(2)
 山小屋の中は静まりかえった。准尉たちはもう眠ったらしく、規則正しい寝息が聞こえる。マーチス准尉は熱があるしオレルド准尉も雪山で相当体力を消耗していたようだ。
 少尉はまだ起きているらしく不意に狭い背中が動いた。体の触れ合っている部分が少し増えたような気がして、伍長は嬉しくなった。
「寒い……なかなか暖まらないな、伍長」
「は、はい」
抱き合いましょう、と言いかけて言葉を飲み込む。そんな単語を思い浮かべるだけで息が苦しくなり体が強張った。
「震えているのか?お前も寒いんだな」
「は、はあ」
「どうすればもっと暖まるだろう」
「俺が」
背中から少尉を抱きしめて温めてあげます、と思ったとたん伍長の顔はカッと赤くなった。少尉の体は腕の中にすっぽりと納まるに違いない。やわらかくて、きっといい匂いがするだろう。
手持ち無沙汰な腕の中に、いつも眺めている後姿を思い浮かべた。金色の髪の涼やかなうなじ、気持ちよくすっきりと伸びた背中に細くしまった腰、小ぶりの引き締まった尻。そして背中の向こうには軍服をはちきれんばかりに押し上げている豊かな胸が……。妄想の中で少尉は厚手の防寒コートを脱ぎ捨て、コートを脱ぎすて、どんどん薄着になっていき、それにつれて伍長の体温も上昇していった。
「お前、暖かいな」
「は、はい?」
妄想の乳房に後ろから手を回しかけたところで急に話しかけられたので、伍長は大いに汗をかいた。
「体温が高いんだな。背中、熱いくらいだぞ。おかげて暖かくなってきた……ありがとう」
「あ、いえ。それはよかったです」
俺、役に立ったみたい。伍長は嬉しいような、申し訳ないような気分になった。
 やがて規則正しい寝息が聞こえてきた。少尉もかなり疲れていたのだろう。
「少尉」
小声で話しかけてみたが返事はない。ぐっすりと眠り込んでいるらしい。体を少し動かしてみたが、やはり反応はなかった。
 今、俺が振り向いたら。背中の少尉を感じながら伍長は熱くなった。振り向きたい。ほんのちょっとだから。ほんのちょっと。ちょっとだけ。
 しかし体が暖かくなったせいなのだろう、気がつくともう手足も動かないくらい眠くなっていた。ああ眠ってしまう。せっかく少尉の隣に寝ているという奇跡に遭遇しているのに。もっともっと少尉を感じていたいのに。悔しいなぁ、残念だなぁ……。

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