■ 今は。これからもずっと… 前編 ■

[あとがき]

例えば、欲しいものがあるとする。



しかし、どうやってもそれが手に入らない時、



どうすればいいのだろうか。



僕は、どうすればいいのだろうか…








「…わかっていたことだよ。」

俺の名前は、長瀬渡。

どこにでもいるごく普通の高校生。

ただ生きる事に意味と意義を見つけられなくて無気力なだけの。

そして今、僕は十七年間生きてきた中で最悪の絶望感に包まれていた。



「こうなるって事は。僕がピエロだって事は。」



僕には、小学校の頃からずっとずっと好きだった人がいた。

その子は、優しくておとなしい性格の美人だったんだ。



綺麗なストレートの黒髪。

綺麗に整った顔立ち。

スマートで、抱きしめたら壊れてしまいそうな華奢な身体。

身にまとう独特の物静かでおしとやかな雰囲気。



天城蒲乃菜(あまぎ ほのな)ちゃん。



僕は、そんな彼女の全てが彼女が好きだったんだ。

そして高校生活も後半へと移り、僕は大きな決心をしたんだ。

僕は彼女に好きだって告白したんだ。

もともと気の弱い僕だったから、勇気を振り絞って告白したんだ。

でも―――。



「…ごめんね。渡君。」



…だめだったんだ。ボクは。

彼女は、ほんとに申し訳なさそうにそう言って俯いてしまった。

僕は、悲しかった。

いままで生きてきた中で何よりも。



でも僕は彼女を恨んでなんかいなかったんだ。

だって、それは彼女が悪いことじゃないから。



悪いのは僕なんだ。

彼女に気に入られなかった僕が全部悪い。



「謝らなくていいよ。…じゃあね。また明日。」



「…ごめんね。じゃ…」



だから僕は申し訳なさそうな蒲乃菜ちゃんに謝ったんだ。

本当は僕は彼女に食い下がって交際を迫りたかった。



…でも、それじゃ意味がないんだ。

僕が彼女を好きで彼女も僕を好きじゃないとダメなんだ。



だから、僕は彼女を諦める事にしたんだ。

醜く彼女を求める僕の汚い心を断ち切るように僕は家に走って帰ったんだ。



…その時、僕はまだ知らなかったんだ。

…その時に傷ついた僕の心なんて全然たいした事じゃないって。



僕は家に帰ってからも彼女に振られた辛さから泣き続けていた。

泣けば涙といっしょにこの辛さも流れ落ちてくれる。

そして、僕の心の中の絶望は希望に変わるんだ。

そうやって辛い事を忘れて、生きていくんだ…人間は。



そして僕は一晩中泣き明かした。



泣いて泣いて…もうこれ以上涙が出なくなるまで。



それで僕は泣き止んだ時、妙なすがすがしさを感じていたんだ。

それは、辛さを軽減する為の脳の働きで脳内麻薬が分泌されていたから。

…人間は、辛い事を忘れる事で明日を生きていけるんだな。

なんて思って、僕は学校への道を歩き出した。



それは。いつもと同じだが何か違うような気がしたんだ。



なんか、妙に初々しく感じたんだ。



そして僕は学校に着いた。

そのまま僕は席に座る。

特に親しい友達なんかいないから、挨拶なんてしない。



クラスメートだとはいっても所詮は他人なんだから。

例えば今ここで僕が困っていても誰も助けてはくれないだろうし、

僕だったとしても助けない。所詮は関係のない他人なんだから。



でも。



がらがらと扉の開く音がして、蒲乃菜ちゃんが入ってくる。

お互い一瞬顔が合うが気まずさで顔をそむけた。

そのまま、ちょこんと僕から見て斜め左前の席に座る。



蒲乃菜ちゃんは特別なんだ。他人なんかじゃない。

ずっと僕が好きで、恋人に成りたいって思っていたから。

…まあ、それも終った事なんだけれど。



