『first』







 ゆらゆらと乳白色の霧が漂う森の中。

 一人の少年が、なにかを捜して彷徨っていた。


 「―――、どこ?」

 名を呼んで、辺りを見回しても応えはなく、

 ざわざわと木々だけが揺れている。


 静かな森で、ただ一人きり。



 徐々に広がっていく不安の中で、

 「―――っ!」

 再び捜し人の名を叫んでも、

 静まり返った森の中に少年の声が反響するばかり。


 「…っ、―――!」

 静寂に耐え切れなくなった少年は

 応えない誰かを求めて、走りだす。





 散々走り回って、

 「…は…ぁ…」

 息を切らせながら、少年は立ち止まる。


 そして、ふと気付いた。



 …僕は…誰を、捜していたんだっけ…?


 とても大事な人…だった。

 手放したくない人…だったはずだ。


 早く思い出さないと 忘れてしまう。

 早く思い出さないと 記憶の彼方へ 追いやられてしまう。


 大切な、大切な、人なのに。



 「僕は…誰を…」


 少年が呟いたとき、

 霧に霞んだ森の向こうに、淡い金の色が浮かんで消えた。



 「…あ」

 足元に散った小枝を蹴散らして、

 少年は駆け出していた。



 木々の間を抜けて、一歩一歩近づいていく。

 視界の向こうで霞んでいた影と、ぼやけていた記憶とが、段々と鮮明になっていく。


 ―――そうだ…僕が捜していたのは…―――

 

 「グレミオ…っ」


 少年の呼び声を受けて、束ねられた金髪と緑のマントが翻る。

 振り返って微笑むのは、辺りの木々よりも鮮やかな翠の瞳を持つ青年だった。


 「グレミオ!」

 大地を蹴って、

 懐かしいその腕の中へ飛び込んでいた。


 「やっと、見つけた…」

 離さないようにと強く衣服を掴んでくる少年を愛しそうに見下ろして、

 青年もまたその身体を抱きとめる。



 「もうどこにも…行くなよ」

 そう呟いて衣服に顔を埋めた少年の頬に

 ふっと青年の手が触れた。



 「……グレミオ?」


 長い指がその頬を上向かせるように滑ったかと思うと、

 間近でふわりと微笑んだ青年の長い金髪が、少年の漆黒の髪に降りかかる。


 その翠の瞳がぼやけるほど近づいて、


  ―――…坊ちゃん…―――


 「グレミ…」

 驚いて相手の名を呼ぶ少年のくちびるが開いて、

 互いに触れ合う…寸前―――――






 (……ューイ………)




 (リューイ……きろ…)







*****




【本編1へ】






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