「ボ・・・ボールだ!!
そのボール・・・・球審、そのボールを見てくれ!!」
茂野の機転により、判定が覆った。
それにより俺の二塁打は同点ツーランホームランへ。
土壇場での奇跡に沸く場内。
「しかし、よく気付いたな、茂野。」
「ああ、でもよく考えたら失敗だったわ。
このまま同点で延長になったら、また俺が行くしかねえからな。
体を大事になんてしてらんなくなりそうだ。」
「・・・・・・。」
茂野のこの言葉。
俺はどう言葉を返して良いのかわからなくなった。
本当に、こんな事はありえない。
いつもの俺なら絶対に。
病人をこのまま見過ごすなど。
チームの為にも選手の為にも、良い事などありはしないのに。
そして、
もし、俺の前にもう一人ランナーがいたら・・・・。
と悔やんでも仕方ない事をつい考えてしまう。
俺は無邪気に盛り上がる茂野の横顔を見つめるしかなかった。
───俺は、なんて無力なんだ!!
自分で自分に腹が立つ。
腹が立ちながらも何も出来ない事実にやりきれない。
たった一言、監督に告げるだけで済むというのに。
それで茂野は救われるというのに!!
何故、たったそれだけの事ができない?
・・・・しかし俺はわかっているんだ・・・・。
今、退場して治療すれば茂野の体は救われても心は救われない。
あいつの、イカれた野球魂とやらは救われないんだ。
たとえ投手として再起不能になったとしても
あいつは今、投げきる事を望んでいる。
あの馬鹿には今、先の事を考えて全力を出さずに要領よく振舞って
そして迎える未来など考えられないんだ。
どんな時も「今」、全力を出す。
どうなろうとも全力を出す。
その先の事など知った事ではない。
どういう脳ミソしてやがる!!
その後、マードックのダブルプレーで延長戦突入。
「いけるか茂野!?」
「ええ、もちろん。つーか2回投げて、やっとあったまってきたし。」
ボスの呼びかけに当然のように答える茂野。
・・・・あの馬鹿・・・!!
「ヘタすりゃロングリリーフになるぞ。
症状が出るか、打たれるまで血行障害の事は黙ってるつもりか?」
「・・・・。もう、その話はいいだろ、キーン。
俺は今日ここにいる以上、黙って自分の仕事をするだけだ。」
調子は絶好調。
球速100マイル。
連続奪三振。
しかしどうにも・・・嫌な予感がする。
決して当たって欲しくない、不吉の前兆のような・・・。
茂野が最高のパフォーマンスを見せれば見せるほど・・・・
俺の不安が増していく・・・・・!!
11回表。3人目の打者も三振に取った。
ミットには最高の手ごたえ。
9,10,11回の打者全てを三振。
メジャー記録10人連続奪三振をかけて・・・・
ついに12回が始まる。
止めさせるべきだ。
一人でもランナーを出せば・・と約束したが、そんなものはこの際、クソ食らえ。
しかし何故だ。
茂野から発せられるオーラに威圧されて言葉すらかけられない。
なんなんだ、この神がかった雰囲気は!!
12回表、第一球。
空振り。
100マイル連発。
感じる。
茂野の凄まじい気迫。
神がかりのような迫力。
そして悟りの境地のようなこの表情。
球が速いから打てないんじゃない。
完全に飲まれているんだ、茂野のこの鬼気迫る・・・この迫力に。
・・・・なんてやつだ・・・・・。
とても血行障害があるやつのボールじゃねえ・・・・・!
第二球もストライク。
次が決まれば10人連続奪三振。
俄然、沸く場内。
「SHIGENO!SHIGENO!!」
SHIGENOコールが鳴り止まない。
歴史的瞬間をこの目で見ようと観客もプレーヤーも、興奮状態。
しかし。
・・・・・・!!
何か変だ・・・!おかしい・・・・!!
あいつの様子が・・・・・!!
止めさせ・・・・・・!!
投げるな、シゲ・・・・・!!
「茂野、第三球、投げ・・・・」
超スローボールだった。
──────茂野・・・!!!
打たれた。ボールは大きくレフトへ・・・。
結果レフトフライ。10連続奪三振ならず。
しかしそんな事はどうだっていい!!
俺の目の前で、茂野が・・・腕を押さえてうずくまる・・・・
その光景が俺の目にはスローモーションで・・・・コマ送りのようにハッキリ見えて・・・・・・。
声にならない絶叫──────。
駆け寄る俺。
うずくまるお前。
茂野・・・
茂野・・・・
・・・ご、・・吾郎・・・・・・!!!
