お前のことなんか好きじゃないのに

「はぁ? 城戸を俺らの仲間に入れるだと?! 長瀬、てめー正気か?!」
 晴れ渡った空の下、屋上に清家の素っ頓狂な大声が響き渡った。
 いつものように長瀬を囲んでトランプに興じていた長瀬派幹部の面々は、驚いた顔をして一瞬動きを止める。
 だが、長瀬はちらと清家を見たものの、さほど動じることもなく、平然とした顔で隣の持ち札を引いた。
「おい、コラ、聞いてんのかよ、長瀬! あぁ?」
「落ち着け、キヨ。お前が城戸を嫌いなのはよーく知ってる。てめーのその反応も想定の範囲内だ」
 向かいから威嚇するよう吠える清家に全く動じることもなく、長瀬は平然とした顔でペアになった手札を捨てた。
「! だったら、何で!」
「知っての通り、あいつは晴嵐ケンカ番付二位だ。あいつが入れば、俺らの派閥はより強くなる」
 噛みつくように尋ねる清家に、長瀬は確信に満ちた口調で言う。

「は……バカかてめー。あんなやつなんか入れなくても、俺らだけで十分強いじゃねえか。必要ねーだろ」
 長瀬の言葉に清家は呆れた表情になると、眉を吊り上げ、何をバカなことを、と一刀のもとに切り捨てた。
 あっさり全否定する清家に、長瀬はぐっと歯噛みしたが、気を取り直し、言葉を繋ぐ。
「あいつは対抗派閥の頭だぞ。そんなあいつが、てめーから俺らの派閥に入りてえって言ってきてんだ。てめえの派閥を捨ててまで、俺のケツに付きてえって、言ってきてんだよ。キヨ。てめーにこの意味が……あいつの気持ちが分かるか?」
 男なら分かるはずだ、と言う長瀬に、清家は眉根を吊り上げたまま長瀬を睨み付け、ふん、と鼻を鳴らす。

「分かんねーし、分かりたくもねえな! 大体、あんな野郎、信用できんのかよ? 調子いいこと言っといて、入った途端、派閥を乗っ取って、俺らを内側から崩壊させるとか、そーいう魂胆じゃねえのかよ?!」
 城戸を疑い、侮辱する清家に、長瀬の顔色が変わる。
「! 城戸はそんなことしねえ!」
 突然声を荒げ、語気を強める長瀬に、清家は一瞬驚いたような表情になった。
 だが、すぐに元の顔に戻ると、意味ありげな笑いを浮かべ、長瀬の顔を覗き込む。
「長瀬、てめー、ずいぶん城戸の肩持つじゃねえか。……あいつと何かあったか?」
「……っ」
 城戸との仲を勘繰ってくる清家に、長瀬は一瞬気圧されたような顔で黙り込んだ。
 だが、すぐに形勢を立て直し、平然と言い返す。
「ねえよ。……少なくとも、てめーが聞いて面白れえと思うようなことは何もねえ」

 ……どーだか。

 努めて平静を装う長瀬に、清家は、ふん、と鼻で笑う。
 だが、あえてそれ以上は追及しない。
 事実を知っているからと言って、それはこの場で言うようなことでもないからだ。
「とにかく、俺はぜってー認めねえからな! あんなヤツとなんて、やってられっかよ!」
 吐き捨てるように言って、手札を勢いよくテーブルに叩きつけると、清家はイスから立ち上がった。
 そして、イスを蹴倒し、この場から立ち去ろうとする。
「おい、キヨ! どこ行くんだ」
「便所だよ! 悪りーか!」
 行き先を尋ねる長瀬を睨み付けると、清家は両肩をいからせ、ドスドスと足音を立てながら、鼻息も荒く去っていった。
「……」
「あー、キヨは言い出したら聞かねーからな。……こりゃあ、荒れるぞ」
 幹部の一人が独り言のように呟いた言葉に、長瀬は難しい顔をして黙り込んだ。
 確かに。これは一筋縄ではいかなそうだ。

+++

 学食前に置かれた飲み物の自販機で、城戸がどれにしようか選んでいると、ふいに背後から声がした。
「おい、城戸」
 振り返るとそこには、長瀬とよくつるんでいるスキンヘッドの男が立っていた。
 長瀬派ナンバー2の清家だ。
「お前、俺らの派閥に入りてーらしいな。長瀬から聞いたぜ」
 とげとげしい口ぶりから、こちらに好意的でないのはよく分かる。
 城戸は清家を無視すると、自販機のボタンを押した。
 ガコン、と缶が落下する音がして、取り出し口にジュースの缶が現れる。
 城戸はかがんで手を伸ばすと、缶を取り出した。

「言っとくけどな、たとえ、長瀬や他のやつが認めたって、俺だけはてめーなんか、絶っっ対認めねえからな」
「ふん、てめーなんかに認めてもらいたくもねえよ。大体、てめーに何の権限があるってんだ」
 挑発するように噛みついてくる清家を、城戸はうっとうしそうな顔であしらった。
「たかがナンバー2のくせに、チャラチャラうるせーんだよ。ハゲが」
 悪態をつく城戸の言葉が、清家の怒りに火を点ける。
「っせえ! ちょっと長瀬に目ェかけられてっからってなぁ、いい気になってんじゃねえぞ、コラ」
「誰がいい気になってるだと?」
「てめーだよ」
「あぁ?」
 正面から肩を小突く清家に、城戸も小突き返す。

 お互いの胸倉を掴み合い、至近距離で睨み合う二人は、お互いに一歩も引かない。
 絡まり合う視線の間には、激しい火花が散っている。
「やんのか、てめー……」
「おーよ。やってやろうじゃねえか!」
 お互いの拳がお互いの頬を打ったのを合図に、城戸と清家は壮絶な殴り合いバトルへとなだれ込んだ。
 小競り合いから本気のバトルに発展するのは、血気盛んなヤンキー野郎ばかりが集う、ここ晴嵐ではよくあることだ。

+++

「……」
 空き教室の窓辺には、うららかな春の陽が差している。
 窓際にはくっつけるように並べ置かれた机があり、その上に腰かけた長瀬は肘をついて窓の外を眺めていた。
 遠くからは放課後の喧騒が響いてくる。

 ふいに、遠くからバタバタと走ってくる音がしたかと思うと、がらりとドアが開き、城戸が姿を現した。
 手にはペットボトルと飲みかけの缶ジュースがある。
「遅かったな。どこ行ってたんだ?」
「あー、自販機全部売り切れで……ってのは冗談。お前んとこのナンバー2のハゲに捕まってな。一戦交えてきたんだわ」
 振り返る長瀬に、城戸は冗談を交え、事もなげに言う。

「キヨと? ……で、どっちが勝ったんだ?」
「そりゃあ、俺に決まってんだろ。晴嵐ケンカ番付二位をナメんなよ。お前んとこの幹部全員とタイマンしても全勝する自信あるぜ」
「調子に乗んな。クソが」
 得意げに豪語する城戸に、長瀬はムッとした表情になると悪態をついた。
「何だよ、ご機嫌斜めか?」
「うっせ。そんなんじゃねえよ」
 いつになく浮かない顔をしながら、長瀬は城戸の言葉を否定した。

「ほらよ。買ってきてやったぜ」
「サンキュー」
 城戸は片手に持ったペットボトルを長瀬に投げてよこす。
 弧を描き飛んできたそれを、長瀬は片手で難なくキャッチすると、ふたをねじ切り、中身を口に運んだ。

「どうした? シケたツラして」
 飲みかけの缶を傍らの机に置き、城戸は長瀬の隣に腰を下ろした。
「……」
「何かあったのか?」
 うつむいて目を逸らす長瀬に城戸は問いかける。
「あったとしても、お前には関係のねえことだ」
 ぶっきらぼうに言って長瀬は、これは俺の問題だからな、と付け加えた。

 清家には指摘されたが、長瀬が城戸の肩を持つように見えるのは、何も城戸のことが好きだからとかいう、甘ったるい馴れ合いの感情からではない。
 自らが頭を務める派閥を捨ててまで、城戸は長瀬の下に付きたいと言ってくれたのだ。
 それは、城戸が長瀬を自分より強い男だと認めたからに他ならない。
 ならば、同じ派閥の頭として、一人の男として、城戸のその気持ちに応えてやりたい。

 だが、長瀬の思いとは裏腹に、現実はなかなかすんなりとは行かないものだった。
 現に派閥の幹部である清家から強固な反対に遭った長瀬は、この計画は予想以上に難航するだろうという予感を感じていた。
 無理もない。ナンバー2の清家を始め、長瀬派の幹部たちは城戸にいい印象を持たない者が多いのだから。

