第七話 荒野の果てに
目を丸くする王、カナリア。 彼の目線の先には、見たこともない巨大な生物、飛龍がいた。 そして、その背に乗ってやってきたのは……彼のよく知る人物たちであった。 「久、それに潤さん」 城の裏の庭に突如として降り立った飛龍。一体何が起こったのか、と城の者は慌てふためき、遠くから飛龍の姿を眺めたが、その背から久と潤の姿を確認すると、そのどよめきはすぐに収まった。 しかし恐怖感と取って代わって人々の中には好奇心が芽生え、城の中の多くの者が裏庭の見えるところへと集ってきた。 そんな群集の壁が、一部で崩れた。 王が、カナリアがやってきたのだ。ゆったりとしながらも、王の威厳に満ちた動きでもって彼は飛龍の足元にいる久の下へ歩を進めた。 「一体……何があったのですか?」 聡明な彼であるが、この状況については、さっぱりわからないようだ。想像すらした事の無い状況を前にして、少し困ったような仕草を見せる。 確か飛龍は、この国には生息していない……彼の頭の中には、その言葉が浮かんだ。海を挟んだ隣の国のある大陸には、巨大山脈の中でいくらか生息しているとは聞いているが…… しかし、まさか話に聞いた事しかない飛龍を実際に目にすることが出来るとは……と、彼は内心喜んでいた。 彼がそのようなことを思いながらその姿をじっと見つめていると、 『私は、見世物ではないわ』 彼女はそう短く言い、久の背を額で押し、前にやった。 「あ、うん」 久は頷き、カナリアの前まで進むと、膝をつき、頭を垂れて、 「これから、魔王の元へ、向かいます」 と言った。 途端にざわめき始める群集をよそに、カナリアは落ち着いた様子で、「そうか」と頷くだけであった。 飛龍、空の背はいっぱいであった。 『落ちても知りませんよ』 そう、彼女は最初に言い放っていた。これほどまで一度に多くの人を乗せたことはないという。 その数、5人と2匹。 皆、肩を寄せ合って座っていた。 「何でお前が来るんだよ」 そう言うのは、久たちが空に乗り城へやってきた時、たまたま城に居合わせており、そのままついてきた信であった。 そう言われたのは、出発間際になって半ば無理やり乗り込んできた久志と琴音。 「だって、久が行くんだから!」そう言うのは久の実の姉である久志。 「久くんのお手伝いが出来れば、と思ったんです」こちらは、久の仕事仲間である琴音。 「全く……」と、ぶつぶつと文句を呟く信を、久は少しあきれながら見ていた。彼の膝の上の白は眠っており、肩の上に座るウィンはそのような風景を苦笑しながら眺めている。 だが、潤には信のそういいたい気持ちはよく分かっていた。 大空から下――現在ではもう眼下は海だ――を見ながら「わあ!」と、歓声を上げた二人の女性に対して、彼は不安を抱いていた。……それは多分、信もそうであろう。 「君たち――」 「お前ら――」 そんな潤と信、二人が同時に口を開いた。 思わず二人は顔を見合わせ、苦笑すると信は「俺が言うより」という感じで口を噤み、肩をすくめる。 潤は小さく頷き、多分信が言おうと思っていた言葉と同じであろう言葉を、口にした。 「私は、君たちを守れる余裕なんてないからね」 青年が、言った言葉に、ただ、 「そうか、来るか」 とだけ答えたのは俗に魔王ブレノスアイレス、と呼ばれる魔物であった。 彼に久たちがこちらに向かっていることを告げた青年は、別にたいした反応があるなどということは全く期待しておらず、寧ろ反応すらない、と思っていたので、何事も無かったかのように一礼して退出しようとする。 「――ああ、待て」 そんな彼を、おもむろにアイレスが止めた。 一体何があったのか、と不思議そうに青年は振り返り、彼の言葉を待つ。 「彼は、どうしているか?」 彼、それは数日前にアイレスの忠実な部下であるワズンが運び込んできた男のことだ。 