■ バレンタ淫デー 〜チョコより甘い贈り♪〜 第一話 ■ |
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[あらすじ] [辻内宅] [学校] [教室] [帰り道] [あとがき] |
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[主要キャラ紹介]
主人公…辻内英司 彼女いない歴十七年の高校三年生。
「俺が悪いんじゃない。チャンスが無いだけだ。」
とは彼の弁。学校生活最後のバレンタインデーに
今年こそは…と、闘志を燃やしている。
幼なじみ…山中桃香 主人公の幼なじみにして学園最強の女と言われる
空手部の女主将。すぐに人(特に主人公)を
殴る癖がある。主人公とは、満更でもない様子だが…
幼なじみ2…山中梨香 桃香の双子の妹。双子といえば普通は二卵性だが、
この双子は一卵性なので桃香とまったく同じ遺伝子を持つ。
しかし、その性格は正反対で梨香は、天然でおっとりしている。
主人公の事はいいお兄さん程度に思っている。
同級生…神崎魔希 オカルト部に所属するオタク系少女。
眼鏡を取ったらかなりの美人らしいが真相は謎である。
何を考えているのか、よくわからない。
今回の事件を起こした張本人。
同級生…科学理科子 魔希の天敵ともいえる人物。
オカルトなどの非科学的な事が大嫌いで、
いつも、魔希とは争っている。
科学の為になら死ぬ事すら恐れないすごい人。
一卵性双生児である桃香と梨香を実験体として狙っている。
見習い淫魔… 魔希によって魔界から呼び出された半人前の淫魔。
(見習いなのでいたずら好きで子供っぽく、大の大人嫌い。
まだ名前はない。) 見た目は、十二、三歳ほどだが実は千歳を越える年齢で
もちろんHも可能。処女膜再生能力を持つ。
人間界で精のある奴と契約(H)して一人前になるのが目的。
淫魔として半人前なので、例え、この娘と交わっても死ぬ事は無い。
先生…教谷恵美 交通事故で入院中の主人公の担任であるオニババ(長谷川先生)
の代わりに臨時に担任を受け持つ事になった美人な国語教師。
その誰にでも優しくて天然ぼけな性格は人だけでなく
不幸をも惹き付けるらしくいつも運が悪い。
今回も運悪く騒動に巻きこまれる羽目に。
親友…北沢祐司 この手の話やゲームには必ず出てくる主人公の親友。
外見はだらしなくて軽薄そうに見えるが、その通り。
だらしない外見にしてるのは、単に服装を直すのが面倒臭いだけ。
熱い友情が好きでしばしばテンション暴走を起こす。
ついでに言うと好きな人がいるらしいが真相は謎。
[あらすじ]
時は2001年。目前にバレンタインデーを控えて、主人公はささやかな幸せを感じていた。
しかし、何を思ったか、オカルト部の魔希が淫魔を召喚!
しかも、見習い淫魔だったので魔術が暴走したりで大騒ぎ。
彼の願いとは裏腹にどんどん暴走していくバレンタインデー。
やけくそになった彼は、この日を「ばれんた淫デー♪」と名付けた。
さあ、トラブルドタバタエロコメディ(?)の始まり、始まり〜〜。
[プロローグ 〜嵐の前の日常〜(前編)]
二月十日 午前 八時 二十八分 辻内宅。
すーすーすー………
俺は心地良い眠りの中にいた。
特に二月のように寒い季節になればなおさら心地よい。
そのぶん、ふとんからでるのも辛いのだが。
しかし。
ジリリリリリリリリリリ……
けたたましい目覚まし時計の音が鳴り響く。
「う〜」
覚醒へと俺を引きずっていく騒音に布団の中で耳をふさいで抵抗する。
そう、俺は自分の意思を貫く強い人間なのだ。
というわけでおやすみ〜〜。
す〜す〜
俺が再び眠りに落ちると…
ガバァ!
