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その世界には幾つもの種族が住んでいた。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、ヴァンプets………  互いに偏見や争いの歴史を繰り返していた。  しかし、約60年前、世界を巻き込んだ戦争「第5次魔法戦争」の際、とある大国が異世界との完全な門を作って強大な力を呼び込もうとした。それが世界が一つになるきっかけだった。その力は瞬く間に海底を隆起させて島を一つ作るほどの力だった。 「天使門事変」そう呼ばれる事件は異世界の魔物を呼び込む結果となり、世界そのものの存在を危機に瀕したのだった。  その危機に直面した人類は史上初めて、本当の意味での結束をし、門を島に封印したのだった。

 時間は少し戻る。若い刑事が愚痴をこぼしていたくらいか。  占拠されたビルの50m隣に生命保険会社のビルがある。そのビルの屋上に男が一人立っていた。黒いコート、その中には黒光りする皮製らしきアーマーを着込み、胸のホルスターには凶悪な大きさの銃。背には1m強はある剣を背負い、街の光と夜の空を眺めていた。  初夏の風が強くも無く弱くも無く吹き続け、コートを闇にたなびかせていた 「聞こえる、陣馬。」  コートの襟に付けられた指向スピーカーから若い女の声が男の耳にだけ届く。 「ああ、聞こえてる。」  吹く風にうんざりした声で男はオペレーターに返した。 「現時点での内部データと地図、送ったから。」 「了解」  男は腕に着けられた細い金属の腕輪に触れた。すると軽い電子音とともに、ビルの地図の画面が、文字道理目の前に浮かび上がる。その空間ディスプレイと言われる画面を見ていた男が、ボソリとオペレーターに呟く。 「秋野……………。」 「ん、なに?」  あっけらかんと、秋野と呼ばれたオペレーターの声は答える。 「なんなんだよ。この被疑者数不明て?」  男はジト目で画面をみる。当然だかスピーカーの向こうには見えていない。 「見たまんま。現在も被疑者の数は増えているの。だから不明…………。だから私たちが出てんじゃない。」  スピーカーからの声はさっぱりと言い切った。 「………了解。」 「陣馬。」  やや、呆れながら返信する男にスピーカーの声の主は心配そうに言う。 「気をつけてね。」 「おう。」  その心配そうな声になった秋野に陣馬は明るく答えて、通信を切った。 「・・……騒がしい夜だな。」  誰ともなく真神陣馬は呟く。  明るい光の中、風はまだ吹いていた。
 同時刻  占拠されたビルの上を飛び続ける何機かのヘリの、一機の機内で彼は静かに待っていた。ドアを全開にしているために風が入り込み、整った顔をした彼の金髪と真っ白い、法衣にも似た服を乱していく。しかし、それを気にする事なく、ジッとビルを見つめていた。幅広の両刃剣の収まった鞘を抱えて時間を待っていた。それは何かを溜めているかのごとく、祈りを捧げるかのごとく。
 使われていない地下道。元は物資運搬のために使われていたが、地上の過疎化により、封鎖されたはずの場所に人影が二つあった。 「!」  人影の片方突然立ち止まる。長い黒髪が慣性で揺れる。白い上着と赤い袴が埃で少し汚れてしまっているが、紛れもなく巫女の服である。 「大丈夫、ただのネズミ。」  もう一つの人影が巫女服の少女を気遣う。二メートル半はあるかと思う巨体。鉄ゴーレムを思わせる肌の色。瞳を模してもいない二対のスリット、一つの赤い瞳のようなガラス、2つのセンサーが頭部に付けられていた。間違いなく人間ではない人型。  しかし、巨体から聞かれる声は不気味なほど無表情だか涼しげな、間違いなく少女の声が聞こえてくる。 「…………」  黒髪の巫女がコクッと頷き、また歩きだし、そのあとを巨体が後を追っていった。 「ここ。」  しばらく歩き、地下道を進む巨体がある一角で止まる。そして貨物昇降用のエレベーターの横にある、コントロールパネルに巨体の人型は手を触れる。 「動かすよ。」  そう呟くと金腕から小さなマニピュレータを出して、パネルの下にある端子に触れる。すると、静かだった地下道に突然、動力音が鳴り響く。エレベータの階を示すランプがゆっくりと増えていく。 「…………」 「うん、すぐにくるよ。」  巫女のどのくらいで来るのでしょう、と言う問いが聞こえたのか、巨人が似合わない声で答えた。  その時、細かな振動とモーター音が地下道に響く。と、それに混ざって軽い電子音が、巫女の腕輪と鉄ゴーレムから鳴っている。それは陣馬と同じ形の腕輪だった。    
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