 もし、彼らの反対を押し切って、長瀬の一存で勝手に城戸を仲間に加えれば、彼らは長瀬に反旗を翻すだろう。
 下手すれば、派閥の崩壊を招くかも知れない。
 いくら派閥の頭といえども、それはついてくる舎弟があってのこと。
 彼らにそっぽを向かれてしまっては話にならない。

「あいつらに反対されてんだろ? 俺を仲間にするって話。知ってるぜ」
「え……?」
 ふいに発せられた城戸の言葉に、長瀬の真っ黒な目が驚きで丸くなる。
「さっき清家に散々噛みつかれたからな。うるせーのなんのって。あいつ、よっぽど俺のこと嫌いだろ。ま、俺も別に好きじゃねーから、どうでもいいけど」
 事もなげに言って、城戸は飲みかけの缶を手に取ると、ぐびっと一気に飲み干した。
 空になった缶を再び机に置く城戸を見ながら、長瀬は口を開く。
「キヨには俺から改めて話をしてみる。けど、どうなるかは正直……分かんねえ」
 こんな情けねえこと言いたくねえけどな、と言って、長瀬はため息をついた。

 キングで派閥の頭。一見、どんな無茶でも通りそうだが、実際は、相手を納得させなければ、自分の意見一つ満足に通すこともできない、非力な立場だ。人の上に立つ存在だからと言って、万能というわけではないのだ。

「すまねえな、章吾。お前の期待に応えられなくて……」
 うなだれる長瀬に、城戸は明るく言う。
「いいんだって。気にすんなよ。俺は、俺のことマジで一生懸命考えてくれてる、お前のその気持ちだけで充分だし、嬉しいんだからさ」

 城戸にとって、長瀬が幹部たちと自分との板挟みになって、そこまで悩むほど真剣に自分のことを考えてくれているのは、申し訳なく思う気持ちもあった。
 だが、それ以上に嬉しかったのも事実だ。
 長瀬の下に付きたいと言った自分の気持ちに、懸命に応えようとしてくれている、長瀬のその真摯な気持ちが。

「たとえ派閥には入れなかったとしても、俺は八尋がいてくれるだけでいい。お前がそばにいてくれるだけでいいんだ」
 肯定するように力強く言って、城戸は長瀬をぎゅっと強く抱きしめた。
「章吾……」
 長瀬も城戸を強く抱きしめ返す。
 学ラン下のTシャツ越しに伝わってくる城戸の鼓動が心地よくて、長瀬は目を閉じた。

+++

 放課後の喧騒の中、昇降口に向かう廊下を歩いていた長瀬は、見慣れたスキンヘッドの後姿を見つけた。
 すかさずその肩に手をやり、呼び止める。
「キヨ。……ちょっといいか?」
「あ?」

 二人がやってきたのは、長瀬派がアジトにしている屋上だった。
 いつもは長瀬たちを始めとする複数の幹部たちがつるんでいるこの場所も、放課後ということもあり、二人以外の人影はなくひっそりと静まり返っている。

「で、話って何だよ? できるだけ手短に頼むぜ」
 俺は忙しいんだよ、と言って、面倒くさそうな表情で清家は息を吐いた。
 長瀬は言いたいことを単刀直入に切り出す。
「城戸のことだ」
「はぁ? またそれかよ?!」
 長瀬の口から例の名前が出た瞬間、清家は心底うんざりしたような顔で呆れ声を上げた。
「長瀬、てめーもホントしつけーな。俺はぜってー認めねえ、って言っただろうが。言っとくけど、俺の気持ちはテコでも変わんねーからな。……と言うわけで、この話は終わりだ。終了ー」
 言って、清家はくるりと踵を返すと、背を向けたまま頭の横でひらひらと手を振って立ち去ろうとする。
 ふいに、清家のもう一方の手を長瀬の手が掴んだ。
「キヨ」
「なっ、何だよ?」
 振り返った清家の目の前には、鋭い眼光でこちらを射抜く長瀬の眼差しがあった。
「いいから聞け。この話に関して、俺は俺一人の意見が通るとは思ってねえ。だが、お前一人の意見が通るってワケでもねえだろ」
 畳みかけるように、長瀬は続ける。
「てめーが城戸のことを嫌いなのは、てめーの勝手だけどな、派閥全体のこととなりゃ話は別だ。てめーの個人的な好き嫌いで、ガキみてえなこと言ってんじゃねえ。嫌ならてめーが出ていけ」
「! んだと……?!」
 まさか自分に矛先が向くとは思ってもみなかったのだろう。
 冷徹な顔で何のためらいもなく言い切る長瀬に、清家は狼狽の表情を見せた。
 長瀬は清家から手を離すと、表情を緩め、
「城戸はいいやつだぜ。てめーが思ってるよりも、ずっとな」
 あいつは変わったんだ。いい意味でな、と言って、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 その笑みに、声音に、特別なニュアンスがこもっているであろうことを、清家は見逃さなかった。
 確信した清家は、即座に反撃に出る。
「長瀬。お前、あいつのこと好きだろ。そういう意味で……本気で惚れてんじゃねえのかよ」
「!」
 核心を突いた清家の言葉に、長瀬は雷に打たれたように動けない。
 取り繕うこともできず、黙り込んでいる長瀬に、清家は更なる追い打ちをかける。
「お前こそ、てめーの個人的な感情で、城戸を特別扱いしてんじゃねえよ。てめーの甘っちょろい恋愛ごっこに付き合ってられるほど、こちとら暇じゃねえんだよ」
 吐き捨てるように言って、清家は長瀬を睨み付けた。
「……」
 奥歯を噛み締め、うつむいたまま、長瀬は答えない。
 下界から聞こえてくる放課後の喧騒が、静まり返った屋上にかすかに響いていた。

 ややあって、躊躇逡巡しながらも、長瀬は口を開く。
「確かに、俺は城戸のことが好きだ。……お前の言う通り、そういう意味でな。けど、それだけじゃねえ」
 言って、長瀬は顔を上げた。
 意志のこもった強い眼差しが、こちらを真っ直ぐに見据えている。
「俺はあいつの男気に……本気の覚悟に応えてやりてえだけだ」
 自らが頭を務める派閥を捨ててまで、城戸は長瀬の下に付きたいと言ってくれた。
 今まで散々長瀬を女のように扱い、蹂躙してきた城戸が、長瀬を自分より強い一人の男として認めてくれたのだ。
 半陰陽であるがゆえに城戸に虐げられてきた長瀬にしてみれば、そんな城戸が長瀬を、普通の男である自分と対等な存在として認めてくれたことは、何物にも勝る喜びだった。
 なので、今回のことは城戸が好きだからという理由よりも、城戸に一人の男として認めてもらえた恩返しのようなものと言っていいかも知れない。

「いくら俺があいつのことを好きだからと言って、それとこれとは話が別だ。別に俺はあいつを特別扱いしてるつもりはねえ。今のあいつなら、俺らの仲間にしてもいいって思ってるだけだ」
 強く鋭い眼差しのまま、長瀬はためらいも迷いもなく、はっきりと言い切る。
「お前ら幹部が納得してねえのはよく知ってる。だから、すんなり行くとも思ってねえ。けどな、俺もこれだけはどうしても譲れねえんだ」
 もちろん、清家も自分の意見を曲げるつもりは毛頭ないだろう。
 ならば、この話は物別れになってしまうのか。
 だが、話はそこで終わらなかった。
「そこで、考えたんだが……俺から一つ提案がある」
「? あぁ?」
 提案? と、おうむ返しに尋ねる清家に、強気な笑みを浮かべ、長瀬は言う。
「お前ら長瀬派幹部全員と城戸がタイマン勝負して、城戸が勝ったら長瀬派に入れる。これでどうだ? それなら、てめーも文句ねえだろ。俺もあいつがどれほどのもんか、見てみてえしな」
 ケンカの強さが大きなウエイトを占める、ここ晴嵐では、物事の決着は正面から正々堂々、拳と拳でつける。
 主導権は勝者にあり、敗者はいかなる理由であろうと、文句を言うことは許されない。それが晴嵐(ここ)での掟だ。

「……」
 清家は黙ったまま少し考えていたようだが、やがて根負けしたかのように、ぶっきらぼうに口を開いた。
「……ふん……てめーがそこまで言うんならよ」
 投げやりな口調から分かるように渋々ではあるが、清家は長瀬の提案に乗ったようだ。
 長瀬の顔に勝利の色が浮かぶ。
 挑発するように清家は言う。
「試させてもらおうじゃねえかよ。あいつが俺らの派閥に入るに値するだけの野郎かってことをよ」