「ぬお!?」
いきなり俺を優しく包み込んでいたふとんが引き剥がされた。
そして。
「こら〜。起きろ〜聞こえたか〜。」
聞きなれた幼なじみの桃香の声が聞こえて来る。
「ほら!英司!起きて!」
「う〜今日は、親の法事に行くから休む〜」
「うそつけ!あんたの親はピンピンしてるでしょうが!」
「う〜 じゃあ…実は学校に行けなくなる程の重大な病気を患ってるんだ〜お前に、
感染するとダメだから俺を置いて行くんだ。うっ…げほ…げほ。」
「はいはい。そんな事を言ってる暇があったら起きましょうね。」
「う〜もう少しだけ…あと、少し。」
「一体何分待てばいいの?五分?」
「う〜ん…五日程〜。」
「そんなに、ま・て・る・かぁ!」
ズドン!
「げふっ…」
俺の脇腹に桃香の鋭い拳が叩き込まれる。
幾ら俺でも、桃香の拳を受けて無事でいるはずもなく、激痛に地面を転がった。
「ふっ…相変わらずいいパンチだな。」
「泣きながら格好つけないでよ。ほら、早くしてよ。」
「お、おう。」
脇腹を押さえながらよろよろと立ち上がり、
俺はとんとんと階段を降りて一階のリビングへ。
「まったく。おばさんがいないんだから、あんたがさっさと起きないと私が苦労するんだからねえ。」
そうなのだ。俺の親は今、二人で一週間の海外旅行に行っているのだ。
まったく二人とも四十過ぎの癖にバレンタインデーを挟んで二人きりで海外旅行に行く。
なんて言い出した時には、俺は身の毛がよだつ思いがしたよ。
「はいはい。感謝してますよ。そのおかげで生傷が絶えないけど。」
「それは、あんたがおきないからでしょ〜。」
「それでも殴る事は無いと思うぞ。もっと優しく起こせ。例えば…おはようのキスをするとか。
それなら俺は一発で起きるぞ。ついでにHも一発やって学校へGO!だ。」
「ば、ば、ば、ば…」
「…ん?」
「ばかぁ!!」
ズドンズドン。
「げぶほっ」
みぞおちとあご先に痛烈なコンビネーションが炸裂。
…お、おい…これはまじで死ぬぞ。
「馬鹿な事言ってないでさっさと着替えなさいよ。」
悶絶する俺に踵を返しさっさと玄関に行ってしまった。
「ふっ…では用意をするか。」
もちろん学校の用意だ。
洗顔と歯磨きは同時にやって一分。着替えに二分。小便に一分。
五分と掛からない俺の得意技だ。
そのまま靴を履いて玄関を出る。
「うおっ…!」
朝日が眩しい。
昨日降った雪が朝日に照らされてきらきら光る。
そして俺の目の前には。
「英司くん。おはようございますぅ。」
そう言ってにっこりと微笑む少女がいた。
礼儀正しく挨拶をする梨香ちゃん。
この子は、桃香の双子の妹である。
…う〜ん。ほんとに梨香ちゃんと桃香は同じ遺伝子をを持っているのだろうか?