内心で「またか……」と、青年は嘆息する。彼が来てからというものの、アイレスは彼の事ばかりしきりに気にしている。 「寝ています」 少しとがった口調で彼が答えると、アイレスは少し驚いたように表情を変え、青年を見やった。 「君、彼に妬いているのかい?すまない、私はそのようなつもりはないのだ」 アイレスは青年の前までやってきて、彼の背に手を回した。 青年は、心が安らぐのを感じると同時に、アイレスに対し申し訳なさを感じる。そんな彼を見て、アイレスは微笑み、 「いつも言っているだろう、遠慮せずになんでも言いなさい、と」 青年は頷き、アイレスから離れる。そして、深々と頭を下げてから走って彼の元から離れた。 そんな青年の姿を見て、アイレスは口元を緩めた。 翌朝、陽の光が海の向こうから差し込み始める。空の一部が紅く映え、美しい朝焼けが姿を現した。 久は目を細めながら、その美しい光景に見入っていた。 空の背の上で一晩を明かした。寒くはあったが、胸の中の白のあたたかさと、空の身体のあたたかさのお陰で大丈夫であった。 『見えてきたわよ、久。……あそこ、あの大陸が――』 「――<月ノ台地>」 はるか先に、うっすらと黒い何かが見え始めた。それが、目的地であり、魔王が住むという<月ノ台地>であった…… 久はごくり、と喉を鳴らし、緊張感を身体に持たせる。 遠くにあった、と先ほどまで思っていた大陸の影はすぐに近く、大きくなってくる。 ……やがて、眼前に大地が広がってきた。それは荒涼たる風景であった。見える限り岩山が高くそびえ、大地は草も木も生えておらず、乾ききっている。そして土煙が地を這うように駆け巡っており、うっすらと煙っていて視界が悪い。 ここは、そのようなところであった。 空は、そのような土地の真っ只中に降り立つ。 『さあ、着いたわよ』 「……ここまで……なんですか?」 土煙に目を細め、口に砂が入らないように外套の襟を立てながら、久は尋ねる。 そんな彼に目をやって、彼女は申し訳なさそうに目を落とす。 『御免なさい、こんなにも大人数を乗せてしまっては、私ではそこまで遠くまでは飛ぶ力が無いわ』 確かにそうだ、それに、ここまで運んでくれただけで久には十分であった。ここまで来ることができれば、歩いてでも魔王の元に行けるのだから。 そう考え、久が自分自身に気合を入れていると、空が、 『それに、来たみたいよ、こちらを案内してくれる方が』 優しい声で彼に言う。 え、と久が首をかしげたと同時に、蹄の音が辺りに響き始めた。 土煙の奥から、何かがやってくるのが見える。そしてそれはすぐに久たちのもとに姿を現した。 それは白い馬であった。しかしそれは普通の馬ではないということは素人目にしてもすぐにわかる。 額から生える、一本の角。それがこの馬が普通の馬ではないということを強く物語っている。一角獣、と言えばいいか。 その一角獣はすぐさま潤の元に行くと、懐かしそうに彼に身体を摺り寄せる。また、彼も微笑を浮かべながら彼の顔を優しくなでた。 「と……義父さん……?」 ただただ驚く久。 「久しぶりだ。また、よろしく頼むよ」 『はい』 久を無視し、彼は一角獣に語りかける。一角獣もすぐにそれに答え、先導をするべく歩き出した。 『ここから先は、南の大陸の常識は通じません。何を見ても、決して驚いてはなりません』 先導をしながら、一角獣は言う。 ごろごろと辺りに巨大な岩が転がっていた海の付近から大分内陸に入ると、岩は少なくなり、土の寂れた大地から草の生えた生き生きとした大地へと姿を変えた。 海の近くは、言ってみれば人を寄せ付けないような土地であったのに対して、こちらは明るく、人々を歓迎するような土地であった。 辺りをきょろきょろと、物珍しそうに見回していた女性陣、そんな彼女らに潤は冷たい視線を送る。すると、彼女たちは思わず首をすくめた。 ――やがて草原の先に木々が姿を見せ始める。色とりどりの花が咲き乱れ、木々は鮮やかな緑で生い茂っている。 最早、この<月ノ台地>に対する印象は最初と全く変わっていた。 更に、木々の中に家の姿が見え始める。どうやら、すぐ近くに街があるらしい。 そこで、一角獣は立ち止まり、振り返った。 『――あなた方が<魔物>と呼び忌み嫌うもの、それは、この地では人々と共に暮らしています』 「――え!?」 思いがけない彼の言葉に、思わず驚きの声をあげる久と久志、そして琴音。 久の頭の上のウィンは首を傾げながら、早速感想を言う。 「夢みたいな国ねー」 意外にも、一角獣はそれに頷き、同意した。しかし、その内容は久たちの想像を超えていた。 『<魔王>とあなた方がそう呼ぶ存在であるアイレスがそのような考えを持っているのですよ』 その言葉に、更に驚きの声をあげる3人と1匹であった。 久の頭は混乱した。 祖父が魔物に殺されたことは…… 両親が目の前で魔物に殺されたことは…… それでは、それらの事実は何なのだ…… 「そんなわけ、ないだろっ!」 久は思わず叫んでいた。 だがそんな彼に一角獣は冷たい視線しか送らない。 なんだよ、と久は怒り、一角獣に対し口を開きかけたが、それと同時に彼の頭は叩かれた。 「――ったく、自分の目で確かめてから口答えはしろよ。……だがな、やつの所に行くまでは下手な動きはするなよ」 そう言ったのは信であった。 久は口を閉じ、少し不機嫌そうに肩を落とすと、それからは何も言わずにすっと歩き出してしまった一角獣をゆったりとした足取りで追った。 彼の腕の中の白が少し心配そうな表情で彼の顔を見上げ、彼の肩にとまるウィンもやはり心配そうに彼の横顔を見つめた。 「――……」 声をかけようと思ったのだが、ウィンは躊躇い、結局やめてしまった。……彼にかける適当な言葉が、見つからなかった。 遠くに見えていた街の影が、だんだんと近付いてくる。 街の入り口を前にして、再び一角獣は立ち止まり、振り返った。 『もう一度言いますが、驚いてはなりませんよ』 それだけ言うと、また進みだした。 少し時は経過して…… 「何なのよ、ここっ!?」 久志は声を荒げていた。先ほどから信じられない光景ばかり見て、かなり興奮していたのだ。 しかしそれは彼女だけではなかった。久や琴音、白そしてウィンまでもが未だに目の前のものが信じられずにいた。 そんな彼女らにどのような説明をすればよいのか、先ほどから潤と信、そして一角獣はそれでもって頭を悩ませている。 一行が今乗っているのは客車の中のおおきな個室である。 客車、といっても彼らが乗りなれている馬車ではない。これは、彼らの住む王国には存在しない乗り物、機関車に連結されている客車である。 街に着き、一角獣がまず最初に向かったのは駅舎であった。しかし、彼がそちらに向かおうとしても、女性陣が店のほうにふらふらと近付いてゆくので、彼は大変困った。ついには潤が彼女たちを一喝し、何とかこの客車に押し込んで、今現在に至っている。 彼女たちの所為で少し時間を食ってしまった。しかし、明日の朝にはアイレスの住処へは、着けるだろう……そんなことを一角獣が考えていると、 「さて、」 咳払いを一つし、久志を牽制すると、潤はみんなの顔を見回して、 「……君たちは、不審に思ったことはないか?」 「今まで見たもの全部が不審よ!この乗り物だって!」 再び興奮し、声を荒げる久志。 「そうではないよ、話は最後まで聞きなさい。……巨大な地震、火山の大噴火……これらは記録上何百年も起こっていない。以前は頻繁に起こっていたにもかかわらず、だ」 現在の王国が興る以前に書かれた歴史書。それをひとたび開くと、そこには天災の記事を山ほど見つけることが出来る。しかし、現在に近付くほど、天災に関する記事は姿を減らし、現在ではほぼなくなっている。 