何でまた…
クツリ、震えた空気の膜が、手に掬えそうなほど濃厚だ。
何処だろう、黒々とした空間の、奥行きは深い霧で全くわからない。
「…鬼柳?」
先ほど微かに聞こえた声、それは確かに鬼柳の声だった。辺りを見渡しても、姿形は全然いなけれど。
少し不安を感じながらも、クロウは一歩前に出てみる。
会えるだなんて、あまり信じていない。けれど夢くらい…思っても、いいじゃないか。一目でも、望んだっていいはず。
「鬼柳!」
選択権はあった。その中で、クロウが選んだ相手は本当は、会いたいなんて望んではいけないのかもしれないけれど。







「なぁんでまたお前、俺を選んじまうかな。馬鹿なの?」
唐突に耳元で聞こえた声。驚き振り向くよりも早く、グローブで覆われた手で塞がれた口。そして腰。何が起きたかわからずに、反射的に暴れた身体を強く押さえられ。米神をゆっくりと這う舌の感触に、ぎゅっと目を閉じればククと響く笑い声。
「忌々しい痕つけやがって…夢ならなんもされねぇとでも思ったか?」
「ッッ!」
「ああそれとも、俺とわかり合えるとでも思いましたかぁ?ねぇよ?それだけは、あるわけねぇだろ?」
腕を掴まれ、ギリギリと皮膚に食い込んでくる爪。温かみのない身体と、歓楽的な軽い声。
振り向けば、闇に浮かんだレモンイエロー、赤いマーカーが見えるはず。黒に青が入ったグローブと、時たまひらと浮かぶマントの陰。
会いたいと、心底会いたいと思っていた鬼柳がいるというのに、口を押さえるなんて酷すぎる。
「んんん!!」
必死で手から逃れようと、大きく首を振り出したクロウに、またクツクツと笑い声。顎を掴まれ、強引に入り込んできた二本の指。舌にまで爪を立てられ押さえつけ、唾液が溢れて喉に詰まった。
「ぐぅ…ッ!」
「クロウは何か、言いたい事でもあるんだなぁ。いいぜ?食い千切れよ俺の指!したら快適に話せるだろ!!」
名案だとでも言いたげな、楽しげな声。更に指を増やされて、口を大きく開かれて、出来もしない事を勧めてくる。中途半端に噛んだとしても、鬼柳は指を抜いてはくれないだろう。
なんとなくそれがわかって、クロウはほろりとひとつ、涙を流した。息苦しさからくる、生理的なもの。そんなもので変な勘違いをされたくなくて、慌てて目を閉じて。
「ヴヴッ」
呻いた途端だ。突然全ての興味をなくしたかのよう、するりと口内からなくなった指と、腰の拘束。それがあまりにも急で、クロウはバランスを崩しその場に倒れこみ。それでも咽る喉をそのままに、周囲を見渡せば少し前方。霧の中にぽっかりと浮かぶ、闇にすら紛れない黒。
「ごほっ、は…ッきりゅ、う!!」
真っ直ぐに睨みつけた。そうでもしないと、このまま霧に紛れて消えてしまいそうだから。
「食い千切れっつってんのに、歯すら立てねぇってやる気なくねぇ?」
面白くねぇな
そんなクロウも気にせずに、呟くように言った鬼柳はトンと一度足を踏み鳴らす。途端濃くなった霧に視界が霞み、慌てて立てば一歩下がって。
「逃げんな、鬼柳!」
叫んだクロウに、鬼柳は笑う。ニィと、口の端を上げて。
「違ぇ、逃がしてやんだよ」
何でもない事のように、そう言い捨てた。



逃がす?
「鉄砲玉のクロウてくらいだから、お前考えなかっただろ。お前の望みと俺の望みが同じなんて可能性、どんだけあると思う?」
望みが同じ?
叶えられる望みは、自分の一方通行ではないという事?
「お前が何望んだかはどうでもいい、俺は俺の望みを知ってるからな。だから逃がしてやる、優しいだろ?」
クツリと笑う鬼柳は何処までも、ダークシグナーとしての姿勢を崩さない。
「つか俺の望み、今だけじゃ意味ねぇの。意味ねえなら、お前ごといらねぇわ」
カツリと靴が、音を立てた。



「か…てに、決めんな!!」
消えてしまう。霧に飲まれて、消えてしまう。折角会えたのに!
「どうでもよくねぇよ!俺の望みは…」
「…煩ぇ」
「俺の望みは、お前にもう一度会って…」
「煩ぇって!」
苛立たしげに揺れるマント。鬼柳はもう笑みすら作らず、今にも背を向けそうだ。咄嗟に伸ばした手が、マントを掴み。その冷たい感触に、フルと身体が震えた、それでも。
「俺を俺として、ちゃんと見て欲しかったんだよ!」
これだけは、言いたかった。
「お前だけだ…見てくれねぇの、お前だけなんだよ」
ぎゅっとマントを掴んで、睨みつける先、鬼柳はただ無表情。けれどクロウは、鬼柳の好意的な反応など期待していたわけではないから。
「俺、それだけが耐えられなかった」
ダークシグナー達と戦っている間は、口が裂けても言えなかった本音。言ってしまった後では、すとんと力が抜けて。マントを掴んでいた手も、睨む事すらどうでもよくなって。
そっと手を離し、目を伏せたクロウの手を。
「…ほんと、どうしようもねぇ馬鹿」
呟くと同時、掴んだのは鬼柳の方。
慌てて顔を上げたクロウの唇に、するりと触れたそれは冷たくて。ぱちと瞬いた視線の先、なんだか鬼柳は苦しげで。
何か酷い事を言っただろうか?考える間もなく滑り込んできた舌に、クロウの思考は途切れた。







