甘いよすが (1)
「少尉、すみません……私」
彼女は頬を真っ赤に染めると、シーツを引き寄せ、はだけた胸を隠した。
 あんなに激しく求め合ったのに、終わったとたん恥ずかしがると言うのもおかしな話だと思ったが、それだけ彼女が動転しているということだろう。
 今回の任務では、二人とも死を意識した。
 傷痍軍人とその妻を演じているこの安アパートに戻ってこられたのは、全くの奇跡だと言ってよかった。そんな常軌を逸した体験の後に心と体の興奮も冷めやらぬまま、営みに至る事は諜報部員にはよくあることで、自分も駆け出しの頃は任務が終わるたびに女を買いに走ったものだ。
「少尉あの……今夜は一緒に眠ってもらえませんか?」
 表向きは夫婦を偽装していたが、それぞれ別室のベッドとソファで眠る。そのようにして任務とプライベートを厳密に分けていたのだが、今もまだ小動物のように身を震わせ死の恐怖から冷めきっていない彼女に、私は無言で腕を伸ばしていた。
腕を枕にすると、彼女は安心したかのように目を閉じる。
『少尉と呼ぶのは私だけにしろ』
ふと、以前彼女に……伍長に言った言葉が脳裏によみがえった。彼女が何故、自分以外の男を“少尉”と呼ぶのがそんなに許せなかったのか当時は深く考えもしなかったのだが。
 今やっと気づいた。今日私は伍長を、自分を信頼してくれる大切な部下を命がけで守った。そしてそれと同時に、愛する女を命をかけて守ったのだと。
 ようやく穏やかになった吐息を聞きながら、私はささやいた。
「伍長……上官として男として、お前を守るのは私だけだ」
部下を守りたいと思ったことはある。女を守りたいと思ったこともある。だが、そのどちらも合わさった、こんな強い感情を覚えたことは今までなかった。
 返事はない。彼女はもう眠ってしまったらしい。柔らかな体を引き寄せると優しくくちづけた後、私も眠りに落ちた。

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