そして、今日も退屈な学校での一日が始まったんだ。



「えーでは次の問題を…」



今日もまた暇な僕は、蒲乃菜ちゃんを見つめていた。

熱心に先生の話に耳を傾けながら要所要所を色ペンでチェックしている。

その一生懸命さが僕を惹きつけているんだろうか。

彼女の後ろ姿を見つめながらそう思ったりしたんだ。



昼休み。



特に誰とも一緒にご飯を食べる様子もなく、自分の席で弁当を一人で突く蒲乃菜ちゃん。

そんな彼女の日常の光景を僕はただ黙ってみている事しか出来なかったんだ。

そこに自分が入っていって彼女と一緒に微笑むことは出来ないんだ。



今は。そしてこれからもずっと。

でもいいんだ。僕は彼女を見つめているだけで。



今は。そしてこれからもずっと。

いや、想い破れた今。それしか出来ないというのが正しいと思ったんだ。



放課後。



家路に着こうと学校の校門を出た僕は唐突に足を止めた。

…屋上に誰かいる…?あれは…蒲乃菜ちゃんだ…



何をしているんだろうと思った。

そしたら僕の足は再び校舎の中に向かっていたんだ。

別に僕はストーカーって言うわけじゃない。

…ただ、純粋に彼女があんなところで何をしているのか気になっただけなんだ。



生徒もまばらな校舎の中を屋上へと向かって進んでいって。

そして、屋上のドアを開けようとしたその時。



扉の向こう側から声が聞こえたんだ。

「………あの、手紙は…読んでくれたかな…?」



少し照れた男の声。



「…はい。」



続いて蒲乃菜ちゃんの声。



「それで…返事は…」



どうやらこの男は、蒲乃菜ちゃんに手紙を出して告白したらしかった。

…昨日は僕が告白したのに今日は他の男か。蒲乃菜ちゃんも大変だな。

などと思って、僕は踵を返して元来た道を引き返し始めた。



そんな僕に信じられない声が聞こえてきたんだ。



「………はい。あの…私も、実は前から…」



「……!?」



僕に聞こえてきたのは恥ずかしながらも幸せそうに答える蒲乃菜ちゃんの声。

僕は正直耳を疑った。



信じられない。

あの奥手の蒲乃菜ちゃんが交際を了承するなんて。

いや。別におかしい事はない、蒲乃菜ちゃんも年頃の女の子だ。

恋の一つや二つするだろうから。でも…



そんな混乱する僕の頭にさらに声がきこえて来た。



「嬉しいよ!いや〜昨日ね。蒲乃菜ちゃんが誰か他の男に告白されていたから 焦ったんだよ。

もうだめかな〜って思ってたのに。う〜ん嬉しい!」



他の男とは言うまでもなく僕の事なんだろうな。



「…み、見てたんですか…?」



「うん。でもあれだろ?もちろんその男は振ったんだろ?男の俺から見ても昨日の奴は

なんか危ないって言うか根クラ野郎だったからな。」



「……はい。私も、少し恐かったんですよ。」



想いが通じあった嬉しさからか今日の蒲乃菜ちゃんは軽口だったみたいだ。



「走って助けに行ってあげたらよかったな。この王子様が。ははは…」



「くすくす…そうですね…私を、魔物から守ってくれる王子様。」



などと軽口を叩き合うふたり。



屋上のドアにもたれかかりながら、俯く僕だった。



「そうか…僕だけがピエロだったんだな。」



ずっとずっと彼女の事が好きで、勇気を振り絞って告白した俺は。

好きだの嫌いだのの恋愛ゲームで振られて悲しんでいた俺も。



すべては俺の惨めな一人よがりだったのか。



ずっと想いを寄せていた女の子と、どこの誰とも知らない男に無様に笑われてそれに気付いた。



こんな状況でも僕の頭はまったく混乱していなかった。

一時は混乱していたが、それを通り越して逆に僕は冷静になっていた。

