お前のことなんか好きじゃないのに
エピローグ
「号外、号外〜!」
爽やかに晴れ渡った朝の空に男の大声が響く。
校門を入ってすぐの広場では、学ランを着た数人の男たちが新聞らしきものを配っていた。
登校してきた生徒たちは男たちから紙面を受け取り、一体何が書いてあるのかと目を通す。
『ついに晴嵐統一! 頂点(テッペン)はキングこと三年の長瀬八尋』
『晴嵐ジャーナル 晴嵐の頂点(テッペン)決定特別版』と銘打たれた紙面には、太いゴシック体で書かれた大きな見出し文字が力強く躍っていた。
見出しのすぐ横には、『これが頂点(テッペン)を取った最強の男だ!』と題して、顔写真入りで長瀬のプロフィールと戦歴、武勇伝などが書かれている。
その下には、一体誰がいつの間に撮ったのか、昨日屋上で行われた長瀬派幹部と城戸のタイマン勝負、長瀬と城戸のタイマン勝負の模様が写真入りで載っていた。
「おい、聞いたか? 長瀬が晴嵐の頂点(テッペン)取ったってよ」
「マジで? ウチを統一するとかって、不可能なんじゃねーのって思ってたけど……やるやつはやるもんだな」
校内は、長瀬が晴嵐の頂点(テッペン)を取ったという話で持ち切りだ。
それはそうだろう。今まで確固たる頂点(テッペン)が不在だった晴嵐に、頂点(テッペン)と呼べる者が現れたのは、まさに歴史的な出来事なのだから。
「あ、ほら、来たぜ」
廊下の向こうから足音を立てやってくる男たちに、一人の生徒が声を上げる。
ざわめきの中、現れたのは、晴嵐の頂点(テッペン)を統べる通称キングこと、長瀬八尋だ。
背後には長瀬が率いる校内最強の派閥、長瀬派の舎弟たちが続く。
その中に見慣れない新顔がいることに気づき、生徒たちは口々にどよめいた。
「おい、見ろよ。長瀬の後ろ、城戸がいるぜ? 長瀬派に付いたって噂は本当だったんだな」
「しかも、あの立ち位置からして、いきなりナンバー2じゃねーか。やるなあ」
「えっ、長瀬派ナンバー2って、清家だったんじゃねえの? 城戸に譲ったってことか?」
「そういうキャラには見えねえけど。あいつうるさそうじゃん。城戸と反りが合わなそうだし」
「確かにな。やっぱだいぶ揉めたらしいぜ。で、長瀬派幹部連中と城戸で乱闘したらしい。『俺たち全員に勝ったら認めてやる』とか言ってさ」
「それで城戸が勝ったってわけか。まあ、実質、晴嵐ケンカ番付二位の実力だもんな。そりゃ、強いわけだ」
喧噪の中、ところどころ漏れ聞こえてくる生徒たちの会話に、長瀬は微かな笑みを漏らした。
そして前を向いたまま、背後の城戸に話しかける。
「おい、城戸」
「あん?」
「お前のこと噂してるぞ」
城戸からは長瀬の表情は見えないものの、その口調から何だか誇らしげな様子だということは伝わってきた。
「お前もすっかり有名人だな」
「お前ほどじゃねーよ」
楽しそうな口ぶりで言う長瀬に、城戸は照れたように突っ込みを入れた。
【END】 2016/06/24UP
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