+++

 校舎前にいた城戸は、ふと、見慣れた一団がこちらにやってくることに気づいた。
 先頭中央にいるのは、もちろん長瀬だ。
 その脇や後ろには、頭である長瀬に付き従うように、長瀬派の幹部たちが控えている。

「城戸」
 ふいに足音が止んだかと思うと、城戸の前には長瀬が立っていた。
 長瀬は、城戸と二人きりでいる時とは違う、晴嵐のキング、派閥の頭の顔でこちらを見ている。
「こないだ言ってた、お前を俺たちの仲間に加えるって件だけどな」
 どくん、と城戸の心臓が高鳴った。
 そうだ。あれから一体どうなったのだろう。長瀬はこの幹部連中を上手く説得できたのだろうか。

 緊張の面持ちでこちらを見つめる城戸をちらと見やると、長瀬は、
「こいつらから、お前に話があるんだってよ」
 言ってやれ、と言って、自らの側に控える幹部の一人に、髭の顎をしゃくった。
 長瀬に促され、幹部の一人が口を開く。
「おい、城戸。言っとくけどな、俺たちはてめーが仲間に加わんのを認めたわけじゃねーぞ」
「っ……」
 やはりそうか。拒絶の言葉に城戸の表情が険しくなる。
 だが、その台詞には続きがあった。
「けどよ、俺たちとタイマン勝負して全員に勝ったら、お前のこと仲間だって認めてやってもいいぜ。てめーが俺たちの仲間に値する野郎か、長瀬派に入るにふさわしいか、キッチリ調べさせてもらうからな」
 啖呵を切る幹部の言葉に続けて、畳みかけるように長瀬が言う。
「城戸。俺はお前が仲間に加わんのは構わねえって思ってる。けどな、お前を認めてねえこいつらはそれだけじゃ納得しねえんだよ。お前の強さがどれほどのもんなのか、俺たちの前で見せてみろ」
 強気で冷徹な眼差しが真っ直ぐに城戸を見つめている。
 城戸の顔に好戦的な笑みが浮かんだ。
「いいぜ。望むところだ」
 力強く答える城戸に、長瀬の顔にも強気な笑みが浮かぶ。
「放課後、4時に屋上に来いよ。こいつら全員とタイマン勝負だ」
 言って、長瀬は城戸に背を向けると、幹部たちを引き連れ、去って行った。

+++

「そろそろ行くか」
 放課後の喧騒が響く中、廊下に集まった長瀬派幹部たちに、清家が声をかける。
 そんな中、長瀬は一人浮かない顔でそわそわしていた。
「……」
 心の中に浮かんでくるのは、城戸のことだ。
 とは言うものの、長瀬は城戸が勝てるかどうかということは心配していなかった。
 幹部全員と一度に勝負というのならまだしも、一人ずつと順番に勝負なら、ケンカ番付二位の実力を誇る城戸のことだ、きっと大丈夫だろう。
 ならば、どうしてこんなにも気になるのか。
 胸の中でもやもやするこの気持ちは……。

 皆が歩き出したことにも気づかず、長瀬は一人考え込んだまま、その場に立ち止っていた。
「おい、長瀬?」
「!?」
 幹部の一人にかけられた声で、長瀬はようやく我に返る。
 そして同時に、強く衝動的な想いが長瀬の心に湧き上がってきた。

 ……章吾に会いたい。

「悪りぃ、ちょっとヤボ用思い出した。先行っててくれ」
 答えるよりも先に長瀬は駆け出していた。
「おい、もう始まるぞ! 長瀬!」
 後ろから呼び止める幹部の声を振り切り、走り出した長瀬は、城戸を探して校内をあてもなく駆けずり回る。
 だが、城戸の姿はどこにも見つからない。
「ハァ、ハァ……」
 屋上へと続く階段の一番下の段に腰を下ろし、長瀬はうつむいて頭を抱えた。

 くっそ……やっぱダメか……。

 長瀬派の幹部たちも屋上にいる頃だ。城戸はもう行ってしまったのかも知れない。
 左腕の時計にちらりと目をやれば、約束の時間が迫っていることを知り、長瀬は立ち上がる。
 タイムアップだ。そろそろ行かなければならない。
 屋上では、長瀬が来るのをみんなが待っているだろう。
 諦め気味にため息をついて、階段をのろのろと上り始めたその時。
 ふと見上げた視界に見慣れた金髪の後姿を見つけ、長瀬は叫んだ。
「章吾!」
 大声に後姿がゆっくりと振り返る。
「? 八尋? どうしたんだ?」
 息せき切って駆け上がってきた長瀬に、城戸は驚いたような顔を見せた。
「……てか、八尋……お前、まだ行ってなかったのかよ? 他のやつはもう行ってんだろ。一緒じゃなかったのかよ?」
「お前を探してたんだよ! 闘いの前にお前に会っときたくて……なのに、どこにもいねえし!」
 息を弾ませながら叫ぶ長瀬に、城戸の濃い茶色の目が驚きで丸くなる。
「? ……もしかして、俺のこと心配してくれてんのか? 大丈夫だって、ぜってー勝つから。言っただろ。お前んとこの幹部全員とタイマンしても全勝する自信あるって」
「……」
 相変わらずのビッグマウスぶりだが、今度は長瀬も悪態をつかなかった。
 ただ黙りこくったまま、まだ整わない呼吸に肩を上下させ、じっと城戸を見つめている。
「八尋……?」
「別に、俺はてめーが勝てるかどうかとか、そういうことを心配してるんじゃねえよ。ただ……」
 不思議そうな顔で疑問符を浮かべる城戸に、長瀬は言う。
「闘いの前に、お前のツラ見ときたかっただけだ」

 理由なんてない。ただ、章吾に会いたかった。
 これが、好き、ってことなんだろうか。

 照れた表情で照れ隠しに目を逸らす長瀬に、城戸は思わず笑みを漏らした。
 そして、真剣な表情になると、ずっと言いたかった……今まで言えずに、胸の内に秘めていた思いを長瀬に告げる。
「なあ、八尋。俺がお前んとこの幹部全員に勝ったらさ、俺とタイマン勝負してくれよ。お前と……八尋と、ちゃんとマジで闘いたい」
 それはまるで愛の告白にも似て、城戸の真剣な眼差しは長瀬の心を強く射抜き、熱く捕らえて離さない。

 長瀬と正々堂々、真正面から向き合い、真剣に拳を交えること。
 城戸にとってそれは、過去の自分と……長瀬を陥れ、酷い目に遭わせた、非道な自分との決別でもあった。

 城戸の突然の告白に、長瀬は驚いたような表情で城戸を見つめていたが、やがてその顔に強気な笑みを浮かべると、口を開く。
「いいぜ」
 答えを耳にした城戸の顔に喜びの色が浮かんだ。
「俺、絶対勝つからさ、だから……待っててくれよな。俺がお前のとこに行くまで。絶対だぜ。約束だからな!」
 真っ直ぐな眼差しで言って、城戸は長瀬の両手を強く握った。
 温かく大きな手が、長瀬の男らしい手を力強く包む。
 その手に城戸のぬくもりを感じながら、長瀬も真っ直ぐに城戸を見つめ返す。
「章吾。やっぱ、お前変わったな。俺、お前のそういうとこ……好きだぜ」
 嬉しそうに言って、長瀬は、強気だが穏やかな笑みを見せた。

「じゃあな、八尋。俺は先に行く」
 城戸は長瀬に背を向けると、屋上へと続く重い鉄の扉に手をかける。
 キィ、と金属のきしむ音がして、扉の隙間から鮮やかな陽光が差し、茶色に近い城戸の金髪を明るい金色に照らし出した。
「俺の闘い様、見てろよ」
 振り返り、強気な笑顔を見せる城戸の輪郭を、扉の向こうから差し込む陽光がまばゆく輝かせる。
 一人闘いに赴く城戸の姿を見送りながら、後光が差しているようだと、長瀬は思った。

+++

 城戸を見送り、長瀬が屋上の扉を開けた時には、もう既に全員が屋上に集まっていた。
「あ、来た来た! 遅っせーぞ、長瀬!」
「何やってたんだよ?」
「っせーな。便所だよ」
 口々に声をかけてくる幹部たちを、長瀬は軽くあしらう。
 そんな長瀬の様子を、城戸は少し離れた所で見ていた。
 その顔には微かな笑みが浮かんでいる。

「これで全員揃ったな。じゃあ、早速始めっか。俺はいつでもいいぜ。どいつから来る?」
 屋上に集まった長瀬派幹部の面々を見回し、城戸は意気揚々と声を上げた。
 そんな城戸の言葉を遮るように、清家の鋭い声が響く。
「順番は関係ねえんだよ、城戸」
「あ?」
 訊き返す城戸に、清家はにやりと企みの笑みを浮かべ言った。
「てめーは今から、俺たち全員と同時に闘(や)るんだからな」
「……?!」
 城戸の顔に驚きの色が浮かぶ。
 同時に長瀬の目が驚きに見開かれた。

 全員と同時に闘うだと……?!
 一対一のタイマン勝負じゃなかったのか……?