少し地が震えるくらいの、大して問題のないほどの地震は時たま起こるにしても、火山の噴火についてはこの数百年の間一度も起ってはいない。……これらのことは、広く知られていることである。 「そう言われてみれば、おかしいかもしれませんが、それは国が安定しているという証拠なのではないでしょうか」 そう言うのは琴音。国が乱れたり、王が失政を続ければ、天が怒り、天災が起る……よく言われることである。 「ほら、天災がよく起っていた時期というのは戦乱の時代にあたりますし」 現在の王国が興る以前は、沢山の国が群雄割拠する戦乱の時代であったことは確かであった。だから、彼女がそう思うのも潤には当然だ、と思えた。 しかし、実際にはそれは違うのである。 「しかし違うのだよ、琴音。魔王が地震などの大地のエネルギーを吸収しているのだ。そしてそのエネルギーは、この機関車の動力のエネルギーなど様々なものに還元しているのだ。君たちはよく見ただろう、この地の暮らしを……」 「ええ」 頷きながら、彼女は先ほど見た光景を思い返していた。 家の中に明かりが見えた。しかし、その灯かりは炎ではなかった。 この大陸は北にあるため、寒い。そのような中、人々は炎にあたることはなく、なにか四角い箱の周りに集まっていた…… ……考えれば考えるほど、彼女にとって不可解なものばかりが湧き上がってくる。 彼女は顔を上げて、複雑な表情でもって潤を見やった。 「では、それらすべてが……」 「そう。魔王のお陰でこの地は人が住める地になっているのだ」 彼の言葉に、琴音は彼女自身の中にある信念が崩れていくような感覚を感じた。今までずっと、魔王は我々に災厄をもたらす存在であると信じていたのに…… 同じことを久も感じているようだ。俯き、膝の上で拳を握り締めている。 その光景に、思わず潤は目を伏せた。 (……この子は今まで魔王を酷く憎んでいた。だがその魔王の本当の姿を見てしまっては……) 彼は少し後悔を感じた。やはり、彼をここまで導いたのは間違えであったのではないのか、と…… そんな思い悩む彼の姿を見たくはないのか、それともあきれたのか、突然信が彼の手を取った。少し驚きの表情を浮かべる潤。そんな彼に信はさっと目配せをした。 その目は、「大丈夫」、といっているように潤には思えた。 確かに彼はそう言い、彼は久の元に歩み寄ると、久の頬をぎゅーっと掴んだ。そして、大声で、 「お前は何のためにここまで来た?裕に会うためだろう。目標を見間違えるんじゃない!」 それに対し久はきっと目を見開き、立ち上がると信の胸倉を掴んだ。膝の上の白は振り落とされてしりもちをつく。しかし、久はそれに全く気づかず、信と対峙した。 「僕は今までっ……!」 「黙れ!自分の目で全部見てからそんなことは言え!百聞は一見に如かず、というだろう」 久の手を叩き落とし、信はかがんで白を拾い上げると、 「到着は明日だ。今夜一晩を大切に使えよ」 そう言い放つと、彼は白を身近にある椅子に下ろし、部屋を出ていった。 久はただ立ち尽くしていた。 「裕、いるか?」 青年は真っ暗な部屋の中に入り、呼びかけた。 暫く待ったが、全く反応がない。仕方ない、と青年はもう一度だけ声をかけよう、と思い息を吸い込み…… 「――ここにいる」 そんな彼の耳に小さな呟きが入った。どうやら、この真っ暗闇の部屋の奥の方にいるらしい。青年はそちらの方に向きなおすと、 「――残念なことを伝えなければならない」 言うと、今度は間をおかずに返事があった。 「……来るんだろう、彼が」 その声はかすかに震えていた。彼らしくもない、青年はそう思いながら「そうだ」、と答える。 すると今度は暗闇の中孤独に佇む裕之が、先に口を開く。 「――……おかしいだろう。今まで色々なことをやってきたこの俺が、子供一人におびえるなんて……」 それは自嘲気味な笑いを含んでいた。