プロローグ
「裏切り者には粛清を」 彼は、言った。 「なんで……こんなことになってしまったのだろう……」 青年はつぶやいた。彼の頬を涙がつたう。 遠くで、雷鳴がとどろいた。そして――次第に雨が落ちてくる。最初はゆっくりと、そしてだんだん激しく…… 山の、森の中。青年は雨に打たれながら一人、歩いていた。その足取りは重く、遅い。 雨が彼を打つ。涙は雨にまぎれ見分けがつかなくなり、そして彼の全身にこびりついた血を、洗い流してゆく。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 泣きながら、つぶやきながら、彼は歩く。 雨に足を滑らせ、彼の身体が崩れる。「っ……」 そのような中、近くで何かの気配が生まれた。彼は慌ててあたりを見回す。そして、見つけた。 そこにいたのは、一人の男性。ただし、異質な雰囲気が全身から発せられている、人間味が全く感じられない人物であった。 「謝ることはない。悔いることはない。君はヒトではないのだから。さあ行こう、君のいるべき場所へ。そんなに濡れてしまっては身体を悪くしてしまうよ」 それはそう言った。青年に向け手を差し伸べる。 だが、その青年は手をとらなかった。 雨は更に強くなるばかり…… |
続く
20050909
20070711改訂