2008年月マガ6月号妄想(1)
 朝日がまぶしい。
 帝国屈指の犯罪地帯と呼ばれる0番地区にも、さわやかな朝はやってくる。
 ここは浮浪児集団・タンブルウィードが隠れ家にしている廃屋。
 屋上に出る階段を、丈がいささか長すぎる大人向けのコートを羽織った少年が赤く腫れた右手を冷やすようにフーフー吹きながら上ってきた。
 たいしたことはないが少々ヤケドを負っているらしい。
「やれやれ。殺されるかと思ったぜ」
少年がブツブツぼやきながら屋上に出ると、そこには思わぬ先客が待っていた。
「おはよう、スナイプス」
「えぇっえ! ぁ、ぁ、C、C・J、お、おは、おはよ」
朝の明るい日差しの中に、すっかり朝の支度を終えた幼なじみがたたずんでいる。
 挨拶がてらにかしげたほっそりした首、むき出しのまだ大人になりきっていない華奢な肩。
 シンプルなベアワンピースは胸元から覗く黒いレースの下着がアクセントになっていて、まばゆい光の中でミルク色の肌がさらに白く輝いて見え、少年は奇妙にうろたえた。
 不意に風が吹いて背中まである真っ直ぐな黒い髪がたなびき、C・Jが払いのけるしぐさをする。なめらかな細い黒髪が先端のピンクがかった繊細な指先に絡みつき、困ったように伏せられた長いまつげに思わずドキリとした彼は……慌ててそっぽを向いて空気を誤魔化すように言葉を続けた。
「ど、どうしてココにいんだよ! 今日はウルスラと炊事当番なんじゃ」
「うふ。だってあの子とっても一生懸命なんだもん、邪魔しちゃ悪いでしょ。スナイプスこそどうしたのその手……ははーん、また余計なこと言っちゃったんだ」
「だってアイツ変だぜ、朝っぱらから塗ったくってよ。昨日の爆発騒ぎのせいで当分仕事は休みだろうに、一体何やってんだ」
スープだかシチューだかよくわからないごった煮の、熱いしずくをまき散らしながらぶっ飛んできた大きなオタマを思い浮かべ、スナイプスは肩をすくめた。
 どちらかといえば朝に強い彼は、今日も自分が当番でない日の普段どおり朝食準備の冷やかしにきて(手伝いよりは味見と称してのつまみ食いが目的なのだが)、一心不乱に鍋をかき回すウルスラの異変に気づき……気持ちわりぃ、仕事でもないのになに化けてんだよ、と正直な感想を述べただけである。
 普段の彼女はすっぴんでその言動は女らしさとは程遠く、C・Jと同様ウルスラのことも小さい頃からよく知っているスナイプスには、今の彼女がスリやかっぱらいでなく娼婦の真似事をやっているのが不思議でたまらないほどだった。
 ブロンドで元々愛らしい顔立ちのウルスラは化粧でソバカスを隠し言葉遣いや仕草をよそ行きにすればお人形のように可憐になるのだが、幼なじみのスナイプスにすればそんな彼女は“ウソっぽくてなんか変”としか思えない。
「あれ、わからないの? そんなのランデル兄さんのせいに決まってるじゃない」
「なんでさ。アニキ化粧した女なんか好きじゃないぜ、いつもアカシア姉ちゃんに言ってただろ。そっか久しぶりに会ったからか? なんか他人行儀だなぁ、アニキは客じゃないのに」
いぶかしげに首をひねる彼を見ながら、C・Jは呆れたようにそこいらの木箱に腰を下ろし空を見上げた。
「あーあ、こういう乙女心ってわからない男が多いんだね。好きな人の前ではキレイでいたいって」
「へ? ……あ」
スナイプスは話題に上ってるアニキよりはずっと乙女心を解する少年だったらしい。すぐに合点がいったようだ。
「でもなんか無駄な努力な気がする、アニキ絶対気づかないと思うぜ。ああいう手合いには面と向かってハッキリ言わなきゃわかんねーよ」
少年の言葉にC・Jは空を見上げたまま、可愛らしく眉を吊り上げた。
「そ、ホントその通り! 私いま、アカシア姉さんがランデル兄さんにイライラしていた気持ちが痛いほどわかる!! 兄さんって優しくて誠実だけど、乙女心をちっとも理解してないの」

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