超個人的に意見させてもらうとしたら、2言につきる。
その相手はマリー・アントワネット
美人で、貴族
以上だ。それ以外の何者でもない。
マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ドゥ・ロレーヌ・ドートゥリシュ。なんたるフランス的な名前!かのハプスブルク家出身の皇女は、国民に愛されずともその名をしてフランスを体言していた。例えそれが、あとで与えられた名だとしても。今現在までフランスがオーストリアを嫌う原因の一因となっているとしても。
論じたい事件の多い彼女だが、最も目を引くエピソードはその死ぬ間際。
フランス王妃マリー・アントワネットが美人であることは、今現在の感性からして絵画から読み取ることは出来ないが、貴族であり続けた事実は伺える。
ギロチンでの処刑を好み、戦場にまでギロチンを持ち出したと言われるフランスにおいて…





四月の一目惚れ〜前半〜





「もう少し高校生らしい内容で書けないのか」
「何それどうやって書けばいいの?」
「…頭が良いと利口は別物という説は、お前にこそ相応しいな京介」
「ああ、もしかしてルイ16世の方に脚光を浴びせるべきだったか?実は独立戦争のパトロンだもんなぁ」
「うるさい、兎に角授業の感想にガチで挑むな!!」
4時間目世界史B。終了後13分ほど。それでも律儀にグーグー腹を鳴らしながら待っていたジャックに、京介はニッと笑って見せた。
「大丈夫だって!俺達どう考えてもこの時代は庶民じゃん。革命とか何それだよ、草食ってでも生き延びるさ」
「俺は革命よりもまず昼飯の心配をしているんだ!いい加減にしないと置いていくぞ!」
いつもの光景と、級友達はもう気にもしない。ほぼ毎日、ジャック・アトラスの罵声と緊張感のない鬼柳京介の声が作り出す温度差が存在していたのだから。何故この2人が友達をやっているのか、それは学園の七不思議に入るけれど。
これでもこのふたり、近隣随一の進学校である第二北男子高等学校なる何処でもありそうな名前の高校内では有名だ。近所の女子高生徒達に二双の王子などと韓流だか乙女だかわからない二つ名で呼ばれる、2年3組の名物でもある。1年の学校祭にて双方の顔を拝もうと数多の女子が暴走したとかで、学年審査時会議に出た先生方満場一致で同じクラスにねじ込まれたという曰くを持つ。
因みに本人達は、全く全然騒がれているという自覚はない。彼らをよく知る女性からして(幼馴染であるとか、姉であるとか)、顔はいいよ喋らなければ…という態度を崩さないせいでもある。





出だしが遅いせいで選択権なくうどんになったジャックは不機嫌だ。長身で燃費の悪い彼は、できれば味はともかく量と値段は良心的な定食を狙いたい。なのにうどんと蕎麦しかない屈辱など、ジャックとまではいかなくともそこそこの身長を誇るくせに小食の京介にはわからないと思っている。
「くそっ、お前と違って俺はこんな粗食耐えられぬというのに…」
「いや、何回も言うけどさ?俺別に小食じゃねぇよ。丼2杯とか食うよ。ただ少なくても平気なだけで」
姉ちゃんがカレー作った日は俺だけ特盛りノルマ3杯だし
シチューの日はノルマ4杯。おでんの日は鍋1/3。
物凄く大量にしか作れない2番目の姉と、料理上手なのに滅多に作らず作ればフルコースの一番上の姉。父子家庭ならではの姉達が持つ権力に、京介と父は抗えない。
「朝食も夕食もそれだと、昼食くらい軽くしてぇの」
だから弁当持参は断固拒否!な京介の心情をジャックは理解しない。
「それにしても、間食も一切しないだろう。3時間目に回る菓子も口にしない」
「父さん溺愛うちの金持ちな叔父さんのせいで、甘いものはトラウマだ」
ケーキ屋に入ったらとりあえず全部、なんてお土産を毎週される身にもなれ
ふむ、と。ここで一旦の理解は得ただろう間に、京介は一時の満足を得、食事を再開する。しかし京介は気付いていた。ジャックが黙ったのは、理解したというよりはごく個人的な思考に捕らわれた事を。
きっと食いにくるって言うんだろうな…
思いはしたが、まあそれは願ったり叶ったり。この頃ダイエットがどうの肌がどうのと、姉達は京介にケーキノルマ6個を言い渡している。それが少しでも減ってくれるのならば、文句はない。
しかしうどんを食べ終わり、ご飯の大盛りも一粒残さず完食してから。ジャックの持ち出した提案に、京介は目を丸くした。
「物は相談だが。今度カノジョを連れて行っていいか?あれは甘いものが好きだが自分では不経済と買わないし、俺も学生の身分ではなかなかご馳走する事も出来んしな」

………カノジョ?

