それからは。
野球では相変わらず全力投球。
チームも打撃で答えてくれて、今日も勝てた。
いい投球ができた、と思う。
野球は順調だ。
ワッツが言う、二つの道。
俺は誰が好きなんだろう。
誰とシたいんだろう。
これから、どうしたいんだろう。
こんな事を考えながら
高層マンションの一室で
スポーツニュースで自らの活躍を見たり
日本のスポーツニュースを見たり
薫からの電話に出て下らない話をしたり
・・・・・・自慰をしたり。
突き上げられるあの感覚。
あたたかな中で果てる感覚。
欲しいのはどっちだ。
「吾郎くん・・・・。」
「本田・・・・・。」
薫からは電話が時々あるが、寿也からは全くない。
それは去年もそうだった。
だからこれは当たり前の状態。
────会いたい・・・・。
漠然と思う。
しかし誰に。
どちらに・・・・・・。
悶々と考えていたら呼び鈴が鳴った。
「どちらさん?」
「キーンだ。」
「キ、キーン??」
予期せぬ訪問者に吾郎の声は裏返ってしまった。
「悪いが上がらせてくれ。」
何がなんだかよく分からなかったが。取り合えずドアを開けた。
この高層マンションに同じく越してきたチームメイト、そして現在の恋女房キーン。
研究熱心で常にデータ分析は怠らず
そして試合中ではそれらから得られたプランにより緻密なリードをしてくれる。
それだけではない。
バッティングもかなり良く、今日もキーンの一発があったから勝てたと言ってもいいだろう。
キーンと出会った当初は色々あったが、現在は吾郎もキーンには絶対の信頼を寄せていた。
ただ、キーンも含めた仲間と共に食事に行くことは多かったが
実際、同じマンションに住んでいながら
吾郎の部屋にキーンを上げた事も、逆に吾郎がキーンの部屋に行った事もなかった。
だから吾郎は驚いた。
しかも夜もかなり遅い、こんな時間に一体なんの用件で?
「どうしたんだ?今日の試合で何か気になった事でもあったか?」
吾郎はいつも通りキーンに問いかけたが
キーンは吾郎の身なりを見て、そしてソコを見て。
「自慰中か?すまなかったな。」
と言われて初めて自分がパンツ一枚しか身に付けてなかった事に気付いた。
「うわ・・・っ!!す、すまねえ、こんな格好で!!でもオナ中じゃねーよ!!」
「別に・・・試合後のシャワールームでお前の裸など見飽きている。
だから身なりはどうだっていい。でもソレではどんな言い訳も虚しいと思わないか?」
ソレとは。
立派に盛り上がったソコ。体に密着するタイプのボクサーパンツだ。言い訳のしようがない。
自慰の最中ではなかったものの、あのままだったら間違いなく自慰へ突入だっただろう。
「ア、アハ、ハハハハ・・・・。」
吾郎は力なく笑って誤魔化すが、キーンは。
「気にしなくて良い。男なら誰でもすることだ。
それにこんな時間にいきなり押しかけたらそういう事だってあるだろうさ。」
「・・・・・。お前、何しに来たんだ?」
吾郎は心の底から不思議に思った。
「・・・・ワッツに聞いた。」
「な・・・・!!なんだよ、口、軽すぎだろ〜、オッサン!!」
「で、結論は出たか?」
「・・・・・・。簡単に出るかよ。」
ふて腐れたように答える吾郎。
「だろうな。今日の、いや・・・最近の投球にもそれが表れている。」
「え・・・・・・。」
「首脳陣が気付くのも時間の問題だ。ホーネッツの正捕手として、見過ごせる事じゃない。」
「・・・・・・。」
「お前の彼女というのは、去年一緒に迎えに行った・・・あの子供みたいな女だな。」
「子供じゃねーよ!」
「で、男というのは・・・・。」
「なんでそんな事、お前に言わなきゃならねえんだよ!!」
反抗期の子供のようにムキになって言うが
「巨仁の佐藤寿也か。」
「・・・な、なんで・・・・・。」
「W杯を見ていてピン・・と来た。そしてワッツに聞いて確信に変わった。」
キーンは冷静に、いつも通り淡々と語っていく。
「W杯って・・・そんな前から・・・。」
キーンは気付いていたというのか。
「明日はオフだ。」
「だからなんだよ。」
「だから抱いてやる。」
「は?何言ってんだよ!!」
