回 帰 (2)

 ビジネス街の一角にある、ありふれたオフィスビルのとある一室にて、その会社の社運を賭けた会議がなされていた。連日連夜、当日の商談に向けて進行ルーの確認をしている。
 商談内容はとうの昔に決定していたが、その話に持ち込む場のセッティングに時間がかかっていた。その要した時間は五年。話が持ち上がるたびに不測の事態が起きるのだ。
 担当者の事故、病気。その次は不正会計の疑いがあるなどと警察が乗り込んできた。そして徹底的に調べられ業務も支障をきたし、倒産寸前まで追い込まれたこともある。
 当初はライバル企業が何かを仕掛けてきているのかと疑っていたが、直接相手企業の社長宅へ乗り込もうとしたときに最も大きな異変が起きた。
 辿り着かなかったのだ。
 地図を確認し、車を走らせるも閉じられた輪のなかにいるかのように、同じ道を延々と巡らされた。これは人的妨害などではない。
 その商談にこぎつけるためだけに五年も費やしたこの会社の社長は、魔法使いだった。普段はその力を見せないために(使う必要もないために)、社員は意識せずにいたのだが、ここに至って、魔法使いという能力を如何無く発揮してもらう事態となっていた。
 この会社の社員の構成は、社長が魔法使い、全社員は非魔法使いであるが、社員の家族には魔法使いが必ずいた。会社設立時、まだ学生であった社長が、魔法使いである自分にとまどいを見せることなく、不在時でも滞りなく企業運営を行える人材をということで、採用には魔法族の存在を知る者という条件を挙げたのだ。採用広告は条件の都合上、魔法界で出した。
 そして集まったのが今の幹部社員たちだった。
 企業活動は非魔法界、マグルの世界に向けてのもので、事業内容もマグル界の機械部品を扱うというごくごくありふれたものだったのだ。業務に魔法が入り込む余地などまったく無かった。
 仕事はマグル向けのマグルらしい業務、翻って各々家に戻れば、異常現象が日常化しているという状況に馴れきってしまっていたのだが、今回それが災いした。数々の災難の裏に魔法使いが関わっているなど思いもしなかったのだ。
「順路はこれしかない」
「最終チェックで秒単位まで確認しました。時間どりは問題ありません。……不意に天候変動などなければ」
 次々に報告があがるが、険しい顔つきをした一人が立上った。温和な人柄で社員や取引先の信頼が厚い営業部長だ。その彼が仏頂面をしていることで、場は凍った。
「…ここで悪い知らせだ」
「……聞こう」
「予定していた運転手がびびって逃げた」
 この報告に一堂からいっせいにため息がでた。
「……魔法使いじゃなかったか。運転免許のある」
 うんざりした態で椅子にふんぞりかえる者を誰も咎めはしない。全員の総意だ。
「相手が悪すぎるだとよ」
「社長! 話つけたとか言ってましたよね?!」
「……話つけたさ、昨日。そして本人はもう口出ししないと」
 それまでじっと黙って座っていただけの社長が答えた。この場では若い方で、年上の幹部社員を座ったまま見上げた。
「口出ししないかわりに魔法をまだ展開している、とか言うんじゃないでしょうな」
「それはない。その後即行で現地を確認したし、仕掛けられたら反応するようトラップもかけた。本気でびびってるだけだそいつは」
「ちっ、根性ねえな」
 思わず乱暴な物言いをしてしまっているのは専務である。奥方が魔女、二人の子供たちも魔法力をさずかって、今年上の子がホグワーツに入学が決まっていた。
「相手が悪すぎる、まあ、そうだな。相手は魔法界屈指の使い手だ。仕方ない、バイクで行くわ」
「バイク…なら、目的地のずっと手前で降りて徒歩で行ってください。あの社長の性分は嫌ってほどわかってるでしょうが」
「わかってる。少しの異常も認めない。それはよく承知している……俺に言わせれば奴等も立派な異常者だがな。マグルとしてはどうよ、あの夫婦」
「よくもまあ虐待で通報されませんでしたな」
「…そうか、その手があったか。あ、いや、それをやるとダンブルドアがまた出てくるか…」
 ぶつぶつと思案にふけだした若い社長を、一堂は一斉にじろりと見下ろした。専務がテーブルに手をついたまま口を開いた。
「…帰りはその子を連れ出してどうこうってんじゃないでしょうな。昨日お伺いした話じゃ、ダンブルドアって人はその子の安全のために結界やらなんやらをあの周辺にしかけたと」
「そうだ。しかもあの家、というか家族でないと効果がないといういわく付きのガードで、ダンブルドアの許可がなければあの子は連れ出せない。無理やりにしようとするとケガするな」
「それをこの五年間、ずっとやっていらしたと」
「…ハリーが学校に上ってからはしてないさ」
 なんとなく、自分に対する風当たりが変わったような気がして姿勢を正した社長だった。しかし、なおも社員が詰め寄る。
「何度も誘拐未遂が起こしたそのとばっちりが今までの我々の苦労ですかな」
「………すんません。以後気をつけます」
「お願いしますよ、ほんとに」

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2008.5.10

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