「…カノジョって、初耳なんですけど」
「言っていなかったか?」
「ロミジュリの届かなかった手紙くらい聞いてねぇ」
例えが微妙だな…
眉を潜めたジャックに、京介はずいと手を伸ばした。
「写メとかねぇの」
「ない」
ジャックはすかさず白い携帯を京介から遠ざける。写真は入っていないけれど、履歴を見られるのは困る、といったところか。
むずむずと、珍しくも京介は好奇心を刺激された。
確かにジャックとは、学年が上がりクラス替えで同じクラスになってからの付き合いで。まだ1週間しか一緒にいないけれど。有名なこの男に彼女がいるならば、確実に噂になっていてもおかしくはない。なのに一度もそんな事を聞いた事がないのは何故だ?
「…まあ、食ってくれるならありがたいしいいぜ?連れてきて。でもその前に、会わせていただきたいね」
是非ともその謎の彼女さんに
にっと笑って言った京介に、そうくると思っていたのだろう、ジャックは小さくため息をつくと手を振った。
わかった、連絡はする
そんな仕草。それだけで、珍しくも放課後が楽しみになった京介は。これだからジャックの友達は止められないと思った。何が出てくるかわからない。










名誉ある死とはなんだろう。
君主論でも、勿論マリー・アントワネット的死でも。
無実だからこそ誇って死ねると言えるのは、ただの見栄であり洗脳の賜物なのではないか。
貴族として立派に死ぬ事。見苦しい行いを人前で晒さないこと。それはとてもごく個人的な感情であり、他人がどう思うか、どう行動するかまで考えが及んでいないのではないか。
多分どの時代においても庶民である自分は、ならばどのようなときに名誉ある死を実感できるのだろう。君主論など放り投げ、貴族的洗脳も施されていない自分は。
生きる基礎が違う。見る光景に対する意味が違う。桜はただの花で、散り際が美しいなど思えない、咲いてこそと思うこの心情を。どう変えれば、名誉ある死を実感できるだろう。
色々考えたが、正しいだろう答えにはいまだ行き着いていない。ただひとつ、これだけは言える事。
誰かのためになら死ねる…そんな心情が名誉ならば、そう感じる奴はクソだ。





ジャックの彼女は、近所の桜花女子高等学校という、如何にも女子高です!な名前の高校に今年入学したらしい。今まではかなり離れた学校の中学生(ジャックの家からは近いらしいが)で、しかも幼馴染。それが噂にならない一端を担っていたようだ。
経済観念が物凄く質素で、デートなどという金のかかる行為は好まない。できれば一日中家に篭ってジャンクと戯れたい…そんな一風変わった彼女で。ジャックは少しだけ、それが不満なようだ。
「この俺の彼女だという自覚がないにもほどがある!いつもジーンズにTシャツだぞ?手に持っているのは半田鏝かドライバー!ちょっと顔が可愛いからといって、なんでも許されると思うな!」
憤慨しながら道を歩くジャックは、そこかしこにいる桜花の生徒の顔色が変わった事には気付いていない。勿論京介も気付いていないけれど。
「ジャックをして可愛いと言わしめる顔ってのは凄ぇな。どんだけ美少女だよ」
「普通だ!飛びぬけてなどおらんからな!ごく普通だ!」
「大丈夫だって、多分お前の好みは俺の好みじゃねぇよ。俺の理想は高いんだ」
この辺で、平気そうな顔をしていた桜花生徒も青ざめたが気付かず。
「つか美人は生憎見慣れてる。うちの姉ちゃんら、喋らなければ美人らしいからな。俺は俺に答えをくれるやつが好み」
「なら一生出会えんな」
はっと鼻で笑ったジャックの背を叩く、京介も少しそんな気がしていたから。
答えのない問いに答えてくれる人なんて、きっと一生出会えない。





