翌日から。
早速撤収作業が始まり、その次の日には出立する事となった。

初めて薬を塗った、その翌日の晩。
「吾郎くん、薬を塗るよ。どう?調子は。」
そんな事を言いながら、前日同様、注意深く包帯を解いていった。
「ああ。昨日、薬を塗った時からさ、ジワーーーっと・・なんか気持ちよくて。とにかく昨日に比べたら、格段に調子いいぜ?」

全ての包帯を解いた寿也は驚いた。
「・・・・治りかけてる・・・・信じられない!!」
昨日に比べると、傷の深さが全く違った。
それでも傷は開いてはいたが、少なくとも臓腑へ届くような傷ではなかった。
「中身・・・その、内臓も大丈夫なんだろうか?」
寿也は不安げに言うが
「もし内臓がどうかなっていたら、俺は今、こんなに元気じゃねーよ。」
寿也はまだ、ぼうぜんと驚きが収まらないようだ。
医術師からは「神様しか治せない」と言われたのに・・・。
「すごい効き目だね・・・一体どんな成分で出来ているんだろう!?」
「アヤシゲな術がかかってるんだよ、きっと。これを作ったヤツはとんでもない変態だからな!」
「何、それ・・・・。」
とにかく。
この薬を塗り続ければ、吾郎は助かる。きっと助かる。そう思えた。
「じゃあ塗るよ?また痛いと思うけど・・・我慢してね。」
「お、おう・・・。」

そしてその翌日、つまりいよいよ帰国の途につく頃には更に傷は癒えていた。
まだ痛むが、何とか起き上がれるようになっていたのだ。
寿也はもう数日だけ吾郎は留まって、もう少し回復してから出発した方が良い、と主張したのだが、吾郎はどうしても寿也と一緒に帰ると言って聞かなかった。
薬を塗る為に、吾郎に共の者を残すから、と言っても無駄だった。
吾郎は、寿也以外のヤツに、この体には触れさせたくない、と言い張ったのだ。
聞きようによっては全く別の意味にも取れる、そんな発言を聞いてしまっては・・・惚れた弱みとでも言おうか・・・・吾郎はその「別の意味」とやらを全く知らないのだろうが、とにかくその言葉が嬉しくて結局は一緒に帰ることを許してしまったのだ。
初日はさすがに吾郎は辛そうにしていたが、毎晩寿也に薬を塗ってもらったお陰で、凱旋帰国する頃にはすっかり治ってしまっていた。







それから何日かが過ぎた。
平和な毎日。
戦の無い世界、一年前までは当たり前のようにあったもの。
失いかけてみて、当たり前の、不安の無い毎日がどれだけ大切で幸せなのかを初めて知った。

その日は月が綺麗な夜だった。
そういえば、今日は遠いあの日と同じ満月。

「凄いね。本当に・・傷跡すら残ってない。まるで魔法だ。」
吾郎はそんな言葉を口元だけの笑みで答えた。
「・・・・聞いてもいいかな。」
吾郎は傷口を見せるために肌蹴た身なりを整えながら返事をする。
「なんだ?」
「君は以前・・・真に愛した人から愛されなければ海の泡になって消える運命だった、って言ってたけど・・・それとこの薬、なにか関係があるんじゃない?」
「さすがは寿也。鋭いな。」
「海の泡になってしまうかもしれない日って、いつ?」
「・・・・・。明日。」
明日、と聞いて寿也が瞳を見開く。
自らを落ち着かせるためか一つ溜息をつくと、寿也は続けた。
「それは誰が判断するの?神様?」
「分からない。多分・・・神様とか、そんなところだとは思うけど。」
「僕は君がいなくては生きていられない。あの時君に言った事は真実だ。」
「俺も・・・お前が死ぬくらいなら、この身を犠牲にしてでも守ろうと思った。」
「そしてそれを実践してくれたんだね、君は・・・・。君は二度も僕の命を救ってくれた。・・・君は間違いなく真実の愛を証明してくれた。でも僕だって真実愛している。どうすれば神様に伝わるだろう・・・。」
「大丈夫だよ。本当に愛し合ってる恋人同士や夫婦が皆が皆、命を張ってる訳じゃないだろ?神様はちゃ〜んとご存知さ。」
吾郎はあの時の寿也の混乱振りを思い出し、幸せそうにはにかんで笑った。
「少なくとも俺には、よ〜く伝わった。・・・嬉しかった。」
万感の想いを籠めた瞳で寿也を見つめた。