「彼女か、佐藤か選べないんだろ?こんな遠くでじっと考えてたってなにも変わらない。
もう一度誰かに抱かれれば何かしら糸口は掴めるだろう。」
「な、何言ってんだ!キーンともあろう者が!頭おかしくなったんじゃねーの?」
「残念ながら正気だ。俺だって好んで男なんか抱きたくない。しかしお前なら抱いても良い、と思っただけだ。」
「なに・・・・。」
「お前には・・・そう思わせる何かがある。気をつけたほうがいい。」
「へっ!そう言いながら俺の事、犯す気かよ!?」
精一杯強がる吾郎だが・・・。
「お前がシャキッとしてくれなければホーネッツが困る。それだけだ。」
そしてキーンは改めてまじまじと吾郎を見つめた。
「・・・・わかったか?」
「何がだよ!!」
「・・・・お前、今、どう思っている?」
「は?」
「俺はお前を抱くと言った。で、どう思った?」
「ど、どうって・・・・。」
「俺に期待したか?それともお前なんかに抱かれてたまるか!と・・・つまり相手は俺じゃ嫌だと思ったか?」
「・・・・・。」
「どうなんだ?」
「俺・・・・・。」
キーンはツカツカと吾郎の元へ歩み寄った。
そして吾郎の股間を鷲づかみにしてニヤリと笑んで。
「あ・・っ!」
「ここ・・・・。男の俺に抱いてやる、と言われて尚、こんなになっているのは俺に抱かれる自分を想像したからか?
これからサれる事に期待して、か?
それとも男に「抱く」と言われて佐藤に抱かれた自分を思い出したか?どっちだ。」
「・・・っ・・・!」
キーンはあまった方の手を吾郎の後頭部に回して唇を近づけていった。
「男に抱かれる事に目覚めてしまったのなら・・・俺が可愛がってやる。たっぷりと・・な。」
もう数cmで唇が触れる・・・という所で
吾郎はキーンを突き飛ばしてしまった。
思い出してしまったのだ、寿也の顔を。
あの甘い声で「吾郎くん・・」と囁きながら唇を近づけてきた寿也を。
あの・・甘い・・・幸せな時間を。
「答えは出たようだな。」
吾郎に思い切り突き飛ばされても尻餅をつかずに済んだキーン、そのとっさの反射神経はさすがだ。
そのキーンにそう言われて吾郎はハッ・・とする。
「彼女の事は知らん。が、少なくともお前は他の誰でもなく、佐藤に抱かれたいようだ。」
「あ・・・・・。」
「まあ、そこまではワッツと話した時には既に分かっていたようだが・・。
ところで。お前、俺にあんな事を言われて、ちょっとでも彼女の事を思い出したか?」
みるみる吾郎の顔色が変わっていった。
「・・・・なんだ、もう答えは出てるじゃないか。」
「お、俺は・・・!!」
わかっていた・・・俺は、心のどこかでわかっていた・・・ような気がする・・・・・。
呆然とする吾郎に追い討ちをかけるようにキーンは続けた。
「既に答えは決まった。だから、もう悩むな。」
虚ろな瞳でキーンに視線を向ける吾郎。
「しかし、同性愛はどこの国でも多かれ少なかれ好奇の目に晒される。
まあ・・・彼女に関しては実際会って、もう一度抱いてみた方がいいだろうな。
ワッツの話によると、佐藤とも彼女とも一回だけだというし。」
「あ、あのオッサン・・・・!」
「シてみたら考え方が変わるなんて事はよくある話だ。
つまり、会わなければ何もわからないし進まない。」
「・・・・あ、ああ。わかった。」
「しかし・・・。」
真面目な顔をしていたキーンが一転してニヤリと笑って
「佐藤に抱かれて彼女を抱く。優雅なことだな。」
「な・・・!!」
吾郎は侮辱されたと思い、怒りを顕にするものの。
「・・・そうやってるうちに道筋も決まってくるさ。
まだ二十歳だ。
まだ・・・結婚まで考えて恋人を選んだり切り捨てたりする必要もないだろう。
ただ、マスコミにだけは気をつけろ。奴らはこういった話が大好物だからな。」
言いたい事だけ言って立ち去ろうとするキーンに吾郎は。
「お前・・・・。」
「なんだ。」
キーンは振り返る。
「鎌を掛けに来たのか・・・・。」
「本当に抱いて欲しかったか?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねーよ!!」
