作戦会議のとき、大抵クロウは見取り図や経路予想図を覗き込み、さもわかっている顔をする。
うんうん頷いて、たまに的確な質問や意見を挟んだりもする。それが中々に見事だから、遊星もジャックもクロウはわかっているのだと思っている。
が。
残念なことに。
3回に2回は後でこっそり、京介に再度の説明を求めていた。
何故わかっていないのに、的確な質問や意見が出せるんだ!
聞けば、大抵は
勘はいいんだ!
誇らしげに言われるから、何がいいのか悪いのかわからなくなることもあるけれど。
まあ、大抵わかっていないんだよな…思いながら、京介はうんうん頷くクロウを見ていたりする。
それが別に問題ではない。1回で理解しようが、2回で理解しようが、理解していることに変わりはない。問題は、よくわからないまま放置される事だ。
クロウは多少見栄っ張りだが、後でわかるまで聞く、徹底的に聞く。理解すれば後はもう、何をさせても完璧にこなすのだから問題があるはずもない。
ただちょっと見栄っ張りなだけで。
京介にとっては可愛いものだ、幼馴染の前では見栄を張りたいという、愛すべき自尊心。



「いいか、今回もお前が先鋒を勤めるんだから、他のやつの動きは問題じゃねぇ。自分の行動だけ頭に叩き込め」
「おう!」
「まずここの、ちょっとわかり辛いんだけどよ…ここに、フェンスがある。小細工は何もねぇから、ここを越えるだろ?」
フェンスがある場所に、シャープで大きく丸を書く。
ふたりとも見取り図を覗き込んでいるから、ふたりの影がテーブルに映って。クロウの影が大きく動いたから、理解したと判断。
「んで、越えたら右だ。建物の裏口がこっちに行くとあるから、この辺の障害物を迂回してこう…行くだろ?」
大きな丸から線を引き、裏口にズイズイと伸ばして行って最後に矢印。
線を延ばすごとにクロウの影が左にそれていったが、手が邪魔で見えにくいのだろうと判断。
「ただこの途中で問題になるのが、ここだ。ギャング共がたむろしてる部屋の窓なんだけどな、奥に鏡があるらしくて、窓の外を何かが横切ると結構わかるらしい」
窓の部分に丸。
クロウの影が戻ってきて、今度は小さく動く。
「だからここは、なるべく屈んで鏡に映らないよう、に…」
丸で囲んだ窓の部分に、下向きの放物線を書きながら顔を上げた京介は。
ひどく真剣な顔で、京介の手の動きに合わせて顔を動かすクロウを見た。
顔を上げたまま、無意識に矢印の三角を書く。その三角に合わせ、クロウの頭も三角に動く。
「…クロウ」
「ん?」
名を呼べば、真剣な顔のまま青灰が京介を写して。
「ここまでは、理解、出来たか?」
京介はその瞳を見つめたまま、ゆっくりと右に首を傾げていく。クロウもそれに合わせ、ゆっくりと左に首を傾げていった。
「大丈夫だぜ」
「ちょっと、関係ねぇ、質問して、いいか?」
今度は左に、ゆっくり首を傾げていく。それに合わせクロウも、ゆっくり右に首を傾げて。
「何だ?」
「動きが猫みてぇとか、言われたことねぇ?」
今度はすばやくかくんと左。ほぼ同じスピードでクロウも、右に首を傾げた。
「別にねぇけど?」
なのに。
やっている本人は、全くの無意識な様子。集中しているからか?そういうことか?


静かに混乱する京介の耳に、そのときジャックの罵声が聞こえてきた。
「視線だけで俺の動きを追うな!構って欲しいなら構って欲しいと言え!」
隣…いやさらに隣の部屋だろう。遊星がジャンクを集めている部屋。
遊星の声は当然聞こえない、けれどきっと反論したのだろう。ジャックの罵声が、もはや言語を形成していない。
「あ〜あ、遊星またやったのか。たまに素直じゃねぇんだよな」
苦笑を含んだクロウの声が、物凄く他人事のように響く。
物凄く、他人事の、ように。
「クロウ、お前さ…」
「何だ?」
「……フェンス越えてから、どっち行くんだ?」
「…………右」
咄嗟に見取り図をチラ見したな?したよな?!
わかるまで何度も聞くのは、そういうことか?普段から動きを追うのに必死になってるからか?!


「……続けて同じ説明何度も聞いても、効率悪いよな。ちょっと休憩してデュエルでもするか?」
「え?!マジで?!」
途端にぱぁって、後光が射したように顔を輝かせたクロウ。
いや…いいんだけどさ。
いいんだけどさ……可愛いから。

『甘えたその3/相手の動きを真似るクロウ』



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