心も、痛すぎる現実から逃げるように何も痛みを感じなかった。



いや、あるいは、あまりの事で痛みを感じる事すら出来なかったのかも知れない。

僕は悲しすぎて笑いを浮かべていた。



「ははは……」

妙に高揚のない平坦な乾いた笑い声。

それは扉の向こうから聞こえてくる幸せそうな笑い声と混じって不協和音を奏でる。



「ははは……」

鋼鉄の冷たいドアにもたれ掛かって笑う僕。



涙は出ない。

昨日に流し尽くしてしまったから。



「………」



みんな。みんな。皆が憎い。いなくなればいい。死ねばいい。僕も。



でも、蒲乃菜ちゃんは特別だよ。僕の好きな人。僕を拒絶して他の男を選んだ。

でも、僕はきみをうらんでなんかいないよ。だって僕は君が好きだから。



「………」

向こうから笑い声が聞こえなくなった。

そしてそれとともに聞こえてきた「あっ…」という蒲乃菜ちゃんの短い声。



そして僕は、固く重たい鋼鉄のドアを開けたんだ。



ギイイ………



軋みながら徐々に開いていく。



「………」



そこには蒲乃菜ちゃんがいた。傍らの男に抱きしめられて。

開かれたドアとそこに佇む僕を見て驚く蒲乃菜ちゃん。



男は蒲乃菜ちゃんを抱きしめたまま目を瞑っていたので僕には気付いてない。



「………」



僕は蒲乃菜ちゃんをただ見つめつづけていた。いつもと同じように。

蒲乃菜ちゃんの顔には明らかに脅えが浮かんでいた。



彼女の恐怖の対象は僕。



…ひどいね。僕は、ただ見つめているだけなのに。



…それだけしか出来ない僕を君は恐怖に彩られた瞳で見るんだね。



「…わかっていたことだよ。」



「こうなるって事は。僕がピエロだって事は。」



喋り始めた僕を紅い夕陽が赤色に染め上げていく。

それは僕の心から吹き出した血のような紅だ。



「…だから打とう。僕にまつわる全ての事柄に最後のピリオドを。」



僕は走った。蒲乃菜の向こうにある鉄のフェンスへ。



「…きゃ!」



いきなり走り出した僕に、身を竦める蒲乃菜ちゃん。

僕の存在に気が付いて、蒲乃菜ちゃんを抱きしめながら僕を睨みつける男。



トットット…



そんな彼らの脇を通り過ぎてフェンスによじ登り、一番上で立ち上がる。



「………」

下を見下ろすと相変わらず抱き合うふたり。

蒲乃菜ちゃんは、僕から目を逸らして俯いて震えている。



…そうか。そんなに僕を拒むのか。僕が恐いか。僕が嫌いか。その男がいいか。



「さあ…蒲乃菜ちゃん!君の為に死ぬ男がいるんだ。君は嫌だろうけど

せめてその最後くらいはみてやってくれ。さようなら…」



そして天に向かい大きく手を広げて僕は羽ばたく。

僕と蒲乃菜だけの二人だけの永遠の世界に向けて



「ははは…はっはっはっはは……!」



空中へと僕の身体を躍らせ、飛び立つ……………





堕ち逝く身体と僕の精神の狭間。








どこまでも続く地平線。

どっぷりと暮れた夕陽のなか。



静かに蒲乃菜を見つめる僕。

そんな僕に脅える蒲乃菜。



ここは、ふたりだけしかいない。



あの忌まわしい男の存在も僕が消し去った。

ただ見つめ続ける僕と蒲乃菜がいるだけだ。



ただそれだけの永遠。



喜びも悲しみも恋も愛も全てがない世界。

僕が、彼女との永遠を望んだがゆえの何もない世界。

そんな永遠の瞬間がある世界にも唐突に終わりはやってきた。



ドシャ………



と鈍い衝撃が僕を襲って僕は絶えた。












…結局。僕のしていたことはなんだったんだろう。



…結局。僕が生きていた意味はなんだったんだろう。



…結局。僕は蒲乃菜をどうしたかったんだろう。



