変態ショタ男
(1)
今日は新学期。ヒカルは小学五年生になった。
これで高学年の仲間入り、まるで自分が大人になったような気分だ。
「今日じいちゃんがプレステとFF7買ってくれるんだぜ。いいだろ!」
「えっいいなー!俺もヒカルのじいちゃん欲しかったなあ」
「だめだめ!じいちゃんはオレだけのじいちゃんだもん」
五年生になったら塾に入るという交換条件の下、去年発売した
人気のゲームソフトとハード機を買ってもらう約束を先日取りつけたばかりだった。
ヒカルの頭の中は今、夕方には手に入るであろうゲームのこと
で一杯だった。ゲームをやる前の予習として攻略本を買おうと
思い、友達と別れたヒカルは家とは反対方向の本屋に向かう。
こういう労力は一切惜しまないのだ。
「はーやく買いたいーえふえふー♪」
元気にスキップしながら上手とは言いがたい自作の歌を口ずさむ
姿は微笑ましく、(これが大人であれば白い目で見られるであろうが)
通行人はみな優しい目で上機嫌のヒカルを見ていた。そんな中、
ただ一人…危ない目をした大学生らしき男が息を荒くしヒカルを見つめている。
しかしその不穏な視線に気付く者はいない。何も知らないヒカル
は本屋で攻略本を購入し、来た道を引き返した。
早く家に帰りたい、早くゲームを買いに行きたい!
そんな気持ちが自然とヒカルの足を急がせ、小走りに駆けていく。
(2)
いつも通る公園前まで着いたころ、ほどけてしまって走りにくい
スニーカーの紐を結び直そうと思ったヒカルは公園の入り口
付近にしゃがみこんだ。
「よいしょっと」
ランドセルを横におろし、スニーカーに手をかける。せっせと
紐を結ぶヒカルはふと目の前が暗くなったことに気付いた。
「?」
なんだあ?と上を見上げると、見知らぬ大人の男が立っていた。
ああ、おにいさんの影かあ、とヒカルはぽかんと口を開けて背後を見上げた。
「おにいさん誰?オレに何か用?」
「ヒカルた…君。おにいさんはね悪い人じゃないよいい人だよハアハア」
ハアハアうるさいなあと顔をしかめたが今のヒカルは機嫌が
すこぶるイイ。紐を結び終えると立ち上がり、膝についた汚れ
を軽く払うと満面の笑みを向けた。
「おにいさんFF7持ってる!?オレ今日じいちゃんに買ってもらうんだぜ!」
「ハアハアもちろん持ってるさ。去年とっくに買ったYO!」
彼は重度のゲーマーだった。発売日は徹夜で電気店に並んだことを
言うと何故かヒカルは尊敬の眼差しを向けた。
「すっげー!かっこいい!いいなー!」
「そ、そうかい?はあはあ…いい子だねヒカルた…君。
そうだ君にいい物をあげよう」
「なになに?」
小首をかしげて大きな瞳を輝かせるヒカルに、男の息は更にあがる。
「お菓子とジュースがいっぱいあるんだ。君にあげよう」
「えっいいの!?」
(3)
「うん。君はいい子だから特別さ」
「うまい棒ある?コアラのマーチは?」
「あるとも。さ、こっちおいで?公園の林の中に忘れてきちゃったんだ」
何故そんな場所に忘れるのか
そもそも何故お菓子とジュースを大量に持って公園にいたのか
普通なら不審に思うところだが、ヒカルは何の疑問も持たない。
ランドセルを背負い、差し出された手を小さな手できゅっと掴むと
ヒカルは素直にその男についていった。ハアハア息の荒い男の
計画は始まったばかり…。
(4)
「さあ、こっちだよ」
公園自体はかなり拾い敷地で、メインで遊ぶ場所の周りを
薄暗い林が囲っている。ヒカルもよくこの公園で遊んだが、
林の方まで足をふみ入れたことはなかったので、何かいけない事を
している気がしてドキドキした。好奇心旺盛な少年は男に連れて
行かれるまま林の奥に進んでいく。
「さ、ついたよ」
「え?なんでシートがひいてあんの?」
「ここで食べれるようにさ」
「いや、オレは…えっと」
てっきりお菓子を袋にでも入れてくれるのかと思っていたので、
早く家に帰りたいヒカルは戸惑った。しかしせっかくの好意を
無駄にするのは子供心に失礼な気もする。
(まあ…いいかな。タダだし)
ヒカルはスニーカーを脱ぎ、地面にひかれたシートの上に上がった。
男はビニール袋からがさがさとペットボトルや菓子を大量に出し始める。
ヒカルの好きなうまい棒もコアラのマーチもちゃんとあった。
「わーい!いっただきまーす!」
はしゃぎながらパッケージを開け、すぐにそれにかぶりつく。
男は幸せそうにヒカルをただ見ている。優しいおにいさんだなあ。
オレならお菓子人にあげたりするもんか。全部食べちまうぜ。
チョコ、ポテトチップス、クッキー…。小さな胃の中にどんどん
お菓子を平らげていく。ジュースも差し出され、
もはや遠慮なくヒカルはそれを頂戴した。
(5)
半時間ほど過ぎた頃、二人はすっかり打ち解けていた。
ヒカルも男もゲームが好きということで共通の話題に花を咲かせ
ながらお菓子やジュースを平らげていく。
兄弟がいないヒカルはひそかにこんな人がお兄ちゃんだったら
良かったなと思っていた。優しくて大きくて物知りのにいちゃん。
きっと友達からも羨ましがられるに違いない。
「どうしたんだい?ヒカル君」
「あっううん何でもないよ!」
少し顔を赤らめて首を振る。ごまかすようにジュースをごくごく
飲むと、急に尿意を催した。
(げ…)
この公園にはトイレがあることはあるが、崩壊寸前の廃屋の
ようでトイレの花子だか太郎だかのお化けが出るともっぱらの
噂があった。一瞬迷ったが、林のどこかでこっそりしようと考え
ヒカルはおもむろに立ち上がった。
「おにいさん、ちょっとオレ…オシッコしてくるね」