このお話について

こんにちは!管理人のカザンです。この小説は、以前WEB拍手ページで連載していたものです。
完結してかなり時間が経ったので、サイトの方にアップすることにしました(全14話です)。

此処にはいない君へ

1


 サイテーだ。サイテーの夜。これ以上サイテーの出来事なんて、なかなか見つからないくらい、ほんっとに超サイテーなんですけど……。
 僕は、ウインドーに映る自分の顔をぼんやりと見つめた。泣きはらしたブッサイクな顔の僕が、ジッとこっちを見返している。
 ここは大阪、心斎橋。
 えーっと、なんていう通りだったっけ。御堂筋……?だったかな。周りには、ヴィトン、ディオール、フェンディ、シャネル―――これでもかっていうくらい高級ブランド店が集結している。そのおっしゃれーな空間が、キラキラとまばゆい明かりで周囲を照らし出していた。この眺めは、ちょっと圧巻だった。
―――まあ僕には、全然まったく縁のない世界だけど。……っつーか、この省エネが叫ばれている現代で、電気の無駄遣いなんだよ!
「バカヤロー」
 大阪なんか嫌いだ。有名なグリコの看板も動くカニの看板も、電気の使いすぎだろーが。何でも派手にすりゃーいいってもんじゃねえだろ!
「車の運転は荒いわクラクション鳴らしまくりだわ、道行くおばちゃんは派手だわうるさいわ」
 僕はひとしきり文句を言い、そんな自分に馬鹿馬鹿しくなって肩を竦めて歩き出した。
 現在夜の八時過ぎ……。食欲もない、行くあてもない。
―――なーんにもねえ。あー、やれやれ……
 極彩色の街のネオンが涙で滲む。土曜日の夜、道行く人はみな楽しそうで、僕一人だけが不幸だ。
 僕は篠木亜樹良という。東京でサラリーマンをしている、何の変哲もない二十六歳。その僕が、どうしてここ大阪の地で一人やさぐれているのかというと……説明するとちょっと長くなるんだよな。
 つまり―――


 遠距離恋愛してた彼氏の浮気現場を目撃しちゃって、その場で別れちゃったから。

 あ、意外に短かった……。
 そう、僕の人生最大の不幸なんて、しょせんどこにでも転がってるレベルなんだっていうことだろう。しかし、僕にとっては大事件だったことに変わりはなく。
 しかも“元”彼氏は、言うに事欠いて『たまーに会っても、お前マグロだしさ、抱いてもつまんねえんだもん』と言ったのだ。浮気相手の目の前で!
 大学生風の、いかにも今時の若者といった感じの浮気相手は、半裸のままベッドに横たわり、面白そうにククッと笑って、『ヒデちゃん、それヒドイんちゃうぅ〜?彼氏泣きそうやで』と余裕ブチかましてくれた。
「何が『ヒドイんちゃうぅ〜?』だ。あのクソガキ!気色の悪い関西弁使いやがって」
 僕はブツブツ独り言を言いながら、人の波を縫うように御堂筋を歩き続けた。
 結局、ヒデちゃんこと“元”彼氏は、ベッドから下りもせず『俺ら男同士だしさぁ、浮気くらいして当然じゃない?』とまで言って下さったのだ。開き直りも、ここまでくればある意味アッパレだと感心してしまう。
『わかったよ!もう別れるっ!』
 それ以上みじめな思いをしたくなくて、僕はそう叫んでマンションを飛び出した。ヒデちゃんは追ってこなかった。それくらいの付き合い―――それは、付き合い始めた頃からわかっていた。
 ヒデちゃんが好きだったのは、僕のこの一見派手で勝ち気そうな外見。
『なんか、シャム猫っぽいよな、お前の顔って。すっげーそそる』
 クラブのゲイナイトでそう言われて口説かれ、その三時間後にはベッドイン。本当はもっと時間をかけたかったけれど、ヒデちゃんに、そうするのが当然って感じでラブホに連れて行かれちゃったから、流されるままイタしてしまった。
 コトが済んだ後、ヒデちゃんはちょっと不機嫌そうな顔をしていた。僕が痛がって、なかなか入れられなかった上に、僕が結局最後まで痛がって萎えたままだったから。
『もうちょっと慣れてるかと思ったけど……。お前、俺で何人目よ?』
『二人……目……』
『カー!その顔で初心者かよ。詐欺じゃん!』
 その時はムッとしたけど、ヒデちゃんは面白かったし、格好良かったから付き合い始めることになった。僕の方だって、結構いい加減だったんだ。めちゃくちゃ好き!っていう感じもなく、ただ一人になりたくなかったから付き合い始めたっていう部分もあった。

―――捨てられて当然かも……

 僕はそんなことを思いながら、橋の上に差し掛かった。左手に、グリコの看板が、凶悪なほどの極彩色に彩られ、無邪気に両手を上げているのが目に入った。
 僕は橋の上で足を止め、しばらくボーッとその光の洪水を眺めていた。
「昨日オープンしました。どーぞ!」
 横合いからにゅっと手が出てきて、僕の目の前にティッシュを差し出す。反射的に受け取ってしまい、裏を見ると、『道頓堀橋すぐそこ!激安ネット&漫画カフェ!漫画蔵書2万冊!今なら20%OFF!!』と書いてあった。
「へえ、ネットカフェかぁ……。道頓堀橋って……あ、ここか」
 じゃあ、すぐそこなわけだ。僕はキョロキョロと辺りを見回し、それらしき看板を見つけた。
 行くあてもないし、今から東京に帰る気力もない。ネットカフェで一晩明かしてやろうかな。ネットするか漫画読んで、飽きたらそのまま寝ちゃえばいいし。
 僕は、その看板目指して歩き出した。やっぱり大阪、派手な看板だなぁ―――なんて思いながら。


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