遠距離

(6)
昨日のこの時間、ヒカルと一緒にいたのが信じられない。
清春はいつもの自分の部屋を見やった。とてもむなしかった。
ヒカルといた時間はまるで夢のように楽しかった。二人ではめを外して騒いだ。
こんなふうに誰かと遊ぶのは久しぶりだった。
清春は新大阪駅にヒカルを送っていった。とても離れがたかった。
次に会えるのはいつだろうか。今年はもう会えないだろうか。
たしかな約束をできないのが悲しかった。
東京と大阪はやはり遠い。すぐにどうにかできる距離ではない。
清春はヒカルの持つ紙袋を見やった。それを渡す人々が日常なのだ。
しょせん自分は遠いところにいる、一棋士でしかないのだ。
せめて棋士で特別になれたらと思う。
だが自分のまえにはとてつもなく大きな壁がある。
あの少年を越えるのは一朝一夕にはいかない。

(7)
「口とがってるぜ」
人差し指が清春の唇に触れた。ヒカルが自分を見上げている。
清春はとっさに反応できなかった。いつのまにかぼんやりしてしまっていたようだ。
「社ってさあ、考えごとしてるときとか、必ず口とがらせるよな」
ヒカルはおもしろそうに笑っている。人差し指が表面を撫で、離れた。
昨夜のことを清春は思い出して赤くなった。
「社のマネ」
ヒカルは唇を尖らすと、離した指先でそこをとん、と撫でた。
その行動に清春はどうしようもなく焦ってしまった。
まるで自分の唇がヒカルに触れたような気がした。
「……アホなマネすな」
清春はぎこちなく笑いながら、ヒカルの手首をつかんだ。
そのまま引き寄せて、抱きしめられたらと思う。そして思った自分にまた動揺した。

(8)
アナウンスが新幹線の到着を告げ、清春は手を離して一歩離れた。
だがその距離をヒカルがすぐに埋めた。
「すげぇ楽しかった! 社が東京に来たときはオレが絶対、案内するからな!」
約束、とヒカルは小指をからませ、振ってきた。
近いうちに必ず、東京に行こうと清春は決意した。

(9)
清春は片付けていないままの毛布に顔をうずめた。
かいでみるがヒカルの匂いはしない。これでは変態だと思うが、抱きしめてしまう。
ヒカル自身がこの腕のなかにいたらなあと思う。
好き、なのだろうか? ヒカルが? 男なのに? 勘違いしているのか?
キスしたいと思ったのも、単なる性衝動だったのだろうか?
クラスの可愛い女子を見て、キスできたらなあと思ったことはある。
だが男子に対しては一度もない。考えただけでぞっとする。
しかしもし相手がヒカルだったら――――

(10)
清春は布団を足ではがいじめにして身悶えた。
「あかん……進藤……進藤……」
下肢を布団にこすりつける。そこはすでに昂りはじめていた。
ヒカルに望んでいるものを自覚させられる。
「……アカン!!」
清春は碁盤のまえに正座すると石を並べはじめた。ヒカルとの一局だ。
進藤ヒカルはこれからともに歩んでいける、最高のライバルだ。
それをたとえ頭のなかだけでも、汚してしまってはいけない。
オカズになど絶対にするものか。
不埒な想いは消してしまわなければいけない。

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