W杯直前の2月中旬、沖縄。

「ほんとに帰っちゃうんだ。監督とかにちゃんと話はしたの?」
「ああ。来週からメジャーのキャンプも始まるしな。
日本代表の実力がまだ俺には足りないと分かった以上、もう沖縄にいても仕方がねえ。」
「・・・・・・・・・・。
でも結局打たれたのはコジローさんのシングルヒットだけだよ。
松尾さんの大飛球もライトフライだったし。」
「お、タクシー来た。」
目の前に止まったタクシーに吾郎は乗り込んだ。
「あそこまで運ばれた時点で俺の完敗さ。
ま、色々課題は見つかったからな。
今年メジャーに挑戦しながら、また一つづつレベルアップしてくわ。
4年後はお前のリードに応えられるようにフォークも磨いとかねーとな。ハハハ。」
吾郎を乗せたタクシーが遠ざかる。
寿也はどこか納得のいかない表情で、タクシーが見えなくなるまで見送っていた。




それから約一ヶ月。
ホーネッツ借り上げコンドミニアムのある一室で。
TVに見入っていたのは浅黒い肌にダークブラウンの髪、そして鋭い眼光の男。
報じられていたのはW杯アジア予選リーグの結果。
「日本は故障した野呂に代わって急遽、岩井が先発。
その岩井、立ち上がりの制球が悪く、四球と長短打で3点を失います。
しかし日本代表は7回、
前の打席で死球を受けて退場した堂島の代わりに入った7番佐藤が同点スリーラン。
8回にはコジローのタイムリーで・・・・・。」

───Satoh。
    もしかしてコイツが・・・・。

キーンは早速パソコンを立ち上げ調べ始めた。
次々代わる画面、それを真剣な瞳で見入るキーン。

と、そこへノックの音が。
キーンはその画面を閉じ、立ち上がる。
恐らく予定していた訪問者だろう。
ドアを開けるとそこには少々頬を染めてバツの悪そうな顔をした吾郎がいた。
「よ、よう。」
キーンはフッ・・と瞳を閉じて微笑むと吾郎を部屋に招き入れた。
「正直なヤツだな、お前は。」
「ど、どういう意味だよ!」
「だが、あいにく俺はベタベタした関係はゴメンだ。」
「え?」
「ただベッタリしただけの関係がお望みなら帰れ。」
「な・・・!」
予想もしなかった言葉に頭の中が真っ白になる。
そもそも今夜も可愛がってやると言ったのはキーンの方だろう、と少々腹が立った。
だが。
「俺はお前を俺のものにしたい。」
突き放された、と思ったらこの言葉だ。
「え・・・。」
吾郎はただ、瞳を見開く。
そしてキーンの言葉の意味を頭の中で整理する。
「後はお前次第だ。」
暫くの沈黙。
「・・・つまり・・お前と付き合うなら女のように媚び諂うなと。
そして全力でぶつかって来い、と・・そういう事だな?」
キーンがニヤリ・・と笑う。

吾郎の中に迷いが生じた。
自分には薫がいる。
今なら・・昨夜キーンに抱かれた時点で遅いのかもしれないが
今なら引き返す事が出来る・・かもしれない。
「・・・・俺は・・・・。」
なぜここへ来てしまったのだろう。

吾郎が迷い始めたのを見て、キーンは自らの失言に気付いた。
それはあの彼女と別れろ、と言っているようなものだ。
しかしキーンにとって薫は既に眼中にない。
だから出てしまった言葉だったのだが。
キーンにとって真に問題なのは・・・。
「チッ・・・。俺とした事が。焦ったか・・・・。」と内心舌打ちをするが・・
ちょうどいい。
この機に己の本性に気付く切欠を与えてやるもの悪くない、と切り替えた。