ドクン・・・・。
血が・・・・騒ぐ・・・・・。
君のそんな顔を見たら・・・・・。

「吾郎くん・・・・。不謹慎に聞こえたらごめん。でも僕は本気だって事を分かって欲しい。」
「なんだよ、一体・・・。」
「君は・・・愛の行為を・・知ってる?」
「・・・・。キスか?」
あっけらかん、と答える吾郎に「やっぱり・・」と寿也は頭を抱えたくなった。

やはり吾郎くんは何も知らないんだ。
一体どんな育ち方をしたらこんなに無垢に育つのだろう?
いや、無垢、というより無知だ!!罪だ!!
僕はそんな吾郎くんに一から教えていかなければならない。かなり大変だぞ。
・・・・・しかし。
それもなかなか・・・悪くはないかもしれない。
それに。
僕が真実、吾郎くんを愛している事を知らしめるには、今はこれ以外に考え付かない。

「キスも確かにその一部ではあるけど・・・。吾郎くん、これからそれをしてもいいかな。」
寿也は少し頬を染めながら、思い切った様子で、そう口にした。
「・・・いいけど・・・何をするんだ?」
「説明するより実践した方が早い。最初は少し痛いかもしれないけど・・・出来る限り気をつけるから・・・優しくするから・・・。」
「なんだかよく分かんねーけど、痛いのは嫌だな。」
吾郎はちょっと尻込みした。
「吾郎くん、頼む・・・!!出来る限り君に負担をかけないように努力するから!!」
「なんか愛どころか逆に怖くなってきたんだけど。痛いって、負担って・・・どういうことだ?」
「その、つまり・・・・君と僕の躯を繋げるんだ。」
寿也はとても言い難そうに、ようやくそれだけを言った。
「繋げる?」
吾郎はこれ以上大きくならない程、瞳を見開き驚いた。
「どうやって??手を繋ぐ・・・のとは違うんだよな??」
「それは・・・・。」
さすがの寿也もこれ以上を口にするのは戸惑われて頬を染めた。
「一度やってみれば分かるから。お願い・・・僕を信じて・・・僕に君の全てを委ねて・・・・吾郎くん・・・・・。」
寿也は吾郎の肩を抱き寄せた。

寿也の、この美しい翠玉の瞳。
思えばこの瞳に魅せられたのが始まりだった。
この美しいエメラルド・グリーンが、バルコニーから差し込む月光を受けて輝いている。
あの日のように。

吾郎は「痛い」だの「負担」だのなど、どうでもよくなってきた。
どんな痛みだって、戦場で傷を受けた、あの時の痛みに比べたら耐えられるだろう。
どんな負担だって、あの傷に耐え続けたあの時間を考えたら、どうという事は無いだろう。
そんな事よりも、もっと寿也に愛されるなら・・・・それが欲しかった。

そんな事を考えながら、そっと寿也の頬に手を添えた。
「寿也のこの瞳・・・すごく好きだ。翠玉のように美しい、ディープ・グリーン。深い深い海のように、ほんとうに深くて・・・・綺麗だ。」
「吾郎くん・・・・。」
この状態でこんな事を言われては。
寿也はたまらなくなって、吸い寄せられるように唇付けた。

しっとりと柔らかく包み込んでくれる寿也の唇。
強く優しく抱きしめてくれる腕。
そして広くて厚い、あたたかな胸。
あの日は遠くから見てることしか出来なかった。
でも今は手の届く所に寿也がいる。
寿也の腕の中に俺がいる。

とし・・・・寿也・・・・・・・・!!