 思わず長瀬が声を上げる。
「おい、キヨ! 俺はそんな話聞いてねえぞ!」
「そりゃそーだろうよ。てめーが席外してる間に、さっき決まったとこだからな」
 鋭い眼光で詰め寄る長瀬に、清家は全く動じることもなく当然のように答えた。

「何だと? てめっ、勝手に……」
 てめーに何の権限が、と吠えようとする長瀬の手は、清家の胸倉を掴んでいる。
 そんな長瀬を遮るように、自信に満ちた低い声が響いた。
「いいぜ。俺は構わねえ」
「! 城戸?!」
 驚きに声を上げ、長瀬は振り向く。
 その視線の先で、城戸は不敵な笑みを浮かべていた。
「てめーら一人ずつと順番になんて、いちいち面倒くせえって思ってたとこだしな。ちょうどいいじゃねえか。一気にカタつけようぜ」
 堂々とした調子で言って、城戸は胸の前に立てた左掌を右手の拳で軽く叩いた。

「……」

 章吾のやつ……何考えてやがんだ……。

 まるで何者も恐れず動じない、堂々とした城戸の態度に、長瀬は驚きを禁じ得なかった。
 一体どこからそんな自信が出てくるのだろうか。明らかに自分の方が分が悪いというのに。

 長瀬派幹部連中は、それぞれがケンカ番付上位にランクインする実力を持つ者ばかりなのだ。
 そんな彼らに束になってかかってこられたら、さすがの城戸でも勝つのは難しいだろう。
 一対一のタイマン勝負ならまだしも、全員と一度に勝負となると、城戸の方が不利なのは目に見えている。

 清家はそれを分かった上で、長瀬の不在というチャンスに乗じてルール変更をしたのだろう。
 どうしても城戸を勝たせたくない……自分たちの仲間にしたくないというわけか。

「清家……っ」
 清家の胸倉を掴む長瀬の手に力がこもる。
 威嚇するような鋭い目つきで、長瀬は清家を睨み付けた。

 そんな緊迫した雰囲気をぶち壊すかのように、大げさなほど能天気な声が響く。
「おいおい、長瀬。あんま俺のこと見くびんなよ。これでも、お前と同じように派閥の頭張ってんだぜ?」
「!」
 長瀬が振り向くと、腕組みをした城戸が余裕の笑みを見せていた。
 虚を突かれた長瀬の手が緩む。
 清家は自らの胸倉から長瀬の手を振りほどくと、当然のように言い切った。
「晴嵐最強の長瀬派に弱いヤツはいらねえ。こいつが本当に強いってなら、どんな状況でも勝てるはずだ」

 確かに。要は勝てばいいのだ。
 だが、果たして城戸にそれが出来るのかどうか……。

「構わねえぜ。何人でもかかってこいよ」
 長瀬の不安をよそに城戸は、ずらりと立ち並ぶ長瀬派幹部たちに挑発的な笑みを向ける。
「おーよ」
「やってやろうじゃねえか」
 幹部たちは城戸に向かって口々に言い放つ。
 半ば呆れたような笑みを貼りつかせ、揶揄するように清家が言う。
「城戸ぉ、てめーはマジもんのバカだな。てめえ一人で、俺ら全員に勝てるとでも思ってんのか?」
「バカにバカって言われる筋合いはねえな」
「ぁんだと?」
 愚弄する清家を、冷静な城戸の言葉が切る。
 清家の目つきが険しくなった。
 こちらを睨み付ける清家を睨み返し、城戸は強い口調で言う。
「勝てるかどうかなんて、闘(や)ってみなけりゃ分かんねえだろうが。闘(や)る前から勝手に決めつけてんじゃねえよ」

 自らの状況が不利なのは、城戸自身が一番よく分かっている。正直、勝算はないに等しいだろう。
 だが、どんな不利な状況であれ、城戸には勝たねばならない理由がある。
 自分のことを想ってくれている、長瀬の真摯な気持ちに応えるために、過去の非道な自分と決別するために。
 絶対に勝たなければならない。たとえ、勝ち目などなくても。

 強い意志のこもった眼差しで目の前の男たちを見据え、城戸は力強く啖呵を切った。
「てめえらが何と言おうが、俺は絶対に勝つ。てめえら全員ブッ倒してやるからな。覚悟しろよ」
「上等じゃねえか。やれるもんなら、やってみろ」
 挑発するように清家が悪態をつく。
 そのすぐ横で長瀬は無言のまま、いつもの冷徹な表情でじっと城戸を見ていた。
 城戸の不利な立場を心配しているのだろう、一見冷静に見えるが、その顔には微かな不安の影が差している。
 そんな長瀬の様子に気づいた城戸は長瀬を見つめ、誓うように心の中で呟く。

 待ってろよ、八尋。こいつら全員倒して、絶対お前のとこに行くからな。

 屋上へと続く階段で交わした長瀬の言葉が、城戸の胸に響く。

『俺、お前のそういうとこ……好きだぜ』

 俺も好きだぜ、八尋。大好きだ。

 だから、絶対に勝つ。
 八尋との想いを、約束を守るために。

 心の中で呟き、深呼吸して、城戸は真っ直ぐに前を見据えた。

 相対する男たちの間に、緊迫した空気が立ち込める。
 そして、それが極致に達した時。

「行くぜ、オラァッ!」
 どちらからともなく大きな雄叫びが上がり、城戸と長瀬派幹部たちは真正面から激突した。

 城戸を取り囲んだ長瀬派幹部たちは城戸を目がけ、全方向から容赦ない攻撃を浴びせかける。
 だが、城戸も負けてはいない。
 四方八方から迫ってくる長瀬派幹部たちの攻撃を絶妙な動きでかわし、一瞬の隙を突いて反撃を繰り出す。

 これは晴嵐ケンカ番付二位にランクインするレベルの城戸だから出来ることであり、もしそれほどのレベルに達していない者なら、長瀬派幹部たちの集中砲火をまともに浴びて、早ければ一撃で沈められていただろう。

 男たちは激しくぶつかり合い、辺りに雄叫びと殴打の音を響かせる。
 目の前で繰り広げられる熾烈な闘いに、長瀬は息をするのも忘れ、食い入るようにその光景を見つめていた。

 長瀬派幹部たちの攻撃に城戸はしばらく懸命に応戦していたが、次第にその旗色は悪くなっていく。
 よけきれず食らったダメージの蓄積がじわじわ効いてきたのだろう。
 足元はふらつき、その動きには最初のような精彩さはない。

 汗だくになった城戸は肩で息をしながら、次々と迫りくる攻撃をやっとのことでかわしていた。
 だが、それももう限界に近い。

「予想通りの展開だな、城戸。これで分かっただろ。どうあがいても、てめーに勝ち目はねえ。……このぐらいで降参しとくか?」
「っせーんだよ、ハゲ。てめーにいちいち言われる筋合いはねえ」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、上から目線で見下すように清家が言う。
 城戸は鋭い目つきで清家を睨み付け、吐き捨てるように悪態をついた。
 そんな城戸の背後から、別の幹部が蹴りを入れた。
 反射的に振り向いた城戸だが、避けきれず、まともに食らってしまう。
「! ぅがっ……!」
 バランスを崩し、前のめりになった城戸を、清家は跳ね返すように蹴り倒した。
 地面に倒れた城戸に、清家は容赦なく何度も蹴りを食らわせる。
「っぐぁッ……!」
 身体を打つ鈍い音が辺りに響き、苦痛に顔を歪ませた城戸の喉から、悲鳴のような叫び声が上がった。
 闘いで体力を奪われた城戸は抵抗することもできず、地面に転がったまま、一方的に清家に痛めつけられていく。

「どうしたぁ? あんだけデケェ口叩いといて、もう終わりか?」
 清家は嗜虐的な表情で、城戸をじわじわといたぶり嬲るように責める。
 苦痛に顔を歪ませた城戸は身体を丸め、奥歯を噛んで痛みに耐えた。

「派閥の頭ってのも、口だけで大したことねえな。てめーみてえな情けねえヘタレ野郎、俺らの派閥にはいらねえんだよ!」
「ぅぐっ……!」
 清家の蹴りが城戸の腹に食い込み、呻き声と共に城戸の口端から血が流れる。
「これで終わりだ。てめーは前から気に入らなかったんだ。目障りなんだよ、消えろ、クソが!」
 忌々しそうに吐き捨てると、清家は苦しそうに喘ぐ城戸のみぞおちに蹴りの狙いを定めた。

