悠理は、這々の体で本館の大浴場から離れに戻ってきた 。
脱衣場を出る際に慌てて着込んだ浴衣は既に、乱れに乱れている。
「りゅ・・・龍之介?」
返事がない。
悠理は部屋の奥へと行くと、布団が敷いてあるのに気付いた。
そばには龍之介の荷物。
しかしそこには、龍之介は居ない。
・・・まだお風呂なのか?
とりあえず、悠理は自分のために布団が敷かれているらしい、もう一つの部屋に足を踏み入れた。
見ると、布団がふくらんでいる。
龍之介は薄暗い部屋の悠理の布団の中、
少年のような、仔猫のような、邪気のない寝顔ですやすやと眠っていた。
「龍之介ってば、あたいの布団で寝てる・・・」
おそらく、悠理を待ってる間に眠ってしまったのだろう。
しかし、自分の布団ではなく、悠理の布団で待ってるところがなんとも可愛らしい。
悠理は、枕元にぺたりと座って、その愛らしい寝顔を見守った。
「・・・こんな可愛い顔するから、女の子とか言われちゃうんだぞ?」
龍之介の寝顔を見るうちに、愛しさがどんどん湧きだしてきた。
ふふ・・・寝てる間にいたずらしちゃおっと。
悠理は龍之介の寝ている自分の布団に潜り込んだ。
龍之介のまだわずかに湿ってウェーブがかった濃いめの灰色の髪の毛から檜のいい香りがする。
・・・このまま寝たら絶対寝癖つくぞ?龍之介の寝癖かぁ・・・見てみたいかも。よし、放っておこう。
その香りを吸い込んでから、両頬、顎、鼻、顔中のいろんなところに、ちゅっ、とキスをした。
そして、わずかに半開きになっていたくちびるにも。
だが、龍之介は目覚めない。
・・・まだ、目を覚まさないな。それなら・・・
悠理はさらに大胆な気分になり、龍之介の浴衣をはだけさせた。
誰よりもしなやかで美しくて強い身体・・・悠理は龍之介の身体に手を這わせながら、
心臓の上で耳をすませる。規則正しい鼓動。龍之介が生きている音。
龍之介は美しい形をしている、と悠理は思う。滑らかな肌、その下に存在する極めて実用的な筋肉。
・・・こんな身体持ってるヤツが、女の子なわけないじゃんか。
所々にある傷が、さらにその美しさを引き立てている。
悠理はそっと龍之介の右の腹にある一際大きなナイフの傷跡をなぞった。
・・・ロンツォアに刺された傷。
ここを触るとき、悠理はいつも心がちくっと痛む。 ここから沢山の血が流れ、そして、悠理の血が龍之介に輸血された。
結果的に離ればなれになっていた2人の心は再び近づき、その絆はさらに深まったが、
やはり、あの時の龍之介の痛みを思うと、今でもまだ少し心苦しい。
だが、龍之介は、悠理に“この傷があるから今オレは生きてるんだと思う”と言った。
だから、いつも悠理はこの傷を優しく愛撫し、口付けする。自分にできるのはそれだけだと思うから。
龍之介の手が、そんな悠理の頭をくしゃっと撫でた。
「・・・悠理にそうされるの、すごく気持ちいいよ・・・」
「龍之介・・・目、覚めたのか?」
悠理は顔を上げて龍之介を見つめた。
「・・・実は顔中にキスされたあたりから覚めてたりして」
「何ぃっ・・・!?」
「・・・いや、されるがままってのはどんなもんかな、と」
悠理は耳の先まで顔が真っ赤になるのを自覚した。
「バカッ!」
そういうと龍之介から身を離し、起きあがってプイッと後ろを向いてしまった。
「ごめん。悠理がすごく優しいから・・・つい、身を任せてたんだ」
龍之介も起きあがると、悠理を後ろからぎゅっと抱きすくめた。
「・・・悠理になら、何をされてもいいや、って」
「もぅ・・・龍之介のばか・・・」
その声が怒ってないのを確認して、
龍之介は後ろから悠理を抱きしめたまま、その首筋に顔を埋めた。
「悠理、柚子の香りがするなー・・・」
「・・・大きいお風呂、柚子湯だったんだよ」
「いいにおいだな・・・」