待ち合わせの某ファーストフード店で、何も注文することなくちょこんと椅子に座るジャックの彼女。を目前に、京介がしたことは。飛び出た突起という名の寝癖?を掴む事だった。
流石に不躾なことはわかる。わかるのだが、顔を確認する前に気になって気になって仕方がないではないか、この寝癖?は!!
「すっげ、何これすっげ!」
「京介!!」
掴まれた本人は、至って普通。というか感情が顔に出ないのか、普通に見える。別に嫌がっているわけでもないらしく、大人しく掴ませていて。怒ったのはジャック。しかしジャックはいつも怒っているからか、京介はピクリともせずマジマジと髪の毛を眺める。
京介の手を振り払ったのは、だからジャックでもジャックの彼女でもなく、横から伸びた小さな手。
「何してる!!」
バシと、音が鳴るくらいに。強く強く叩かれ咄嗟に手を離し、叩いた相手に目を向けて。京介は一瞬だけ息を呑んだ。
橙。最初に目に入ったのはその色。大きなヘアバンをやや高くつけすぎて所々ぴょんぴょんと立っている、それでも柔らかそうな橙の髪。
大きな目。キャットアイと呼ぶに相応しい、つり目。そして青と白が混ざり合った青灰の瞳。
目以外全体的に小作りな整った顔が、今は憤慨を全面に表していて。桜花の制服に包まれたその小さな身体もまた、ジャックの彼女を庇うかのように全身で立ちはだかって。
小さいのに、大きい。そんな錯覚を京介に与えた。
「遊星嫌がってるだろ!」
「いや別に、嫌ではない」
「って嫌がれよ!普通嫌だろ何処の誰ともわかんない奴に髪捕まれんの!」
「ジャックの友達だから…」
パタと、そこで声が止まった。声を張り上げているのに女性特有の金切り声にならない、どこか芯の通ったそれが聞けないのは残念だ。思った時点で、京介は首を傾げる。
残念?
「ジャック!お前友達選べ!」
また鳴り出した声に、漸く我に返れば。今度はジャックが掴みかかられていた。ジャック自身は、まるで慣れているとでもいうように軽くあしらっていたけれど。
「あ〜、ごめん。俺が浅はかだった。確かにいきなり髪掴まれるのは気持ちいいもんじゃないよな。えっと、遊星さん?本当にごめん、斬新すぎて我を忘れた」
だから、京介がまずやることは謝る事。ジャックの彼女はふると小さく首を振る。本当に気にしていない顔で。
それから、憤慨した顔のままの、どなたかわからないお嬢さん。
「君も、ごめん。遊星さんの友達?ってかジャックの友達?どっちでもいいけど、あんま叫ぶと喉痛くなんない?」
「あんたがそれを言うか!」
「うん、だよね。申し訳ないついでになんかご馳走すっけど、いる?」
パタと、声が止まった。大きな青灰が、真っ直ぐに射抜くように見つめてきた青灰が戸惑いを見せ、やがて一点で止まる。その視線を追った京介は、期間限定メニューの載ったポスターにたどり着き、大きく頷く。
このお嬢さん、簡単な事なら買収は効く。





