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 07.半熟 --------------------------01

 手錠で繋がれた生活が始まり一週間が経過した。自分の両手首でなく他人と繋がれているこの状態は、思った以上にかなりのストレスである。この生活に入る直前まで50日間の監禁生活だったが、その時と現在の状態とどちらが苦しいか判断に迷うほどだ。どちらも納得ずく(監禁の方はなにゆえそのような状況に甘んじたのか自分でも謎だが)の為に嫌だとも辛いとも言えない。言ってたまるか。ストレス社会ニッポンの住人を舐めるなよ。
 僕は自分に備わっていた順応力と耐性に感謝しつつ、今日もこの状況に追い込んでくれたキラの捜査資料に目を通していた。…捕まえた暁には一発殴れるだろうか? いやどんな手を使ってでも殴ってやる。
 まあ、なんだかんだ言って精神的余裕を持っていられるのは、このステキな監禁状況をセッティングしてくれた世界一の名探偵様が絶不調に陥っているからだ。けっ、ざまみろ。ばちがあたったんだ。
 じゃら、ごと、という音がすぐ左隣で起きた。まただ。
「………竜崎、手錠」
 見向きもせずに声をかけてやる。さっきから微動だにしなかったからまた気を失っていたのかもしれない。
「…………」
 のっそりと無言で椅子から降り(いつも椅子のうえに膝を抱えて座っているから「降り」なければならないのだ、こいつは)、ずり落ちた手錠の片方を拾い上げ、そのまま手首に通す。
「竜崎……手錠の意味ないっすよ………」
 もそもそと再び椅子に上がり込む竜崎を、日本捜査本部が誇る天然ボケの松田さんが的確に突っ込んだ。
 そう、ストレスで参っているのは容疑者であり、監視されている僕ではなく、もう片方に繋がれているこいつ竜崎こと“L”だった。
 全世界の警察機構のトップだという正体不明のこの探偵は、キラ捜査にあたり、日本警察関係者から情報が漏れているとして、その関係者家族すべてを徹底的に調べ上げたあげく、どういうわけかこの僕をキラ容疑者に認定したのだ。
 そしてミサの逮捕監禁(別口のキラ容疑)に始まり、僕の監禁、手錠生活という現在に至るが、どうやら他人と24時間密着状態が及ぼす己の精神状態にまで考えが及ばなかったようで、たった一週間でストレスで不眠と食欲減退、体重激減の結果、手錠が鍵無しで手首をすり抜けるようになってしまっていた。昨晩など、好物のケーキすら口にできずに椅子のうえで固まり、僕が寝室までおぶっていった。…ワタリさんは無理やりにでもこいつの口に食料をつっこんでやるべきだ。ていうか僕がやらないといけないのか?
 考えてみればキラ逮捕イコール僕の開放即ち、こいつダウンイコール僕は一生このままじゃないか。冗談じゃない、余裕かましている場合じゃない。 竜崎につきあってキラ事件以外の案件も分析したりして退屈じゃないし、学校に行くより僕の実になっているとは思うが、卒業しなければ警察官になれない。僕の目標は探偵じゃなく父さんのような警察官だったじゃないか!
 ………ん? 退屈? なんかひっかかったぞ???

「……ワタリ、済まないが軽く食べられるものを持ってきてくれ」
『かしこまりました』
 ついに松田さんに突っ込まれ、このゆゆしき事態に私は覚悟を決めた。何か菓子類以外のものを腹に入れねばいずれ倒れる。いや昨日は倒れたも同然だったな。椅子のうえで意識が朦朧とし、次に気付いたときは寝室のベッドだった。監視対象の夜神月がかつぎこんでくれたようだ。
『ああ、気付いたか…』
『運んでくれたお礼を言いたいのですが、ひどく残念そうですね』
『だって、そのまま朝まで気絶しておけば休めたろ?』
『…………』
『お前ってもともと眼大きいのに、まだ大きくなるんだな』
 まじまじと私の顔を覗きこむ。あまりに予想外の言葉をかけられて呆然となった私の眼が見開いたせいだろう。
『まあ、いい加減諦めて休む事に専念しろよ』
 苦笑した夜神が掛け布団に潜り込む。ベッドが離れた位置からのきしみを伝えた。
 手錠で繋がっている上背のある男二人が眠る為に、寝室のベッドはかなり大きい。手配したワタリのことだからわざわざ作らせたものかもしれない。横になった我々二人の間は手錠の鎖3メートル分と同じ距離に保たれ、支障はないはずだった。ワタリなどは、生活リズムが完全に狂っていた私が他人と強制的に行動を共にすることで、幾らかでも健康的なリズムを構築することを期待していたほどだ。
 しかし、この生活を始めたその日からまったく眠れなくなってしまった。そして食欲もほとんど無くなった。
 −−他人との密着状態が引き起こしたストレスが原因ではない。
 これは認めたくはなかったが、私はキラを恐れている。 顔と名前さえ分れば人を殺めることができる殺人鬼、キラ。すでに全世界で数百人もの人間が殺されている。その事実に私は恐れ、極度の緊張状態に陥っているのだ。
 改めて自分が対峙する底の知れない存在を直視しなければいけないだろう。恐れは自分の首を締める。深く息を吸い込み、はいた。
『……ありがとうございました、月くん』
『どういたしまして。頑張って寝ろ』
『……はい』 

08.05.02

パラレル、そして細部はねつ造…(^^;)
竜崎、むずかしいです。崩せません。

>02

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