龍之介は、悠理を抱きしめている左手を徐々に浴衣の胸元へと侵入させた。
すでにいいだけ乱れていた悠理の浴衣は、その侵入をすんなりと許した。
まだ、風呂上がりで熱を帯びている悠理の体温が龍之介の手に伝わってくる。
龍之介の手はさらにその熱を高めさせようと悠理の身体を優しくまさぐる。
右の乳房が柔らかく包まれ、悠理のくちびるから甘いため息が漏れた。
さらに、龍之介の右手が、悠理の両脚の間に忍ぶ。
「あ・・・」
悠理はたまらず、背中を仰け反らせた。
「悠理・・・下着つけないで浴衣着てたのか?」
「そ・・・それは・・・」
「オレのため?」
実は慌てて脱衣場を飛び出したため、浴衣しか羽織れなかったからのだが、
いろいろと説明するよりも、今はそれでいいと思った。
「・・・うん」
背後ではきっと、龍之介がちょっと嬉しそうな顔をしているに違いない。
悠理に触れる指に、さらに優しさが加わった。
「・・・は・・ぁ・・・・ん・・・りゅうー・・・」
「悠理・・・オレの悠理・・・」
龍之介のささやきが、悠理の耳元をくすぐる。
後ろから抱かれ、顔が見えない分、何故かその存在が大きく感じる。
悠理の胸を探っていた龍之介の左手が悠理の両の乳房の間で不意に止まった。
悠理はわずかに首を傾げ、その顔を伺った。
「・・・どうしたの?」
「・・・さっき、悠理、オレの心臓の音聴いてただろ。
・・・だから、オレも悠理の音を感じてるんだ」
悠理の心臓は、龍之介の掌の温もりの下で、少しだけいつもよりも速い鼓動を続けていた。
「感じる・・・?あたいの音・・・」
「・・・感じる・・・こうしてると安心するよ・・・・・・悠理」
「・・・なに?」
「・・・愛してる。」
悠理は、何かふわふわした綿菓子のように柔らかなものに心が包まれているような気がした。
・・・こういうのを幸せっていうのかな。
「・・・龍之介、キスして」
悠理は顔を横に向け、右手を龍之介の頬に添えると、そのくちびるを求めた。
龍之介もそれに答え、2人は深い口付けを交わした。
「龍之介・・・あたいも愛してる。」
龍之介のくちびるが、悠理の背中を這った。
その度に悠理の甘い声が零れる。
・・・龍之介、あたいよりあたいの身体のコト知ってるんだ。
あたいが感じる場所も、して欲しいことも全部・・・。
しかし、感じても感じても、掴めるのは悠理の身体を翻弄する龍之介の腕ばかり。
・・・あたいも早く、龍之介にいいコトしてあげたいな。
悠理は乱れた息を整えながら、後ろにささやいた。
「・・・ね、龍之介。そろそろそっち向いてもいいかな・・・」
「・・・ん、こうしてるの、嫌か?」
「・・・ううん、こうしてるの、すごく安心するし・・・その・・・気持ちいいんだけど、
あたいがあまり龍之介にさわれないんだもん・・・それにやっぱり龍之介の顔が見える方がいいな」
龍之介が悠理の背中で微笑った。
「いいよ・・・オレも、悠理が感じてる顔見たくなった」
「・・・スケベ」
「ふふ」
龍之介は悠理を布団に横たえさせると、
申し訳程度に引っ掛かっていた浴衣を全て脱がせた。
裸で布団に横になっている悠理は、今更ながら胸を隠し、少しだけ伏し目がちだ。
いまだに龍之介に上からじっくりと見つめられるのが恥ずかしいらしい。
だが、龍之介はそんな悠理のしぐさが可愛らしくて堪らない。
そして、少しいじわるをしたくなる。
「・・・悠理はオレのこと、見たかったんじゃないのか?」
悠理がゆっくりと龍之介の方を見つめた。すでに瞳が潤んでいる。
それだけでさらに愛しさが増してしまう。
龍之介は悠理の髪から頬をそっと撫で、くちびるを優しくなぞった。
悠理はそっと目を閉じた。
「いい女だ・・・」
龍之介は再び、悠理にくちびるを重ねた。
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