抱きしめられて口付けるだけで十分感動していた吾郎だが、キスに酔っていた間にシャツのボタンがすっかり外されていた事に気がついた。
「なんで?」と思ってしまったものの、それを言葉にする間もなく寿也の手が滑り込んで来てスルリ・・と背中に回されて。
「え?・・・・っ・・!」
背を這う寿也の手、そして唇はいつの間にかずらされて首筋を辿っていた。
「な、・・なに・・・あっ!」

なんだ、この感じは・・・・。
くすぐったいのと似てるけど違う・・・ゾワゾワする・・・。
なんでだ?
寿也の指先が背中を這い上がる度に、震えが走る。
寿也が唇を首筋に落とす度に、舐め上げる度に・・・どう言ったらいいのだろう?
痺れるような感覚が体中に広がっていく。
でも、やめて欲しいとか、嫌だとか・・・そんな事は思わない。
むしろ、もっと・・・・。

いつの間にか、吾郎の上半身は完全に脱がされていて寿也の唇は胸の辺りまで降りてきていた。
背をしっかりと抱かれ・・何をするのかと思ったら、乳首に吸い付いかれた。

「・・・っつ、あ、・・・ああ・・・っ!!」

今まで感じた事の無い感覚。
そして今、出してしまった鼻にかかったような声は俺の声??

もう片方の胸には寿也の手が伸びてきて、両方一度に触れられて、経験した事のない、この甘い痺れに、どうして良いかも分からずに・・・・吾郎は寿也に縋りついて、意味をなさない声を発することしかできない。

「吾郎くん・・・可愛い・・・・。嬉しいよ。」
「かわ、いい・・・って・・・・。うれしい・・・って・・・あ・・・!!」
「だって・・・君が僕で感じてくれている。夢みたいに嬉しい。」
「感・・・じてる・・・・?」

吾郎にはその意味が分からなかった。
すると寿也は優しく教えてくれる。
「ホラ・・・ここ。ここに触れると・・・。」
寿也は吾郎の乳首を指差して、吾郎にそこを見せ、その上で舐め上げて見せた。
「は、あ・・・・・っ!!」
「ほら。気持ちいいでしょ?」

息が乱れて、返事も出来ない。
たったそれだけの事で、こんなになってしまう自分が理解できなくて言葉も出ない。
「気持ちいい」確かにそう表現するのが一番ピッタリするのかもしれない。
やめて欲しいような、もっとして欲しいような・・・俺は一体どうなってしまったのだろう。

その時、寿也の手が胸から離された。
少し残念な気がした次の瞬間。

「っつ!!つ、あっ・・・・!!」

あまりの衝撃に、吾郎は瞳を見開いて寿也を凝視した。
寿也はいつものように柔らかく微笑んでいる。

「今、何を・・・。」
ようやくそれだけ呟くと、寿也は吾郎の手を股間に導いた。
そして寿也に手を重ねられた状態で、衣服の上から自分の股間にそっと触れると

「・・・・っ!!」
吾郎は自分自身の、あまりの変化に驚愕、としか言い様の無い表情。

「なんで・・・こんな・・・・・・。」

すると寿也はニッコリと笑った。
「感じると、ここがこうなる。そして触ると・・・気持ちいい。」

吾郎は恐る恐る、もう一度自らのそこを、そっと触ってみた。
「・・・・・!!」
覚悟して触れても、こんなに感じる。
そして・・・この硬さは・・・・。

寿也はそんな吾郎の思考を読んだかのように、今度は吾郎の手を寿也のそこへ導いた。

「・・・・お前も・・・・?」
「ああ。触れなくても・・・・気持ちが昂ぶるとこうなる。」
「昂ぶる?」
「吾郎くんは昂ぶってない?僕は・・・とても昂ぶっている。君への気持ちを自覚したその瞬間から、僕がどれだけこの日を待っていたと思う?いや、待っていた、というのは違うかな・・・こんな日が来るとはとても思えなかったから。」

