リューイはずっと俯いている。


 珍しく殊勝な態度だと思いながらグレミオが少年の言葉を待っていると、

 「あの…ぼく、朝起きたら…寝間着と、その…下着が」

 この少年にしては歯切れの悪い口調でそう切り出してきた。

 少し赤く染まった頬と、先ほど少し耳に飛び込んできたテッドとの会話とを合わせて、察しのよいグレミオは少年の言わんとすることを悟った。

 「…解りました。 ―――ちょっと待って下さい、着替えを用意しますから」

 その声から刺が抜けたのを感じて、少年は顔を上げる。

 まだ不機嫌そうではあったけれど、先程よりもグレミオの表情は和らいでいた。

 「これに着替えて下さい。ついでにシーツや掛け布団も一緒に干しておきますから」

 「・・・うん」


 リューイは差し出された着替え一式を受け取ると目の前で手際よくシーツをたたみ始めたグレミオを見上げて、何か言いたそうな顔をする。

 けれど――


 「それじゃ、坊ちゃん。下に朝食ができてますから早く食べてしまって下さいね」

 グレミオはそのまま掛け布団を抱えて、扉の方へと歩き出してしまう。

 (あ…――

 その背中を見て、リューイは受け取った服をぎゅっと握った。


 グレミオの手が扉のノブにかかったところで、

 「…っ待って」

  少年の戸惑った声がその背を引き留める。


 「これ…どうしたら…」

 消え入りそうな口調から何を言わんとしているか察したグレミオは、一瞬複雑な表情をした後に、抱えていた布団を床へと置いた。

 薄いシーツのみを持ってリューイの側へ歩み寄る。


 「これを掛けて下さい」

 シーツを差し出すと、リューイは戸惑った様子を見せながらも素直に受け取った。

 恥ずかしそうにしている少年へのせめてもの配慮である。

 「あの…」

 「恥ずかしいことじゃないですよ。男なら当然のことですから」

 少年の側に腰を下ろして、グレミオは安心させるようにゆっくりと喋る。

 いつもの優しい表情と、声色に戻ったグレミオを見て、リューイの表情もふっと緊張が解けたようだった。

 「でも…変…だよ、こんな」

 「変じゃないですよ。ある程度の年齢に達するとそういうことが起こるんです。女性の月経と同じで、男の生理現象ですから。

 坊ちゃんはどちらかというと遅い方です。だから、安心して下さい」

 「そう、なんだ」

 「まあ、本当ならこういうことは父親であるテオ様から教わるのが筋なんでしょうけど、いらっしゃらないので仕方がないですね」

 「じゃあ…これどうしたらいい、の?」

 「それは、その…中のものを出してやればいいんですが」

 

 「どうやって?」

 無垢な少年の問いかけは時に残酷である。


 「それは―――その…手で」

 刺激を与えてやるんですよ、と言葉を続けながらもグレミオの口調も歯切れの悪いものとなる。

 「手で、触るの? ここを? …ん…っ…」 

 実際に触れてみたのだろう。少年の口から何ともいえない声が洩れた。

 育ての親とはいえ、さすがにこの場にはいない方がいいだろうと、グレミオは立ち上がる。


  「それじゃ、坊ちゃん。後でちゃんと朝食を取って下さいね」

 そう言って、グレミオが背を向けた途端、

 「待って…よ。これって自分でするの?」

 再び降りかかって来た質問に、グレミオは一瞬、本気で目眩を覚えた。


 「坊ちゃん…あの、ですね」

 振り返ろうとして気付けば、少年の手にシャツを掴まれている。

 「だって…身体に力が入らな―――

 「そういう場合は自分でするものです。…まあ、人にしてもらう場合もあるにはあるんですが―――っていや、今のは」


 動揺して思わず妙なことを口走ってしまった。



  「他の人でも、いいの?」


 じっと見上げてくるのは、無垢な瞳。

  ・・・覆水盆に返らず。

  ・・・後悔先に立たず―――とはこのことだろうか。



 「いえ、坊ちゃん、今のはその、相手が嫌がらなければですけど…でも」

 もっと大人になってからですよ、続けようとしたグレミオの台詞は、

 リューイのとんでもない台詞に打ち消されることとなる。 


 「じゃ…グレミオ、してくれる…?」

 「…………え」

 「駄目?」

 「坊ちゃん―――

 「いま、他の人でもいいって」

 「坊ちゃん、それはそんな風に軽々しくいうことではなくて…っ」


 失言を慌てて訂正しようとするグレミオを見て、リューイは傷ついたような顔をした。

 「だって父さんは今いないし…パーンは適当なこと言いそうだし、テッドは絶対からかうよ。だから――…グレミオがいいのに。

 グレミオは…ぼくに教えるの嫌なんだ」

 「いえ、あの、そうではなくて」

 「そうだよね…嫌だよね。こんなこと」

 「違いますって!」

 「いいよ、もう」

 リューイは涙を浮かべて顔を逸らせた。

 

 「坊ちゃん…」

  そんな少年の傍らで、グレミオもまた途方に暮れて立ち尽くしてしまう。


  付き人という立場からのひいき目を差し引いても、この少年は様々なこと――学問や兵法、武術などにおいて他の子どもよりも優れていると断言できた。

 しかし、こういったことに関してだけは同じ年頃の子と比べても幼いところがある、とグレミオ自身気づいてはいた。


 「グレミオのばか…っ。もう出てってよっ」


 それは父親であるテオが家にいることが少ないということも理由の一つではあったが、

 何よりも、そういったものから遠ざけていたグレミオ自身の過保護が一番の原因であったからだ。


  ―――…」



 頑なに背中を向けてしまった少年を見てグレミオは迷ったが、

 最後にはため息をついて覚悟を決めた。

           

 「…わかりました。今回、だけですよ? まったく…後で後悔しても知りませんからね」

 グレミオはリューイの側に歩み寄るとベッドに腰を下ろす。

 「坊ちゃん、こちらを向いて」

 しかし拗ねてしまった少年は、そう声を掛けても返事をしなかった。


 「――坊ちゃん」

 グレミオはそんな少年の身体を引き寄せると、背後から抱えるように膝に乗せた。


 二人分の体重でベッドがぎしり、と沈み込む。

 「えっグレ…」

 驚いて振り返ろうとしたリューイの手のひらの上から、グレミオの大きな手が重なる。


 「坊ちゃん、手をどけて下さい」

 「う、ん…」

 少年の手がシーツから出ると同時に、

  「…っ!」

 グレミオの指が布越しにリューイのものに触れた。

 自分が触れていた時とは比較にならない感覚に、少年の身体がびくりと震える。

 「…や…っ…グレ…っ」

 指がその形をなぞるように動いたかと思うと、手のひらに包まれて――…初めて他者から与えられる刺激に、リューイは身体を竦ませた。

 「…ふ…っ…、…ん…っ」


 きつく腕を掴んでくる少年の身体を空いた手で引き寄せながら、グレミオは囁く。

 「大丈夫ですから…坊ちゃん、力を抜いて」

 「グレミオ…っ、や…変っ…夢より…ずっと、ヘンな気分になっちゃ…」

 「夢? ああ、そういえばテッド君が言っていましたね。普通なら綺麗なお姉さんか可愛い女の子が相手だろうって…」

  身体を捩ってしがみついてきた少年を少しでも宥めようと、グレミオは扉の向こうで聞いた会話を思い出す。

 「う…ん」


 「どんな夢だったのか聞いてもいいですか?」

 口にしてから、この質問はまずかったかと思ったが、リューイは素直に口を開いていた。

 「濃霧の…ん…っ…森の中で…人を捜してた…必死で…追いかけて…置いていかないでって…あ…っ…や…」


 「誰を捜していたんですか?」

 「そ…れは…」

 少年は一瞬物言いた気にグレミオの顔を見上げたが…しかしすぐに俯いてしまう。

 上気した頬が更に赤く染まっていた。


 その様子を見て、さすがに答えられないのだろうと察してグレミオは問いかけを変える。

 「・・・坊ちゃんの、大事な人なんですね」

 リューイは、掴んでいたグレミオの腕をじっと見詰めた後に

 汗に濡れた頬をこくりと動かして頷いた。


 「…ようやく…見つけて…抱き合って…ん…っ、グレ…ぇっ」

 いつもよりも高い声を上げてしがみついてくる少年の熱を感じながら、

 グレミオは戸惑いを覚えている自分に気づいていた。


 ほんの幼い頃からずっと見てきた少年だ。


 「ん…っぅ、グレ、ミっ


 そのリューイが性を意識する年頃になり、こんな反応を見せるようになったと思うと、

 ――意図せず、少年を抱く腕に力がこもる。


 「それから、どうしたんですか?」


 「っ…グレ…や…っ…もっ」

 リューイの指が青年の背に強く食い込む。

 けれど、グレミオの口は、少年に夢の続きを促していた。


 「最後まで教えてくれないと駄目ですよ?」


 この腕の中だけにいて欲しいと思うのは、我が儘だろうか。



  「抱き、締められて…キス…ぁ…っグレミオっ、なに、かっ…っ来ちゃ…っあ、

  少年の切羽詰まった声にグレミオはふっと我に返って、追い上げる手を緩める。


 少年の身体を抱き寄せて、

 「坊ちゃん、我慢しなくていいですから」

 導くように耳元でそう告げた、刹那。


 「っ…ん、やぁ――っ…ぁ」


 肩にしがみついた少年の一際高い嬌声が上がる。

 「…っ」

 グレミオの手の平から温かい少年の蜜が流れ落ちていく。

 