だが青年は首を横に振ると、力強く反論する。 「誰にだって、恐れるものはある」 少し、間をおいて、裕之は返事をした。 「……そうだったな……お互い、過去を恐れているのだよな……」 「……」 裕之は、彼に彼自身の過去を話されたことがある。それを思い出しながら、彼は嘆息した。 彼に比べれば……そうぼんやりと思いながら彼はまた嘆息する。 それでもって二人の会話は終わった。青年は背に手を回し、扉のノブを回す。 「――彼らが来たときに、もう一度呼びに来る」 それだけ言って光の満ちる廊下へと身を滑らせた。 後ろ手で扉を閉めると、彼はその扉に背を預け、大きく息をついた。 (私は、アイレス様に命を救われた。……それからどのくらいの時間が経ったのであろうか……何十……いや、何百年の時が) 彼の持つ最初の記憶、それは心配そうに彼の顔を覗き込んでくるアイレスの表情であった。 その時アイレスは彼に、彼は酷い傷を受けて死にかけていた、ということを告げた。そしてそのような状況の彼を救った、ということも。 それより以前の記憶は彼にはなく、自分の名でさえも思い出せなかった。 そんな彼に、アイレスは快く自分のもとにいることを了承してくれた。だから、それ以来彼はアイレスのもとにいる。寧ろ、アイレスのもとにしか居場所がない、といっても差支えがなかった。 (私は、過去を知るのが恐ろしい。自分が人間から別のものに変わり果てた、ということを認めたくはない。だから……) 「裕、お前が羨ましい」 思わずそのような言葉が口から零れ落ちていた。 背を扉から離し、彼は扉を振り返った。 「お前は、何処まで戻っても、お前だ」 果たして、その言葉は裕之に届いたのだろうか…… (百聞は一見に如かず、か……) 夜、しかし機関車は走り続ける。 (……なんかなぁ……) この地に来てから、何となく久は調子があがらない。 彼は客車の廊下の窓から外をぼーっと眺めながら、心の中では悶々としていた。 琴音と同じく、彼も今まで積み重ねられてきたものが崩されてく感覚を味わっていた。 そして、本日何度目かの大きなため息をつく。 「ため息をつくと、幸せは逃げていってしまいますよ」 と、突然、声がかかった。 丁度いい、気分転換が出来るかもしれない、と久は声のかかった方を振り返り、驚愕した。 「どうしたのですが?」 「い、いや」 彼に声をかけてきたのは、魔物であったのだ。姿は一見すると人間のようだが、間違いなく魔物であった。 その魔物は、ははあ、と納得したように、 「あなたは南の大陸の人ですね」 微笑みながら、言った。その微笑に久は自分の行為を反省する。 「しかし残念です。アイレス様の理想が聞き入れられない、というのは」 「アイレスの、理想……?」 「ええ。アイレス様は大地のエネルギーの還元を、あちらにも及ぼそうとお考えなのですが……あちらの人間はステレオタイプを強く持っているようで……と、失礼しました」 「……今、僕凄く混乱しているんです」 久は首を横に振りながら、肩を落とし、言う。彼に言われたことが、あまりにも自分に当てはまりすぎていた。 彼はしかしそんな久に対して、 「ならば、しっかりとこの地を見ていきなさい。この地はアイレス様の理想に近い。これでもってアイレス様の考えを知っていただきたい」 微笑みかけた。それは人間の微笑みと全く同じ、美しいものに久には思えた―― それを見た瞬間、久の心の中で何かが変わった。……吹っ切れた、といってもいいかもしれない。 「そうですね、真実を見れるよう努力します」 百聞は一見に如かず、である。 翌朝、駅舎に降り立った久の表情は晴れやかだった。 一瞬、信と目があう。お互いに頷きあった。 アイレスの居場所はすぐそこである。 終結の時は、近い―― |
続き
20060221
20070711改訂