同じだ、と吾郎は思った。
吾郎も、はじめから寿也と想いが通じ合えるとは思っていなかった。
真の愛が得られなければ3年で海の泡になって消えると言われても、それでも。
人間になって寿也を助けずにはいられなかった。
はじめから、望んでも無理だとわかっていた。
それは考えないようにしてきたが、やはり・・・・とても哀しかった。
寿也も同じように感じていたのだろうか。
同じように、届かぬ想いに苦しんできたのだろうか。

「寿・・・・。」
吾郎は自分から触れるだけのキスをした。
寿也がちょっと驚いた顔をする。
それが嬉しくて微笑んだ。
そうだ、嬉しかった。
想いが届いた事が、通じ合えた事が。
こんな事が起こるなんて未だに信じられない。
でも、誰がなんと言おうと・・・・やっぱり・・・・・・。

「俺、寿也が好きだ・・・・。」
「僕も・・・君が誰よりも・・・・・。」

寿也は残りの言葉を唇付けで伝えた。
舌を交わしながらゆっくりと吾郎の体をベッドに横たえると自らの上半身を脱ぎ捨て、今度は吾郎の下半身の衣服を一気に引き摺り下ろしてしまった。

「・・・は、裸になるのか?」
「うん。邪魔な衣は脱ぎ捨てて、生まれたままの姿で互いを感じるんだ。」
寿也は愛おしげに吾郎自身を見つめた。
指先で軽く撫でると、それがピク・・っと動いた。
吾郎はまた切なげに息を詰める。
「本当に可愛い・・・・。しゃぶってもいい?」
「え?ちょ、・・・・まって、・・・あ!!」
とんでもない事を言い出す寿也に、制止の言葉を言おうとしたのだが、寿也は返事を聞く気などなかったようだ。
大事そうに手を添えると大きく舐め上げ始めた。
そうかと思うとチロチロと舌先だけで舐めたり今度は口一杯に頬張って吸い上げたり。

「やっ、あ、・・・あああ・・・・・っ!!

吾郎には訳がわからない。
まず、「そこ」に何故そんなに執着するのかがわからない。
「そこ」がなんだと言うのだろう。
排泄する場所だろ?なんでそんな事をするんだ?と。
そして「排泄するだけ、な筈の場所」を触れられると、どうしてこんなに・・・寿也が言うように「気持ちいい」のか、こんなに我を失ってしまうのかがわからなかった。

吾郎はまだ人間になってちょうど3年・・・に、なろうとしている所。
初めて足が生えたあの時は、衣服を着る事をとても奇妙に思った。
しかし「慣れ」、とでもいうのか。
海では皆、裸だったが、「郷に入っては郷に従え」を実践しているうちに、今では衣服に対して何も思わなくなっていた。
裸を見られる事に対する羞恥のようなものも、なんとなくだが分かるようになってきた。
裸、といっても男の場合つまり、その部分を顕にするかしないか、である。
男が裸であるかどうかは、そこが見えるか見えないかという事だ。
その一番肝心な部分を・・・今、寿也が咥えているのだ。
これはどう考えたって異常だろう!!

実際はこんなに思考をめぐらす余裕などなかったのだが。
寿也の舌が、唇が、手が動く度に体が跳ね上がるほどに震えてしまう。
押し寄せる、未知なる感覚。快楽の波。
寄せては返す、甘美なる波は次第に大きくなっていく。
熱が増していく。
自分で自分がわからなくなる。
このまま行ったら、何が起こるのか。
自分はどうなってしまうのか、どこまで乱れていくのか・・・・・・・。