 その時。ふいに激昂したような長瀬の大声が、空気を切り裂き響いた。
「コラァ、城戸!」
 突然聞こえた長瀬の声に、城戸の目が驚いたように開かれる。
「何が『全勝する自信あるぜ』だ! でけー口叩きやがって、長瀬派ナメてんじゃねーぞ!」
 感情のままに怒声を上げる長瀬は、怒りに見開いた目で城戸を睨み付けている。
「こいつらに勝って、俺とタイマンするんじゃなかったのかよ?! てめーも男なら、本気見せろや、コラァ!」
 いつになく興奮した様子で感情をあらわに叫ぶ長瀬に、幹部たちは皆一様に驚いた顔を向けた。
 辺りは水を打ったようにしんと静まり返っている。

 静寂の中、耳の奥で心臓の鼓動がやけに大きく響く。
 地面に転がった城戸は肩で息をしながら、長瀬の顔を見上げた。
 仁王立ちになった長瀬は、怒りと悔しさが入り混じったような顔で城戸を見つめている。
 ふと、屋上へと続く階段で長瀬に告げた自らの言葉が、城戸の脳裏に蘇った。

『俺、絶対勝つからさ、だから……待っててくれよな。俺がお前のとこに行くまで。絶対だぜ。約束だからな!』

 そうだ。俺は約束したんだ。
 絶対勝つって、勝って、八尋とタイマン勝負するって……。
 こんなところで負けてたまるか……!

 城戸の目に再び鋭い光が宿った。
 闘志に満ちたその目で、城戸は清家を睨み付け、悪態をつく。

「……誰が終わりだって? 勝手に終わらせてんじゃねーよ。ハゲ」
「! 城戸!」

 驚きと喜びが入り混じったような声が、長瀬の喉から上がった。
 片手を地面に着きながら、城戸はゆっくりと立ち上がる。
 そして、鉄臭い唾を吐き捨て、気合を入れるように自らの頬を両手のひらで数回バシバシと叩いた。

「城戸章吾、完全復活だ」
「く……」
 両手で拳を作り、仁王立ちでこちらを睨み付ける城戸に、清家は気圧されたような顔で歯噛みした。
 城戸は長瀬の方に向き直ると、真剣な眼差しで告げる。

「待ってろよ、長瀬。てめーを倒すのはこの俺だからな」
「おーよ。やれるもんならやってみろ」

 城戸の言葉に、長瀬も強気な眼差しで答えを返した。

 茫然とこちらを見ている長瀬派幹部たちに、城戸は不敵な笑みを浮かべ、上向きにした手のひらで挑発するように手招きする。
「来いよ。仕切り直しだ」

 男たちは再び激しくぶつかり合った。
「同じ轍は踏まねえんだよ!」
 大声を上げながら、城戸は立ち向かってくる長瀬派幹部たちを蹴散らし、次々となぎ倒していく。
 先ほどまであれほど劣勢だったのが嘘のようだ。

 まるで別人のような城戸の健闘ぶりに、長瀬は目を見張った。
 一体どこにそんな力が残っていたのだろうか。
 驚きのあまり、心で呟くはずだった言葉が思わず口をついて出る。
「あいつ、あんなに強かったか……?」

 常識で考えれば、満身創痍の城戸がこれほどまでの力を発揮できるとは想像しがたい。
 だが、人間は時として常識では説明のつかない驚異的な力を発揮することがある。
 いわゆる火事場の馬鹿力というやつだ。
 恐らく長瀬の怒り任せの発破が起爆剤となり、城戸のリミッターをブチ破ったのだろう。

 鬼神のごとき強さで長瀬派幹部たちを制圧した城戸は、最後の一人となった清家へと迫る。
「晴嵐最強の長瀬派に弱いヤツはいらねえんだろ。だったら、俺が強えーってとこ、見せてやらあ!」
 大声で雄叫びを上げると、城戸は清家のボディに連続でパンチを叩きこんだ。
「ぅぐ……っ!」
 呻き声を上げ、よろりと後退した清家に、すかさず城戸は蹴りを食らわせる。
 ドスッと鈍い音が響き、城戸の蹴りが清家のみぞおちに重く食い込んだ。
 蹴りの勢いのまま、清家は後方へと倒れ伏す。

 仁王立ちになった城戸は、辺りに倒れ四散した長瀬派幹部たちをぐるりと見回した。
 そして振り返り、こちらを見ている長瀬に強気な笑みを向ける。

「八尋。待たせたな。約束通りタイマン勝負だ。闘(や)ろうぜ」
「おう。待ちくたびれたぜ」

 軽口を叩く長瀬の表情は、どことなく嬉しそうだ。

「言っとくが、てめーが既にダメージ食らってるからって、手加減はしねえからな」
「いいぜ。望むところだ。覚悟決めた人間が強えーってとこ、見せてやる」

 全力でぶつかり合う覚悟を口にしながら、二人は真正面から真っ直ぐに向き合った。
 闘志に燃えた笑みを頬に浮かべ、長瀬は城戸を誘う。

「来いよ、章吾。真剣勝負しようぜ」
「おーよ。行ってやらあ!」

 威勢のいい声を上げ、城戸は構えた拳を振り上げながら、長瀬の懐へと突進した。
 城戸の攻撃を素早く避けつつ、長瀬は自らも城戸目がけて拳を繰り出す。
 お互いの攻撃を絶妙にかわしながら、二人は激しくぶつかり合った。

 拳と拳で激しくぶつかり合いながら、城戸は胸のすくような晴れやかな思いを感じていた。
 それは、暴力で一方的に虐げていた時には感じられなかった、熱く爽やかな高揚感だ。
 対等な男同士が真剣に拳を交え合うことによってのみ感じられる感情。

 これこそが、俺の求めていたものかも知れない。

 心の奥が熱く湧き立つのを感じながら、城戸は真剣に拳を振るった。
 応えるように、長瀬も真剣に拳を振るう。
 互いの息遣いが聞こえる中、二人は拳でぶつかり合い、語り合った。

 既に相当なダメージを受けているはずなのに、城戸の動きに鈍る様子は見えない。
 いや、それどころか、長瀬派幹部たちと闘い始めた頃よりも冴えているような気すらする。
 満身創痍になりながらも、長瀬派幹部たちを撃破した城戸の底力が、まさかこれほどまでとは。

「く……」
 奥歯を噛み、長瀬は城戸を睨み付けた。

 この強さなら、もしかすると自らの晴嵐のキング、ケンカ番付一位の座も危ういかも知れない。認めたくはないが。
 だが、負けるわけにはいかない。己の男としてのプライドに懸けて。

 両者の力は拮抗し、闘いは平行線をたどった。
 このままでは埒が明かない。

 イチかバチか……やるしかねえ……!

 仕留めるならば一撃で決める。
 城戸の攻撃をかわし、攻め込みながら、長瀬は城戸がわずかな隙を見せるのを注意深く狙う。
 果たして、チャンスは訪れた。
 一瞬の隙を見切った長瀬は、地面を蹴って飛び上がり、城戸目がけて蹴りを仕掛ける。

「! ぅがぁッ……!」
 城戸が避ける暇もなく長瀬の渾身の蹴りが炸裂し、城戸の身体は派手な音を立てて地面へと吹っ飛んだ。
 肩で息をする長瀬の眼前に、倒れた城戸の身体は長々と横たわる。
 どうやら、勝負あったようだ。

「……」
 無言でこちらを見ている長瀬に、城戸は転がったまま目を向ける。
 そして、その顔に微かな笑みを漏らした。
「はは……お前、やっぱ強えーわ」
 倒れながらも、城戸の顔にはどこか吹っ切れたような、満足そうな笑みが浮かんでいた。

+++

 闘いの終わった屋上から幹部たちは去り、後には長瀬と城戸だけが残った。
 ふと思い出したように、城戸がつぶやく。

「ここに来んのも久しぶりだな。あの時以来か」

 城戸の言葉に、長瀬の身体がびくりと震えた。
 あの時……そう、忘れもしないあの時だ。

 あの日、城戸から半陰陽であることを無理やり暴かれた長瀬は、暴力的に女性器を犯され、処女を奪われた。
 暴力と心無い言葉で心と身体を引き裂かれ、屈辱と苦痛に叩き落とされた、悪夢のような出来事。
 忘れられるわけがない。

「……」
「悪りぃ……嫌なこと思い出させちまったな」
 硬い表情で黙り込んだ長瀬に、城戸はため息を吐き、うつむいた。
 眉間にしわを寄せた城戸の横顔には、深い悔恨の情が浮かんでいる。
 そんな城戸の隣で、やけに明るい長瀬の声が響いた。

