────つないでくれ、キーン!!

茂野の強い念が、声が聞こえてくる。
フェンス越しに、必死の表情でバッターボックスの俺を見守るあいつを
俺は忌々しげに睨み返した。

あのバカ──────。

  今日できることを今日しないヤツは
  明日になったってできやしないって思うタチでね。

脳裏に蘇る、昨夜の記憶。
思い出すだけで腹立たしい。

俺はそういう次元の話をしたんじゃねえってんだよ!!
何故、そんな事もわからない?
いや、わかってるんだろ?わかっていながら・・・・!
下手をすればお前は引退に追い込まれるかもしれないっていうのに。

お前から野球を取ったら何が残る!
何も残りはしない。
そうなったらお前はただの馬鹿だ。
そうなった所でお前を捨てる気にはなれないが
俺はお前をそんなふうにはしたくない!

何故・・何故わからない!!
俺はお前を・・・・!

カウント、ツーワンから第四球。
・・・・・。
しまった!ピッチャー足元・・内野ゴロか!?

とにかく必死に走った。

ところが。
打球はピッチャーズプレートに直撃して大きく跳ね返り、そのボールはラインの外へ。
結果、判定はファール。
滅多にないケースだ。
大事な場面なだけに、両チームがバタバタした。
内野安打で何とか繋いだかに見えた今の場面、だが結果に拍子抜け。
茂野も悔しそうに俺を見つめている。
俺はロイと話しながら、もう一度バッターボックスに向かった。


・・・ったく、俺とした事が。
俺次第でゲームの行方が、優勝の行方が決まる、この大事な場面で
ヤツの視線を感じて昨夜の事を思い出し・・・平常心を失っていたらしい。
しかし今のドタバタでかえって落ち着いた。


迷う事はない。
腹を立てる必要もない。
俺がこのバットで・・・・決めればいい。
それだけの事だ。

・・・・・・・・。
あいつの・・・どこまでも馬鹿な所に・・きっと俺は惹かれたんだ。
いつかこんな事になることくらい、心のどこかで分かっていたような気がする。
いつも全力で突っ走っては、盛大に壁にぶち当たるような
そんな生き方しかできない、あの馬鹿に。
見た事もないような熱血馬鹿。天然野球小僧。
茂野吾郎──────。

あいつに出会った事によって俺の人生のプランも大幅に狂わされた。
順調にメジャーに上がり
バッティングや緻密なリードで、打者としても捕手としても活躍し
美人でよく出来た女を妻に迎え、子を儲け・・・・
引退する頃には俺の名声は高く・・いずれは監督の器と噂され・・・。
それが茂野、お前の出現で大幅に狂わされた。
この俺が同性愛!?
去年までの俺なら考えもしなかった事態に陥っている。
しかし・・・・・。
俺はあいつに出会えて良かったと・・・・心の底から思っている。




────頼む、打ってくれ!キーン!!


聞こえた。
茂野の声────────。


ゴスン・・・・!!


響く快音。
一瞬の静寂。



入ってくれ・・・!
あいつの為に。
俺とあいつの・・・未来の為に・・・・・!!















end

第693話「つないでくれ」からです。
今回もそのキンゴロっぷりにぶったまげました。
ベンチの吾郎を見るキーンのあの眼差し!!
ああ・・・もう、終わってるよ、アンタ・・・・。
あの冷静なキーンが感情をむき出しにしてvv。
思わぬハプニングで落ち着きを取り戻したキーンは
「吾郎のため」に豪快に・・・・・っ!!
どんだけ吾郎が好きなんだ、この人はっ!!
・・・・と言う訳でまたしても書いてしまいました。

ここまで読んで下さりありがとうございました!
(2009.5.2)

 



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