ジャックの彼女の正式名は不動遊星。きゃんきゃん言っていたお嬢さんがクロウ・ホーガン。2人ともジャックの幼馴染であり、ご近所さん。というか、遊星とクロウは同じアパートで同居しているらしい。
実家は?聞けば、
「うちら孤児だから」
けろっとした顔で返される。初っ端から重い。でも京介も、けろっとした顔で暴露したから同じだ。
「そっか。俺も非嫡出子だから、今は孤児みたいなもん」
まあ、書類上だけだけど
母親が亡くなった今、父親の戸籍に養子として入ったところで扱いは変わらない。
にっと笑って言った京介に、そんな返答を望んでいたわけではないだろう(当然だ)クロウが目を丸くする。
「勿論今一緒に住んでるのは本当の父親だし、姉ちゃんらだって半分は血が繋がってるし。両母親もういないから、別にごたごたはしてねぇよ?だから安心して週末遊び来ていいから。なんなら飯も食ってって、ていうかお願い食べてください」
拝むように手を合わせた京介は、その仕草に小さく笑った遊星に笑みを返す。
物凄くインパクトのある髪型のせいで気付かなかったが、普通と言ってしまうには整った顔立ちの子。アイラインをきっちり引いたような印象的な青の目と、通った鼻筋。ジャックが警戒するのも頷ける。
ただ芯の強さは、きっとクロウの方が上。はむとハンバーガーに噛り付いていても、警戒心を失わない目はまるで猫のようだ。今頭を撫でたら、きっと引っかかれる。
でも、ちょっとだけなら撫でても怒らないかな…
むずむずと伸びそうになる手を、100%引っかかれるという理由でさ迷わせ。コーラを手に取ったところで聞こえてきた会話は、ジャックの京介批判。
「名誉ある死に対して納得いく答えがほしいなどと言う。今日も授業でフランス革命あたりをやったんだが、授業の感想をガチで挑んで俺が食いっぱぐれた」
食ってただろ、うどんと丼飯…
突っ込みたくても、演説を始めたジャックのトークに割り込むのは至難の技だ。
「最も恥ずべき死は、誰かの犠牲になって迎える死だとか言うんだ。自己犠牲は偽善的であまりにも独断的すぎると言ってな。愚かだと思わないか?」
「何故愚かなのか説明できなかっただろ、ジャック」
漸く割り込めば、なんだかその声は拗ねていて。自分でそれに気付いた京介は、小さく笑う。初めて会った女の子達の前で、あまりにも素を見せすぎていないかと。
そのときクチャと、包み紙を丸める音がした。

「解釈は二通りあると思うけど、どっち」

身体に見合った小さな手。でもすらっと長くて器用そうな人差し指と中指が突きつけられる。
何を言われたかわからずに首を傾げた京介に、指を突きつけたクロウは呆れ顔。でもそれは、しょうがないなとでも言いそうな顔。
「あんたの自己犠牲に対する解釈は、まるで嫌悪だ。理由のない嫌悪…でも何に対しても、なんとなく嫌いなんてことはねぇよ?理由がないと思うのは、気付きたくないからっていう場合が多いと思うけどね。何で気付きたくないかっていうと、それは結局自分を省みなきゃいけない場合が多いから。誰も自分の嫌ってる部分になんて、蓋をしたくなるだろ」
だからその嫌な部分を他者に見せ付けられると、無意識に嫌う
「だからあんたの自己犠牲嫌いは、自分のそんな性格を嫌っているからっていう解釈」
中指がすると、握られる。
「もうひとつは、不可能と思うからこその憧れ」
どんなに願っても、どんなに望んでも。無理だ、絶対に出来ない。そんな絶望を感じる瞬間は、誰にでも用意されている。
「自分には出来ない、そうわかっているからこそ憧れて、そんで最後に嫌う。それを認めるのが怖くて、こっちも蓋をする。その蓋にあれこれ理由をつけて取り繕う。でもその行動は、ある意味では自分をわかっているからこそできる技で、先に上げた解釈とは逆の行動だよな」
どっちかっていうと、あんたならこっちか?
呟きながら、折られた人差し指。クロウの目から、呆れは消えない。
「あんたもう、答えは出してるんだ。ただ認めたくないだけで。でも俺は、そんな答え認めなくていいと思うぜ?あんたと同じ理由で、俺も名誉ある死なんてわからない」
わかりたくもない





誰かのためになら死ねる…そんな心情が名誉ならば、そう感じる奴はクソだ。
…そう思わないと、前に進めないこともある。

与えられた犠牲を、深く深く感じた絶望を、俺は知っているから





気付けば、役割を果たし膝の上に戻りかけていた小さな手を掴んでいた。驚いたように見開かれた青灰を真正面から受け、すると零れた言葉。
おかしな事に京介は、このとき何を言ったか後でジャックに言われるまで、わからなかったけれど。

「結婚してください」

それは何もかもを飛び越した、でもたとえ教皇にさえ真実と断言できる、本心の言葉だった。



後編→




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