「ひぅあッ!!」
勢いよく引き抜かれ、地面に放り投げられて。黒しか見えないというのに、頬に感じる冷たい感触。クロウは先ほどまで抉られ、貪られていたアナルを晒したまま、暫しその冷たさを堪能した。
息付く暇もないとはこの事だ。口付けの合間に脱がされてた服、御座なりに触れる指は性急で、クロウを置き去りにどんどん進められ、気付いた時には胡坐の上、もうさほど小柄でもない(はずだとクロウは思う)クロウの太腿を掴み担ぎ上げ、背後から落とされていて。
振り向こうとはした。揺さぶられながら、けれど痛みを堪えて振り向こうとしたクロウの顎を、鬼柳は押さえ首に噛み付いて。
振り向くな
そんな、警告なのだろう。
結局最後まで。がっちり噛まれたままだった首が痛い。きっと歯型がくっきり残り、血が滲んでいる。
けれど、それを確認する事が、クロウには出来なかった。クロウの身体ごと持ち上げギリギリまで引き抜いたペニスを一気に最後まで、落とされ続けていれば息も上がる。
「っ…っ…」
何度も大きく息を吸い、足りなかったそれを補って。アナルからトロと流れ出した精子の感触に、身を震わせるだけ。



「あ〜あ」
「ひゃ?!」
その時聞こえた、心底面倒くさそうな声。そしてアナルの入口を這った、冷たい指。
「出しちまった」
今度は、何処か悔しげ。一度ペニスを受け入れたアナルは、乱暴に指を挿入されてもすんなりと収まる。まるで肉壁に爪を立てるように強くかき出され、クロウの肩が大きく跳ねた。
「はぅっ!!ッ…きりゅ、くるし…ぁん!」
前立腺を引っかかれている。すぎる快感は、痛みでしかないのに。鬼柳は気にしない。ブツブツと何かを呟きながら、自分の吐き出した精子をかき出している。
その動きはまるで、嫌悪だ。
「絶対俺のもんになんねぇ癖に、クソシグナーが。不確かなものなんて欲しくもねぇ、しかもこんなだらしねぇケツ」
そう吐き捨てるように言った言葉とは裏腹に、精子をかき出す仕草は焦っているよう。
まるでちぐはぐだった。
まるで、欲しいものを強請れない子供のようだ。
シグナーとか、ダークシグナーとか。敵とか味方とか、そんな制限を事前に叩き込まれすぎて、何も出来なくなってしまった子供。
「きりゅ…ッッ!!」
「振り向くな、お前の顔見てたらむかつく」
そろり顔を上げたクロウの尻を、鬼柳は叩く。地面に叩きつけるようなそれは、大きな音を立て。けれどすぐに、叩いた場所を恐る恐る這う指でもう決定的。
「きりゅ、う。俺…ッあああ!!」
もう一度。顔をあげかけたクロウのアナルに、無理な体勢からふいにねじ込まれたペニス。
「聞き分けのねぇやつだなほんとに!!」
「あ、あ、あっ…んん!!」
「何も言うな!見るな!望むな!俺はその全部がいらねぇんだ!!」
高く腰を抱え上げられ、激しく突き上げられて、クロウの頬が地面に打ち付けられ、酷く痛い。けれど不思議と止めてほしい、そんな風には思えなかった。
乱暴に扱われても、身体中がズキズキと痛んでも。快感を拾ってしまうのは、わかりやすい鬼柳の拒絶に喜んでいるから、だろう。
「やぁ…ッお、れ!あっん、おわ…たらっ!」
全部終ったら。
「また…この、せんた…ッもらえ、たら!」
その時にまた、この夢のような選択を与えられたとしたら。
「はっ…ま、おま…えら、んんん!」
また選ぶ。選んで、その時は…
その先を遮るよう、押さえられた口。



もう、夢から覚めなくていい
その最後の言葉を、この寂しい子供は遮る。こんな時だけ、大人の力でもって。
ぴたりと止まった突き上げと、背に擦り付けられた額の感触。前髪が首にかかって、さらさらと流れていく。
「俺の願いは…」
ぐりぐりと。押し付けられる額は、まるで駄々をこねる子供のよう。
「お前がもう、俺を選ばない事、だ。殺したいほど憎いんだぜ、最悪だろ!」
「ヴヴヴ!っ」
ずんと、また大きく奥まで。堪らず仰け反った背を、力任せに押し戻され。肺が圧迫され咽ても手は離れない。たたみかけるように刷り上げられた前立腺、息が整わないままカシリと指に噛み付いたクロウを気にせずに、今度は重点的に感じる場所ばかり狙って。
「んっんんんっ!!」
たまらず吐き出した、闇の上に精子を吐き出して、そのせいでまた空気が足りない。ひぅと鳴る喉と、ぼやけてくる視界。元から真っ黒なその場所は、簡単にクロウの思考を奪っていく。
「お前は笑ってりゃいい、俺の知らないとこで!馬鹿みたいにずっと!そうじゃなきゃ…ッ」
「ッ?!ヴヴ!!ンヴヴヴッ!!」
どくりと吐き出された精液を擦り付けるように止まらない腰。顔を大きく逸らそうとしたクロウの口内にねじ込まれた指は、鉄臭い血の味がした。
ぬぷと体内で鳴る音は、精液をまた奥に流し込まれ押し込まれているから。
意識が朦朧とする。悲鳴を上げていて、意識を奪う事で回避する事にしたのだろう。
けれど完全に落ちる前。クロウは確かにその耳に、小さな声を拾っていた。
「そうじゃなきゃ、憎めなくなるだろ。俺の存在意義がなくなる」


消えるのだけは、嫌なんだ
お前の中から消えるのだけは








Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!