────怖い。


「ま、待て、寿・・・・やめて・・・くれ・・・。」


吾郎は残った僅かばかりの「意思」の力で、かろうじて懇願した。
「どうしたの?」
寿也はキョトンとした顔をして口から吾郎自身を引き抜いたものの、舌先だけはそれに触れながら答えた。
その光景。
それだけでも吾郎を刺激するには十分すぎて、舌先だけで触れられても震えてしまって。
「・・・っう、・・・ぁ・・・・。」
「吾郎くん?」
「俺・・・なんか・・・変だ。」
「変?」
「お前に・・・そこを触れられると・・・おかしくなっちまいそうで・・・・何が起こるか分からない、っつーか・・・・・。」
それを聞いた寿也は嬉しそうに笑った。
「吾郎くん、大丈夫だよ。それでいいんだから。」
「それでいい?」
「僕を信じて。大丈夫だから。」

反則だ、と吾郎は思った。
寿也にはこれから何が起こるかちゃんと分かっていて、なのに吾郎には訳が分からずされてばかりで息絶え絶え。
だけど、こんなに綺麗なエメラルドの瞳で見つめられたら・・・・。

「お、お前はどうなんだよ!!」
魔術師でもなんでもない筈の寿也なのに、その真摯な瞳を見つめたら、魔術にかかったように何も言えなくなる。吾郎は意識して瞳を逸らして言った。

「僕?」
「そうだ!なんで俺ばっか、こんな所を・・・!!お前ばっかり、涼しい顔しやがって!!」
吾郎の言いたい事を理解した寿也は、とんでもない提案をした。
「じゃ、互いに触ってみる?しゃぶりあう、ってのもあるみたいだけど・・・。」
「しゃ、しゃぶり合う!?」
吾郎は陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせて、 パニック状態。
「でもそれは・・・また今度にしようか。」
吾郎の様子を見て寿也は苦笑気味に言った。

また今度って・・・結局はいつか、しゃぶりあうのか!?
と、吾郎が内心、慄いた事はとりあえず置いておこう。
そしてそれは・・・・明日、海の泡にならなかったらの話・・・だしな、と思ったことも。

寿也は素早く下半身も脱ぎ捨てた。
寿也の中心も大きく硬く、腹につきそうな位に反り上がっている。
吾郎は、自分の頬が羞恥に染まるのを感じ、目のやり場に困ってしまった。
しかし寿也は平然と吾郎の隣に腰を下ろして、吾郎の手を自らのそこへと導いた。
吾郎の指先が寿也のそれに少し触れただけで、寿也のそれもピク、と動いた。
と、同時に寿也が顔を少し顰める。
「どうした?痛いのか?」
吾郎は素直に心配になった。
「違う・・・。いつか君と湖に行った時も、君は同じ事を言ったけど・・・あの時も違ったんだ。」
「・・・え?」
「痛いんじゃない。感じてるんだ。」
寿也はまた、翠玉のような瞳に不思議な輝きを湛えて吾郎を見つめた。
「握って。」
瞳の魔法にかかってしまった吾郎は、言われるがまま、寿也の中心を握り込む。
「・・・っ!!」
寿也は大きく溜息を漏らすと、今度は吾郎自身に手を伸ばした。
すると今度は吾郎が切なげな声を上げる。
「今、吾郎くんが感じた事と同じ事を僕も感じてる。」
寿也は吾郎の耳元で囁いた。
寿也の甘い声が直接耳に吹き込まれて、また体に震えが走る。
「同じ・・・・。」
「そう、同じだ。吾郎くん、僕が動かすように君も僕のに触れて動かしてみて。」
そして寿也は吾郎のそれを軽く触れるように手で包み込み、ゆるりとなぞり上げた。
「・・・は、ぁ・・・・・っ・・・!!」
「吾郎くん、よく見て。同じように僕にして。」
見ろ、と言われても。
寿也の綺麗な指がそれに絡みついているのを見ただけでおかしくなりそうなのに、同じ事を寿也にしろと?
寿也は容赦なく手を動かし続けながら吾郎の耳元で囁く。
「吾郎くん・・・・シて・・・・・。」
直接脳に届く、寿也の甘い声。
吾郎は喘ぎながらも自分のそれを見て、そして寿也のそれを見て、なんとか手を動かしてみた。
「・・・っ、・・・そ、そう・・・。吾郎くん、上手いよ。」
褒められると、嬉しくなって。
吾郎は寿也の手の動きを見つめながら、更に動かしてみた。
互いに、だんだん息が荒くなる。
動かす手も、だんだん強く、激しく擦るように。
それを互いに弄ぶ様を見るだけでなんだか興奮してくる。
寿也の息を詰めるような甘い喘ぎ声が耳に直接吹き込まれて、耳からも甘く痺れていく。
寿也の声を聞いて、そして自分が思わず出してしまっている声も聞いて。