ぱっと見てとても双子とは思えないのだ。
梨香ちゃんは、綺麗な黒髪のストレートロングへアで、まるで市松人形のようなのに対して、
桃香の方はというと、ボーイッシュなショートカットで活発な少年といった印象を受ける。
双子だけあって確かに顔は桃香とよく似ているのだが…
しかし、なによりも一番違うのはその性格だろう。
乱暴でがさつ、その上凶暴な桃香に、おっとりとした温和で礼儀正しい梨香ちゃん。
本当に二人は双子なのだろうか。もしかして、桃香は橋の下の捨て子だったりして。
「おう。梨香ちゃん。おはよう。」
「相変わらず早いですねぇ。」
「まあな。ギネスブックに載ったぐらいだからな。」
「ギネスですかぁ。それはすごいですねぇ。」
わあ…すごいですねと感心してくれる梨香ちゃん。
俺のくだらないボケにも、いつも全力で答えてくれるので彼女には好意を持っている。
まあ、ただの天然ボケなんだろうけど。
「すごいだろ。わっはっはっは……」
胸を張って高笑いする俺とその横で感心している梨香ちゃん。
「二人とも馬鹿やってないで行くわよ。」
放っておくといつまでも続けてそうな二人を桃香が促し、学校への道のりを歩き出す。
「まったく…」
桃香にはボケ続ける俺と梨香ちゃんにつっこんで正気にさせるという重要な役目がある。
こいつがいなければ今ごろ二人はここにいなかっただろう。
学校までの十分ほどの時間を雑談しながら歩く。
「それでさー聞いてよ。梨香ちゃん。桃香の奴、また俺を殴ったんだよ。酷いだろ。」
「はぁ〜それはひどいですねぇ。」
「だろ?だから今度から梨香ちゃんが起こしてよ。」
「梨香がですかぁ。」
「そうそう。そうじゃないと俺死んじゃうよ。」
「おおげさねえ。大体梨香じゃあんたが起きないから、私が起こしてるのよ。」
「あれ?そうだっけ。」
「あれぇ?そうでしたかぁ?」
「あんたたちねえ。」
はあ…と大きな溜め息をつく桃香。
「前に私が部の朝練で、先に学校に行った時、あんたたち、昼の一時に登校したでしょう。」
「うっ…それは。し、仕方ねえだろ。起きれなかったんだから。」
「梨香も頑張って起こしたんですけどぉ。なんだか寝てる英司くんを見てると
梨香まで眠たくなっちゃって、いっしょに寝ちゃいましたぁ。えへへへ……」
「というわけでこれからも頼むぞ。桃香。」
「はあ、もういや…」
そう言ってもう一度大きな溜め息をつく桃香。
そんな変わりばえのない幸せな日常。
幼なじみが起こしに来て、みんなで笑いながら登校して。
そんな、俺にとっての当たり前の風景からは、
数日後に大事件が起こるとは、全く予想できなかった。
二月十日 午前 八時 四十分 学校。
「ふう、やっと着いたか。」
自分の席にどん、と鞄を降ろす。
「おっす。英司。」
「おっす。祐司。」
俺の親友である北川祐司と挨拶を交わす。
こいつとは中学以来の付き合いであり、俺の数少ない親友の一人だ。
こいつとは気が合うらしく、こいつの側にいると何故かテンションが上がる。
「今日もあの二人といっしょに登校か?もてるねえ。お前も。」
「まあな。でもあんなのは女の数には、入らないけどな。」
「ふ…よく言うぜ。…それよりも英司。お前に話があるんだが。」
急にあらたまった様子になる祐司。
「俺たちは親友だよな。」
「おう。」
「親友とは助け合うものだよな。」
「まあな。」
「今度一緒に夕日に向かって走ろうな。」
「ああ。」
「よし!英司!」
「おう!祐司!」
英司が、腕を高く掲げる。
そして俺は斜め下に構える。
…ハイタッチというやつだ。
ぱし〜ん!
しかし、慣れない事はやるもんじゃない。
お互いのタイミングがずれて、互いの顔にビンタをする結果になってしまった。
「ぐぅ…強くなったな…英司。」
それでも無理やり友情劇に持っていく祐司。
そして、円陣を組むように俺の肩に手を伸ばす。
「頼みがある。今、俺にはもの凄く欲しいものがある。しかし、金が足らんのだ。そこでだ。
俺の大の親友である英司君に一万円ほど…」
「だめだ。」
「……」
痛い思いまでして無理やり盛り上げた友情劇を簡単に断られて絶句する祐司。
「なにあんた達は朝から馬鹿な事やってんのよ。」
「あはは〜。おもしろいですね。」
横から届く声にも馬鹿にされてますます惨めな祐司。
ちなみに言っておくと桃香と梨香も同じクラスだ。
親友の惨めな姿を見続けるのはさすがの俺も辛い。少しは力になってやるか。
「おい。少ないが受け取れ。餞別だ。」
「ああ…やはりお前は親友だ。例え少額でも俺は嬉しいぞ。」
「ほれ。」
そう言って俺は祐司に金を投げてやる。
ちゃりーん。ころころ。
十円玉が音を立てて床を転がる。
「大事に使えよ。」
「うう…」
目の前の十円を見てさらに祐司が落ち込む。
人に頼る癖をつけるのはよくない。俺は親友だからこそ、お前に厳しいんだぞ。
それに十円もあればチOルチョコも買えるしな。はっはっは。
こうして、俺と祐司の友情劇は終った…
なんて馬鹿な事をやっている内に。
キーンコーンカーンコーン。
朝のHRの開始を告げるベルが鳴り響く。
なるほど、最初はまばらだったクラスの奴らもいつの間にか増えていた。
「はーい。みなさーん座ってください。」
出席簿で教卓をトントンと叩く小気味良い音と教谷先生の美声が教室に響く。
この先生は今、交通事故で入院中のうちの担任である通称オニババの代わりに臨時で担任を受け持っているのだ。
綺麗な黒髪のショートカット美人で整った顔立ちにモデルのようなすらっとしたスタイル。
それでいて性格はすこし間の抜けた優しいお姉さんといった感じであり、まさに漢の理想を具現化したような人だ。
そんな先生の声に蜘蛛を散らすように自分の席に戻っていく生徒達。
「えーでは出席を取ります。安藤君。」
シーン。
だれも返事をしない。
あれ?うちのクラスに安藤なんて奴いたか?
「欠席、と…次は、江川君。」
シーン。
またしても返事が無い。
はれ?江川なんて奴もうちにはいないぞ。
というか、その前に上野の順番を跳ばしてるぞ。
あっ…飛ばされた上野が悲しそうに俯いてる。
「あれ…また欠席?つぎは…」
「あの〜先生。」
教卓のまん前にいる生徒が申し訳なさげに声を上げる。
「なんですか?」
「あの…その出席簿…二年五組って書いてありますよ。」
「えっ…あ、あれっ!た、大変早く返してこなくっちゃ。」
そのままドタドタと教室を出て行ってしまった。
ざわざわとなる教室。
「まじかよ。」
一人呟く俺。
それはとても信じられない出来事だった。
俺のクラスは三年一組。
間違えた先は二年五組。
しかも、職員室での先生の席もお互い離れており、先生同士、お互い特に親しくも無い。
まったく間違える要素が見当たらない。
それでもこういうお約束が起きるのは一重に先生の天然のおかげだと思う。
しかし、こういう天然のところが思春期を過ぎたばかりの男子生徒にはたまらないらしく、なぜか、皆、興奮気味だ。
「俺、あの人のちょっと抜けてる所がたまんね―よ。」
「そうだよな。あんなおねーさんがうちにいたらいいのになあ。」
そんな会話が聞こえて来る。
あの容姿と性格なので新聞部が主催する好きな先生投票では常に有効票の九十パーセント以上での圧勝という圧倒的な地位を築いている。
ちなみに、「教谷先生に何をしてもらいたいですか?」
という質問には学校新聞には相応しくない内容の回答が大半を占めて公開中止になったそうだ。
