テストが明けて



今年の夏休みを左右する期末試験を前にして、
悠理は、机に向かっていた。
それも、ちゃんと教科書を開いて、勉強しているのである。
しかも、しぶしぶではない。
自分の意思で勉強しているのだ。
珍しい。
いや、珍しいなんて、そんな一言で片付けられる事態ではない。
青天の霹靂とはまさにこのことを指すのではないか。
普段ならば、悪友たちがなだめすかしたり、脅したりしない限り、
この様な風景は見られないはずなのだ。
明日にでも台風でも起こしそうな、この悠理の必死に勉強する姿に、
同じ部屋で勉強をしている悪友たちも、何となく心打たれて、
自分たちの勉強の合間合間に、彼女の試験勉強を手伝っていた。
というのも、悠理が何故これほどまでにがんばるのかを知っていたからだった。





「期末試験?あぁ、もうそんな時期か。学生は大変だなぁ」

有閑メンバーと同い年でも、留年も無く高校を卒業している龍之介には試験はとっくに関係のない話だ。

「そうなんです。大変なんですよ、特に悠理はね」

せっかく美味しいイタリアンをパクついていた悠理も、
“期末試験”という絶体絶命のキーワードのおかげで、極端に顔色が悪くなった。

「清四郎っ!嫌なこと思い出させるなよ!」
「忘れてる方がどうかしてると思いますわ。
今回の期末試験の結果如何で、今年の夏休みがまるごと補修になるかもしれませんのよ。悠理は」
「ホントなのか?悠理」
「・・・ホント」

悠理は、がっくりとうなだれるようにして龍之介に答えた。

「・・・そうか」

龍之介は、しばらくじーっと悠理を見つめて、それからきっぱりと悠理に言った。

「てことは・・・オレたち、悠理のテストが終わるまで会わない方がいいな」
「そんなぁっ!何でそうなるんだよ!テストってだけでもイヤなのに、
それで龍之介とも会えないなんてやだよっ!」
「でも、夏休み、どこにも行けなくなっちゃうんだろ?」
「そうだけどー・・・」
「やるときは、やらないとな。がんばれよ。がんばったら何でもご褒美やるからさ」

そう言って、龍之介は、悠理の頭をくしゃっとかき混ぜた。
龍之介は確かに悠理には甘いのだが、締めなくてはいけないところはきちんとわきまえていて、
ついつい暴走しがちになる悠理をやんわりと抑えている。
魅録に言わせれば、龍之介だって悠理に負けず劣らず無謀なところがあるのだが、
それでも、どこか大人っぽいところがあるのは、
それは、悠理たちとは違って、すでに社会に出て働いているということも関係あるかも知れない。
しかし、龍之介のそんな大人なところが悠理はちょっとだけ気に入らない。

・・・龍之介はあたいに会えなくて寂しくならないのかよぉっ・・・!?





その夜から会っていない。メールも電話もなし。
もう、一週間になるだろうか。
こんなに頑張って試験勉強に励むのは、
龍之介に会いたい気持ちを紛らわすためでもあったかもしれない。
そして、“こんなに頑張ったんだぞ!”と胸を張って会いに行くため。
そうこうして、期末試験は明日が最終日。
がむしゃらに頑張って、どうにか今日までのテストは赤点を免れるだけのギリギリの及第点は越えてきた。
明日は、古文の試験を残すばかり。
明日で試験も最終日だと思うと、張りつめていた集中力が途切れ掛けてくる。
そんなときに浮かぶのはいつも、龍之介の顔だった。

・・・会いたいなー。龍之介に会いたい。

明日でテストは終わる。そしたら、やっと龍之介に会いに行ける。

龍之介の声が聴きたい。
あったかくて大きなあの手で触られて、
抱きしめられて、一緒に眠りたいよぉー・・・。
・・・あたいはこんなに寂しいのに、龍之介は今頃何してんだろ・・・?
きっと寂しい思いなんかしてないんだ。
りゅうのばか・・・。

