新入り職員(闇祓なりたてほやほや)の日常業務

「……トンクス、もう一杯お願いできる?」
「はーい」
 大臣が帰ったあと、ソファに座ったままで言うと、トンクスはすばやく差し出した。
「結局、大臣は先生に怒られにきたんですねえ」
「私もシリウス・ブラックの脱獄に関しては何か言われると思ってたから構えちゃったわね。ブラックに関わったことのある者を手当たり次第、容疑をかけていってるようだから」
「ウチの人たちに?」
「捜査局? ううん、あの時のことと、私が今お産なんだってことはみんなよく知ってるから。上層部が脱獄の共犯容疑者リストを作っていることも教えてくれたわ」
「……先生、だけどあんまり気にしてないみたいですねえ。楽しそう」
「そう? ここ最近のストレスを発散したからじゃないかしら。もうすぐお客さんも来るし」
「こんどはウチの大ボスですか?」
 トンクスが心の底から嫌そうな顔をしている。闇祓いの試験に合格したばかりの新人職員であるが、採用直後から闇祓いの総元締めである局長を毛嫌いしていた。
「いいえ違うわ。学校時代の同級生…、やっぱり容疑者扱いされちゃってる人なんだけど。そんなに嫌なの?」
 安堵のため息をついたトンクスに笑ってしまった。
「嫌ですよ。嫌みばっかりねちねちねちねちと。ちょっとお茶を頭の上にひっくり返したからって」
「……それは…」
「実習先が先生のところに決まったとき、なんて言ったと思います?『彼女は家事全般のエキスパートだ。君に一番必要な技術が身につく』なんて」
「あらあら。そりゃあ、彼にお茶の出し方の講義をしたことはあるけど」
「……したんですか?」
「もともと同僚だったもの。もちろん年齢は彼の方がうえだからわたしは遠慮してたんだけどね。教えてくれって言われたから。奥さんに言われたみたいだったけど」
「なんですか、それ」
「ケンカじゃない?」
「ああ」
「あなたの闇祓いとしての技術は問題ないわ。実務をこなせば今年の新人のなかでも一番の捜査官になれると思ってる」
「ほんとですかっ?!」
「ただ、ちょっと落ち着きがないけどね」
「うう。それって一番肝心なところって言われた……」
「だから私のところに決まったのよ。私は自分で言うのもなんだけど、一番のんびりしていた闇祓いだったし。法務局に移ったけれど捜査権はまだあるから、これからどんどん手伝ってもらうわよ。脱獄事件のおかげで仕事は山積みなんだから」
 のんびりしている、というところに疑問が浮かんだが、法務局付きになって二週間、たしかに慌てふためいた彼女をまだ見ていない。
 先日、用事で外出した少しの間、部屋に戻って最初に見えたのは、イーストシティがソファに寄り掛かっているところだった。気分が悪くなって横になろうとしたがソファに辿り着く前に目を回してしまったのだという。
 その直前にしていたのは、何かの薬品の資料の束の整理だが、前夜、医療局の資料庫に「忍び込んで」得たものだ。魔法界最新の研究データを保管していると聞いていたこの場所は、当然のことながらあらゆる結界、トラップが複雑に張り巡らされていたが、謎のメモ、羊皮紙ではなく、マグルが使う紙片を片手に次々に解いていった。その時トンクスは、ただただ、高等呪術を難なく使いこなすイーストシティに感動しつつ、アシストを務めていたが、次の日の光景を見たとき、妊娠している身体では相当の負担がかかる仕事だったことに気づいた。
 もっと悪いことは、無茶を無茶と思っていないイーストシティの感覚だった。これを本人は「のんびりしている」と言いたいのだろうか。
 難しい顔をしてじっと見つめるトンクスに、イーストシティは不思議そうな顔をして見つめ返している。ため息をひとつついて、このことについては深追いしないことにした。
「私、この件にタッチできるんですか? ブラックと血縁者なんですけど。母が従姉です」
「問題ないわよ。私が許可するから」
「……ほんとは問題あるんですね……」
「あなたはシリウス・ブラックにどんな印象を持ってるの?」
「かっこいいけどすっごいおもしろいおにいちゃん」
 答えたトンクスに嬉しそうに微笑んだ。これにはトンクスが面食らった。
「彼が罪に問われた事件に関しては? 資料を一通り目を通していたはずね」
「動機がさっぱりわかりません。あの当時の事件の半分は、服従の呪文のせいで動機を重要視していなかったけれど、シリウス・ブラックは例のあの人の腹心だった、という意見もあります。それについてですけど、そこまで信頼を得る時間が彼にあったのかということです。当時、あの日までほぼ毎日、ウチに来てたんですよ。ハリー・ポッターが生まれたときには午前はウチ、午後は向こう、という具合で」
「そうね、卒業してからの彼の生活の場はマグル界で、魔法界とは距離を置いていたという情報もあるわね」