かくゆう俺も、「保健体育の授業を実技指導で受けたい」と書いて無効票にされた口だ。
げへへ…
「おい。英司。」
「…ん?何だ?」
くだらない妄想に浸っていると隣の席の祐司が唐突に話し掛けて来た。
「どう思う?あの人。」
「教谷先生か?そりゃあ…美人だし可愛いし優しくてイイ人だし…」
「だろ?もう萌え萌えって感じだよな。うお〜〜〜〜興奮してきたぁ!!」
「うおお〜〜〜!教谷恵先生!!萌え萌ぇ〜〜!」
そう言うと窓際にまで走って窓から大声で叫びだす。
それにつられて他の生徒までもが窓際から各々の内に秘めた魂の叫びを迸らせた。
「も〜え!も〜え!も〜え!」
かくして一組の男子生徒全員(俺以外)が窓から叫びだすという異常事態に発展した。
「も〜ぇ。も〜ぇ。も〜ぇ。」
…何故か梨香ちゃんまでもが楽しそうに窓から叫んでいる。
絶対に意味をわかって言ってないなあの子は。
「こりゃあしばらく止まらないな」
「問題児クラスを持つと先生も大変だな。」
このクラスは、たまに異常に上がるテンションで時折、暴走するのだ。もちろん男子が。
…まあ、俺もあまり人の事を言えたものではないのだが。
鎮圧まで1時間を要したこの事件のリーダーの祐司は生徒指導室に連行されて行った。
それに荷担した男子生徒もこっぴどく叱られていた。
そして、傍観者を決め込んでいた俺までもが濡れ衣を着せられて叱られてしまった。
それもこれも祐司が去り際に吐いた
「英司!あとの事はお前に任せる。俺たちの友情は不滅だぁぁぁ!!」
の所為だ。
その仕返しに奴の鞄に消しゴム一個分の消しカスを流し込んでやる事にする。
「ふう…これでよし。」
消しゴムを一個無駄にして消しカスの大山を作ると、それを一気に鞄に流し込んだ。
もちろん犠牲にした消しゴムは祐司の物だ。しかも色鉛筆用の砂消しゴムだぞ。
たぶん後掃除が猛烈に大変だろうな。ふふっ…狼狽する奴の姿が浮かんで来るようだ。
二月十日 午前 十一時 十五分 三時間目 教室。
ようやく鎮圧した事件の後、授業は至って普通に再開された。
学校側がもうこんな事件に慣れているからだろが、少し面白くない。
そして授業が開始されて三十分が経とうとした時。
「おう。同志たちよ。俺は帰ってきたぞ。」
がらりと教室のドアが開いて祐司が帰ってきた。
やっと生徒指導室から解放されたらしい。
「おう。英司。元気にしてたか。」
「お前などもう知らん。」
関係ない俺を巻き込んだ奴と馴れ合う気は無い。
きわめて冷たくあしらってやる。
「何だよ。まだ怒ってんのかよ。ちょっとした冗談じゃねえかよ。」
「それで俺は叱られたんだぞ。関係ねえのに。」
「怒るな、怒るな。あんまり怒ると早死にするぞ。」
「わかったよ。許してやるよ。」
はあ、負けたよという具合に俺は許しの言葉を吐く。
「やっぱりお前は親友だな。」
手を合わせて俺を拝んで来る祐司。
これから起こる悲劇も知らずに。
そして授業が再開された。
「あれ?消しゴムが無いぞ。かばんの中かな。」
しばらくすると、そんな祐司の独り言が聞こえて来る。
…くっくっく…。
俺は悪の笑いをかみ殺す。もうすぐ祐司は地獄を見るだろう。
「…なっ…なんだこりゃあ〜〜!」
授業中であるにもかかわらず大声で叫びだす祐司。
まあ、かばんの中が消しカスで溢れていてはこのリアクションも仕方ないか。
騒然となった教室の中にはまた何か起こるのかという漠然とした期待も込められていた。
「どうなってるんだ…」
「さあな。お前の持ってきた弁当の中の大根おろしがこぼれたんじゃないのか?」
机に向かいながら俺はきわめて冷静に言葉を返す。
「馬鹿野郎!んなわけねえだろ!…って、持ってきたサンドイッチが消しカスだらけに…」
「ふむ。それは残念だったな。でも、安心しろ。心頭滅却なんとやら…だ。食って食えん事はないだろう。