「そーだな。あん時は最悪の気分だった。てめーに弱みさえ握られてなきゃ、マジでボッコボコにしてやったとこだぜ」
 言って、長瀬は悪戯っぽい表情で城戸の顔を見た。
 そして、事もなげに続ける。
「けど、最低の記憶なら、最高に塗り替えればいいんじゃねえの」
「え……?」
 疑問符を投げかける城戸の腕を掴み、長瀬は言う。
「……しようぜ、章吾」
 その顔には、強気だが屈託のない笑みが浮かんでいた。

 ズボンと下着を脱いだ長瀬は、黒革のソファーの上で仰向けに身体を横たえる。
 屋上に置かれたこのソファーは、長瀬派の頭である長瀬の指定席だ。
 城戸は、左右に開かれた長瀬の両脚の間に自らの身体を割り込ませた。

 ベルトを解き、下着ごと引き下ろした城戸のズボンの股間からは、硬く反り返った肉棒が突き出ている。
 長瀬は城戸の股間に手を伸ばすと、ガチガチに勃起した城戸の肉棒を握り、扱いた。
 城戸の腰がびくりと震え、息が上がる。
「っく……っ、八尋っ……」
「章吾のチ○ポ、すげーデカくなってんな。我慢汁でヌルヌルだぜ」
 煽るように言って、長瀬は城戸の尿道口から溢れ出た我慢汁を指ですくい取った。
 そして、我慢汁で濡れたその指を、既に濡れ潤ってヒクついている自らの女性器の割れ目へと滑り込ませる。

「んぅ……っ……く……章吾の我慢汁、俺のオマ○コで、オマ○コ汁とグチョグチョに混ざり合って……すげぇ気持ちいいっ……」
 自らの男の部分を左手で扱きながら、長瀬は城戸の我慢汁で濡れた右手指を、とろとろに濡れ潤った膣穴に出し挿れした。
 両性器からクチュクチュと濡れた水音が上がり、快感に息を上がらせた長瀬は城戸の目の前で恍惚とした表情を晒す。
「! っ……八尋……っ!」
 誘うような長瀬の痴態にいても立ってもいられず、城戸は興奮に息を荒げながら、ソファーに横たわる長瀬の上に覆いかぶさった。
 そのまま、飢えた獣が獲物に食らいつくように、長瀬に激しく口づける。

「ん……っ……いいぜ、来いよ、章吾……お前が欲しい……っ……」
 城戸の情熱的な口づけに応えながら、長瀬はかすれた声で城戸を呼んだ。
 無意識の行為なのか、城戸の身体の下で長瀬の腰が焦れるように動き、硬くなった長瀬の男の部分が城戸の肉棒に擦りつけられる。
 ぬるりと滑ったお互いの股間が上下にずれ、城戸の硬く張り詰めた肉棒の先が、長瀬の男の部分の下にある柔らかく濡れた窪みに突き当たった。
「……っ」

 長瀬の女性器に挿れたくて入口に腰を押し付けながらも、ふと避妊のことが頭をよぎり、城戸は腰を進めるのをためらった。
 そんな城戸に、長瀬の目が優しく細められる。
「いいぜ、章吾。そのまま挿入ってこいよ。俺、大丈夫な日だから……」
「! わ、分かった……じゃあ、挿れるぜ……」
 うなずく長瀬に、城戸は逸る気持ちのまま腰を押し進めた。
 硬く勃起した城戸の雄肉が、柔らかく濡れ開いた長瀬の陰唇を力強く押し開き、膣穴にずぶずぶと沈んでいく。

「! あ、あぁ……っ……!」
「くぅっ……」
 お互いの性器が繋がり合う快感に、長瀬の喉から切なげな喘ぎ声が上がり、城戸の唇からは押し殺したような低い呻き声が漏れた。

「っ……八尋のオマ○コ、トロトロですげー気持ちいいっ……!」
 柔らかく濡れた長瀬の雌肉は、城戸の硬い雄肉にまとわりつき、ねっとりと絡みついてくる。
 快感に息を荒げながら、城戸は昂る雄の本能のまま、長瀬の女性器を奥まで何度も強く突いた。

「あっ、い、いいっ、オマ○コいいッ! 奥までいっぱい感じるぅっ……!」
 城戸が動くたび、城戸の肉棒にまとわりついた長瀬の女性器の肉襞が引きずり出され、押し戻される。
 柔らかい肉襞を硬い雄肉で擦られ、発情した子宮を激しく突かれる快感に、長瀬は無防備な雌顔を晒し、声を上げて喘いだ。

 そんな長瀬に城戸は何度も口づける。
「八尋っ……好き、好きだ……っ」
「ん……っ……ぅ……」
 城戸の舌が熱く濡れた長瀬の咥内にぬるりと入り込み、長瀬の舌と絡み合う。
 ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てて、深く口づけ合う二人の口づけの音は、お互いの性器が擦れ合う濡れた音に混じり、響いていた。

「んぅ……っ、俺もっ……俺も、章吾が……すきぃ……っ」
 快楽にとろけた表情の長瀬は、身体ごと城戸に縋りつき、ねだるように自分からも深い口づけを求める。
 城戸の腹に当たる長瀬の男の部分はガチガチに硬く勃起し、溢れ出た我慢汁は城戸のTシャツを濡らしていた。
「気持ちいいんだな……八尋。俺に抱かれて……」
 快楽のあまり、ぼんやりと焦点の合わない目でこちらを見上げる長瀬に、城戸は優しい眼差しで嬉しそうな笑みをこぼした。

 城戸の硬く怒張した肉棒が、発情して降りてきた長瀬の子宮を何度も強く突き上げる。
 胎の奥に響く雌の快楽に、長瀬は切なげな表情でうわ言のような声を上げた。
「ぁあ……オマ○コの奥、子宮に、章吾のチ○ポ、すげー当たって……っ」
「当たってるな。八尋が俺の子ども産むとこ……」
「ん……っ」
 愛液で濡れた子宮口に、城戸の我慢汁まみれの亀頭が食い込むように強く押し付けられる。
 硬い雄肉で子宮を圧迫される被虐的な快感に、思わず長瀬は身じろぎした。

 城戸は長瀬を抱きしめ、その耳元で低く囁く。
「なあ、八尋……分かるか? 俺のチ○ポが当たってる奥のとこ……この奥で俺の子ども孕むんだぜ」
「……っ」
 妊娠を意識させる城戸の言葉に、長瀬の胎の奥で発情し切った子宮がキュンと切なく疼く。
 男でありながら子を孕むことのできる雌でもある身体は、子を孕みたいという雌の生殖本能で雄の子種を欲しがっていた。

「俺と八尋の子どもなら、ぜってー可愛いよなあ……」
 嬉しそうに呟く城戸は、頬に優しい笑みを浮かべ、大きな手で長瀬の髪と頬を優しく撫でる。
 その手のぬくもりに、長瀬は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
「章吾……」
「うん?」
 聞き返す城戸を切なげな表情で見つめ、長瀬は答える。
「俺も……章吾の子どもが欲しい……っ」
「八尋……」
「だから、章吾の子種を、俺の胎に……子宮に出して……」
 吐息混じりの低く切ない声が、長瀬の喉奥から絞り出される。
「章吾の子種で……俺を妊娠させて」
 はぁはぁと切なく喘ぎながら、長瀬は物欲しげにとろけた雌の顔で城戸に訴えかけた。

「……」
 雄の欲望を掻き立てる長瀬のその言動に、城戸の喉がごくりと鳴る。
「いいぜ、八尋。オマ○コの奥にザー○ンたっぷり出して、お前の子宮に俺の子ども作ってやる」
 嬉しそうな笑みを浮かべると、城戸は緩やかにうねった長瀬の黒髪を撫で、そっと口づけた。
 そして、軽く腰を引くと、長瀬の柔らかい膣襞にくるまれた自らの硬い肉棒を、突き当たりの子宮口目がけて勢いよく打ち付ける。
 女性器が最も深い快感を得られるという、子宮口の一番感じる箇所……長瀬のポルチオ性感帯に、ガチガチに勃起した城戸の肉棒が何度も強く食い込んだ。
「ひぃっ……! は、胎の奥が……っ! いい、いいっ! 子宮イイッ……! 子宮すげえ感じるぅっ……!」
 発情した子宮を硬い雄肉で突き上げられ、胎の奥を強く揺さぶられる快感に、長瀬は目を剥き、声を上げて喘いだ。
 快感でとろとろに濡れ潤った長瀬の膣は、城戸の硬い肉棒にまとわりつき、その動きに合わせて扱き上げる。