「・・・・。せいぜい頑張るんだな。
そして、ほぼ結論は出たのだから、もう悩むな。
帰国してから・・スル事シてから悩め。
今は何を考えても何も進まないし解決などしない。
今度の試合でまだ引きずっているのが見えたら、俺はボスにお前の交代を進言する。覚えておけ。」
今度こそ、キーンは立ち去った。
一人残された吾郎は安堵と、そして感謝の笑みを浮かべた。
とはいえ。
キーンに迫られて、吾郎は確実に寿也も欲している事に気付かされた。
「も」である。
どうしても・・・・薫より寿也が欲しい、とはまだ認められない吾郎がいた。
しかし確実に・・寿也ともう一度シたい・・・と思っている。
ワッツにキーンに断言されて・・・さすがにそれは認めることにした。
一度に二人を、しかも片方は同性。
それを開き直って受け入れて平気でいられるほど吾郎はそういった世界にはあまりに不慣れであったが。
キーンが言う様に、帰国までは悩みには蓋をする事に決めた。
そう、悩んでも仕方がないから。何も変わらないから。
結論など出るはずもないから。
その数日後。
吾郎はセットポジションに入る。
そして第一球を・・・・投げた。
ズバッ・・・・!!
キーンのミットへ唸りを上げて吸い込まれた球。
凄まじい手ごたえ。
キーンはフッ・・と笑みを浮かべる。
開き直ったか、チェリーボーイ。
ああ・・もうチェリーではなかったな・・・・。
そして吾郎へボールを返す。
そしてもう一球。
もう大丈夫だ。
吾郎は野球の面では・・もう心配ない。
キーンはそう確信した。
これからそっち方面では大変だろうが・・・・
人のプライベートに立ち入るほどキーンも暇ではない。
とにかく、プレイに持ち込みさえしなければ、あとは好きにすればいい。
そうしてシーズンは順調に進んで行った。
今年は優勝を逃してしまったが
最後まで優勝争いに参加し、そして吾郎も堂々たる結果を残した。
もはや日米における、誰もが認めるスーパースターになった吾郎。
堂々の凱旋帰国だ。
空港に着くと、去年とは全く異なり、大勢の記者が待ち構えていた。
無数のフラッシュ、そして多数のテレビカメラ。
向けられるマイク。
しかし吾郎は相変わらずのマスコミ嫌い・・というか苦手というか。
適当に返事をしてさっさと巻いてしまった。
久しぶりの自宅。
父の労いの言葉、そして母の手料理。
弟や妹と遊んでやって・・・・・・。
ようやく自分の時間。
ベッドに寝転んで天上を見上げる。
どうする。
どちらに先に会う。
と、悩んでいたら携帯が鳴った。
画面を確認すると「清水薫」。
吾郎はそのまま携帯をベッドへ放り投げてしまった。
まだ現実に目を向けられない自分がいた。
そもそも、だ。
寿也とは幼稚園の時からの付き合い。
薫だって小学生以来だ。
寿也の方が付き合いは長いが・・・当然そういう問題ではない。
薫に対して意識したのは、ここ数年の事。
それまでは女とはいえ、信頼できる仲間、友達だった。
そうだ、告白されて大河に突付かれて初めて意識した。
そして吾郎も・・・薫が好きなのだと気付いた。
三船リトル以来、いつも吾郎の傍には薫がいた。
自然に・・・空気のように・・・当たり前のように・・・。
ヘタクソなのにとにかく前向きで。
そのガッツだけは当時の吾郎も認めていた。
中学からはさすがに女で野球という訳にはいかずソフトボールに転向したが
しかし。
薫は小森同様、吾郎の理解者で
そしてへこんだ時には渇を入れてくれる、女とは思えないような女。
そんな所は昔から気に入っている。
やっぱり吾郎は・・・薫の事が好きなのだと思った。
一方、寿也。
寿也とはずっとライバルで親友だった。
そう、常に最強の、最も手強いライバル。
しかし。
頻繁に会ったり話したりしていた訳ではなかったのに
どんな時も・・・吾郎と寿也は同じものを見つめてきたように思えた。
同じものを追いかけて、同じ夢を見て。
だから・・どんな時も離れていても、一番吾郎に近い存在だった。
一番・・・同じ気持ちを共有できる存在、だった。
寿也をそういう目で見た事は当然ない。
しかし。
どうなんだろう?