人間、何事もやれば出来るぞ。」
「お、お前の仕業か…英司!」
わなわなと震えながら、俺に詰め寄る祐司。
「さあな。知らん。もしかしたら新種のテロ事件かも知れんぞ。正に無差別だな…恐ろしい事だ。
今ごろ当局にでも犯行声明文が届いてるんじゃないのか。」
祐司の怒りを煽るように冗談をかましてやる。
「お、お前!やっていい事と悪い事が!」
そこまで言った祐司を遮るように
「怒るな、怒るな。あんまり怒ると早死にするぞ。」
さっき奴が俺に言った言葉をそのまま返してやる。
「……」
「…ん?どうした?許してくれないのか?俺たちは親友だろ?」
「……ううっ…」
あまりにも上手くやり込められたので何も言えなくなって自分の席に
力なく、うな垂れると心を閉ざしてしまった。
そして…昼休み。
祐司は誰とも口を聞かずに一人で消しカスにまみれたサンドイッチを淋しく食べていた。
その様子はまるでゾンビの様に生気がない。
…はっはっは。ざまあみろだ。
「ふむ。祐司の奴。美味そうに食ってるなあ。」
「どこがよ!これは、やり過ぎじゃないの。祐司が立ち直れなくなったらどうするのよ。」
「可哀想ですよぉ。祐司くん…大丈夫なのかなぁ。」
「う…むう。少しばかりやり過ぎたか。」
桃香と梨香にそう言われると確かにやり過ぎた気がする。
ちなみに俺たちは、いつも一緒に飯を食っているのだ。今日は一人欠けているが。
「……」
…ふむ。今度からは、エロ本の刑で許しておいてやる事にしよう。
エロ本の刑とは、俺が持ってきたマニアックなエロ本をあいつの机に入れておいて
クラス中に知れ渡るように大騒ぎしてやるという至極単純な刑だ。
この前にこの刑を執行した時、奴は一ヶ月の間中変態スカトロ男と呼ばれて、女子から軽蔑の視線で見られていたな。
…まあ男子からは英雄扱いだったけど。
次は、SM関係の本にでもしてやるか。
…だけど、これも今となってはいい青春の思い出だなあ。
やはり、なんだかんだ言っても祐司と俺は親友だな。
「はあ…」
祐司のついた大きな溜め息が教室にむなしく響いた。
二月十日 午後 三時 五十分 帰り道。
俺は桃香、梨香と一緒に帰路についていた。
今日は、桃香の部活が休みなので三人で帰っている。
何でも、格技室の全面改築らしくて、しばらく部活は休みという事らしい。
こんな時は祐司も入れて四人で帰るのだが、奴はトボトボと先に一人で帰ってしまった。
「あんた達ねえ…いい加減にしないと卒業できなくなるわよ。」
「そんな事言われてもなあ…あいつが悪乗りするからだろ。」
「あんたがいつも火に油を注いで騒ぎを大きくしてるんじゃないの!」
「そうですよぉ。火に油なんか注いだら学校が燃えちゃいますよぉ。」
「だから、そんな時の為に消火器が置いてあるんじゃないか。年に一度、ちゃんと避難訓練もあるしな。」
「それはそうだけど…」
「それじゃぁ。あんしんですねぇ。」
「……」
「……」
「……」
「…あれ?」
いつの間にか話が変わってる…。恐るべし…天然ボケ。
しばらく雑談しながら歩くと家に着く。
「じゃあねぇ。英司くん。ばいばい。」
「明日はちゃんと起きてよ。」
「おう。じゃあな。二人とも。」
「ふう…ただいま〜。」
誰もいない無人の家にも一応、ただいまは言う。
…こうゆうのは気分の問題だからな。
「さてと…なにをしようか。」
家に帰っても特にやるべき事は無い。
まあ、学校から宿題は出ているが明日、桃香にでも見せてもらえばいい事だ。
「う〜〜〜…」
ごろごろ。ごろごろ。ごろごろ。
とりあえず地面を転がってみる。
「…むっ!」
俺はある事を思いつく。
そしてそのまま電話の前に向かう。
思い立ったらすぐ行動。が俺のモットーだからな。
そして電話番号をプッシュする。
ピ、ポ、パ、ポ、プ、プ、プ……
トュルルル……
ガチャッ!