「いっ、イイぜ、俺もっ……マジ気持ちいいっ、八尋のオマ○コすげえっ……!」
 射精を促すようにうねる、熱く濡れた膣の感触に、城戸の喉から興奮気味の上ずった声が上がる。
 こみ上げてくる快感と射精感にたまらず、城戸は硬く勃起した自らの肉棒を、愛液で濡れ潤った長瀬の女性器に夢中で激しく抜き挿しした。

 グチュグチュと濡れた音を立てて城戸が肉棒を抜き挿しする度、長瀬の膣内に溢れ溜まった愛液が外へ掻き出されていく。
 結合部から溢れ出した多量の愛液は長瀬の尻を伝って流れ落ち、その下にあるソファーの黒革を濡れテカらせていた。

「あ、あぁっ、くる、来るっ……子宮アクメ、来るっ……!」
 胎の奥が震え疼くような雌の快楽の前兆に、長瀬は悲鳴のような声を上げ、城戸に縋りついた。
 城戸は長瀬の額に浮いた汗を大きな手のひらで撫でるように拭うと、涙目で顔を歪ませる長瀬に優しく口づける。
「いいぜ、イけよ、八尋。俺のチ○ポで子宮イかせてやる」
 低い声でそう囁くと、城戸は軽く腰を引き、もはや陥落寸前の長瀬の子宮を、自らの硬い肉棒でとどめを刺すように強く突き上げた。
「俺のチ○ポで子宮イけっ!」

 瞬間、子宮口に硬い雄肉が突き刺さる鈍い衝撃と共に、胎の奥からこみ上げてくる深く激しい絶頂が長瀬を襲う。
「んあぁッひぃっ……! いくっ、いくぅっ! 章吾のチ○ポで、子宮イクぅ……ッ!」
 汗と涙でぐちゃぐちゃになった雌イキの顔を晒しながら、城戸の身体の下で長瀬は獣のように絶叫した。
 同時に、城戸の硬い肉棒を深く受け入れている長瀬の膣が強く締まり、うねりながらヒクヒクと痙攣し始める。

「ぅあっ、八尋のオマ○コ、すげぇ締まるっ……!」
 絶頂している女性器に射精寸前の肉棒を締め付けられ、その快感に思わず城戸は声を上げた。
 精液を絞り出すような女性器の動きが、城戸に強烈な射精感をもたらす。
 我慢できず、城戸は叫んだ。
「俺もイクっ……! ザー○ン出る……ッ!」
 言うが早いか、長瀬の膣内で城戸の硬い肉棒が力強く脈打ち、どろりと濃い子種汁が子宮口に勢いよく吐き出される。
「あっ、で、出てるぅっ……! 章吾の子種いっぱいのザー○ン汁がっ、種付け汁が、俺の子宮に……っ!」
 絶頂にヒクついたままの子宮で城戸の射精を感じながら、長瀬は歓喜の声を上げた。
 もっと深く、城戸の全てを受け入れたくて、長瀬は絶頂している女性器を城戸に押し付けるように差し出し、城戸の腰を両脚で挟み込む。
 お互いの性器が深く交わり合った長瀬の胎内では、白濁汁まみれの子宮口が射精している城戸の尿道口に吸い付き、物欲しそうにヒクヒクと震えていた。

 膣内にたっぷり射精された城戸の白濁汁は長瀬の膣奥を満たし、子宮口を受精能力の高い新鮮な子種汁に浸らせる。
 膣奥に溜まった城戸の子種汁の感触とぬくもりを感じながら、長瀬は快楽にとろけた雌顔に幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……オマ○コの奥、章吾のザーメンでいっぱいになってる……オマ○コ中出し子種汁、あったかくて最高に気持ちいい……」
「俺もよかったぜ、八尋。最高に気持ちよかった」
 満ち足りた幸せそうな表情の長瀬に、城戸の頬にも嬉しそうな笑みが浮かぶ。
 城戸は汗でほんのり湿った長瀬の髪を優しく撫で、その唇にそっと口づけた。
 そして腰を引き、射精し終えてもまだ硬いままの肉棒を長瀬の膣から抜く。
「ぅくっ……」
 絶頂の余韻で敏感になった膣壁を城戸の硬い雄肉で擦られ、快感に長瀬の身体がびくりと震えた。

 咥え込むモノを失った長瀬の膣穴は、城戸の肉棒を咥え込んでいた形のまま、ぽっかりと大きく口を開いている。
 子宮口が見えそうなほど開きっぱなしになった膣内には、城戸の放った子種汁がなみなみと溜まり、快感でヒクつく女性器の動きに合わせて外へと溢れ出していた。
「うぁ……っ、膣出しザー○ン、オマ○コから溢れてきた……っ」
 膣から流れ出す子種汁の感触に、長瀬の喉から切ない声が上がる。
 女性器から溢れ出した子種汁は長瀬の尻を伝って流れ落ち、ソファーの黒革を白く汚した。

「こんな……子宮イキまくりで気持ちよすぎるオマ○コに、子種ザー○ン汁いっぱい生出しされたら……俺、マジで章吾の子ども、妊娠しちまうかも……」
 とろけた雌顔で城戸を見つめ、長瀬はうわ言のようにつぶやく。
 その顔には、恥じらうような悦びの色が浮かんでいた。
 そんな長瀬に、城戸の目が嬉しそうに細められる。
「妊娠してくれよ、八尋。俺の子ども産んでくれ」
 城戸は長瀬に覆いかぶさると、自らの硬い肉棒を子種汁と愛液でグチョグチョになった長瀬の女性器の入口にあてがった。
 そしてそのまま、硬い男性器で柔らかい女性器を奥まで一気に刺し貫いていく。
 城戸の肉棒の形に拡げられた長瀬の膣穴は、膣肉を掻き分けながら再び押し入ってくる城戸の剛直を何の抵抗もなく受け入れた。
 膣内に溜まっていた子種汁がブチュッと音を立てて結合部から押し出され、長瀬の硬く筋肉質な内股を白く濡らす。

「しょ、章吾っ……んくぅ……ッ!」
 絶頂の余韻が残る子宮に硬い雄肉を強く突き立てられ、再び呼び覚まされる雌の快感に長瀬の身体がびくりと仰け反った。
「へへ、八尋のオマ○コ柔らけー……。ちょっと突いただけで、簡単にチ○ポ挿入っちまったな」
 悪戯っぽい笑みを浮かべ、城戸は嬉しそうな表情で長瀬を見る。
 そして、先ほど長瀬の膣内にたっぷり射精した子種汁を、再び硬さを増した自らの肉棒で掻き回し始めた。
「んぅ……ッ……ぅあ……っ……」
 長瀬の喉から切ない喘ぎ声が上がり、城戸の子種汁を溜めた長瀬の膣は、再び雄肉と交わる快感にヒクつきながら、膣内に新たな愛液を噴出させる。
 城戸の肉棒で突かれる度、長瀬の女性器からは子種汁と愛液が混ざり合う卑猥な音が響いていた。

「すげ……八尋のオマ○コ、グチョグチョいってる……さっき射精(だ)した俺のザー○ンと、八尋のオマ○コ汁が俺のチ○ポでかき混ぜられてる音だよな、これ……すげースケベな音」
 興奮に息を荒げ、城戸は硬い肉棒で長瀬の子宮を何度も強く突いた。
「んぉっ、おっ、奥ぅっ……!」
 胎に響く衝撃と快楽に長瀬の身体が仰け反り、呻くような声が喉から溢れ出る。

「俺にこうされんのが……俺のチ○ポでオマ○コと子宮ズボズボされんのが大好きなんだよな、八尋は」
「あぅっ……すき、だいすきぃっ……! 章吾のチ○ポでオマ○コズボズボされんの、大好きぃっ……!」

 確かめるような声で低く尋ねる城戸に、長瀬は快楽にとろけた雌の顔で悦びの声を上げていた。
 子種汁でドロドロに濡れた長瀬の膣に、猛々しく勃起した城戸の雄肉が抜き挿しされる。
 その度に長瀬の膣穴は生々しい音を立て、愛液と子種汁が混ざり合って白く泡立ったものを結合部からとろとろと溢れさせた。

 両脚を大きく開き、剥き出しの女性器を差し出すような格好で、長瀬は城戸の雄肉を膣奥深くに受け入れていた。
 女性器でしか味わえない、とろけるように甘美な雌の快感が胎の奥に湧き上がり、長瀬は切ない喘ぎ声を上げる。
「あっ、ぁあっ、オマ○コイイッ……オマ○コ気持ちいい……っ……」