「お前、本当にあの彼女が好きなのか?」
「・・・好き・・・だ。」
「なら何故俺に抱かれた。何故今夜ここへ来た。」
聞いても答えなど出ないだろう。
「・・・・。」
当然、吾郎は答えに詰まる。
分からなかった。
昨日、キーンに抱かれた。半ば無理やりに。
それは自分のせいではない!と言い張る事は可能だが、それはただの言い訳に思えた。
そして「この回を抑えれば今夜も可愛がってやる」と試合中に言われた。
嬉しかった・・・。何故かとても。昨夜は無理やり抱かれたはずなのに。
だから来た・・・と言うのはあまりにもお粗末だ。
「セックスがしいのなら、さっさと彼女を抱けばいい。誰も文句は言わん。」
何故だろう、吾郎にはどうしても薫を抱こうとは思えないのだ。
「いい加減気付け。お前はセックスはしたいが抱きたいんじゃなくて抱かれたいんだ。」
「・・・!!」
吾郎は瞳を見開いた。同じような言葉を昨夜も言われた。
「・・とんでもない淫乱だな。」
「あ・・・・。」
吾郎の中の何かが崩れ落ちる。
「お前には魔が宿っている。お前の傍にいたら男はその気になる。お前は男に抱かれるように出来ている。」
「・・・・・・・・。」
「彼女を好きだと言いながら、彼女を抱けない。そして男に抱かれたい。そろそろ覚悟は決まったか。」
言葉が出ない吾郎にキーンは溜息をついた。
これ以上続けても無駄だろう。
「では質問を変えよう。お前は俺に抱かれたいか?」
「・・・・・。」
吾郎の顔がみるみる紅く染まる。慌てて瞳をそらすその仕草。

───参ったな・・・・・。

キーンにとってこんな事は初めてだった。
自分だけが吾郎の心の中にいる訳ではないのに。
彼女がいて佐藤がいて、そしてキーンがいる。
いや、案外他にもいるかもしれない。
それなのにこんなに抱きたいと、自分のものにしたいと思ってしまう。
吾郎はまだ頬を染め、悔しそうに瞳をそらしたままだ。
認めたくない。だけど抱かれたい。その狭間で揺れている。
キーンは自らの心のままに吾郎を抱きしめ、その唇に自らの唇を押し付けた。
吾郎は最初だけ拒むそぶりを見せたが、やがてゆっくりと瞳を閉じた。
瞳を閉じたのは受け入れた証拠。
だが吾郎の場合、体を受け入れるのは本能に近い。
なのにたかがキスがこんなに嬉しいなんて。
キーンは自分の感情に驚くしかなかった。

キーンは一瞬で戦略を練る。
そしてその瞳で至近距離の吾郎をしっかり観察した。
舌をねじ込み吾郎の舌を追い絡ませて。
吾郎が堕ちていく様子をしっかり瞳に焼き付ける。
下半身に瞳を移して吾郎のそこに生気が漲っていくのを確認すると、唇を開放した。
「今夜は時間がたっぷりある。約束通り、可愛がってやる。」
「な、なんだよ、偉そうに・・・。」
「性格だ。諦めろ。」

───そうだ。まずはセックス。
     全てはそれから・・だ。

そして共にベッドルームへと向かう。
流されている、と吾郎は自分でも分かっていた。
分かっていても逆らえない。
これからまた抱かれるのだと思うと・・・。
やっぱり自分は男に抱かれるように出来ているのだろうか。
昨夜のあの感覚。
ちょっと思い出しただけで熱が中心に集まっていく。
認めたくない。認めたくないが・・・熱が集まっていくのは止められない。

「そ、そういや、さっきボスから電話があってよ。」
「ボスから?」
「ああ。それでなんか良くわかんねーけど明日、ロサンゼルスへ行けだとよ。」
「ロス・・・・。」
「ああ。俺にとっても球団にとってもいい経験になるとかならねーとか・・・。」
「そうか。」
キーンの頭には何か引っかかるものがあったようだ。
少々考えこむ表情。

