(2)
「すみません……すっかり動揺しちゃって」
あの夜からどれほどたっただろう。私たちは相変わらず偽装夫婦として暮らしていたが、もう眠るためにソファを使うことはなくなっていた。
「少尉ったら本当になめらかに嘘をつきますね。さすがエリート諜報員です。私はまだまだ」
アパートの向かいの老人に、子供はまだかい?とたずねられたのだった。彼女は赤くなったが、私は戦争が終わったら、と真顔で答えていた。
「嘘……なんですよね?」
彼女は片付けをしながらテーブルに話しかけている。私はソファに座り偽りのギプスをはずすのに専念していたので、半ば上の空だった。
実際どうなんだろう。戦争が終わったら。まずは彼女と平和を楽しみたい。しばらくは二人っきりで楽しんで、子供はその後だ。
「そう……だな」
彼女は何も答えない。私は一日中自由を奪っていたギプスをはずし終えてほっと一息ついた。やっと本来の自分に戻れる。
「伍長、片付けなんか後でいい。……私のとなりにこい」
 言われるがまま素直にソファに腰掛けたが、いつもにように甘えてこなかった。
「どうした?」
「そうですよね……いつまでも少尉、伍長と呼び合う夫婦なんておかしいですよね」
彼女の肩が震え頬に涙がこぼれる。
「どうしたんだ……?盗聴を心配してるのか?」
「違います!あの……私は……いつまで伍長なんですか」
慰めようと私はほっそりした体に腕を回した。涙を流す姿はいつになく可憐で、胸が締め付けられるように感じた。
「?……査定の時に声をかけておく」
震える首筋に唇を沿わせた。彼女が軍曹になったらそう呼ぶべきなんだろうか。でも初めてあった時のように二人きりの場合は伍長と呼びたい。お前はただの女ではないのだから。いや、本当は呼び方なんてどうでもよかった。名前なんてはかないものだ。任務柄、お互い偽りの名前で呼び合い抱きあった女なんて腐るほどいる。
「では……私が少尉を名前で呼んでもいいですか」
真剣な声だった。 彼女が何故こんなつまらないことにこだわるのかよくわからない。

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル