金魚
(48)
「ん…逃げ…ねェよ…」
乳首を吸われて、ヒカルは吐息のような喘ぎ声を上げた。
「ずっと一緒にいる…」
ヒカルの言葉にアキラは微かに笑みを浮かべた。
アキラの唇がヒカルの肌の上を滑っていく。それが徐々に下へと移動すると、さすがに
ヒカルも不安になったのか小さく身体を捩らせた。
「ん…んん…や…ダメ…」
「逃げないって言っただろ?」
アキラはヒカルの腰をしっかりと押さえつけると、なんの躊躇いもなくそこに顔を埋めた。
「あ…!やだよ!」
ジタバタと暴れるヒカルを無視して、行為を続ける。
「や…うぅん…あぁ…」
ヒカルの声に艶が混じる。それに合わせて、口の中に含まれたモノの熱も増した。
「ん…!やだぁ…!離して!」
何とかアキラを引き離そうと、ヒカルは懸命に藻掻いていた。
「離してよぉ………!出ちゃうよ…お願いだからぁ…」
半泣き声の懇願は更にアキラを興奮させた。舌で愛撫していた先端を、思い切り吸い上げる。
ヒカルは「きゃっ」と、悲鳴を上げて、身体を小刻みに震わせた。口の中に苦さが広がる。
それをアキラは呑み込んだ。
ヒカルは激しく胸を上下させていたが、それが落ち着いてくると、涙の滲んだ瞳で、キッと
睨んできた。
「…………………………ウソつき…」
アキラを非難するその言葉に、首を傾げた。
「オマエ、初めてじゃないじゃん…!」
「………え?初めてだよ。」
「ウソだよ!だって……すごく慣れてるじゃんか…!」
ヒカルはアキラから身体を隠すように、背中を向けた。
(49)
アキラは困惑した。自分のしたいようにしろと言ったのはヒカルだ。だから、彼の言葉通り、
触れたいところに触れ、したいようにした。彼のペニスを舐めたのも、そうしたいからしたのだ。
アキラの愛撫に応えるように、先端を濡らして震えているそれが可愛かったから舐めたくなったのだ。
それがいけなかったのだろうか?
「ウソじゃないよ。本当に、初めてだよ。」
「………あんなトコ舐めるなんて…飲んじゃうなんて…オレ…すごく恥ずかしい…」
………………………………恥ずかしい………?
今、なんと言ったのか?恥ずかしい――自分の聞き間違いでなければ、確かに彼はそう言った。
恥ずかしい?酔っていたとはいえ、セーラー服で公道を闊歩していた彼が?大股広げて、
ベンチに腰をかけていた彼が?あまつさえ、スカートを捲り上げ、下着を見せようとした彼が
恥 ず か し い?
アキラは口元に笑みが浮かぶのを押さえられなかった。
「なんだよ?何ニヤニヤしているんだよ!」
ヒカルは背中越しに振り返って、アキラを睨んだ。頬を赤らめ、目尻にうっすらと涙を滲ませた
彼はそのまま本当に食べてしまいたいくらい可愛かった。
アキラはヒカルの身体を自分の方へ向かせると、顔を近づけ囁いた。
「ゴメンね…もっと恥ずかしい思いさせちゃうかも…」
そうして、茫然としているヒカルの腿を顔の脇につくくらい持ち上げた。
「や…!塔矢やめて!」
ヒカルが叫んだ。これからアキラがしようとしていることに、気付いたらしい。
(50)
アキラは先程触れた場所より、更に奥まった所に唇を寄せた。
「やだ!やだ、やだ、やだ!!」
ヒカルは足をばたつかせたが、アキラは体重をかけて太腿をぐっと押さえつけた。
ヒカルの喉が「くぅ」と鳴った。
「苦しい?ゴメンね。でも、進藤がおとなしくしてくれないからだよ。」
「だ…だって…だって…」
彼は鼻をすすり上げた。不自然な体勢のままアキラを下から涙目で見つめてくる。
「好きにして良いって言ったよね?好きなように触って良いって…」
「でも…でも…」
「……………ボクのものになってくれるんだよね?」
今こんな風に触れあっていても、まだ不安だった。ヒカルの全てを知り尽くさなければ、
この不安は決して解消されないのだ。
「…………いいよね?」
「………………………………………うん…」
正面から見据えると、ヒカルは観念したように目を閉じた。
(51)
アキラが、指や舌でヒカルの後を弄るのを、ヒカルは黙って耐えているようだった。
「ん…く…」
最初はきつく結んでいた唇が少しずつ弛み始めた。
「あ…あぁ…はあ…」
指と舌で好き放題弄り回されて、ヒカルは甲高い悲鳴を上げた。
「あ…いや…いやだぁ…」
その声は本気で嫌がっているようにも、逆に誘っているようにも思えた。
ヒカルが声を上げるたび、アキラの動きは大胆になっていく。
「ヤ…塔矢…やめてよ…こんなのいやだ…」
喘ぐ声は艶めいて、「もっと」とねだっているように聞こえた。
アキラはこれ以上我慢ができず、ヒカルのそこに自身をぐっと押し当てた。
「いや…待って…」
ヒカルは手足をばたつかせ、アキラの髪を引っ張った。痛い。だが、痛みを感じたのは一瞬だけだった。
「何?」
昂奮で上擦った声のままで訊ねる。そのまま勢いよく中に収めてしまいたいのを何とか堪えた。
「そこ…そんなトコに入れるの?」
声が震えている。それはそうだろうなとアキラは思った。
「………他にないだろう?」
事も無げな言葉にヒカルは思いきり首を振った。
「や、やだ、やだ、やだ!」
アキラに身体を押さえられたまま、ヒカルは泣きわめいた。
「そんなモノ入れられたら、オレ死んじゃう!」
「手か口でする…オマエがしてくれたみたいに…だから…」
ヒカルは涙を流して訴えた。
(52)
泣いているヒカルは滅茶苦茶可愛い。その上そそる。逆効果だよ。その申し出はすごく
ありがたく、魅力的だったのだが、
「ゴメン…」
アキラは身体に力を入れた。
「――――――――――!」
ヒカルが呼び子のような悲鳴をあげた。
「痛い…いたぁい…やめて…とうや…」
身体の下で藻掻く彼を覆い被さるようにして抱きしめた。
「ねえ…やめてってば…」
ヒカルはアキラの腕や背中を引っ掻いた。
「ヤメロ…バカ…ヤメロってば…ヤメロ…バカ…変態…」
泣きじゃくりながら、アキラを罵る。だが、アキラにはヒカルを労る余裕がなかった。
ヒカルには申し訳ないが、やっと手に入れたのだ。可愛い大事なアキラの金魚。
アキラを包む肉は、温かくて柔らかくて、気持ちいい。彼が悲鳴を上げるたび、心地よく締め付ける。
腰の動きが早まる。背中を駆け上がるその感覚をアキラはひたすら追い続けた。息ができないくらい苦しい。
ヒカルも喘ぐようにしてやっと呼吸をしている。
「あ…進藤…」
何かが身体の中を駆け抜けて、アキラはやっと息を吐くことができた。
ゆっくりと離れるとヒカルは大きく身体を震わせた。彼はまだ泣いている。その身体を
抱きしめて背中をゆっくりとさすった。
「ん…ん…ふ…バカ…ばかぁ…」
ヒカルの泣き声が小さく細くなっていく。やがて、水底に沈んで隠れている金魚みたいに
動かなくなった。
アキラは眠ってしまったヒカルを強く抱きしめた。