回 帰 (1)
「つーことで、一応断りいれにきました、先生」
「………」
円形の壁に沿い立ち並ぶ棚は古今東西の多種多様、多岐にわたる書籍で埋め尽くされ、書籍と呼ぶには広すぎる室内には天球儀を中央に配した大型の方位磁石がかすかなメロディを奏で動いている。
窓際の執務机にはここホグワーツ魔法魔術学校の校長ダンブルドア、その前には若い男が立っていた。端正な顔立ちをしているというのに、そこから受ける印象は覆されている。その表情は不敵な笑みを浮べていた。
「君はなぜダーズリー氏に近づいたのかね」
「仕事ですよ。彼本人の人間性はともかく、彼の会社の製品は業界でもトップレベルの品質を誇っている。この話をまとめたのはウチの営業部員の努力と根性の賜物ですよ。……どなたかが魔法力をフルに使って営業妨害をしてくれていましたが」
「ほっほ、なんのことかね」
常に見せる穏やかな笑顔だったが目が笑っていない。射ぬくような鋭い光だ。この二面性を知っているのは世界でも僅かだった。しかし男の方もひるんではいない。
「今度の話はウチの会社としてもけっこう大口の真剣勝負です。そしてオレは社長で社員の生活を守る義務があります。……ここで邪魔しようものなら本気で訴えてもいいんすよ」
漆黒の髪とは対照的な銀色の目が一層光を強くさせている。男の名をそのまま示す星のようだった。
「君の会社の事業内容に口を出すつもりなど毛頭ないがの、今度の商談とやらのついでに何をしでかすつもりなのか、君のこの十二年間の素行を鑑みると警戒せざるを得ん」
「めずらしく本音をぶちかましましたね。話が早くて助かります。ハリーのことなら心配無用です。就学前に何度も連れ出そうとしたことなら謝罪しますよ、もうそんな真似はしません。自分が名付け親だと名乗るつもりではいますが」
「………それ以外の目的は?」
「ありません。この学校の理事でもありますからね。ルシウスのヤツの代りに。……あなたはあなたの考えがあるのでしょうが、俺はそれに干渉するつもりはないのでご安心を」
「……よかろう。シリウス・ブラック」
男の言葉を聞き、今度こそ穏やかに笑う。
「くれぐれも慎重にの。彼らは魔法を一切認めぬ」
>2
シリウスが外の世界で12年間を過ごした世界。
2008.4.14
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