「?どうしたんだ?」
何も分かっていない吾郎のキョトン・・とした表情。
キーンはふふっ・・と微笑む。

───時間はたっぷりあると思ったが・・・状況が変わったようだ。
     俺に与えられた時間は今夜だけ。

「どうやら暫くの別れらしい。だから念入りに可愛がってやろう。」
「な、なんなんだよ、その言い草は!!それに暫くの別れってどーいう意味だよ!」
「行けばわかるさ。」
「・・・なんなんだよ。ロスに一体何が・・・・。」
ちょうどここまで話をした時、ベッドに到着。
吾郎はまじまじとベッドとキーンを見比べた。
「どうした。今更気後れか?」
「えっと・・・。やっぱ、まずくねーか?こういうの。」
「・・よく言う。昨日、あれだけ感じておいて。」
「だ、だからよ・・・同じチームで、バッテリーで・・・同じ男で・・・・。倫理上、なんつーか・・・。」
吾郎は必死に何か理由を探す。
流されたい、流されてはいけない。
だが、迷いの上の言葉は説得力に欠ける。
キーンは不機嫌そうにそれを聞いていたが
いきなり何の前触れもなく吾郎をベッドへ押し倒し、自らも乗り上げた。
「倫理もクソもあるか。」
「・・・・・・。」
「既にお前は俺と関係を持った。手遅れだ。」
「手遅れって・・・あっ・・!」
煩い、とばかりにキーンは吾郎の唇を自らのそれで塞ぐ。
たっぷりと舌で吾郎の口内を犯してやる。
舌を絡め、摩り、歯列を辿り・・・・。
ようやく唇を開放された吾郎は既に涙目で熱い吐息。
「お前は自分から俺に「入れてくれ」と懇願した。忘れたとは言わせない。」
有無を言わせないキーンの瞳。
「あ、あれは・・・・!」
「あれは・・・なんだ?」
キーンは吾郎の瞳を見据える。
「言ってみろ。」
つい口から「あれは・・」と出てしまったが、この先の言葉が見つからない。
先程と同じ迷いが浮上する。
律儀にも自ら訪れてしまったキーンの部屋。
昨日の今日の話だ。それは「抱いてくれ」という意味でしかない。
あれは快楽に流されただけ?
そして今も流されようとしている?
いや・・・違う。
本当に、それだけではないように吾郎には思えた。
キーンの愛撫、囁き。そして突き入れられるキーンの分身。
何もかもが吾郎の知っているものとは違っていた。
何もかもが新鮮だったから?
いや、それも違う。
よく分からない。
よく分からないがキーンの全てに、その毒づく声にさえ反応してしまう。
「倫理上問題が・・」と自分で言っておきながら
吾郎の中心には先程から熱が集中して今ははち切れんばかりだ。
後戻りなんて出来ないほどに。
この気持ちはなんという言葉で表したらいいのか・・わからない。
薫が好きだ。
この気持ちは確かだと自信を持って言える。
だがしかし・・・・キーンへのこの気持ちはどんな言葉を当てはめたらよいのか。
そして渡米前に、いやそれよりずっと以前から自分を抱く寿也に対しては一体・・・?
「俺は・・・。」
吾郎の瞳が困惑に揺れる。

───俺は一体何をやっているんだ?
     好きな人がいて。
     その人がはるばるアメリカまでやって来てくれたというのに
     事もあろうか同性に抱かれ、そして今日も抱いて欲しくてその男のもとに訪れて。
     いや、それ以前に・・
     薫と恋愛関係に入った後も寿也に抱かれ続けた俺は一体なんなのだろう?
     やっぱりさっきキーンが言った事は・・・。