…結局。………。














例えば、欲しいものがあるとする。



しかし、どうやってもそれが手に入らない時、



どうすればいいのだろうか。



我慢すればいいのだろうか。



他人がそれを手に入れ、満足している…その横で。



なんのことはない。



奪えばいいだけのことだ。



欲しいものが、手に入らなければ奪えばいい。



その結果誰が不幸になろうとも。



それは、仕方のないことだから。







「…なあ。」



「…なあ。」



「…なあ。」



静かな眠りに着き掛けていた僕を呼ぶ声。



「……なあ。」



「……誰?何の用?」



「お前…このままでいいのか。」



「………?」



「好きな女を他の男に奪われて、自分だけは自殺して。」



「………」



「お前はそれで満足なのか?」



そんな事を声は聞いてくる。

眠りかけていた僕は、意識を覚ましてその声に答える。



「だったらどうすればよかったんだよ。僕にはどうしようもない事だよ。」



「僕はもう眠るんだ。もう何にも傷つきたくない。惨めな思いも嫌だ。だから、僕はすべてを終らせたんだ。」



そう言い捨てて再び眠りに着こうとする僕。



「…えばいい。」



「…何だって?」



「奪えばいい。」



「奪う?」



「そうだ。」



「…馬鹿。それじゃあ意味がないんだよ。」



「…なぜ?」



「彼女が僕を好きじゃないからさ。」



「だから無理やり奪うのだ。」



「馬鹿だな。そんな事をしても蒲乃菜ちゃんに嫌われるだけだよ。」



「…だったら、遠くから見つめるだけのお前に蒲乃菜は振り向いてくれるのか?」

「えっ…それは…」



「だからお前は奪えばいいのだ。お前にはそれしかあるまい。」



「…でも…」



「お前は何も悪くない。これは仕方がないことだ。悪いのはお前の気持ちを踏みにじって、

しかも他の男と一緒にお前をあざ笑った蒲乃菜だ。」



「…………」



「さあ。俺と契約を結べ。そしてお前を貶めた女に復讐をしてやれ。」



「………そうだな。」



「そうだ。馬鹿正直に純情を貫いたところで惨めなだけだぞ。」



「ああ…それに一度死んだ身だしな。」



「そうだ。いまから俺と契約を結んでお前は生まれ変わる。もう他人にびくびくする事もない。

傷つく事もない。お前の思うが侭に生きろ。」



「そうだな。今日から僕は…俺になる。」



「では…いくぞ。」



「ああ…いつでも始めてくれ。」



声の主は俺の前に姿を現す。

それは、姿を変えながら確かにそこに在って、でも、なかった。



「最悪にして最強の我が主アスモデウスの名に於いて、この憐れな人間に強大なる負の力を与えたまえ。

この者は主アスモデウスに服従を誓い、その魂は……」



そして。



強大な黒い光が僕を包み込み、呑み込んでいった。

黒い光は僕の心に入り込み僕の心を絶望で埋める。

絶望というペンキで漆黒の闇に彩られていく僕の心。



苦しい…何故僕はこんな目に合わなければいけなかったんだ。

僕は何も悪いことはしていないじゃないか。



…憎い。



俺にこの絶望を与えて苦しめた奴が。

蒲乃菜が。



お前が俺の心を踏みにじってあざ笑ったように

俺もお前に最上の絶望を与えてその苦しむ様をあざ笑ってやろう。



俺が負の感情で心を埋めた時、俺は苦しみを感じていなかった。

いや、むしろ心地よさすら感じたほどだ。



「それでいい。さあ、お前は今から生まれ変わるのだ。このアスモデウスのしもべの一人として。」



いきなり声が聞こえた。

俺は辺りを見渡すが何もみることは出来ない。

