体がぶるっとして伍長は目覚めた。いくらも眠ってない気がしたが、空は白んでいる。時間を感じないほどの深い眠りだったのだろう。
少尉が夢に出てくるようになってからというもの、うなされて飛び起きることはなくなったが、それでもあの嫌な夢は伍長にまとわりついて離れなかった。しかし、今日は何も見ずに眠る事ができたらしい。
『少尉のおかげだ。少尉が一緒に眠ってくれたから』
ありがとうございます、と伍長は何も考えずに振り向いた。
体を回転させたせいで、背中にもたれるような具合になっていた少尉はころりと伍長の方に転がる。普段の凛としたのとは違う、無防備で無邪気な寝顔がこちらを向いた。誘うような半開きの唇。小さな白い前歯が愛らしい。
「…………」
息が詰まった。体が震えた。頭が真っ白になった。
思わず華奢な肩を抱き寄せて。甘い唇に吸い寄せられるように顔が動いて……。
突然、少尉の目がぱっちりと開き、伍長は脱兎の勢いで飛びのいた。
「あ、ああ朝ですよ少尉」
彼女は怪訝な顔をした。でっかいサンマ傷が目の前にあったような気がしたが……。
「奴らはどうしてる?」
飛び起きると些細なことは忘れた。いつもの凛々しい表情に伍長の顔も引き締まる。
雪原の夜は終わった。