認めたくなかった。
散々寿也に抱かれてきて、今またキーンという相手が出来てしまった。
だけど認めたくはなかった。

そんな吾郎にキーンは溜息をついた。
吾郎には魔が宿っている。男をその気にさせずにはいられない魔が。
本人は至って無自覚だからタチが悪い。
いや、そもそも自覚なんかされたらつまらない。
吾郎が見せる迷い、戸惑い、葛藤。
それと戦った末、堕ちるその瞬間。
それがたまらないのだ。
そもそも。
そんな吾郎が彼女なんか作ったのが間違いなのだ。
だが今は悩ませている時間はない。
ロス行きの話さえ舞い込まなければ、じっくり時間もかけられようが。
あの彼女だけなら放っておいても問題ではないが
明日から当分・・俺の手を離れてアイツの元へ・・・・。
「まあいい。それより、お前は明日からロスへ行く。当分こんな時間は取れない。それだけは確かだ。」
「・・・当分って大げさな。せいぜい一週間ってトコじゃねーの?」
「仮に一週間だとして、お前、耐えられるのか?」
キーンがニヤリ・・と笑った。
何に、など聞くまでもない。
吾郎の顔は真っ赤に染まり、また瞳をそらす。
その反応に満足したキーンは改めて唇を重ねた。

首筋、鎖骨のあたりへ・・キーンの唇はゆっくりと下りてゆく。
そして時折、強く吸い上げて痕をつけているのが吾郎にも良く分かった。
今も胸の突起を両手で弄りながら吸い上げて痕をつけている。
「ちょ、ちょっと待て、キーン!」
「どうした。」
「どうした、じゃねー!昨日の痕だってまだ消えてないのにこれ以上つけたら・・俺、水玉模様になっちまうじゃねーか!!」
「そうだな・・・では効果的な場所にのみ痕を残すとするか。」
「効果的・・って・・・・・なっ!!」
胸の辺りを執拗に吸っていたキーンだが
何を思ったのか、吾郎の下着に手をかけ引き摺り下ろすと吾郎の片足を持ち上げた。
足の付け根の部分、陰毛を掻き分け何度か吸い上げる。
「な、やめ・・・ろっ!!あ・・・・!」
そして後ろの蕾のすぐ傍にも。
「お、お前・・・何考えて・・・や!・・もっ!!」
吸い上げながらも手淫は忘れない。
そこから感じる甘い痺れと
あられもない場所を吸い上げられ痕をつけられているのだ、という
どうしようもない程の恥ずかしさが吾郎をさらに昂ぶらせた。
さらに蕾そのものを吸い上げられて何もかもが頂点に達し・・・。
「あ、あああ・・・・っ!!」
吾郎が放ったその液体が腹を濡らした。
キーンが付けた紅い花弁の上を流れる白い液体。
「まだだ。」
「まだって・・・・んっ!!」
放ったばかりで萎えてしまったそれをやわやわと握りながら後ろの蕾に指を差し込む。
「お前のいい所は・・・そう、ココだったな。」
その場所を大きく摩ると
「やっ!!」
吾郎の体が大きく跳ねた。
それによってキーンは何もしていないのに
吾郎自らがキーンの指にいい所を摩らせてしまって、またしても身をよじる事となる。
そうこうしている内にすっかり元気を取り戻す吾郎のそれ。

───今日は焦らしたりはしない。
     イけるだけイけ・・・・。

キーンは内に入れる指を2本に増やした。
さらに太くなり、そして2本の指にイイ所を代わる代わる弄られて。
「キ・・・・!も、・・!はやく・・入れ、て・・・・あっ!」
だが、キーンは吾郎の求めには応じず、その中心を口に含んだ。
暖かなキーンの口内。
柔らかくねっとりとした舌に舐め上げられて唇で摩られて。
あっという間にまた限界が・・・・・・・。
「ダメだ・・、キー・・・・・イ、イっちまう・・!早く・・どけ!こ、このまま・・・じゃ・・・!!」
しかしキーンは離れるどころか。
内をまさぐる指も唇も舌の動きも、何もかもより一層激しく、強く・・・。
「バ、バカ・・・・あ、もう・・・・っ!!」
キーンは吾郎が最後の一滴を出し切るまで、舌の動きを緩めなかった。
そして出尽くしたのを確認すると
根元から搾り取るように吸上げ、ゴクン・・と喉を鳴らして飲み込んで見せた。
「だ、だから早く離れろって・・・・!」
照れくさそうに慌てて弁明するが、キーンは口元を手の甲で拭いながらニヤ・・と笑い
「旨かった。」
と一言、言い放った。
吾郎は思わず顔を真っ赤に染める。
「バ、バカ野郎!!」
その言葉に全く動じた風もないキーンは
既に張り詰めた怒張を吾郎の後ろの蕾に圧し当てた。
その脇にはキーンが先程つけた痕が紅い花弁のように舞っている。
咲き誇る紅蓮の花の中心に今、キーンが張り詰めた怒張を突き立てて。
そこへ圧し入る時のこの喜びは。
吾郎の中がキーンを締め付けつつ受け入れる、この瞬間が。