しかし、確実にそれはそこに存在しているのがわかる。



「ふふふ…」



しだいに視界が暗転していく。



衝夢〜絶望の享楽〜



「………ん…」



意識を取り戻した俺は、首を回し辺りを確認する。



「ここは…?」



ここはどこかの公園のようだった。



向こうに見える錆び付いたブランコや、踏み固められた砂場。

霧がかかったようにぼんやりとする頭でこの場所を検索する。



「ここは…学校近くの公園か…?」



そう思いよく見渡してみると確かにここはそうだった。

それにしても、周りは夜で暗く、普通では一メートル先も見えないだろうが、なぜか俺は、充分見渡せた。

…やはり俺はもう普通の人間ではないらしい。



「…さてと。」



現在場所は特定できた。

それよりもこれから何をするかが問題だった。



「とりあえず家に帰ってみるか。」



俺は、全身に力の律動を感じ、それを大空へと解き放つ。

ふわっ…と俺の身体は宙に浮く。その背中には鴉のような黒い翼。

バサバサとそれを羽ばたかせ、家に向かった。





家。





辺りに流れる重苦しい音楽。



黒と白で飾られた俺の家。



看板にある喪中の文字。



喪服を着た人々。



「どうやら俺の葬式をやっているらしいな。」



自分の葬式を見る…というのもなかなか出来ない体験だ。

ふと、俺はその会場に飛び込んでいきたい衝動に駆られた。



「…やめた。」



もう俺は、長瀬渡ではないのだ。

いまさら人間の頃の事を気にしても仕方がない。

俺は上空からその様子を見守るだけにした。



ブロロロ……



低い唸り声を上げて霊柩車が走り去った。

泣き崩れる俺の母親と父親、とその周りにいる様々な人たち。



その人だかりの前にも蒲乃菜の姿は見当たらない。

所詮、そんなものだ。いくら俺が蒲乃菜を好きだったとしてもそれは一方通行なのだ。

愛とは、こうも残酷なものだ。

こんな物を夢中になって得ようとしていた人間の頃が馬鹿らしく思えた。



「ふん……」



未だに泣き崩れている両親に踵を返して俺は、その場から飛び去った。



俺は夜の町の上を彷徨い飛んだ。

上空から見下ろす街はとても綺麗だった。



あちこちで灯るネオン。

その光に照らされて波のように蠢く無数の人。

公園に灯る白色灯。

あちこちで鈍く輝く命の火。



それは繊細なガラス細工のようだった。

簡単に壊れる。…街も人も。



俺はとある駅前に降り立った。

俺の横を無言で通り過ぎる人々。

俺に何ら感心を持たない他人。



しかし。



がやがやと俺の前に現れる集団。

赤だの青だの色々な色をした髪の毛。

思わず顔をしかめるだらしない格好。

群れる事で強気になる臆病者の集団。



…俺のもっとも嫌いな連中だ。



しかし連中の方は俺のような人間が好きみたいだ。

俺のような人間を見つけては恐喝をする。

案の定こいつ等も俺を見てとても気に入ったらしい。

にやにやとした汚らわしい顔で俺を取り囲んだ。



「…ねえ。アンタ。ちょっと来てくんない?」



くちゃくちゃとガムを噛みながらリーダー格のロンゲの男が言う。

…白々しい。断ったところで無理やり連れて行くだろうに。



「……」



俺は黙って俯くとその男達について行った。

その俺の仕草を見て男達はさらににやける。

…別に俺はこんな奴らに金を払う気などない。

…下に俯いたのも、あまりにも愚かな連中に笑いそうになったからだ。



少し離れた人通りのない場所に連れて行かれる。

まさに恐喝にはもってこいの場所だ。



「なあ…わかってんだろ?おい!金を出せよ。」