 女性器で味わう雌の快感と同時に、硬く勃ち上がった男の部分も快感を求め、長瀬は無意識の内に城戸の腹に自らの男の部分を擦りつけていた。
 城戸の動きに合わせてTシャツ越しの硬い腹筋で擦られる感触に、長瀬の男の部分の先からは透明な我慢汁がとろとろと溢れ出す。
 溢れ出した我慢汁は、城戸のTシャツの腹に濡れた色の染みを作った。

「チ○ポも気持ちいいんだろ? 我慢汁漏れまくりで、俺の腹ベトベトだぜ」
 長瀬の行為に気づいた城戸は、一旦動きを止め、擦りつけられた我慢汁でべっとりと濡れたTシャツの腹の部分をめくり上げた。
 Tシャツの下から筋肉質で硬い腹筋の凹凸があらわになる。
 城戸は長瀬の我慢汁で濡れた自らの腹を、硬く屹立した長瀬の男の部分に密着させ、そのまま腰を動かした。

「んぁっ、いいっ……チ○ポいいっ……! オマ○コされながら、チ○ポズリズリされんの、最高にイイっ……!」
 城戸に腰を押し付けながら、長瀬は両性器で同時に味わう快楽に声を上げる。
「気持ちいいか? じゃあ、腹で擦ってイかせてやるよ」
 言って、城戸は長瀬をぎゅっと抱きしめると、自らの肉棒で長瀬の女性器を突きながら、硬く引き締まった腹で長瀬の男の部分を擦り始めた。
 とろとろに濡れた長瀬の両性器が城戸の身体と擦れ合い、濡れた音が辺りに響く。

「ぅあっ、ぁあッ、い、いいっ……気持ちいいッ……!」
 城戸の身体の下で長瀬は喘ぎ声を上げ、身体ごと城戸にしがみついた。
 筋肉質な硬い腹に擦られ、長瀬の男の部分は我慢汁を垂れ流しながら快感にびくびくと震える。
 その度に長瀬の女性器は濡れた膣襞をヒクつかせ、膣奥深くに咥え込んだ城戸の雄肉を締め付けた。

「くぅっ……すげー締まるっ……八尋のオマ○コ、マジすげー気持ちいい……ッ!」
 快感に声を上げ、城戸は肉棒を抜き挿しする速度を速める。
 今にも絶頂しそうな女性器を硬い肉棒に容赦なく突かれ、長瀬は雌の本能剥き出しの声を上げた。
「章吾っ、俺、もう、オマ○コイクっ……! 子種たっぷりの濃いザー○ン汁、オマ○コにいっぱい出して……!」
「いいぜ……俺の中出しザー○ンで、オマ○コイけっ!」
 子種をねだる長瀬に興奮した城戸は、硬く張り詰めた射精間際の肉棒を長瀬の膣奥深くに叩き込む。
 荒い息をする城戸の喉から押し殺したような低い声が漏れた。
「うっ、出るっ……ザー○ン出るッ!」
 言うが早いか、長瀬の子宮口に押し当てられた城戸の尿道口から、濃厚な子種汁が勢いよく吐き出される。
 膣内に感じる肉棒の力強い脈動と、子宮口に溢れていく子種汁のぬくもりに、心身ともに感極まった長瀬は叫んだ。
「ぁあっ、出てるっ……! 章吾の子種汁が、俺の子宮に……! 子宮に子種汁ブッかけられてるぅっ……!」

 こんなに中出しされて……俺、マジでデキちまうかも……。

 そう思った瞬間、発情し切った子宮がきゅーっと切なく疼き、城戸の射精を受け止めている長瀬の膣が強く締まった。
「ひっ、イクッ……! 章吾の子種汁でオマ○コイクぅッ……! 章吾の子ども、妊娠するぅっ……!」
 女性器から湧き上がる狂おしいほどの快楽に長瀬は我を忘れ、とろけた雌顔を晒しながらアクメの声を上げた。

 同時に長瀬の男の部分の方も、もはや限界を迎えていた。
 密着したお互いの腹の間で、長瀬の男の部分がドクンと脈打つ。
「ぅあっ、いくっ……チ○ポもイクぅっ……!」
 女性器の絶頂を味わいながら、叫び声を上げ、長瀬は射精した。

 我慢汁でぬるぬるになった長瀬の男の部分から、白濁汁が勢いよく噴き出し、城戸と長瀬の顔に服に次々と飛びかかる。
 どろりとした大量の白濁汁は、二人の精悍な頬を白く濡らし、Tシャツの生地に濃く濡れた色の染みを作った。

+++

 城戸の隣で長瀬はソファーに深く背をもたせかけ、屋上出入り口の上にある壁を見上げていた。
 壁の一番高い場所には、『晴嵐の頂点(テッペン)』と大きく書かれた字が、こちらを見下ろすように横たわっている。
 その字のすぐ下には、『長瀬八尋』と大書された名前があった。
 新学期に入ってすぐ、長瀬が自らの手で書いたものだ。
 長瀬の名前が書かれた横の少しだけ下には、同じぐらいの大きさで張り合うように『城戸章吾』と書かれている。
 これも同じく城戸が自ら書いたものだろう。
 その下には、晴嵐にいる猛者たちの名前がそれぞれの字で書き連ねられている。

 壁に書かれた自分たちの名前を見ながら、長瀬はあの日の光景が脳裏に浮かんでくるのを感じていた。
 城戸に犯されながら、その肩ごしに見えた自分の名前が涙でぼやけていった、あの日の光景。
 それは長瀬の脳裏で白昼夢のように浮かび、消えていく。
「……」
 心と身体を傷つけられ、奪われたのは事実だ。
 だが今の長瀬の中では、酷い目に遭わされたことを恨む気持ちよりも、城戸を愛しく想う気持ちの方が遥かに勝っていた。

 城戸と一緒にいたい。
 これからも、ずっと……城戸を失いたくない。

 それは、かつて城戸を失いかけた時に長瀬が知った、城戸への熱く切ない想いだった。

「章吾」
 長瀬はソファーから立ち上がると、城戸の方へと向き直った。
 そして、城戸に向かって真っすぐに右手を差し出す。

「お前は俺の右腕だ。長瀬派ナンバー2として、俺についてこい」
 突然の強い語調に、城戸は驚いたような表情を見せた。
 そんな城戸に、長瀬は畳みかけるように言葉を継ぐ。

「ずっと……俺の側にいろ」
 城戸を見つめる長瀬の表情は先ほどとは違い、切なく余裕のないものになっていた。
 その様に気づいた城戸の顔に、優しい笑みが浮かぶ。

「いいぜ。お前の行くところなら、どこだってついてってやる」
 城戸は強気な笑みを見せると、差し出された手を取って立ち上がり、もう片方の手で長瀬の肩を叩いた。
 そしてその腕で長瀬をぎゅっと強く抱きしめる。

「八尋。俺はずっとお前の側にいるぜ。……これからも絶対、離さねえからな」

+++

 学校の屋上を後にした城戸と長瀬は、近くの海に来ていた。
 あの日、長瀬に振られた城戸が一人うなだれ、後悔の涙を流した場所だ。
 防波堤にぶつかる波音を聞きながら、二人は並んで腰を下ろす。

 鮮やかな夕焼けの中、頬に感じる潮風は穏やかで心地いい。
 季節は進み、あの頃まだ冷たかった潮風は優しく温んでいた。

「……」
 城戸は長瀬の隣で黙ったまま、遠い水平線を静かに見つめていた。
 あの日も、ここでこんな風に同じ夕陽に照らされていた。
 どうにもならない後悔と自責の念を抱えながら、一人で。

「章吾?」
 ふいに名を呼ばれ、城戸ははっとしたような表情で長瀬の方へと振り向く。
「どうかしたのか? ボーッとして」
「ん? ああ、ちょっとな。思い出してた」
 尋ねる長瀬に、城戸は苦笑いを浮かべながら答える。
「お前にフラれた日のこと」

「……」
 無言のまま見つめる長瀬に、城戸は微かな憂いの影を見せた。
 だが、それはすぐに明るい笑みで消し去られる。
「でもさ、今は幸せだぜ。だって、八尋が側にいてくれるからな」
 明るく言って、城戸は、コンクリートの上に置かれた長瀬の手に自らの手をそっと重ねた。
 重なり合う手の温もりに、城戸の胸の奥はほんのりと温かくなる。

 あの日、一人で涙した景色の中に、今は長瀬と二人でいる。
 こんな幸せな日が来るだなんて……あの頃は思いもしなかった。

「八尋」
 城戸は長瀬の手を握ると、穏やかで優しい眼差しを向けた。
「好きだぜ……八尋」
 そして、優しく口づける。

「俺も……」
 長く優しい口づけの合間に、長瀬もそっと答える。
「章吾が、好きだ……」

【to be continued...】 2016/06/23UP

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