 「…は…っ…ぁ…グレ…」


 腕の中で呼吸を整えようとする存在はまだ幼い。

 少年を腕に抱いて一瞬過りかけた危うい感情に、何を馬鹿な、とグレミオは頭を振った。




 「坊ちゃん、大丈夫ですか」

 「はぁ…、ん…平気…」

 熱を解放したばかりの身体を持て余すように、リューイはグレミオの肩に顔を埋める。

 「…へいき、だけど…なんだか…」


 (…なん、だか…このまま離れたくない)


 グレミオともっと…。

 もっと…何? 



 無意識に浮かんだ欲求に少年が戸惑っていると

 「坊ちゃんにも抱き合ったり、キスをしたい人ができたってことですよね」

 少し、淋しそうなグレミオの声がリューイの髪に触れた。


 それを受けて、少年はグレミオの肩に凭れたままぽつりと呟く。

 「キスは…してないよ?」

 「え、ですがさっき」

 「寸前で、テッドに起こされたんだ」


 「それは、残念ですね」

 けれど、見上げたグレミオの声も表情もすでにいつもの付き人の顔で、

 そんなグレミオの態度になぜかリューイは物足りなさを感じてしまう。


 「相手…誰か聞かないんだ」

 「教えてくれるんですか?」


 意外そうなグレミオの声が降ってくる。

 それは…夢の中と同じ、声で。


 (ぼくが夢の中で一緒にいたのは…)


 夢で触れ合い損ねた相手が、もう少し近づけば…それが叶いそうな程近くにいる。

 もう少し手を伸ばせば…。



 「坊ちゃん?」

 「えっ、あ・・」

 グレミオ声にふと我に返った少年は伸ばそうとした手を慌てて隠していた。


 「――やっぱり、教えない」

  「意地悪ですね」


 今度は、少し残念そうなグレミオの声

 それが、立ち上がろうとしたグレミオの腕と一緒に離れていきそうになって――


 「坊ちゃん?」


 思わず、袖を掴んでいた。



 ――うまく言えないけど、いま…この人はぼくの、って思った。



 たぶん、ずっと前から――夢の中と同じように、いつも優しく抱きとめてくれていた腕。

 それは、夢の中だけじゃなくて、いまこの瞬間も大事な大事なものだということ。




 「えっと…」



 今は全身がだるくて、それ以上考えるのが面倒になっていたけれど。



 …だけど。こうしているのはとても心地いいから。


 「まだ身体に力、入らないからもう少しこのままでいて」




 グレミオの胸に身体を預けて、リューイは目を閉じた。





〈了…?〉



 無防備坊ちゃん。前にして、もしかしてグレミオさん大変??にやり♪爆。

 えーと。まさに据え膳のような状況ですが、一応表の話とも微妙に繋がっておりますので、ここでストップです☆坊ちゃん若すぎるし!笑。
 (表と直接、は繋がりません。これは互いの自覚話(裏用v)のつもりなので。表は表で別にやりたいな〜と^^)

 一番スキなのはグレミオ×16,7歳坊ですが、頭が裏モードのときはグレ坊ならお互いどんな年齢でもオールマイティOKという腐れアタマ装備だったりして。(何でも書けるというより拒絶反応はないの意ですが…)でも裏といえどそのへんは自粛なり。笑。

 しかし…裏話といいつつ最後までコトがないのは珍しいような。。。汗。
 期待ハズレで申し訳アリマセン・爆。18禁というより15禁くらい、でしょうか。あ、でも坊ちゃんの声だけなら18禁っぽいデスネ。自爆。(←・・・状況的に素直に反応しそうだから、あんな感じかなとvv(もう喋るな) 

 そして。本当はここで終わりだったのですが、
この後、我に返った坊ちゃんはどんな顔をしてグレミオと一緒に朝食をとったんだろう!?
と、考えると顔が戻らなくなりまして。

 ゆえにオマケ追加vよろしければどうぞ。
→→→『first☆オマケ』



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  未知の体験に戸惑う少年の傍らで、グレミオもまた途方に暮れて立ち尽くしてしまう。



けれど、そう返すグレミオの声も表情もすでにいつもの付き人の顔で、

 そんなグレミオの態度になぜかリューイは物足りなさを感じてしまう


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