男達は俺を取り囲んで、歪めた顔で金を出せと迫った。

…なんて愚かな奴等だろう。わざわざ自分から人目のない所に来るなんて。



「…ふふ…ふはっはっはっは…」



いきなり高らかに笑い出す俺。



「な…なんだぁ!ふざけてないでさっさと出せよ!」



そんな俺に戸惑いながらも脅して来る馬鹿ども。

俺の服の胸元を握り、力を加えて来る。



「さて、問題です。俺はどうして大人しくついて来たのでしょう。」



「てめえ!ふざけてっとしばくぞ。おい!なんとか…ぐっ…」



さらにふざけ始めた俺に掴み掛かった男の言葉を遮るように首を締め上げる。

俺の指がぎちぎちと男の首にめり込んでいく。



「さあ…答えてください…」



「うっ…あ…」



そのまま腕を高く吊り上げた。

男が宙に浮いた身体で暴れるが、それがより男の首を締め上げる結果となる。



「さあ……はやく…」



「ぁ…ぅ…が…」



顔を真っ青にして口からは唾液をたらして苦しむ男。



「ブー。残念。時間切れです。答えはお前らを殺すからでした。」



ゴキィン…

俺が締め上げた首にさらに力を加えると骨の折れる鈍い音が身体に伝わった。



「あらら…もう折れたのか。もっと遊べると思ったのになあ。カルシウム不足だぞ。」



ひくひくと痙攣を続ける男の身体を地面に投げ捨てて

さて…と言った感じで残りの男達に目を向ける。



「あ…あ…」



いきなり仲間の一人が殺されて腰が抜けたのか、そいつらは地面に這いつくばって、お互いに抱き合って震えていた。

…ふん。臆病者がいきがるからこうなる。さて、どうやって殺そうか。



「おいおい…そんなに逃げなくてもいいじゃないか。」



「お…お…金…金なら…」



ろれつのろくに回ってない言葉で俺に許しをこう屑共。

もちろん許してやる気などない。



「花火…」



「は……」



「お前の花火が見たい。」



「…うぎゃあ…!」



俺は腕を振り上げると脅える男の一人の顔めがけて力を込めた拳を振り下ろす。



ぐしゃ……



花火。

地面というキャンパスに大きく描かれる花。



紅い紅い大きな花が一輪。



…美しい。



こんな屑野朗と言えど、人が創りあげる命の花は美しかった。



「あ…あ…」



隣で仲間を殺された男が返り血を浴びて不気味に佇む俺を恐怖に震えながら見上げる。



「さて…お前はどんな死に方がいい?リクエストに答えてやるぞ。」



「は…う…た、たすけて…」



弱々しく首を横に振りながらこの男も助けをこう。



「さて…首をはねられるのが良いか。心臓を握り潰されるのが良いか…」



「や…やめ…たすけ…」



「…五、四、三、…」

「ひい…だ、だれか…」



恐怖で動かない身体を引きずって逃げようとする。

その無様な様があまりに面白かったのでそのままにしてやる。



ズルズル……

まるでどこかのゲームに出て来たゾンビのように這いずり回る。



「ひい…い…たすけ…」



情けない声を弱々しく上げながら懸命に逃げる屑野朗。

先程までの強気の態度はどこへやらだ。



「残念だが、世の中そんなに甘くないぞ。」

「ひ、ひい…」



逃げる男の前に立ちはだかると男は方向を変えてまた無謀な逃亡を試みる。



「リクエストに答えなかったからな。両方の殺し方をしてやるよ。どうだ?嬉しいだろう。」



片手を男の左胸に当て、もう片方を首筋に当てる。

俺は手に徐々に力を込めた。

ズブズブと俺の指が男の肉を掻き分けて中に入り込んでいく。



「ぐぁ…ぎゃあ…」



肋骨をへし折り、さらに奥へと侵入した手がドクドクと脈打つものを握る。



