刻々と時間がたっていくにつれて緊張が高まっていく。CTU学部の執行部ではウォルシュ先生に情報をもらうため、
メールソフトを立ち上げたトニーは自分を呼ぶ声に振り向いた時、モニターから目をそらしてしまった。

 振り返って受信したメールを見ようとした時、突然其処に広がるシミのような物が画面を覆っていくのを見て愕然とした。
「なっ…ウイルスだ!クロエ!」
 とっさに拡大を防ごうと色々と手を打つが有効な手段が無かった。
 其処に携帯がなった。
「アルメイダ」
「トニーか! ニーナから何か連絡が無かったか?」
 ジャックが問いかけてくる。
「そう…か、ニーナ。彼女にしてやられました。こちらのPCがウイルスにやられました」
 トニーの背後では必死で回復させようとマイロやクロエが格闘している。
「やはり…さっきニーナから意味深な電話があってな」
「すみません、ジャック。こちらからの送る情報が遅れるかもしれません。今からウォルシュ先生のところに行ってきますから」
 テロ部の最新の動きがわかるのはトニーが行こうとしてる人物が握っている。
「わかった。こっちも一つは爆発物を処理した。後疑わしい所をまわって見る。トニー、気をつけろよ」
「ありがとうございます。御心配いただいて」
 ジャックに心配そうな声で続けられるとトニーは嬉しかった。緩みそうになる顔を引き締めて、混乱の中にいる仲間たちに
指示を出し自分は目的の場所に向かう。
 執行部のドアから出てきたトニーを一定の距離を置いてついてくる影があった。


 トニーとの会話を終えたジャックは今自分達が出来る事―予想された場所に仕掛けられている爆発物を発見・処理する
―を黙々とやっていた。その時、建物の影で何かが動くのを目の端で捕らえた。
「カーティス、動くな」
 ジャックは小声でカーティスを制し、様子を伺う。其処には丁度テロ部のサンダースが仲間に連絡を取っている所だった。
こちらの動きで予想した行動が取れていないのに焦っているようだ。ジャックとカーティスは目を合わせ、同時に動く。

「手を上げて膝をつけ」
 サンダースの背後に立ったジャックは静かに言った。
「くそっ!」
 サンダースが悔しそうにつぶやく。ジャックたちによって「テロリスト」の一人とみなされ、逮捕されるのだ。もちろん、この
演習が終わるまでだが。
 後ろ手にした所を手錠をかけられ、CTUの所定のところまで連行しようとしたとき、
「サンダース!」
 頭上から声がかかる。が、その声をかけた人物が撃たれて建物の影に倒れた。銃声に咄嗟に身を伏せる3人。発射され
た方を見るとニーナがにやりと笑っていた。
「鼠は駆除しなくちゃね」
 彼女の笑みと倒れた人物に目をやるとジャックは無言でサンダースを引っ張り走り去っていく。
 撃たれていたのはロバートだった。


 もちろん、撃たれた、といってもペイント弾だ。だが、彼はCTUからの潜入と言うことがばれてしまっていた。しっかりとデジ
カメに収められた密会の一部がテロ部で公表される。
 ペイント弾の毒々しい赤を胸に貼り付けたまま、ロバートはパイプイスに座っていた。その目の前にはそれを撃ったニーナ
とマンディがいた。
「ロバート・ドゥーヴ、貴方はCTUからの潜入だったのね、けっこう上手くやっていたみたいだけど…ばれちゃったわ」
 マンディが楽しそうにそう言うと、ふい、と目線をそらすロバート。
「残念ねぇ。これで御褒美はパア。でも私たちを恨まないでね。ふふふ」
 まるで捕まえてきた子鼠を嬲るように憮然としたロバートの頬をなでながらマンディは続ける。
「でも、吃驚したわぁ。テロ部一のタラシでコマシのロバートが実は…」
「俺は…タラシた事はあるがコマシてはいねーぞ…」
「あら? そう?」
 にまにまと笑うマンディ。その手元には小さくではあるがしっかりロバートと男のキスシーンが写っている写真がある。
「潜入の報告は…このスーツの具合でわかるわ。この学園での伊達男といえばケリー位しかいないもの。彼にしていたのね」
「…ああ」
 ぷいっとそっぽを向くロバート。
「あの一見プレイボーイが実は生徒と出来ていたって事が驚きだけど…相手が貴方だったって言うのにもっと吃驚しちゃった!」
「それとこれは別なんだ…」
 マンディの言葉にがっくり来ている彼は俯いた。

「ま。それはいいんじゃない? マンディ。彼がホモだろうが、ヘテロだろうが。ようは潜入だったとしっかりわかったって事で」
 珍しくニーナが結論を急ぐ。思わぬ助け手に目を丸くするロバート。
「ん〜、でもけっこうこれはスクープよ? ニーナぁ」
「止めてくれよ! 俺は何を言われても良い…だけどケリーに迷惑かけたくないんだ」
 精神的に締め上げていくのが得意なマンディの発言はロバートの本心を剥き出しにする。
 その二人を見ていたニーナはマンディの肩をぽんぽん、と軽く叩いて何時もとは違う優しげな表情をした。
「マンディ、恋愛はこの際関係ないんじゃない? 私達は演習でやっているんだし…」
「ん〜。まあね。好きな人を必死でかばう彼は涙ものよねえ。ま、いっか」
 ニーナにそう言われて彼女はあっさりこの問題を終わらせた。もっと大事なイベントがある事を思い出したのだ。

「そう言うわけで。ロバート、貴方はこの演習が終わるまでテロ部執行部の此処にいて頂戴ね。CTUにつかまったサンダースと
多分捕虜交換になると思うけど」
 ニーナがロバートに宣言すると、彼は小さなため息を付いてちょっと情けない笑みを向けた。
「…ありがとう、ニーナ」


 一方。ジャックと話した後、ウォルシュのところへ行こうと廊下を歩いていたトニーを呼び止める声があった。
「トニー・アルメイダ先輩!」
 ふと振り返ると其処には綺麗な金髪をポニーテールにしたそばかすある可愛い子が小走りでやってくる。
「君は…?」
「はい、私マリー・ワーナーって言います」
 にこにことマリーが自己紹介をする。
「ああ、購買のワーナー社の娘さん?」
 CTU部の購買ブースでは株式会社ワーナーが取り仕切っている。其処の看板娘は彼女の姉でジャックとは仲良かったのを
トニーは思い出した。因みにテロ部のほうの購買はサラザール商会が扱っている。其処の社主のラモンは潜入時、ジャックを
とても気に入っていたので今でも時々CTUのほうまで顔を出すのだ。それはともかく。
「そうです! 実はさっき先輩を呼んできてって言われて探してたんですぅ」
「え? そうなの。誰だろう…?」
「ウォルシュ先生が…大事な話があるからって。こっちです」
「わかった」
 トニーは何の疑いもなく金髪のポニーテールの後を付いていった。


 トニーが出て行った後、必死でコンピュータウイルスと格闘していたクロエたちの所にジャック戻ってきた。どうやらウイルスの
問題は何とかなりそうな雰囲気だ。
「どうだ、クロエ。状況報告を」
「ああ、ジャック、もうすぐ直ると思います、けど邪魔だからそっちに行ってて下さい」
「…わかった…」
 悪気はないが言い方に難があるクロエの性格はわかっていたのでジャックはおとなしくマイロの方に目を向けた。
「マイロ、状況は?」
「はい、クロエの言うように多分そろそろ大丈夫だと…」
「そうか、ところでトニーはまだ戻らないのか?」
「あ、そういえばさっき出て行ってから戻ってきてませんね〜」
 のんきなマイロの言葉にジャックは嫌な予感がした。
 其処にジャックの携帯が鳴り。ワンコールでそれを取る。

「ジャック。どう、そちらは落ち着いたかしら?」
 ニーナが楽しそうに話してくる。
「ああ。お前が仕込んだ奴もこっちの優秀なプログラマーがきちんと処理したぞ。今度はなんだ!」
「いやあねえ、耳元でそんなに大声出さないでよ」
「さっさと用件を言え!」
「もう、ジャックったらそのうち血管切れるわよ。そっちに画像送るからそれ見てね」
 一方的に切られた携帯をジャックが握り締めた時、彼に向けられた部屋中の不安そうな目を気が付く事は無かった。
 そしてすぐに送られてきた映像は。
「トニー!」
 パンツ一枚で猿轡をされた彼が写っていた。


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