HONEYDRIPPER
(6)
自分の下半身がどうなっているかなんて考えたくもなかったが、足の間にへんなむず痒さが
こみあげてくる。
手で皮をむかれる感触に、ぎゅっと目を閉じ、体が跳ねてしまう。
「う……く……。」
恥ずかしかった。
追い打ちをかけるように生ぬるい舌の感触に剥かれた先端を包み込まれ、ヒカルは泣き声を
上げた。
「や、やめろッ!」
酒臭い息とともに伊角のささやき声がする。
「じっとしてろ。――今日は二人で気持ちよくしてやるから。な?」
伊角は右の耳にふっと息をふきかけながら、ぬめった舌先をねじこんできた。
耳の穴の入り口を舌先で蹂躙されると、全身にじわりと熱いものが広がる。それが下半身で
ありえないことをしている和谷の舌先とリンクして、ヒカルは徐々に抵抗する力を失くしていった。
(7)
シャワーの下で、ヒカルは頭からぬるいお湯をひっかぶった。
シャンプーの量が多すぎたのか、頭の上で大きな泡のかたまりが揺れ、そこにおさまりき
らない泡が肩に、背中に降ってくる。
体も安っぽいボディーシャンプーの匂いと大量の泡に包まれている。
スポンジで体をこすりあげるが、ぬるぬるとしたあの液体の感触はいっこうに落ちず、ヒカ
ルはくぐもった舌うちをした。
家に帰ってくるなりバスルームに駆け込んだヒカルを、母親が首をかしげて見ていた。
昨日は伊角の家に泊まる、それはあらかじめ伝えておいたから深くは追及されなかったの
が幸いだ。
――しかし。
ぬるま湯が体の泡を押し流していくのと同時に、体のあちこちにつけられたあとが浮かび
上がる。
脇腹や太腿にはうっすらと歯型がついている。
うかつにもそれが目に入ってしまい、ヒカルは唇をゆがめた。
(8)
記憶の断片がつなぎあわされる。
長らく足踏み状態だった和谷がようやく四段に昇段し、昇段祝いにかこつけて飲みに誘わ
れた。伊角以外は未成年だが、ヒカルも和谷も十四、五からプロの世界で戦っているせい
もあって、どこか大人びた空気を背負っているから、二十歳すぎに見えないこともない。
唯一、ヒカルは童顔めいてはいるが、それでも数々の棋戦をくぐり抜けることで培われた
受け答えは堂に入ったもので、とても十七、八の小僧には見えないだろう。
はじめはそれでも、伊角がとりなしてウーロン茶と大量の食い物で済ませていたのだが、
そのうちヒカルも大胆になり、気がつけば四杯ほど飲んでつぶれかけていた。
伊角のアパートで寝かされていた。
そして、服をすべて剥がれ、おぞましい液体をぶちまけられて、流されるように体じゅうを舌
が、唇がはいまわっていた。
驚きのあまり、抵抗すらできなかった。
それ以上に、嫌だと思いつつも焼け付くような快感。
(9)
やわらかい舌の感覚が体のそこかしこをまさぐり、手で、口で高められては何度も寸前で
離された。
次第にそれに慣らされて、最後には恥ずかしい形に体を開かれ、声をあげて和谷の口の中
に出してしまった。
その感触を思い出すと、背筋がゾクゾクと震える。
それに、舌で耳の中をこじる伊角の吐息が切り裂くように体をさいなんでいる。
何度も何度も、スポンジと泡でそれを洗い流そうとするが、意識すればするほど、感触が
重くのしかかっていく。
ようやく湯で泡を流し、バスタオルで体を拭く。
だが、パイル地のやわらかいタオルの感触さえ体に火をつけるようで、ヒカルはきゅっと
唇を噛んだ。