今、俺達は同じ思いを共有している・・・・・。

それが嬉しくて。
動かせば動かすほどに、感じていく。
同じように寿也が感じて吾郎が感じていく。
もっと感じたくて寿也に更に触れると、寿也が更に感じて吾郎に触れる。
快楽の相乗効果は、もっともっと、と急き立てるように。
そしてそれは、次第に濡れた音を立て始めて。
「何故そんな音が。」
と疑問に思う余裕など、吾郎にはこの時既になかった。

「吾郎くん・・・。」
たまりかねたのか、寿也は吾郎に唇付けた。
すぐに舌を絡め合う、むさぼり合うような唇付け。
口内から響く水の音と、互いのそこから響く濡れた音がまるで効果音のように響き渡ると、そこが生き物のようにピクピク・・・と互いの手の中で跳ねた。

「と、とし・・・とし・・・・、やっぱ、ダメ・・・もう、ダメ・・・放して・・・!!」
「・・・っ、大・・丈夫だから。怖がらないで・・・。」
「だって・・・絶対・・・おかしい、なんか・・・変・・・・とし、・・・・・!!」
すがり付く様に頼む吾郎だが。
「吾郎くん・・・大丈夫・・・君は今、初めて・・・・「イく」んだ・・・・。」
「イ・・・・く・・・・・・?」

荒い喘ぎの中で。
そこへ集中する、甘美過ぎる痺れ。
集中しすぎて・・・何か、些細な切っ掛けがあれば爆発してしまいそうな・・・そんな未知なるものへの恐怖。

もう、ダメ、だ・・・。
何がなんだか・・・でも、もう我慢できない・・・。

そんな、もどかしさ。

「吾郎くん・・・イくんだ。」
寿也は追い討ちをかけるように、親指の腹で吾郎の先端をグイっと擦りながら、握り込む手に力を込めて大きく躙らせた。
「・・・ふ、あ、・・・・ああ・・・・っ!!」
その時、吾郎自身が、吾郎の全身が引き攣ったように強張り、そしてビクビク・・・っと震えた。
勢いよく放たれたそれ。
吾郎は放心状態で寿也の腕の中に崩れ落ちる。
寿也はそんな吾郎を強く抱きしめた。
肌と肌が熱くて、そしてどちらのものとも分からない心臓の音が互いの体に響き渡り反響していた。
放った後の気だるい時間。
寿也に支えられながら、息を整えながら、吾郎は寿也の手が白い液体にまみれているのを見た。
寿也の体に飛び散っているのも。
吾郎は荒く息をしながらも、その瞬間を振り返ってみた。
今まで経験した事の無い、とてつもない衝撃。
完全に我を忘れた状態で体中に電流が駆け巡ったように震え、そして痙攣したその時、何かを出したような気がした。
その・・・吾郎自身から。
としたら・・・今、寿也を汚しているものは・・・・・。
「あ、その・・・・それ、俺が出したのか?」
「そうだよ。吾郎くんの精液。」
「せいえき?」
「そう。君が僕の手で感じてくれた証拠。」
寿也はその手をぺろりと舐めた。
「・・・・な、なんでそんなもん、舐めるんだよ!!」
「だって・・・嬉しいんだ。君が僕でイッてくれた事が。それより・・・どうだった?初めての絶頂は。」
「絶頂?」
「あ、ああ。イく事を絶頂とも言うんだ。気持ちよかった?」
「気持ちいい・・・・。よくわからない。なんか追い詰められるようで・・・どうなってしまうのか、怖かった。怖かったけど・・・抵抗できない痺れみたいなのが熱く、ここに集まってるみたいで・・・その・・・なんて言ったらいいんだろう。すごかった。」
一生懸命、表現しようとする吾郎のその姿。