「・・・悠理、どうかしましたの?」

古文の問題を教えていた野梨子が、ふぅと、小さくため息をついた悠理に訊ねた。

「・・・ん?あぁごめん、なんかちょっとボーっとしてた。次、教えてくれよ」

とは言うものの、やはり悠理にはいつもの覇気がない。
野梨子は持っていた教鞭を机に置いた。

「少し、休憩した方がいいですわね。
少しはリラックスしなくては、いくら勉強しても入りませんわよ」

時計はすでに夜の12時をまわっていた。
いつものテスト勉強ならば、悠理の方からほぼ、10分おきに休憩を申し出て、
却下される時間帯だ。
野梨子は、いつもよりもはるかに熱心に勉強を続ける悠理にすっかり感心していた。





その時、魅録の携帯が鳴った。
誰からの電話かをチェックすると、魅録は立ち上がり、いそいそと部屋から出ていく。
しばらくして戻ってくると、何やら大きな包みを抱えていた。

「あら魅録、何ですの?それ」
「夜食の差し入れだよ。そろそろ休憩にしようぜ」
「それではわたくし、お茶を入れますわね」

包みを開くと、沢山のおにぎりにサンドイッチなど、
つまみやすい食べ物がぎっしりと重箱に敷き詰められていた。
それぞれの勉強を続けていた他の面々も、のそのそと立ち上がり、夜食の回りに群がってきた。

「この時間ってお腹空くんだよね~」
「ほんとよ~」

長い金髪を三つ編みにした美童に相槌をうつ可憐も、美しいウェーブヘアを束ねており、
まるで2人は姉弟のようだ。

「清四郎、お茶が入りましたわよ」
「ありがとう。この時間は暖かいお茶が一番ですね」

まるで老夫婦のような会話をしている野梨子と清四郎の横から、
魅録は、いつもなら一番先に夜食の前に陣取るというのに、まだ座ったままの悠理に、おにぎりを一つ渡した。

「ほら、悠理、お前も食えよ」
「あ・・・うん。」

悠理は魅録から受け取った、炊き立てのご飯をついさっき握ったような、まだ暖かいおにぎりをじーっと見つめた。
悠理の大好きな、辛子高菜とじゃこの混ぜご飯で作ったおにぎり。
擦り胡麻の香りも芳ばしい。
こんな最高に美味そうなおにぎりを作るのは、悠理にはたった一人しか思いつかない。

「なぁ、魅録・・・これってー!」

問いかける悠理に、魅録はニヤッと笑った。

「あぁ、やっぱりわかったか。そう、お前のだーい好きな龍之介の差し入れだよ。出汁巻き玉子もあるぞ?」
「なんだとぉっ・・・!龍之介が来てたのかっ!?」

ガタッ!!!
悠理は思わず立ち上がった。

「あ、でももう帰ったよ。一応、お前に会っていけばって言ったんだけどさ、
せっかく集中してるのに邪魔しちゃ悪いからって。
でも、悠理が一生懸命勉強してるって言ったら、嬉しそうな顔してたぜ」
「・・・そっか」

・・・テスト終わるまで会わないんだったもんな。
でも・・・ちょっとぐらい会いたかったのに。

残念そうな顔の悠理を見て、魅録はニヤニヤしながら言った。

「そうだ、いいもの預かってるんだった」
「何だよ?」
「じゃ~ん!悠理宛の、龍之介ちゃん直筆のお手紙だぜ!」

魅録がポケットからそれを取り出すと、
からかう視線の中、悠理は逸る気持ちを抑えながら奪い取り、手紙を開いた。
そこには、見覚えのある少し右上がりの綺麗な文字が並んでいた。