脳裏には様々なシーンが蘇る。
初めて会った時のお前。無茶な賭け。
そして幾度となく繰り返された情事。
昨夜の出来事。
俺の腕の中にいながら未来を見据えていたお前。
その時感じた、例えようもない不安。
「今日できることを今日やらないやつは
明日になったってできやしねえって思うタチなんだよ。」
そう言って俺の首に腕を回してきた。
お前の唇はあたたかかった。
お前の中はあたたかかった。
あの時、あの時、俺が無理やりにでも止めさせれば・・・・・!!
頼む!!
神になど頼った事はないが・・・・・・とにかく頼む!!
この馬鹿から野球を奪わない・・・で・・・・・くれ・・・・・・・!!!
続く・・・かも?
私からも頼みます、神様・・・・。
サンデーの表紙の吾郎が、やけに眩しく哀しく見えて(涙)。
キーンが吾郎の元へ駆け寄るまでの数秒間。
まるで永遠のように感じられたんだろうな・・・。
そして・・。
どうでも良いような続きも書いてしまいました。
心の広い方奨励。
完全にお遊びです。
苦情はご勘弁願います!
声にならない絶叫────。
うずくまる吾郎。
駆け寄るチームメイト。
「おい、茂・・・・・・・なっ!?」
「吾郎くん!!」
駆け寄るチームメイト、
特にキーンを押しのけ吾郎を抱き上げたのは。
「・・・寿・・・なんでお前がこんな所に・・・・。」
「なんでって・・決まってるだろ?
君のピンチに僕が日本でじっとしてるとでも思ったの?」
「おい・・・・。」
吾郎を姫抱きにする寿也の肩を掴んだのは現在の恋女房、キーン。
寿也は瞳だけをそちらに向けた。
吾郎に向けていた愛に溢れる瞳が、一瞬で凍りつくような冷たい瞳に変わる。
激しい瞳の闘い。
「お前、どこから入った。関係者以外は立ち入り禁止の筈だが。」
「僕は関係者だよ。吾郎くんのね。」ニッコリ。
「それよりそこ、どいて欲しいんだけど。吾郎くんを早く病院に連れて行かなきゃ。」
「チームの事に口出しは無用だ。そいつを渡せ!」
「嫌だね。」
「なんだと?」
「こんな状態になるまで吾郎くんを放っておいて、今更何を言う気なんだ?
吾郎くんはこの試合で投げるべきではなかった。
それは君が一番良く知っていた筈だ!!」
「・・・・・・!!」
キーンは返す言葉がない。
そうだ、その通りだ。俺は一体何を・・・。
鬼気迫る、あの迫力、あの表情。
そんなモノに臆した俺は・・・・・。
俺の責任だ・・・・・。
「待てよ、寿・・・・・。」
「吾郎くん?」
「キーンが悪いんじゃねえ・・・。誰も悪くねえ・・・・。」
「・・・・・・・。」
「俺が投げたいから投げた。誰にも文句は言わせねえ。」
「吾郎くん・・・!」
「それより下ろしてくれねえか?」
「う、うん・・・・。」
「悪いな、キーン。コイツ、悪いヤツじゃないんだけど・・・お前に不快な思いをさせて・・。」
そしてゆっくりとマウンドを降りる吾郎。
暫く、呆気に取られて見送ってしまったキーンと寿也だが
ハッ・・と気付くと慌てて吾郎の後を追った。
「君には試合があるだろ?後の事は僕に任せてくれれば良い!!」
「お前にだけは任せられん!!誰か・・・おい、ワッツ!!」
「あん?」
「茂野を頼む!!」
「・・・・いいけど・・・貞操の保障は出来ねーぜ?」と、ウインクするワッツ。
「君達は・・吾郎くんを何だと・・・!!」
「貴様も同罪だろうが!!」
「何だって??僕は真剣に吾郎くんの事を・・・・!!」
「一年の半分以上、ヤツはアメリカにいるんだ。お前に勝ち目はない。」
勝ち誇ったようなキーンの表情。
今度は寿也が言葉に詰まる。
冷戦激化!
果たして試合の行方は・・・・?
突然「シゲノ!!」とJr.も参戦してきそう・・・。
寿くん!吾郎がこんな事になってるのに練習してる場合じゃないよ!!
と思って、ついつい書いてしまいました。
下らない話を失礼致しました。
それにしても・・・キーンと寿也って原作では面識なかったよね。
もう、すっかりライバル関係にしちゃって・・すいません。
訳の分からない話を、ここまで読んで下さりありがとうございました。
(2009.5.28)
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