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 晩 夏 (1)

 日付が変わって数時間。
 8月24日、深夜。
「容疑者の潜伏先は、先のデータでA国の…」
 Lとして請け負っている捜査が大詰めを迎えていた。某国捜査チームの緊張した雰囲気がヘッドフォン越しに伝わる。月は身柄確保のために、捜査員をいくつかのグループに分けることを指示したあと、手にもっていたタオルを氷を浮かべたボウルに浸して固く絞った。
 実作業に移れば現場の捜査チームの判断を優先する、ともっともらしいことを言って、実は本来自分がしなければいけない判断を押しつけ、タオルを広げた。
 通信相手には悪いが、こっちはほぼ解決に至った捜査のことよりも厄介な問題があり、それにかかりきりになりそうなのだ。
 ベッドに歩みより、見下ろす。
 ニアが苦しげな息づかいで横たわっていた。

「ニア」
 呼びかけると目をゆっくりと開けたが、焦点があっていない。普段なら、ニアは月のベッドには近づきもせず、月がいない間はパソコンを設えてあるローテーブル周りにクッションを敷き詰めて眠るか、書類の山に埋もれているかのどちらかなのだ。それが、今はおとなしく寝かされている。
 月はニアの額にかかる前髪を、冷やしたタオルで拭うようにはらった。そのまま額に置く。額の冷気にニアは少し長く息をはいた。

 
 ニアは、四十度を超えるの高熱を出していた。猛暑が続く土地柄に体質が合わず、梅雨に入ったころから体調を崩していたのが、八月も終盤になって、治るどころか悪化させていた。
 原因は月である。
 拉致監禁は事実としてあるが、ニアの体調不良の原因ではない。これが原因なら、たった数ヶ月で十数cmも身長が伸びるなど、すくすくと成長してはいないだろう。
 月は、半年に一度の割合で京都のこの部屋に来る。出張のついでに立ち寄ることもあれば、Lとしてニアとの意見交換のときもある。今回は後者だが、ニアが担当する案件の捜査を代わりにしにきたようなものだった。
 今度は乾いたタオルを取りだし、ニアの首筋にあてた。汗が全身に滲んでいるようで、そろそろ着替させる頃合いだった。タオルをあてたまま、ニアのパジャマのボタンを一つ一つはずしていった。
「……まったく、こういう時は平然としているんだな」
「……好きにすればいい………指一本、動かすのも億劫で、私はどうでも………」
「………」
 あらわになった胸には先刻の情事のあとが散っていて、その上にタオルをかぶせた。扇情的な姿ではあったが、そんな気分に到底なれない。
「…お前、分かっていて、体調のことを隠していただろう」
 あきれて言うと、ニアが微かに笑った。
 ニアは月の性格から、抵抗する気力すら失せた者は興味の対象から外れるとようやく悟ったという意味のことを呟くとまた息をつく。
「……じっさい、本当にもう動かない…なんだかふわふわしています…」
「それだけ熱があればな」
 またアラームが鳴り、某国捜査本部から連絡が入った。ニアの着替を取りに行くついでに着信に応じた。

09.08.24

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