・・・・たまらない・・。

───暫しの別れだ。
     今夜は焦らしたりしない。
     イけるだけイけ。
     全てを出し尽くすがいい。
     何度でも何度でも・・・・。



止まる事のない摩擦による水音、吾郎の鳴き声。
キーン自身、何度吾郎の中に放ったか忘れてしまった。
ましてや吾郎がイった回数など・・・。


───俺がぶち込む、引き抜く。そしてまたぶち込む。
     その度に感じて締め付け、悶えて放つ。
     それでもまた、俺はぶち込む。
     何度でも。
     これが「俺」だ。
     その体に俺を刻み付けろ。
     俺の形、大きさ、突き入れる激しさ、抱きしめる腕・・・
     何もかもをお前に刻み込むまで今夜は離さない。
     この先、誰に抱かれようとも「俺」を求めずにはいられないように。
     お前は俺のものだ、茂野!!



吾郎はある時期から、イき過ぎたあまり敏感になり過ぎてしまって
キーンが突き入れる度にイってしまい、その度に発射し続けて。
だがそれも尽きてしまったようでもう、殆ど出ない。
自身が放ったものでヌルヌルのそれがビクビクッ・・と動くだけ。
それでもまた、ぶち込まれてはイってしまい・・
でも出せるものがなく僅かに数滴程度吹き出る液体と切なげに震える吾郎のそれ。
既に理性もなにもかも吹き飛んでしまって
残った本能のみでひたすらに鳴き続け、先程ついに気を失ってしまった。

さすがのキーンも限界がきたのか
最後に激しく突き入れ達すると、吾郎の蕾を長い時間を経てようやく開放した。
その蕾からは収まりきらなかったキーンの液体が溢れ、流れ出ていた。
それを満足げに見下ろし、一人虚ろに微笑むキーン。


───佐藤寿也。
     俺にまみれた茂野を見るがいい・・・・・・。

     何度でも抱くがいいさ。
     だがコイツは俺を刻み付けた。
     お前に抱かれる度に俺を思い出す・・・。
     そしてやがてはここへ帰ってくる。
     いや、帰って来ざるを得ない。
     そういう体に、俺がした。