「はい。山中です。」
「こちらは警察のものですが。桃香さんの母親の方ですか。」
わざと声を低くして中年男性を装う。
「あの…うちの桃香が何か…?」
「実はお宅の娘さんが、万引きをしまして…」
「えっ…!桃香が…」
信じられないという風に絶句するおばさん。
「あっ…いえ。間違えました。桃香さんがしたのは強盗でした。」
「ご、強盗…」
電話の向こうでどさりと言う音が聞こえる。
おそらくは崩れ落ちたのだろう。
「それでですね。娘さんがそちらに帰られたら自首するように説得して欲しいですよ。」
「は、はい…それで…娘は…」
「あっ…ちょっと待って下さい。現場から連絡が…」
ジ、ジ、ジ、ジャーーーーーーー。
持ってきたトランシーバーを使い、通信をしてるふりをする。
「…なんだって!?犯人が、妹の梨香さんを人質に逃亡中!?」
おおげさに驚いてみせる。
電話の向こうではもっと驚いているだろう。
「すみません。こんな事している場合じゃなくなりました。」
深刻な声で話す俺。
「あの、何かの間違いじゃ……」
「今は妹さんの命が危ないんですよ!悠長な事は言ってられませんよ!事件は現場で起こってるんですよ!」
と俺が、某俳優顔負けの迫力で叫んだ時。
「ただいまー。」
と間の抜けた桃香の声が聞こえてきた。
「も、桃香…」
というおばさんの声も聞こえてくる。
がちゃり…
ツーツー。
ここで電話を一方的に切ってやった。
「プッ…クク…ぎゃははははは……」
しばらくの間俺は笑い転げ続けた。
しかし、笑い終わって俺は、ちょっとした後悔をしていた。
「これって…桃香じゃなくておばさんの方が驚くよな。これじゃあ、桃香をからかうという俺の計画は台無しだな。」
…しまったなあ…。次にやる時は、桃香のストーカーということにしようか。
…しかし、あまりやり過ぎるとおばさんがショックで寝込むかも知れない。
…円滑な近所づきあいも崩壊してしまう恐れが…というか多用すると崩壊するだろ。
…う〜む。今後、この技は使わない事にしよう。リスクがでか過ぎる。
「あ〜あ。なんか他に面白い事無いかなあ。」
と電話機から離れてリビングでごろごろと寝転がっていた俺。
すると。
ドタドタドタドタ!
ガタン!
思いっきり玄関のドアが開かれた。
そして。
「え〜い〜じ〜…覚悟は出来てるんでしょうね。」
極めて穏やかな声と表情で俺の前まで走って来る。
「よ、よう。桃香。そ、その…あの…お、面白い冗談だっただろ?」
震える声で俺に、にっこりと微笑みかける桃香に答える。
「ええ…とっても。た・の・し・い・冗談だったわね。」
「だ、だろ。そ、その…俺…吉本新喜劇にでも入ろうかな…は、はは…」
「………(ニッコリ)」
「へっ…?」
さらににっこり笑った桃香が修羅の顔つきへと変化した瞬間。
「うぎゃああああああああああああああ!!」
俺は断末魔の声をあげていた。
………
ぴちゃり…
頬に冷たいものが当たる。
これは…なんだろう?
水滴…?
いや…血?
あ…れ…身体が動かないや…
は、はは……
おれ…死ぬのかな…
どんどんと意識が遠のいて行く。
こ、こんな…ことに…なるんだったら…
ご、ごめん。おれの…きもち…
つ…た…え…ら…れ…………
………
なんてのは冗談で。
俺が再び意識を取り戻した時、何故か台所にいた。
なぜだかはまったくわからない。
…そもそもなんで俺は気を失ったんだ?
…家に帰ってきてからの事をまったく覚えてないぞ。
…しかも、体中がもの凄く痛い。
気を失った事が解らなくてもこの痛みの原因はわかる。
「また、俺が桃香に余計な事をしたのかな?」
明日、謝ろう…と思った所で再び俺は気を失った。
つづく
[あとがき]
ういっす。覇王です。
どうでしたでしょうか?エロがない!です。
すみません。ねえ…
まあ、次回にでも…
って言うかコレ、面白かったですか?
では。
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