ギフト
(11)
ヒカルは幸せだった。
良かった。アキラはすごく喜んでくれたし、ちょっと恥ずかしかったけど
気持ち良くなっちゃったし。大成功と言えるだろう。
――あんな人には負けない。
ヒカルは見たのだ。昼間アキラが、若い女性棋士から綺麗な包みを
渡されるところを。
アキラは特に何も感じていないようだったけれど。
ヒカルには判った。あの人は――塔矢に本気だ。
悔しい。自分には出来ないことが、彼女には出来るのだ。コイツは
オレのだよ!飛び出していって叫びたかったが、出来るわけも無く。
しょんぼりとその場を離れた。バレンタインなんて消えちまえ。
歩きながら考える。あの人のチョコが吹き飛ぶくらいに、すごい
プレゼント出来ないかな。
そして見つけたのだ。ドリンクを買おうと入ったコンビニで、あのチューブを。
これしかないと思った。どきどきしながら清算し、
ダッシュで帰る道すがら、アキラの喜ぶ顔ばかり頭に浮かんでいた。
それは先ほどまでの憂鬱を消し去る、幸せな想像で。
ずっとそわそわしてたの、気づいてたよな。結構緊張してたんだぜ。
プレゼントって楽しい。喜んでもらえると心がふわふわ暖かくなる。
彼の喜びが、自分の喜び。
「塔矢、好きだよー。」
愛しい相手のほっぺにちゅっとすると、唇に返してくれる。
「うん、ボクも大好き。」
―――前言撤回。バレンタインは、あってもいい。
(12)
?鞄に変な物が…?あ、そういえば何とかいう女流棋士に
チョコレート渡されたんだっけ。すっかり忘れてた。というか既に顔すら
覚えていない。まあ、別に必要な記憶でもないだろう。
しかし困ったな、ボクは胸焼けがするし彼はお腹を壊しているし。
捨てるのも何だしこれは明日碁会所に持って行こう。
広瀬さんとか甘いもの好きだったし、お茶請けに丁度いい。よし、そうしよう。
翌日、碁会所では哀れなチョコに黙祷が捧げられたという。
ーおしまいー