『悠理、お疲れさん。すごくがんばってるらしいな、えらいぞ』

・・・何だよぉ。もうちょっと寂しいとか、愛してるとか、そういうこと書いてくれればいいのにー。
でも、嬉しいな、龍之介ちゃんとあたいのこと考えててくれてるんだ。

悠理がそんなことを思いながら手紙に目を走らせると、
最後に一行、こんなことが書かれていた。

『・・・早く会いたい。』

その言葉に龍之介の想いが込められているのが伝わってきて、悠理は嬉しくなった。
“早く会いたい、早く会いたい”
呪文のように悠理は心の中でその部分を繰り返し繰り返し読み返した。

・・・龍之介、あたいも早く会いたいよ。

「何て書いてあるのよ~!」
「う、うるさいな!秘密だよっ!」
「可憐、ほっとけよ。馬に蹴られるぞ」

ともかく、悠理の嬉しそうな顔に、他のメンバー達も笑みを浮かべた。
悠理にとって、これ以上のカンフル剤は無い。

「あたいにもっとおにぎり!サンドイッチもなっ!出汁巻きもっ!」

お腹も心も充電完了で、すっかり元気になった悠理は再び勉強に取りかかった。





次の日。
テストが終わり、悠理は最後の古文の試験結果を野梨子に予想採点をしてもらっていた。
試験問題の脇に書かれた、答案用紙と同じに書かれた解答に、
赤い○と×が交互に付けられていく。
その様子を、いつになく真剣な顔で見つめる悠理。
他のメンバーも息を飲んでその様子を伺っている。
野梨子が赤いペンを机の上にコトリと置くと、悠理に向かってにっこりと微笑んだ。

「大丈夫。これだったら、赤点はどうにか免れますわ」
「ホントか!?」
「えぇ。頑張りましたわね、悠理」

悠理の顔がこれ以上ないってぐらいに綻んだ。

「やったぁーっ!これで期末試験終了っ!赤点も無しっ!
てことは、補修も無いから夏休みはまるまる遊べるんだーっ!!!
みんなっ!勉強教えてくれてさんきゅーなっ!」

悠理はメンバーの一人一人に礼を言いながら握手をしてまわった。

清「どういたしまして。努力すれば報われるってことですよ」
可「もう1人、報告に行かないといけない人がいるんでしょ?」
魅「そうだな、早く行ってやれよ」
美「龍之介君に、昨日のお夜食、ご馳走様って言っておいてよね」
悠「わかった!よし!じゃ、あたいもう帰るぞっ!
今晩はケータイ切ってるから、電話してきても出ないからなっ!」

そう言うと悠理は大急ぎで鞄を掴み、部室を飛び出していった。

可「聞きようによっちゃ、意味深よね」
美「え?僕はあからさまにそーいうことだと思ったけど」
魅「こらこら、下世話だろ?そういう話は」
野「あら、どうして、携帯の電源を切ることが下世話ですの?
ずっとできなかったんですもの、当然じゃありません?」
可「の、野梨子、意外に大胆なことを言うのね、あんた」
野「だって、わたくしもずっと我慢してましたのよ。今日は思う存分しましょうね、清四郎」
美・可・魅「えっ・・・?ぅえぇー!?」×3

美童と可憐と魅録は、驚きの表情で野梨子と清四郎の顔を見比べた。
当の清四郎も、戸惑いの表情を隠せない。

清「・・・野梨子、今の発言はかなりな誤解を生んでますよ」
野「何故ですの?やっと試験も終わったことだし、
今晩は存分に碁を指しましょうねって、ずっと言ってたじゃないですの」
魅「あ・・・何だ、碁のことか」
野「そうですわよ?何のことだと思いましたの?
悠理だって、ずっと龍之介さんのところでテレビゲームがしたかったんだと思いますわよ。
携帯の電源を切ってまでなんて。今晩はきっと夜通しするんでしょうね」

なんて言って、にこやかに微笑む野梨子には、
確かに夜通しかもしれないけど、決してテレビゲームじゃないと思う、
とは誰も言えないのだった。


ごめんな、野梨子、なんかバカッぽくって。

テスト2


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