可愛い・・・早く・・・吾郎が・・・吾郎の全てが、欲しい・・・・。

寿也は微笑を浮かべながら、その頬に唇付けた。
唇付けながら吾郎の体をもう一度ベッドに横たえると、寿也は手近にあった布で自らの手や腹の拭い、吾郎自身は寿也の舌で清め始めた。
「う、うわ・・・、何してんだよ!!」
「何って、綺麗にしてるんだけど。」
「その布で拭けばいいだろうが!!」
「・・・・。だって・・・可愛いから、つい・・・・。」
寿也は困ったように笑った。
吾郎もこんな事を言われたら、二の句が継げなくなってしまう。
「でも吾郎くん、ホラ。今のでもう元気になったみたいだ。もう、こんなになってる。」
そう言われて・・・・。
そう言えば出してしまったその後は、いつも通りの大きさに戻っていたような気がする。
なのに今、またこんなにも大きく硬く。
「最初に寿也が言ってたように・・・俺はまた昂ぶったのか?」
寿也は苦笑するしかなかった。
「本当に・・・君はそういった知識が全く無いんだね。誰も教えてくれなかったの?というより子供から大人に変わる、ちょうどこの時期に・・・その・・・ソコに色々変わったことはなかったの?」
寿也は夢精の事を言ったのだろうが、ずっと人魚として成長した吾郎にはそういう事とは無縁だった。
ソレは人間になって初めて「付いた」ものだ。
「別に・・・なにも・・・・。」
寿也は少しの間、吾郎をじっと見つめていたが
「ごめん、変なこと聞いちゃったね。これからは僕がちゃんと教えてあげるから。」
とニッコリ笑った。


そして、寿也は改めて吾郎の体を見下ろした。
こうしていると、あの戦の折に受けた傷を、どうしても思い出してしまう。
あの恐ろしい日からそれほど日が過ぎた訳ではなかった。
つい、先日までは毎晩寿也はその傷に薬を塗っていた。
今は消えてしまった、その痕を指で辿る。
「本当に・・・すっかり綺麗になったね。君が無事で・・・・良かった・・・・。」
今度はその痕に唇を下ろし、辿っていった。
傷跡はすっかり消えてしまって、もう他の場所と見分けがつかない程綺麗だ。
でもこれは吾郎が示してくれた、愛の形。
あの刀傷。あの痛ましい・・・絶望的に深い、あの刀傷。
「傷は消えたけど・・・忘れない。絶対忘れない。」
寿也は特に傷が深かった脇腹の辺りに舌を這わせた。
それはとても大事なものに触れるように、そして癒えてはいたが傷を労わるように。
ぴちゃ、ぴちゃ・・と音が響いて、なんだか吾郎は変な気持ちになっていった。

これも寿也が言う、「昂ぶり」なんだろうか。
横になりながら視線を寿也に向ける。
傷のあった場所を丁寧に舐めていく・・・寿也の気持ちを、愛情を、痛いくらいに感じて、そこが脇腹、と言う事もあってか、妙にくすぐったいような気持ちいいような、そんな気持ちになってしまって。
もしもこの寿也とずっと一緒にいられるのなら、300年の寿命が100年になっても構わない。
例え、明日、海の泡になって消えても・・・・・こんなに幸せな時間を寿也はくれた。

