「茂野!!」
頼む!!
神になど頼った事はないが・・・・・・とにかく頼む!!
この馬鹿から野球を奪わない・・・で・・・・・くれ・・・・・・・!!!
たった数秒。
ヤツの元へ駆け寄るまでの
たった数秒が永遠に感じられて。
ようやく辿り着き、茂野の肩に手を置くと
茂野のぬくもりを感じ、少しだけホッとした。
そして。
「馬鹿野郎!こんなになるまで・・・・!!」
と言っている間に他のメンバーや監督も駆けつけてきて。
「監督・・・・。ブルペンできてますか・・・・・・・。」
何を言ってるんだ、こんな時に・・・!
俺は耳を疑った。
「あ、ああ。今、作らせ始めた。」
「そーっすか。」
・・・嫌な予感がした。
「アハハハ、いや・・・大丈夫です。
ちょっとバランスを崩してつまずいただけなんで。」
笑いながら、すっくと立ち上がる茂野。
俺は・・・・
今までの人生の中で・・・真実、言葉を失う・・そんな事態に出会ったことがない。
これが正真正銘、生まれて初めての経験だ。
驚愕。
唖然・・・・・。
「ノープロブレム。
もし次のバッターに投げてダメなら、勝手に代えて下さい。」
しかし、言葉を失った直後、我に返った時に押し寄せた感情は・・・。
───怒り。
「どういうつもりだ・・・・!?
まだ監督を欺こうってのか!?
今のスローボールを見りゃ明らかだ。
血行障害の症状が出たんなら潔く降りろ!」
・・・・・。
この表情・・・・。
悪い事だと分っている、叱られるのが分っている子供のような・・・
いや、違う。
監督やチームメイトが去って俺とお前の二人きり。
気まずさの中に恋人への甘えも見えた。
わかってくれよ、とでも言いたげな。
ベッドでのお前は時々こんな顔をする。
少なくともこのマウンドには俺とお前しかいない。
俺にしか見せない、お前の顔。
でも決意は変えない、そんなお前の強情なその顔。
しかし私情はご法度。
そんな事はお互い分っているが。
そんな顔を見せられて、俺もつい怯んでしまった。
「いや・・・その体でお前はよく投げてくれたよ。
だがもういい。後は残りの投手に任せろ!」
「わかってるよ、キーン・・・・。わかってるって・・・・・。
でも、まだそのブルペンができてねーのに
急に俺の都合でマウンドを降りるわけにはいかねえ・・・・。」
都合じゃないだろ!
急なアクシデントなど野球には付き物だ。
「故障を隠して戦っている以上、最低限の責任は取らねーとな。
このバッターだけでいい。時間を稼がせてくれ!」
何の責任だ。
そんなに責任、責任というなら
お前が再起不能になった場合、誰がその責任を取るって言うんだ!!
吾郎の鬼気迫るこの表情、決意が篭るその瞳。
・・・・・・。
お前が再起不能になった場合、お前自身が責任を取る。
それでもお前は構わないと・・・・そういう訳か。
この馬鹿・・・。
お前が再起不能になったら
お前がホーネッツを・・いや、野球界から引退する事になったら・・・・。
お前から野球を取ったら何が残る。
そうなったらお前はただの馬鹿だ。
それでどうやって生きていくと!?
輝きを失ったお前を、それでも「茂野吾郎」だと言えるのか?
・・・・・・・・。
恐らく・・いや、絶対・・・・
俺はもう、お前を手放せない。
お前がどんなふうになろうとも、例え廃人になろうとも
このどうしようもない馬鹿なジャジャ馬を、俺はもう手放せない・・・・。
「・・・・だったら、もう無理はするな。
最悪、歩かせてもいい・・・・。時間だけ稼げ。」
茂野の言い分を聞き入れてもヤツはその表情を変えなかった。
いつものお前なら、ニヤ・・と笑い、ヘタな発音で「Thank you,Keen!」と言う所だが。
それだけ症状が深刻だという事だ。そして今現在置かれている場面も。
何もかも承知している、と・・・・・・。
何故、俺はあのイップスの時のように降板を勧めない。
くっそ・・・・!!
茂野がワインドアップのポジションに入る。
あいつが何か言っている。お前の心の声が・・・俺の心に・・聞こえてくる・・・・・。
───バカ言うなよ、キーン・・・・・・。
まずい、あいつ・・・!!
───ランナー出してまで時間稼ぎしてたら意味ねえっつーの!!
うねりを上げてミットに吸い込まれた、その球は
球速、球威、共に最高の球。
俺は茂野の想いが篭った球を手に取る。
茂野の気迫、茂野の覚悟、そして茂野の言う・・責任。
あのバカタレが・・・・・・・・。
そしてその球を茂野に返す。
それをまた、俺に向かって剛速球を投げる。
もういい・・・・。
もう、止めてくれ!!
あいつの体が、悲鳴を上げているのが聞こえてくる。
今にもひび割れて壊れ、崩れ落ちそうなのがわかる。
もう、見ていられない!!
今すぐお前を抱きしめに行きたい。
その肩をしっかりと抱いて
悔しさに、無念に流す涙を、そしてその汗を唇で受け、お前の健闘を称えてやりたい。
今すぐマウンドに駆け上がって、今すぐお前を・・・・・!!
もういい。
お前はよくやった。
もう十分だ・・・・・!!
なのに何故・・・何故、お前はそこまでする?
責任など十分果たした。
俺のミットしか見えていないその瞳。
そう、今、あいつの世界には俺とお前の二人きり。
バッターなど今のあいつにとっては付属物に過ぎない。
ただ、ひたすらに俺のミットめがけて痛みをおして投げきる。
チームの優勝の為?
次なる投手が肩を作る為の時間稼ぎ?
そんな世間じみたものがヤツを駆り立てているんじゃない。
茂野を奮い立たせているものは、ただ、本能のみ。
その先には・・・野球界から引退するしかない未来が待っていようとも
ボロボロになった体を労わりながらの人生しか待っていなくても。
も、もういい・・・・
時間は稼いだ!
次でアウトになってくれ!!
これ以上、あの馬鹿を・・・苦しめないでくれ・・・・・・!!
あの顔・・・もうダメ・・・だ・・・・。
止め・・・なければ・・・・
馬鹿の一つ覚えのように投げ続けるお前を・・・止めなければ・・・・!!
わかっているのに、何故それが出来ない・・んだ・・・!!
くそ・・・!
この・・・・・大馬鹿野郎〜〜〜〜!!
続くかどうかは未定・・・?
かなり苦戦しました。
サンデーは萌え萌えでした!
頬を染めて見詰め合う吾郎とキーン。
な、なんなの!!この恥ずかしいシーンは!!
ああ、ますますラブラブ路線まっしぐら・・・・。
キーンは完全に取り乱しちゃっていつもの冷静さを見失っちゃってるし。
でも・・・キンゴロ劇場としてこの先書き続けるのは辛いかもしれません。
こんな状態でもし伸び伸びに伸ばされたら
多分毎回キーンは同じ事を言って悩むしかなくなってしまいそうで・・・・。
次回以降、書けそうなら書いてみたいですが
同じような展開になるしかなさそうなら
たとえサンデーを購入しても書かないかもしれません。
その時はごめんなさい!!
ここまで読んで下さり、ありがとうございました
(2009.6.4)
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