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トラック 06
模木とジェパンニも到着した。日本での拠点だった場所からの機材の運搬手続きはすませてあるので、ワタリの言った通り、新拠点の稼働は滞りなく明日から開始できることになった。
それなのに、室内には妙な沈黙が降りていた。ジェパンニはたまらず、リドナーに小声でたずねた。
「……メロはどうしたんだ?」
全員が揃ってからというもの、メロはしゃがみ込んで機械の残骸を拾い集めていて、そうしてできた小山をじっと見つめていた。
マットというメロの友人は、窓のそばでタバコをくわえて、こちらはメロをじっと見つめている。
「……癇癪おこしたらしいんだけど、原因はわからないわ」
声を潜めて答えると、リドナーもメロを見やる。
困惑の空気が広がりつつあったそのとき、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。室内の男女の視線が一斉に模木に集まった。
「……警察庁刑事部のナンバーだ」
模木が鳴り続ける携帯電話を取り出すが、通話にでるか決めかねて周りを見回した。
しゃがみこんだままのメロが口を開いた。
「模木、出てくれ。向こうの動きがわかる」
「わかった」
『…メロ?』
リドナーはメロの変化を感じとった。具体的には解らない。しかし、移動してくる前の彼とは何かが違うような印象をもった。
模木が携帯電話の向こう側の人物と話している。口振りから、警察庁の上官か。
「…い、いえ、その通りです。Lの指示でSPKの動きを探っておりました。ええ、単独での行動でしたので…夜神警部補の容態は」
模木の言葉を周囲は沈黙を守って聞いていた。単独行動ならば他の人間の気配は悟らせてはならない。
「…意識は戻った…そうですか、それで彼が…わかりました。ただちに戻ります」
通話を切り、模木は振り返った。
「……聞いての通り、私はLの指示で単独でSPKを探っていたことになっている。それで難を逃れたと…月くんが意識を取り戻し、そう話したらしい」
「……重体といってたのが、もう意識を回復してそんなヨタをとばしてんのかよ」
「夜神ってほんとに丈夫な奴なんだなあ、ごつい奴なの?」
模木の言葉に、メロは、忌々しげに舌打ちした。マットはあきれたような顔をして、タバコをもった手で器用に頭をかいている。
「日本警察は夜神がLだということは?」
「知らない。それを知るのは今では私だけだ」
キラ事件対策本部として発足当初は数十人いたが、Lとの協力体制への不満、キラへの恐れから数人体制になった。そして、事件の性質上、捜査にあたる人員の情報は内部でも極秘扱いとなり、それが裏目に出た格好で、日本警察では、すべての成り行きが夜神月の思惑通りに動いていた。
「……展開が気に入らないが、模木になんの容疑もかかってないのがわかっただけでもよしとするか…戻って夜神の動きを監視できるか?…いややってくれ」
今度はレスターとジェパンニも、メロの言いように不思議そうに首をかしげた。しかし何も言わず、メロと模木の会話を聞いていた。
「…わかった。おそらく捜査本部は一度解体されるだろうが」
模木も一瞬だけ目を丸くしたが、メロの指示に頷いた。そして、この事態に陥った時から抱いていた不安要素を口にした。
「ただ、もし、私をノートでコントロールしようとしているなら…月く、いやキラはメロ、君の命を狙っているはずだ」
今度はメロが目を丸くした。
「ああそうか、模木は俺の名前を知ってるんだったな。だが今の時点では大丈夫だ。あんたはたぶん、ニアに対する脅しのネタになる」
「脅し…」
「ニアに対する枷のひとつだ。夜神が認識している「敵」のなかで名前と顔を知られているのは模木だけだと思う。ハルは高田の護衛として画像も出たが…」
ふたたび足下の通信機の成れの果てに視線を落とす。考え込んだようだったがすぐに口を開いた。
「ニアの脅しとして、模木やハルを生かしているかもしれない。一方で、夜神にとって俺らは眼中にない、とも考えられる」
09.06.19
補足…?
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