「? 豪、何か持ってるのか?」
抱き寄せられた背中越しに硬い感触を感じて、烈が体を離す。
すると、不機嫌そうに眉を顰めた豪が、胸元から包みを取り出した。
「…これ、若旦那が烈兄貴にって」
「若旦那が?」
布包みを開くと、中には烈の手に収まるほどの硝子の小瓶があり、その中には色とりどりの丸い菓子が入っている。「金平糖」という南京から渡来した菓子で、庶民では手の届かない高価な品だった。
「…烈兄貴、若旦那のこと…好きなのか?」
「はぁ?」
唐突な豪の質問に、烈は呆れた声を上げる。
「いつもお世話になってるし、良い人だとは思ってるよ。そうだな、少し歳は離れてるけど、お兄さんみたいな感じで…」
「そんな意味じゃねぇよっ!」
「…豪?」
突然憤怒した豪に、戸惑う。しかし、そんな事は目に入っていないのか、豪は烈の細い肩を鷲掴みにすると、息が掛かるほどに顔を近寄せた。
「い、痛いっ、豪?」
「…俺、知ってるんだぜ」
「え?」
「…知ってるんだ、烈兄貴…」
二人の間に、沈黙が落ちる。
「な、何だよ。何を知ってるって言うんだよっ」
「半月前…、川の近くの彼岸花がたくさん咲いてるとこで…烈兄貴、若旦那に抱かれてただろ…?」
「!?」
朱色の華が咲き誇る川辺は窪地になっており、人目に付き難い。まして、花の栽培のための畑に囲まれた二人の家は、集落から離れている。
その華の群れの中で、烈は男に陵辱されたのだ。
男は以前から烈に恋慕の情を抱いていた。そして、烈もそれを知っていた。
だから、餓えに耐えられなくなったあの時、男の暴挙を止めようとはしなかった。
むしろ、餓えた体には都合が良かったのだ。
(…見られてた?)
けれど、その場面をこの弟に見られていたなんて。
「ご…」
「好きなのかっ!? どうなんだよっ!」
「ち、ちが…っ」
動揺のあまり言葉が出てこない兄の言葉を遮り、豪はここ半月もの間押し込めていた気持ちを爆発させた。
「だったら、何で抵抗しなかったんだよっ!
烈兄貴が抵抗してたら、俺、すぐに飛び出して若旦那をぶっ飛ばすつもりだった!なのに、烈兄貴は若旦那を受け入れてたじゃんか!
何でだよ! そんなにあいつが好きなのかよっ!?
――――――俺よりもっ!!!」
「だから、ん…っ」
噛み付くように荒々しく重ねられた唇が、烈の言葉を遮った。
押し倒され、逃れ様ともがくが、豪の力は烈を凌駕している。その上、
深く侵入した舌が、烈の逃れようとする力を奪った。
飲み込むことの出来なかった唾液が口唇の端から伝い落ちる。
その時、烈は気付いた。
(…なに?)
甘く体全体に染み渡る『精気』の波。
豪の唇から、肌を弄る指先から、重なり合う体温から伝わる熱が。
(…っ、ま、さか…?)
あれほど求めていた、体質に合った精気を持つ、『誰か』が、自分が育てて来た、この弟だというのか。