お江戸幻想異聞録・神無月夜(かんなづきよ)
(33)
片腕をとられた。伊角は器用にも光の中に入れたまま、光の身体をこちらに向
かせると、細い腰を両腕で宙に浮かせた。肉棒がぐるりと中を擦りあげ、濡れた
音をあげた。
「あン…!」
「さ、肩にしっかりつかまっていて。」
「う…ん…。」
光は伊角の首に両腕を回して力を込める。伊角が膝立ちになると同時に身体の
重さで固く張り切った雁首がズブリと光を深くえぐった。
「あぁ――!」
腹のあたりが濡れ、伊角と繋がっている部分をつたっていくのがわかる。
「もう――いってしまったのですか?」
ぼやけた視界の中で伊角が困ったような笑いを浮かべていた。深くつきあげられ
た衝撃で達してしまったのだ。しかし、伊角を受け入れている菊座はいまだ冷め
やらず、それどころか更に固く熱い魔羅を求めて蠢いている。
「やっ…まだ…」
伊角は光を抱きかかえたまま、唇を吸い上げ、光もまたそれに呼応していた。舌
同士がもつれた糸のごとく絡む。いつもの男とは違う逞しい体――膝立ちになった
体は光を揺すり上げ、奥深くまで光を犯した。
「あっ…うっう…ん…いい――!」
「気持ちいいですか?」
「あ…いい!いいよぅ――」
揺すられてヌチャヌチャと淫らな音が座敷じゅうに響き渡った。淡い視界の中、ふと、
どこかで砂利を踏みしめる音がしたような気もした――障子一枚隔てた先は侍屋敷
の庭で、まだ昼すぎの明るいうちから嬌声をあげているのを下男や下女が聞きつけ
やしないか心配にもなる。
(34)
「ん…ん…光…もう…」
伊角が眉根を寄せていた。腰に回した腕の力が強まり、もう一度、強くつきあげ
られる。
「あ――!やめて…!いく…!――いすみさ…いく!」
「――っ!光!出る…!」
「いすみさん――!出してッ!いっぱい!」
「光――!」
伊角が低く呻いて震えた。
それから、どのぐらいか――光はいっとき、気を失っていたのかもしれなかった。
「光――?」
はっとして見上げると、伊角が息を切らしつつ光を覗き込んでいた。
「いすみさ…慎之介さま…」
うっかり達するときにあらぬ者の名を呼んでしまったかもしれない――もっとも、
それで訝しがられることもない名ではあるが――光は一抹の気まずさを感じて
目を反らした。――と、視界の中にうすく開いた障子と、その向こうにある濃い
躑躅の植え込みが見えた。どきりとして開いた障子を凝視していると、今度はは
っきり砂利を踏みしめる音が聞こえた。
伊角もそれに気づいたようで、前を向いたまま鋭く言い放った。
「――なにやつ…?」
縁側の上にひょいと黒い影が落ち、一寸ばかり開いた障子がカタリと開かれた。
「よう、なかなかいい見ものだったぜ、慎之介殿。」
「貴様――!」
門脇が顎をひねくりながら、ニヤリと笑っていた。