「……仮に腹心だったとして、父も母もあちら側が求めるような情報を持っていたのか、という疑問もあるんです。父はマグル生まれだし、母はブラック家の出だけど、父と結婚して勘当くらってそれ以来家族に会ってないっていうし」
「アンドロメダが持っている情報ならシリウスも持っていたでしょうから、ヴォルデモートが気に入るようなことは、この方面ではちょっと無理ね」
「腹心という説は下げてもいいですよね」
「ううん、そうもいかない」
「は?」
「彼が十三人を殺害したとされる日の前夜、二人がヴォルデモートによって殺害されている。『生き残った男の子』のあの事件のことだけれど」
 カップをそっと卓に置くと、思い出すためか宙を見つめた。
「ヴォルデモートがなぜ結界によって隠されていたはずのポッター夫妻の家を探り当てたのかという問題があるの。殺された十三人のうち唯一の魔法使い、そもそもあの夜、シリウスを追いかけ、あの場所に追いつめたピーター・ペテグリューが、シリウス・ブラックが二人を殺した、と最後に言い放っている。周囲にもいた何人もの魔法使いが聞いているの」
「その直後、爆破系の呪文が発動したとありましたね」
 黒く抉れた地面と原形をとどめない死体が散らばるその中央でたたずんでいた男の姿を想像し、内心で身震いしたが、そんなそぶりは闇祓の自分には許されていないと思っている。
 自分が知るシリウス・ブラックと殺人鬼とされるシリウス・ブラックとではあまりに違いすぎていた。
「リリーとジェームズが住んでいた家は、秘密の守り人をたてた結界に隠されていたの。守り人だけが場所を知り、教えることができる。その守り人がシリウスだった。だからヴォルデモートと言えどもこの結界を力技で破ることは出来たはずはないの。守り人たるシリウスが教えないかぎりは近づくことすら出来ないの」
「…じゃあ…」
「ダンブルドア先生が守り人だったと思ってたんだけれどね」
「そもそも、なんで結界をはってまで隠さないといけなかったんですか?」
「ヴォルデモートがポッター夫妻を狙っている、という情報があったというんだけれど…よく分からない。ダンブルドア先生はあまりそういったことは話してくださらない方だから」
「そんなに複雑な先生ですか?」
「ある意味、誰も信用なさっていないのかもしれない」
「…先生はダンブルドア先生と?」
「あらやだ、喧嘩なんかしてないわよ。ただあの方ほど年を重ねられたら思うところも私たちとは違うかもしれないわね」
「あたしが学校行ってるときって、こんなことが起きるなんて思いもしなかったなあ」
「あなたたちのときはそれどころじゃなかったでしょう。クィディッチづくしだったじゃない」
「まあ…そうなんですけどねえ、先生の甥っこさんたちの休学&逃走騒ぎとか」
「そうねえ、生きていてくれただけで良かったって思ってたから、まさか治療から逃げ出すなんて。後遺症が無いのが不思議なくらいだわ…って、トンクス、イートと仲直りしたら?」
「ど、どういう意味ですかっ。あたしたち喧嘩してないし、もういいんですよっ」
「そうなの?」
「…それに、もう彼女いるでしょ、彼」
「ええ?! そうなの?!」
「………先生……正直言っていい?」
「ええ」
「すんごくつらい」
 お盆を抱きしめて泣き出しそうな顔をしてみたら、上司は不用意な言葉で傷つけてしまったことに申し訳なさでうろたえてしまって、優しい女性だなあと思った。どうしてこの人が闇祓だったのだろうと不思議に思う。
「あ、ああ、その…ごめんなさいね。そんなことになってるなんて…」
「ま、いいんですけどね。あいつ本人から聞いたことだし。職場で知りあった人だって。付き合ってるときよりよっぽど今のほうが仲いいですよ」
 甥に対して、ぶつぶつと何かを言っていたが、トンクスの晴れ晴れとした顔に安心したようだった。
「もうすぐケーキの詰め合わせが届くはずだから、好きなの食べてね」
「わ、ほんとですか? って、お客さんが来るはずじゃあ?」
「ええ、そのお客さんが持ってくるはずなの。リクエストしといたから」
「どういうお客さんなんですか」
 尋ねた途端、ノックがあった。
「ケーキが来たわね。どうぞ」
「……いつも思うんですけど、どうしてドアの向こうの人のことが分かるんですか?」
「ちょっとコツがあるのよ」
 開いたドアのところに、古びたトランクをさげたひどく痩せた男性が立っていた

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なんかあんまり...。
見切り発車風味。
ところで某家の家系図でましたね〜
長男くんのフルネームにようやくむくわれたねえと思わず感涙。
末っ子ちゃんのフルネーム、かわいすぎるっっっ

2008.1.8

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