     ふふ・・・ははは・・・・・・。














翌朝。
「おい、茂野・・起きろ。」
ユサユサと揺り起こされて。
「・・・・ン・・・・・もうちょっと・・・・。」
「おい。飛行機に乗り遅れるぞ?起きろ!」
「・・・はっ!!」
飛び起きようとしたものの、力が入らず起き上がれない。
「・・・な・・・・!」
その瞬間、昨夜の記憶が蘇った。
そうだ、昨日は「もうダメだ、勘弁!」とあれ程頼んだのに聞き入れてもらえず
何度も何度もイかされて。
しかも途中から記憶がない・・・・。
「キーン、お前よくも・・・・・!!」
「そんな事より早く準備しろ。」
そうだ、確かに喧嘩している場合ではない。
吾郎はなんとかゆっくりと体を起こした。
昨夜、ベトベトになったはずのシーツはサラサラの気持ち良いものに交換されており
何よりも吾郎自身、あの液体にまみれていたのに今は丁寧にパジャマまで着ていた。
何もかも後始末をキーンがやってくれたらしい。
とても気持ちの良いベッドに
キーンのものだろうか、そのパジャマはシルクだった。
「お、お前が・・・これを?」
「あんな状態で眠る趣味は俺にはない。」
一言で簡単に言ってのけるが、眠る吾郎の体を拭いて着替えさせ
シーツ類を全て交換するのはかなりの手間だろう。
「あ、あの・・・。」
こんな時、なんと言ったら良いのだろう。
吾郎は言葉を探すが、そんな吾郎の様子を察したキーンが促す。
「何でもいいから早く顔を洗え。朝食にするぞ。」
気にする事はない、キーンはそう言いたかったのだろう。
お言葉に甘えて、何とか起き上がってフラフラとダイニングに行くと朝食の準備が整っていた。
コーヒーの香りが心地よい。
「お前・・・結構マメだな・・。」
これは先程の件も含めた、吾郎なりの感謝の言葉。
だが。
「お前がガサツなだけだ。」
珍しく心から褒めたのに、返ってきたのは相変わらずの毒舌。
一夜を共にした、その朝だ。
普通ならもっと甘い言葉の一つも出るものじゃないのか、とカチン・・ときたものの。
吾郎はキーンに見えないようにそっと微笑んだ。
しみじみと幸せだと・・・・・感じた。



朝食後、あわただしく準備を済ませると
キーンが車で空港まで送ってくれた。
すぐに戻れるとは思うが、その僅か数日でも離れてしまうのかと思うと切なくなる。

───仮に一週間だとして、お前、耐えられるのか?

昨夜のキーンのセリフが頭を過ぎる。
と同時に昨夜あれだけ放ったというのに
もう中心に熱が集まってきているのを感じ、慌てて心の中で首を振る。
「ありがとな?キーン!」
車のドアを閉めると吾郎は笑顔で手を振った。
キーンの唇が遠い・・。胸の奥がチクリ・・と痛む。

「ああ。佐藤によろしくな。」
「え!?」
思ってもいなかった言葉に吾郎は面食らうが
言葉を返す間もなくキーンは車を走らせ行ってしまった。















続く・・・?


「魔が舞い降りる」の続きの話で、全体としては「寿也vsキーン」の話となる予定・・・
ですが全く先を書いてないので未定です、すいません!
今回はキーン側の話。
次は寿也側の話の予定ですが・・頑張ります!(不安です・・)

で、今回のキーンですが・・
ロス行きの話を聞いた瞬間、キーンには全てが分かったと思います。
それに漫画を読むとW杯予選で寿也の活躍も報じてますので
だから明日からは寿也の元へ・・・と分かっただろうな・・と。
それから薫ですが・・最近の薫は確かに溜息モノですが
リトルの頃のいい感じの薫が頭にあるのでノーマルならばゴロカオはまあ・・それなりに歓迎なんです。
だから、こういう公式CPを否定するような話になってしまったのは残念なのですが
でもこれの元ネタ「魔が舞い降りる」が薫絡みで妄想が爆走したモノなので・・もうここは割り切るしかない、と心を鬼にしました。
薫ちゃん、ゴメンっ!!
それで。吾郎には薫がいて寿也もいて、さらにキーンが増えたとなると
いくら単純な魔物吾郎でも悩むだろうな・・・と思ったら、こんな回りくどい話になってしまいました。
これもちょっと・・・気になりますが・・・でもこの状態で悩まない方がおかしいですし・・・
ああ、なんだか言い訳ばかりですいません!!
そんな訳でキーンには明日から吾郎は宿敵寿也の元へ行くのが分かってしまったので
それはもう!激しく、とことんまでヤっただろうな〜・・・と思ったらこんな感じになりました。

それではここまで読んで下さりありがとうございました!!
(2009.2.3)





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