淫靡礼賛
(76)
「そんな顔をするなよ。また犯したくなるじゃねぇか。怒った顔もかわいいからな。」
吐き気を催す言葉を言われた。
座間はずいとヒカルに近寄ると、長く延びた片足を持ち上げ、奇妙なベッドフレームか
ら伸びる拘束具で固定した。
「んッ…!」
「おお、ちょうどいい具合だ。きれいなケツが丸見えだ。」
何をされるかはだいたい見当がつく。いまさらじたばた暴れるよりも、おとなしく従って
さっさと解放されたいと思った。
「これ、何だか知ってるかね?」
座間の手の中にあるのは、縄か糸を束ねたような白い束だった。
「肥後ズイキってやつだなァ。これを入れておくとムズムズして欲しくなるらしいぞ。」
まったく、どこまで変態なんだと呆れながら、ヒカルはされるがままになった。
ローションを塗られ、妙にやわらかくしっとりした物が押し込まれた。
「しばらくじっとしていなさい。俺は大切な来客のお相手だ。」
「……。」
「今、となりの書斎でキミの破廉恥な姿に撮った画像を鑑賞しているよ。」
「……!」
再び、ギリッと座間を睨みつけると、座間はニタリと含み笑いを漏らし、ドアをうすく開け
放したまま――消えた。
(くっそー!)
虚しく手足をばたつかせてみるが、手首が痛むだけだった。
(77)
むしろ、バタバタ動いているうちに、中に入れられたモノが擦れて、妙な感覚がそこか
ら湧き上がってくる。
(くっそーーーッ!変態オヤジ!チクショウ!チクショーッ!)
情けないやら悔しいやらで視界が涙でぼやけてくる。
妙なものを入れられたそこがゆるく熱を持っていて、痒いような、くすぐったいような、
奇妙な気持ちになってきた。
ふと、となりの書斎とここを隔てている壁を凝視した。
初めて座間に襲われた時に撮られた画像…その後、ヒカルも見せられたのだが、およ
そ直視できるものではなかった。
一体、どんなやつに見せているというのだろう。
変態オヤジ仲間か――?
そういう趣向の人間に高値で売りつけるつもりなのだろうか。
「オレなんかのエロ画像売りつけてどーすんだよ…バッカじゃねえ?」
独り言を呟いた。
そうでもしなければ気が狂いそうな気がした。
ふと、壁の向こうから、荒い息遣いに混じって、ハスキーな喘ぎ声が漏れ聞こえた。
(くそーッ!オレのエロい格好見て興奮してんじゃねえ!バカーッ!)
身体が妙に火照る。
それが羞恥からなのか、後ろに入れられた妙な代物のせいなのかわからないが、ちらと
首を動かして下を見ると、勃起しかけていて、なおさら情けなくなってくる。
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だが、壁の向こうから聞こえてくる声は、今度ははっきりとしていた。
「ふざけるなッ!」
――塔矢!?
ヒカルは視界がぐるぐるぼやけていくのを感じた。
なぜ、アキラがここにいるのだろうと思った。
ドタッ、バタンという物音がして、何かがドサッとベッドの端に転がり落ちた。
「し、進藤?」
横を向くと、そこにいるのは間違いなくアキラで――しかも、脱げかけたシャツをひっ
かけただけのアキラで――ヒカルは滅茶苦茶に暴れた。
「なんで…。」
アキラはずるずると這いつくばるようにしてヒカルに近づいた。
「や、やだ…見るなッ!…取ってよッ!」
「ちょ、ちょっと待って。」
混乱するヒカルをなだめるように、アキラが身体の上に覆いかぶさってきた。
左足を固定している拘束具はバックルで留めてあるだけだと見て、アキラはそれを素
早く外した。
「やだ…!これも取ってッ!」
「これって…」
「なんかヘンなヤツー!」
「え…?」
アキラは慌ててヒカルの身体を探り、ようやく後ろにつっこまれた物体をさがしあてた。
「これ?」
「――ウン。」
あまりに恥ずかしくて、情けなくてまた泣けてきた。
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「…キミの恋人はずいぶんと淫乱でね。どこまでヤッたのかね、塔矢くんは。」
アキラが振り向いた先には壁によりかかる座間がいた。
「で、どうする?」
座間は唇をわななかせて睨みつけるアキラを前にせせら笑った。
「――キミとて進藤くんとの関係はあまり大っぴらにしたくないだろう?」
「脅迫ですか。」
「いいや、取引をしようと言っているんだ。」
「取引?」
「まあ、ここで三人楽しく遊ぶか、よろしくない関係を暴露されるか――。」
「わかりました。」
アキラは間髪いれず答えた。
「で、何をなさりたいんですか?座間先生は。」
「と、塔矢ぁ!オマエ何言ってんのッ!?オマエまで巻き込まれてんじゃねぇよバカ!」
ヒカルが金切り声を上げたが、アキラはさっぱりと微笑んでヒカルにキスした。
「だいじょうぶ。心配するな。――大丈夫、だから。」
(80)
* * *
ドアの向こうから淫靡な喘ぎ声が響いてきた。
座間は満足げに微笑むと、ドアを開け猟奇的な形のベッドの上で絡み合う裸体を凝視
した。
一方は透き通るような白い肌で、もう一方は蜂蜜色の健康的な肌だ。
ベッドの対角線上に頭をおいて、互い違いに細い脚が絡み合っている。ちょうど、松葉
崩しの状態だった。
双頭バイブという代物は初めて買ってみたが、なかなかよい。
アキラの細い脚を持ち上げると、両方の後孔に根元まで埋め込まれて一つに繋がっていた。
アキラが形のいい眉をゆがめて唇をきゅっと噛みしめ、腰を上下に揺らした。
「あ…あああああッ!やだーッ!塔矢ぁ…う、動くなばかぁっ!」
動くたびに、たっぷりと使ったローションがグシュッと濡れた音を立てた。
これを使うと、大抵、ヒカルのほうが先に達してしまう。
ヒカルが達してしまうと、今度はアキラがヒカルに押し入って暴れまわる。時として逆の
場合もあるが。
先週はアキラに後ろを犯させながら、ヒカルのかわいらしいモノを吸い尽くしたら、壮絶な
快感に失神してしまった。――どうやら、感度はヒカルのほうが上だ。
二人並べて交互に挿入してみたこともあるが、これは甲乙つけがたい。
さて、今日はどんなことをしようかと座間は淫靡な形にもつれる二人を眺めた。
最近はどちらかというとヒカルのほうが積極的になってきているから――普段はツンと澄ま
した顔をしている塔矢アキラを前後で責めるのも悪くない、と思った。
(終)