ギフト

(1)
　確かに進藤ヒカルは普段から落ち着きの無い少年だったが、
その夜はちょっとケタはずれだった。
そわそわ。にこにこ。てへてへ。ちょろちょろ。
そんな恋人を見ながら塔矢アキラは何かの動物を連想していたが、
はっきり思い出せないでいた。

そわそわ。うきうき。どきどき。もじもじ。
　ああ、ハムスターだ。かじかじかじかじ種を齧ったり物凄い勢いで滑車を
疾走したり、可愛いけれどちょっと落ち着けやと言いたくなるアレだ。
漸くすっきりしたアキラは腕の中にすっぽり入ってきて甘えるハムスターに問う。
「どうかしたのか？」
ハムスターは金色の前髪を揺らしてアキラを見上げた。
「なあ、今日は何の日？」
「？えーと…バレンタイン、だよね。」
「あったりー♪」

(2)
２月１４日。今日という日がどんな日か、アキラも勿論知ってはいる。
尤も、男同士である自分達には関係無い日だし、正直どうでもよかった。
しかしヒカルは満面の笑みでこう言ったのだ。
「だからさ、オレお前にプレゼントあるんだ。」
「え…」
思いがけないことに、少しの戸惑いと大きな喜び。
「欲しい？」
「うん。欲しいね。」
「じゃあさ、じゃあさ、エッチしよーぜ？」
　無邪気な顔で何てこと言うんですか、キミは。いつも唐突なキミに
ボクは振りまわされてばかりだ。
とはいえ。
ハムスターからワルイコに進化した彼をベッドまで抱いていくアキラは、
とても幸せだった。

(3)
　着ている物を全て脱がせてしまうと、肌寒そうに細い身体を震わせる。自分の服を脱ぎながら、アキラは早く暖めてあげたいと思った。
唇を重ね、白い首筋に吸いつく。更に胸を愛撫しようとしたアキラを
制止して、ヒカルは照れながらアキラと向き合った。
「プレゼントあげるね。…うまく出来なかったらごめん。」
そう言ってヒカルが取り出した物は。
「…チョコレート？パンに塗る？」
チューブに入ったそれは、確かにパンに塗るためのものだったが。
ヒカルが自分の脚の間に入ってきて、漸くアキラはプレゼントの内容を悟った。
ヒカルはアキラ自身を手に取り、蓋を開けたチューブをあてがう。
チョコレートをたっぷり出して塗りつけ、そこに唇を落とすと
ちゅうっ、と音を立てて吸い紅い舌を出して舐めた。
「……」

ヒカルがこんなことをしてくれるなんて思わなかった。
自分のものを舐めさせるのも嫌がる彼が、こんなにも淫らなことを。
全て舐め取ってしまうと、再度チューブを絞って塗りたくる。
ちろちろと、一生懸命可愛らしい口で奉仕してくれるヒカル。
背筋を這い登る刺激は耐えがたいほど甘い。
「ん…」
アキラは自分がひどく興奮しているのを感じていた。

(4)
興奮のままに、アキラが膨張する。ヒカルは少し怖気づいたが、
彼を悦ばせていることが嬉しくて彼に触れたままの唇を綻ばせた。
ぬめる先端をぺろりと舐める。甘い味の中に苦さが混じった。
ちゅっ、ちゅっ、ぴちゃ。濡れた音があがる。
どんどん溢れてくる先走りを舐め取っては、チョコレートを塗って
また舐める。丹念に舌を動かすヒカルの自身もまた、熱を帯びていた。
「はあ…進藤…」
一生懸命なヒカルが可愛くてたまらず、やわらかな髪を撫でる。
自身から痺れる快感が脳にダイレクトに伝わって恍惚となった。終わりが近い。
「ん…くっ…！」
熱い口の中でアキラは果てた。鋭い快感が突きぬける。
ごくりと飲み干したヒカルはけほけほ噎せた。
「変な味…。」
「やっぱり？ごめんね。…進藤、ありがとう。すごく嬉しい。」
口を拭ってやりながら優しく囁くとにっこり笑ってくれた。
「じゃあ、今度はキミの番。」
目を見開いた彼からチューブを奪った。

(5)
「ちょっと…！オレはいいって！塔矢！」
「ボクもキミにしてあげたい。…ね？させてよ。プレゼントにこれも
追加して？」
「……」
押し黙ったヒカルの体を開く。指にたっぷりと取って、胸の薄紅に
塗りつけた。茶色くなったそこを唇で甘噛むと小さく声が上がる。
舌をゆっくり巡らせ、滑らかな甘さを味わう。それは想像以上に
昂ぶる行為だった。
綺麗に舐めて茶色が消えたそこは、最初よりも紅みを増していた。
もう一つにも。今度は直にチューブを押し当てると、彼の身体が震えた。
意図したわけではなかったが、細い注ぎ口が敏感なそこを刺激したらしい。
くすりと笑うと恥ずかしげにうつむく。
つん、つん。チューブでイタズラをすると彼ににらまれた。尤も熱く
潤んだ目でそうされても、逆効果だったが。
「あっ、…イタイ、塔矢っ」
小さな丸みを吸い上げると非難の声。外すと薄い皮膚に丸い痕が紅く残っていた。
「ごめんね。」
そっと唇を当て、許しを乞う。出来る限り丁寧に舐めて労わると、「もう」と
膨れながらも吐息に熱が混じっていた。