初めての研究会

(1)
(何がどうなってこんなことになったんだろう。)
熱く沸騰した頭でオレはぼんやりと考えた。
「…ぁっ…!」
温かな手で敏感な所を弄られて、びくんと体が震えた。
「あ…や…っ」
急激な熱に追い詰められ、何も考えられなくなる。
押し寄せる快感の波に、身を任せるしかなかった。

――――

3月も終わりに差しかかったある日。
棋院で塔矢アキラに呼び止められた。
アイツの碁会所で「もう来ない」と啖呵を切ってから3ヶ月以上になる。
その間、棋院で塔矢にまるっきり会わなかったわけじゃない。
しかしほとんどろくな会話を交わしていなかった。
それがどういう訳か、今日は塔矢から声をかけてきて、これから自分の家で打たないかと言う。
まだ北斗杯の代表が決まってない今は塔矢と打つ気はないと断ったら、
それならこの間の本因坊リーグの緒方さんとの一局を検討するだけでいいから、
といつになく熱心に誘われた。
あの一局はオレもすごく興味があったから、そういうことならとついついOKしてしまった。
何でも塔矢先生と塔矢のお母さんは中国に行って家には誰もいないらしい。
ゆっくり検討できるよ、と塔矢は笑った。
塔矢が笑うなんて珍しいな、と思った。

(2)
思えば塔矢の家に行くのは初めてだった。
ここだよ、と塔矢に連れられて辿り着いた家は典型的な日本家屋で、
それはそれは立派な門構えだった。
元名人、元五冠、塔矢行洋の家なのだから当たり前か。
少しビビりながらも、その門をくぐり、家の中へと通されるがままについていった。
「ここで少し待っててくれる?」
塔矢はまたにこやかに笑った。
「あ…うん…」
なんか調子が狂う。今日の塔矢どうしたんだろう?
ひとりにされて、ほっと溜息を吐いた。
塔矢先生は留守なのだから何もそんな緊張しなくてもいいのに、
この家の雰囲気がそうさせるのか、どことなく落ち着かない気分になる。
部屋を見渡してみると、その片隅に碁盤があった。
アイツのだろうか?これまた立派で高そうな碁盤だ。
その横にはパソコンの乗った机があった。
(ここ…アイツの部屋なのかな?)
十代半ばの少年の部屋にしてはとても殺風景な部屋だった。
塔矢らしいと言えばらしい部屋だ。
(碁以外興味なさそうだもんな…)
その点は今の自分も塔矢と大差ないのだが、そんなことは棚に上げて、
碁一色の青春しか知らなそうな塔矢アキラをちょっと哀れんだ。

(3)
「おまたせ」
飲み物を載せたトレイを持って塔矢が戻ってきた。
「どうぞ」
手渡されたマグカップを覗くとそれはココアだった。
「サンキュ」
3月とはいえ、まだ寒い。
今日のような肌寒い日には心地よい温かさだった。
ひとくち口に含んでほっと溜息を吐いたら何だか落ち着いた。
「さあ、検討しようか」
塔矢はそう言うと、部屋の隅に置いてあった碁盤を部屋の中央に移動させ、
本因坊リーグの棋譜を並べ始めた。

「この変化はどう思う?」
「うーん、それよりまず右辺に手をつけた方がよくねェ?」
「そうだろうか…しかしそうするとこうコスまれてこの三子が助からない」
「そう来たらこうして、こうして…ほら振り替わりで五分のワカレだ」
「…ちょっと黒悪くないか?」
「いいや、これでいいんだよ」
久しぶりの塔矢との検討は楽しかった。
オレ達は時間を忘れて白黒の世界にのめり込んだ。

(あれ…)
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと気がつくと視界が暗い。
(もう日が暮れちゃったのかな?)
碁盤が霞んで見えた。
(あ…れ…?)
そのまま記憶が途切れた。

(4)
「…んど…」

「ん…」
誰かに呼ばれたような気がして身じろいだ。
体が重い。
だるくてだるくて、重りを乗せてるみたいだった。

「進藤」

今度こそはっきり聞こえた。
「ん…と…や…?」
唇に何か暖かくしっとりとしたものが触れた。
それはついては離れ、ついては離れ、柔らかく触れてくる。
「んん…」
ちゅ、ちゅ、という濡れた音と共に、次第にその間隔は短くなる。
ぼんやりとした頭で重い瞼を開ける。
目の前に塔矢の顔があった。
だんだん近づいてくる。
あ…また真っ暗だ。
あれ…?何だか息苦しいぞ。
「進藤…口開けて…」
言われるままに口を開けると、何か暖かいものが口の中に入ってきて、
内側を舐めるように蠢いていた。
そのまま舌を絡め取られ、きつく吸われた。
「んふっ……とう……はっ…ぁ…」
背中に甘い痺れのようなものが走る。
なにがなんだかわからなくなって、再び目を閉じた。

(5)
はっと目が覚めた。
見慣れない天井。畳。殺風景な部屋。
これは…塔矢の部屋だ。
そこに敷かれた布団の上にオレは寝ていた。
(うわっ…オレ寝ちゃったのか!?)
あわてて飛び起き辺りを見回した。
「起きた?」
塔矢が読んでいた本から顔を上げてこちらを向いた。
「オ、オレ…寝てたの?」
「ああ、ぐっすりね。検討の途中で寝ちゃうなんて。疲れてるのか?」
あっちゃー…。検討の途中で寝るか普通?信じらんねェ。
「ゴメン!…あーー…多分そう。最近寝不足でさ…」
「寝る間も惜しんで勉強してたとか?」
塔矢の目が細められた。
「まあ、な。北斗杯予選までもうすぐだし。それに…」
知らず知らず拳に力が入る。
「オレは、もっと…ずっとずっと、強くならなくちゃいけないから」
塔矢は黙ってオレを見つめていた。

突然、記憶が甦った。
間近で見た塔矢の顔と、何度も繰り返される濡れた音。
とろりと溶かされるような甘い感覚。
それらがリアルに甦る。
(あ…あれって…)
思い出して、カーッと全身に朱が走る。

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