本望だ─────。
何の悔いも・・・・無い。


「吾郎くん・・・泣いているの?」
「え・・・。」
言われて初めて涙が流れていた事を知った。
吾郎は慌てて手の甲で涙を拭って、とにかく何か言って取り繕うとしたのだが、寿也の瞳があまりにも真剣だったので吾郎は真実の気持ちを答えた。
「幸せだな、って感じてたんだ。もしも明日、海の泡になって消えても何の悔いもないって・・・思ってた。」
途端に寿也は血相を変えて叫んだ。
「僕は嫌だ!君が消えてしまったら、僕はどうしたら良いんだ!!こんなに・・・こんなに愛しているのに!!」
力の限り吾郎を抱きしめた。
吾郎も寿也の気持ちが嬉しくて・・・寿也の背に腕を回した。
触れ合う肌と肌。なんて優しく愛しく包み込んでくれるのだろう。
互いの心臓の音を肌で感じて・・・その音を感じていると次第に穏やかな、静かなあたたかな気持ちになっていく。
このぬくもりが欲しい。
ずっと、このぬくもりを感じていたい。
同じ事を、抱き合いながら思った。

「吾郎くん。僕は養子を取ろうと思う。」
「養子?」
「ああ。姉上の嫁ぎ先で出来た子供・・・できるだけ小さな男の子を養子にして僕達が育てる。その子に佐藤家を継がせるんだ。僕等がその子の親になる。姉上の所は子沢山だから、事情を話せばきっと分かってくれる。いずれ、どこかの姫と結婚させて婿養子にさせるよりも、佐藤の将来の当主にしたほうが良いだろうと・・きっと思ってくれる。」
「・・・・。」
いきなりの、あまりに突拍子の無い話に吾郎は呆気に取られてしまった。
「男同士の場合、どう言えば良いのか正直、分からないけど・・・・。吾郎くん、結婚しよう。僕の生涯の伴侶になってくれ。僕は君と共に、残りの人生を生きていきたいんだ。」
寿也は抱きしめる腕に力を込めた。
しかし。
「・・・・・。お前、本当に、それでいいのか?俺、男だぞ?今はいいけど、そのうち・・・綺麗な姫が良くなったり・・・・。」
吾郎はとても嬉しかったものの、戸惑ってしまって・・・どう答えたらよいのかわからなくて。
でもそれは、気持ちがが通じ合って以来、心のどこかにずっとあった不安でもあった。
だから、それを・・・つい口にしてしまった。
だが、寿也はキスで続きの言葉を封じてしまった。
寿也の唇、絡みつく寿也の温かく柔らかな、しっとりとした舌。
唇を離しても尚、離れたくなくて舌先だけで触れ合って。
「君が・・・愛しくてたまらないんだ・・・。この唇も舌も、吐息も・・・。」
そして唇だけを離した至近距離で、今度は逆に問いかけた。
「君はどうなの?僕とずっと一緒にいたら、そのうちどこかの姫のほうが良くなっちゃう?」
「怒るぞ?」
「僕も同じだ。神に誓うよ。君への審判を下すという、その神に。男の君を妻に迎える、と言うのは変な表現だけど・・・僕は君を生涯の伴侶として迎えたい。そして今は、その初夜だ。これ以上の真実の愛の誓いが他にある?」
吾郎の瞳に、再び涙が込み上げた。
「・・・・ない。」
吾郎は感情のまま、寿也の両の頬に手を添えた。
エメラルドの瞳には吾郎だけが映っている。
その瞳は真実しか語らない。
力の篭った輝きを放つ、双の翠玉。

ありがとう、ありがとう・・・・寿也。
これが、その神とやらに届かなかったら、そんなヤツの目は節穴だ。
でも・・・それでも、もし。
届かなくて・・・海の泡になってしまっても、俺にはなんの後悔も無い。
人間になってよかった・・・・・・・・・。

再びきつく抱きしめあいながら唇付けを交わした。





















人魚の初恋 5→










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