「あの……少尉」
「なんだ?」
「私のプレゼントも……受け取ってくださいますよね?」
「そういえばまだ開けていなかったな。……何か妙なものなのか?」
彼女ならやりかねんとヴィッターは苦笑いを浮かべる。
「いえ、とても実用的なものです……そして、絶対受け取って、使用していただかなければいけないものであります!」
「キミにそこまで言われたら使わないわけにはいかんな」
プレゼントが成功したのと甘い抱擁にいい気持ちになっていた彼は、立ち上がると軽い足取りでツリーの植わったバケツの側にしゃがんだ。
プレゼントの箱を手に取るとフランシアが寄ってくる。ティラミスまでやってきた。
「どれどれ……。ん? 帽子……今度は黒か。あたたかそうだな、ありがとう」
「被ってみて。きっとステキだから」
フランシアはすっかり新妻の口調に戻っている。
彼は黒い毛皮帽を手に取ると被ってみた。
「おや、耳あてがついているのか。使わない時は上げておくこともできるのだな。前の部分も二重になっていて、うむ、これはあたたかい、ありがとう……。しかし帽子のプレゼントは、秋からこれでもう三つめだぞ。キミは男に帽子を贈る趣味でも……」
若い娘は、一瞬ばつの悪そうな顔をしたがすぐに笑顔で取り繕った。しかし、その奇妙な“間”がすべてを物語っている。
ヴィッターは帽子を脱ぎ、ぎごちなく笑っているフランシアに視線を向けた。悔しいが、脱いだとたんに頭がスースーするのは認めなければならない。
「さては! 帽子屋であたたかそうなニューモデルを見るたびに、私の頭を思い出すとかなんとか……」
「こ、こらティラミス、マトリョーシカにいたずらしちゃ駄目だぞ、まぁ大変早く片付けなきゃ」
フランシアは誤魔化すようにうつむくといそいそと人形を片付け始めた。
手伝ってなんかやらん、とそっぽを向いて椅子にふんぞり返ったヴィッターに、彼女の声が小さく聞えた。
「本当のクリスマスには、埋め合わせしますから」
彼は答えず相変わらずそっぽを向いている。だが天井を見上げながら、その顔はだんだん優しいものになっていった。
フロスト共和国は革命で宗教を否定すると同時に、非近代的だと旧暦も使用禁止にした。革命前は西方諸国の暦のほぼ二週間遅れになる、古い暦を使っていたのだ。
ほんの数十年前まで、新暦の一月七日がこの国のクリスマスだった。もみの木まつりは宗教を廃したことでお楽しみを失くしてしまった子供たちのために、政府が設立した新年の祝日にすぎない。
だから人々は年が明けてもツリーを片付けたりはしない。本当のクリスマスが来るまで――何食わぬ顔でしたたかにじっと待ち――当日は教会にこそ行けないものの、家族だけでしめやかな祈りの一日を送るのだ。
ヴィッターは再び壁のコートに目をやった。例のものは本当のクリスマスにこそ相応しいだろう。
あの日ならば、きっと私のまごころとして伝わるはずだ。
キミはあれを受け取ってくれるだろうか……。
足元に何かがぶつかった。青い握りこぶし大のマトリョーシカ。
ティラミスが咥えようとするのを素早く取り上げ、フランシアに手渡す。返ってくる微笑。
ヴィッターは残り一週間の勇気を持続させるため、良い結果だけを考えることにした。
犬と愛しい妻と暖かな家庭。
五十ピースのマトリョーシカもあるんだぞ、伍長。最後の娘は、米粒みたいに小さいんだ。
今年はどうしても手に入らなかったが、来年のクリスマスにはきっと。
そう、キミへのクリスマスプレゼントは再来年も。
その次の年も。そのまた次の年も。
この先、ずっと。