パッチワーク　あかり　2014

(6)
　コンビニは思ったよりも大きくて百円ショップ用のチープなものと反対にデパートで扱っているよ
うな高級品があって普段私が買っているようなスーパーにあるようなものはあまりなかった。品揃え
も良くて生鮮食料品や調理道具・お皿の他に掃除道具や薬も売っていた。ヒカルが食べられなくなっ
た時を思い出すと四日食べていなければ離乳食のように柔らかいものしか受け付けないかもしれない。
何回かに分けて買い物し部屋に荷物を運んだ。月に一度はハウスクリーニングを頼んでいると聞いて
いたけれど前回から時間が経っているのか水回りは黒ずんで見えたので掃除することにした。石鹸や
タオルも見あたらなかった。タオルはもしかしたら家に持っていっているのかもしれない。離れから
出る洗濯物に混じっているタオルは私や平太が使っているタオルより上等のものだった。洗面所にあ
った剃刀が錆びていたことを思い出してひげ剃りの道具も一式買った。歯磨き道具も買った。塔矢君
の好みのブランドが分からないのでそう言ったものはヒカルにいつも頼まれているものと同じものに
した。

　塔矢君が起きたのは十時過ぎだった。平太はいつもと時間が狂ってしまったのか一度五時過ぎに起
きたので軽い食事をさせ、お気に入りのテレビを見せたらまた眠ってしまったので塔矢君の横で寝か
せた。

(7)
　「シャワーを浴びてらっしゃい。そうしたら食事にしましょう。」何か言うかと思ったら何も言わ
ずに塔矢君は一旦寝室に戻り着替えを持って浴室へ行った。

　塔矢君がシャワーを浴びている間に食事を温め直した。塔矢君が食べおわったらお皿を洗えばすむ
だけにしてある。お皿を洗い終わったら帰ろう。

　塔矢君が食事を終え、私が後かたづけをしていると今度は平太が目を覚ました。平太は周りに誰も
いなかったからかぐずっていたけれど塔矢君にあやされているうちに笑い声を立てるようになった。
片づけを終え居間へ戻ると塔矢くんは平太を抱きしめ、涙を流しながら頬ずりしていた。既視感があ
った。ああそうだ、塔矢君が地方で手合いがあって留守にしたときのヒカルだ。「あかりもいるし、
平太もいるけどでもなんか寂しいんだ。」そう言ってヒカルは寂しさを紛らわすように塔矢君が留守
の間平太をずっと抱いていた。「塔矢君、あなた寂しいんでしょう。でも、平太がいれば少しは気が
紛れるんでしょう。塔矢君がいないときのヒカルにそっくりだもの。じゃぁ、明日手合いが終わった
ら、うちに戻ってらっしゃい。寂しくなったら平太で気を紛らわせればいいし。ヒカルがあなたのこ
とを心配しないように見張っててあげるから。」

(8)
「じゃぁそろそろ終電に間に合わなくなるから帰るわ。平太、塔矢君にバイバイね」
「電車で帰るつもりなのか。だめだ、ここは治安が悪いんだから。この時間に子ども連れは危険すぎる、
平太に何かあったらどうする。タクシーを呼ぶから僕も一緒に帰る。」
そういうと塔矢君はインターフォンでどこかへ連絡した。

　一階に下りてびっくりした。道に出てタクシーに乗るのかと思ったらマンションの中庭でタクシーが
待っていた。運転手さんが言うにはお客さんが乗るときと降りるときがタクシー強盗に襲われ易いとき
なのであのマンションのように敷地の中に入れてもらえて門を閉めてもらえると安心できると言うこと
だった。

(9)
　家についてからいつものように私と平太は母屋に塔矢君は離れに別れた。翌朝、塔矢君はきちんと朝
食を取って手合いに行った。ヒカルには塔矢君が戻ってきたことを朝の電話の時伝えた。大学院一年目
の今年夏休みの課題に八本のレポートが出ている。四日毎に一本あげないとこなせない。しかもそれぞ
れに参考図書を四〜八冊よまなくてはならないのに昨日は予定外に時間をとってしまったので今日は二
日分の参考図書を読まなければならなくなった。平太の世話をする時間が惜しくて今日は保育園に預け
てしまった。おかげで翌日分の半分まで先に進めることができた。夕飯の後平太は塔矢君と遊んでご機
嫌なまま寝てしまった。塔矢君も離れに行ったので私は欲を出していつもと同じように四時まで参考図
書を読み進めることにした。二時頃だった物音がしたので振り返ると離れに行った塔矢君が立っていた。
「すまないけれど、平太の隣で寝て良いかな。」ヒカル用の布団が押入にあるから自由に使ってくれる
ように言った。それから手合いの前日を除いてヒカルが帰ってくるまで三人で川の字になって寝ること
になった。

　ヒカルは帰ってきてこのことを知って自分も一緒に寝ると言い出した。結局それからは四人で一部屋
で寝ることになってしまった。塔矢君と私の間にあった壁も気が付くとほとんどなくなっていた。

あかり　2014　了