へと消えた。
この旅館の離れには、檜作りの内風呂が作られていた。
これは、龍之介が昔からこの部屋を好む最大の理由である。
それほど大きいわけではないが、一人で入る分には十分な大きさだ。
檜が温泉を吸いその香りが風呂場いっぱいに拡がっていた。
明かり取りから差し込む日差しがゆらゆらと水面を反射させる。
外気を取り入れるために、大きな通気口があるため、湯気がこもることもなく、
長風呂をしてものぼせることはない。屋内の内風呂とはいえ、空気は露天風呂そのものだ。
龍之介は風呂に浸かりながらその檜の香を吸い込んで息を吐いた。
・・・とはいえ、今の龍之介は風呂を楽しむ気分ではない。
風呂の縁にあごを乗せ、あーでもない、こーでもないと、後悔の念を募らせていた。
・・・馬鹿野郎。一体、何やってんだよ・・・オレは。
全ては、悠理のキスだった。
あの、控えめな、可愛らしい小鳥のようなキスが、必要以上に龍之介に火をつけてしまった。
それで思わず、あんなに激しく悠理を求めてしまったのだ。
・・・だからって、乱暴にしていいって訳じゃねぇだろ?
あんなにしたら、まるで獣と一緒じゃねぇか・・・。
悠理・・・オレのこと恐いと思ったかな。思う・・よな・・・普通、あんなにされたら。
龍之介はため息をついた。
・・・後でもう一度、ちゃんと、悠理に謝ろう。
龍之介は風呂の中に潜った。
・・・あんなりゅーのすけ、初めてかも・・・。
悠理は、しどけなく乱れた衣服をそのままにつぶやいた。
まだ、心臓がドキドキしてる。
龍之介って、あんなに激しいキスもするんだ・・・。
あたいのヘタなキスの後だったから、ちょっとびっくりしたぞ・・・。
だから・・・つい待ってって言っちゃったけど、
あんな感じで激しく求められるのって・・・何かすごく・・・・・・イイかも。
悠理はポッと顔を赤らめた。
・・・でも龍之介、あたいが嫌がってるって思ったんだよな。
・・・どうしよう・・・?
龍之介が湯船から頭を出すのと、風呂の引き戸がカラカラと開くのは同時だった。
濡れた髪の毛で少し幼い表情になった龍之介と、
身体にバスタオルを一枚巻いただけの悠理が顔を合わせた。
「!!!」
龍之介が言葉を発する前に、悠理の言葉が響いた。
「龍之介・・・何してんの?」
「いや、ちょっと潜ってた。ってお前は?」
「あたいは・・・龍之介と一緒にお風呂入りにきたんだ・・・いい?」
しかし、いい?と聞いている割に、悠理は既に勝手に風呂場に入り込み、掛け湯を始めた。
ダメともいいとも言うタイミングを逸した龍之介は、
何となく、後ろを向かなくてはならない気がして悠理に背を向けた。
悠理は、龍之介が後ろを向いてるのを見て、バスタオルを外すと、ゆっくりと湯船に身体を沈めた。
一人では大きな風呂でも二人では少し手狭だ。
少し身体を動かしただけでも、身体が触れ合ってしまう。
しかし悠理は、ためらわずに龍之介の背中に身体を寄せた。
龍之介は当然戸惑いを隠せない。
「・・・ゆっ悠理!?」
悠理は龍之介を背中から抱き締めた。
「・・・龍之介・・・さっきはごめんね。あたい、ちょっとびっくりしただけ。
龍之介があたいのこといっぱい求めてくれて、ホントはすごく嬉しかったんだ・・・」
龍之介には、悠理の手が温泉の温度よりも熱く感じられた。
「悠理・・・でもオレはさっき、かなり自分勝手だったな、ごめん」
「・・・それでもいいんだ。あたいは龍之介の好きなようにされたい。
愛されてるってわかってるし、
・・・それに・・・あたいは龍之介のモノだから・・・」
龍之介はゆっくりと悠理の方を向いた。
透明度の高い温泉の湯が、悠理の裸体を透かしていた。
水中で揺らめく曲線、上気した頬、龍之介を見つめる甘い眸が、
再び龍之介に火を点けようとしていた。
「・・・ね、もう一度さっきみたいにキスして・・・」
悠理の言葉を聞くまでもなく、龍之介は悠理のくちびるを激しく貪った。
そして、悠理の裸の腰を強く抱くと、風呂の縁に座らせた。
悠理の両脚が龍之介の腰に巻き付けられる。
悠理の内股に、龍之介のそれが触れた。
・・・りゅーのすけ、もぉこんなに硬い・・・。
しかしそれが直接動きだす前に、龍之介の指が悠理の中を探った。
悠理はすんなりと龍之介の指を迎えた。
ちゅくちゅくと、恥ずかしい音がする。
・・・あぁ・・・あたいももうこんなになってたんだ・・・。
悠理が僅かに息を乱しながら龍之介の顔を見上げると、
いつもは中性的な美少年然とした龍之介の顔に、男としての色が乗っていた。
それに見惚れると同時に、悠理は、自分もおそらく、女の表情をしているに違いないと思った。
・・・龍之介・・・早くあたいを抱いて・・・
龍之介は悠理の身体が自らを迎えようとしているのを察し、
そこへそれをあてがった。
「は・・ん」
言葉にならない悠理の吐息が漏れた。
龍之介が悠理の中に深く沈むと、
悠理は龍之介の首に両腕を回し、しっかりと掴まった。
自分の中で脈打つ龍之介のこと以外、もう何も考えられなくなっていた。
龍之介がひたすら打ち込む大胆なリズムが、悠理の身体を、血を、肉を、沸き立てさせ、
いくつもの波を呼んでいた。
「悠理・・・!ゆうりっ!」
「はぅ・・・あっ・・・あぁ・・・ん」
悠理の顔がせつなげにゆがみ、龍之介の背中にその爪が立った。
それがさらに龍之介を燃えさせ、新たな波を呼ぶ。
龍之介の力強さと優しさと悠理への愛が悠理を大きく包み込んだ。
濡れた龍之介の髪から雫が悠理の頬から胸に零れ落ちた。
それはすでに熱を失っていたが、悠理の身体の熱を奪うことはできなかった。
「りゅ・・・りゅーのす・・け・・・あたい・・・も・・もぉ・・・あたまんなか・・・まっしろ・・・」
「オレもだ・・・」
悠理が強くしがみつき、龍之介も悠理を強く抱き締めた。悠理は、龍之介の腕の中で震えた。
龍之介も悠理の中へ魂を爆ぜた。
しばらく、二人は息を乱したままそのまま抱き合っていたが、
悠理が、龍之介に強く身体を預けてきた。
「う、うわっ!」
バランスを崩した龍之介は悠理と共に湯船に沈んだ。
龍之介が悠理を抱えたまま、湯船から顔を出すと、
悠理にくちびるを捕らえられた。
「龍之介・・・わかってるか?
あたいが龍之介のモノってことは、龍之介はあたいのモノってことなんだからな・・・」
ちょっとした脅迫である。
しかし、龍之介は少し笑って、悠理の耳に囁いた。
「わかってる・・・オレの身体も魂も、全部まるごとお前にやる・・・」
悠理は破顔した。
そして龍之介の胸に顔を寄せ、ゆっくりと目を閉じた。
・・・龍之介、あたいのことずっと離すなよ。
悠理の心の声が聞こえたように、龍之介はしっかりと悠理を抱き締めた。
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