「…ぅ…ぁ…ぉ…」



心臓をまさに握られると言った感覚はどのようなものだろうか。

なんともいえない顔をする男に笑いかけてやると、もう片方の手で首をはねてやる。



スパン…ゴロゴロ…



吹き飛んだ男の頭が飛び跳ねて転がる。

またしても地面に大きな花が描かれる。



「あと一人…」



振り向いて残る男を確認する。

恐怖で動く事すら出来ない男は、失禁していた。



「おいおい…そんな年にもなって、小便を漏らすなよ。」



わざとコツコツと靴で地面を鳴らして恐怖を煽りながら近づいてやる。



「………」



わなわなと振るえて動かない男。ただ首を振るばかりだ。



「詰まらんな。逃げるなり、命乞いをするなりしないと。」



「……っ…」



近づく俺に息を詰まらせる。



「さよならだ。」

「……」



恐怖に引きつる顔を、爪で引き裂いてはがしてやる。

形容しがたい鈍い音を上げて皮膚がはがれ散る。



「っ…ぁ…ぎゃああああああああ!!!」



そのまま、爪を男の身体に突き刺しては引き抜く。

じゅぷ…ぐちゃ…ず…



心地よい音楽を奏でる男の身体を痛めつけながら俺はその素晴らしい音楽に酔う。

ああ…人の絶叫は何故こうも心地よいのか。



この心に染み渡る苦痛。絶望。生への渇望。

しばらくすると男の息も絶える。



「もう壊れたのか…このおもちゃは、耐久性に難あり…だな。」

「さて…もう行くとするか。こいつらにも飽きた。」



おもちゃの後片付けもせずに俺は天へ飛び立った。

暗く、深い、空へ。



「待っていろ蒲乃菜。もうすぐ最上級の絶望を味あわせてやるからな。 是非お前の美しい声と身体で

俺を楽しませてくれ。お前が絶望に歪む顔が、楽しみで仕方ない。ああ…たってきたぞ。ふふふ…もうすぐだ…」



深夜の街の上を俺は飛んでいった。

そして人を見つけては殺していく。



簡単に壊れる人。



咲き乱れる花々。



楽しい。愉快すぎる。



生き物の命の炎がこれほどまでに芸術的だとは…

生き物の悲鳴がこんなにも心に響くとは…



人間の時には知りえなかった感覚だ。

しかし、これは蒲乃菜の奴を堕とす前の前座的な物に過ぎないのだ。



「ふふふ…ふひゃひゃああああ…!!!」



暗く広がる空に向かって俺は叫び声のような笑い声を上げた。





夜明け。





漆黒の闇も朝日に駆逐され始めて明けの明星が姿を現す。

鳥の囀りと朝露に濡れる木々の葉。



俺は、血でべとべとになった指をぺろりと舐めると、口に苦い鉄の味が広がる。

そして、身体にまとわりついていた少し前まで人だった肉の塊を無造作にどさりと地面に投げ捨てた。



「ふう…」



今までに何匹殺しただろうか。

途中までは数えていたのだが、途中で止めた。

人間は、殺しても殺しても湧いて出て来る。



数だけは、立派なものだ。



「さて…前座もそろそろ終わりだ。」



俺は、メインの舞台を準備をすべく、まだ薄暗い大空へと飛び立った。



後編へつづく




[あとがき]




ども。覇王です。今回初のオリジナルものと言うことですが…どうでしたでしょうか。Hは後半です。クリックしてちょ。



まあ、基本的にダークなんですが、う〜ん。何かありがちですねぇ。と言うかキャラの名前は某ゲームから拝借したものですし。



どうもいさりんにはオリジナリティがないんで、パクリのような物になってしまいます…



とはいえ、こんな駄文をココまで読んでくださった皆様には感謝、感謝です。



後半も読んでくださいね。


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