本当にそういう目で見ていなかったのだろうか?
昔から多くのライバルや仲間の中で、寿也だけは特別だった。
知り合ったのは誰よりも早かったが、共にいた期間は振り返ると意外に少ない。
だけど、どんな時も寿也を意識してきた。
・・・この場合の「意識」とはライバルとして、仲間として、だが・・・。
敵の時は誰よりも手強い相手、味方の時は最も頼りになるヤツ。
それが寿也だった。
どんな時も・・・・寿也を見てきた。
いつも・・・いつも。・・・いつもいつもいつも!!
だけどあんな顔だけは、あの時はじめて見た。
「吾郎くん・・・。」
脳裏に蘇る、切羽詰った甘い声。
あの腕に、胸に抱かれて・・・・・俺は・・・・。
頭の中にあの時の寿也が矢継ぎ早に思い出されて、吾郎はブルンブルンと大きく首を振る。
だいたい・・・・。
何故俺はソフィアに言われた冗談で、寿也に本当にそう言ってみようと思った?
普通、ソフィアに「アホか・・。」と返して終わりだろう。
なのに俺は寿也にそう言った。何故?
そして何故、寿也に承諾された時、拒絶しなかった?
冗談だよと・・・笑って言えなかった?
何故・・・・あのまま抱かれた?
あり得ねえだろ、普通!!
いくら言い出したのはこっちからだとしても、
「好きだったんだ」と衝撃の事実を知らされても。
どんなに大事な親友だって恩人だって!
セックスだぞ?
女とでだって、そう簡単にするもんじゃねえ。
それを・・・・。
吾郎は再び携帯を手に取った。
電話をする相手は「佐藤寿也」。
プルルルル・・・・。
出るか・・・出ないか・・・・・
出なかったら?
出なかったら薫に掛けてみるか・・・・・・。
そう、これは・・・・賭けだ。
声が震えないだろうか。
平静を保てるだろうか。
吾郎には自信がなかった。
「はい。」
出た!!
「よ・・・よう!寿也!」
「吾郎くん!帰国したのは知ってたけど、まさかこんなに早く連絡くれるなんて!」
「迷惑だったか?」
「そんな訳ないだろ?嬉しいよ。」
久しぶりに聞く寿也の甘い声。
吾郎も嬉しくなった。
そして胸の中がジーン・・・と温かくなっていくのを感じた。
「早速だけどよ、寿。」
「なに?」
吾郎は一呼吸おいた。
震えないように。
天気の話でもするよう、言えるように・・・。
ずっと・・。
この件に関しての悩みには蓋をしてきた。
考えても答えなんて出ないから。
散々考えても答えなんて出なかったから
会ってみなければ分かる訳がない、と結論付けたから。
そして・・・帰国したら寿也にこう言おう、と決めていたから。
「デートしねえ?」
「・・・・・・。」
「なんだ?都合、つかねえのか?」
「いや・・・・。そうじゃなくて・・・・。吾郎くん、そういう言い回し、やめてくれないかな。」
「なんで?」
「・・・なんでって・・・。」
暫くの沈黙の後、寿也は溜息をついた。
「・・・・酷いな、吾郎くんは。」
「は?どういう事だよ。」
すると受話器越しにまた溜息が聞こえてきた。
寿也の気持ちはわかっている。
わかっていて敢えてそう言った吾郎。
「・・・・。あまり蒸し返したくはなかったけど・・・去年二人で海に行った時、僕が言った言葉、覚えてる?」
「ああ、あれね。覚えてるぜ?」
吾郎はわざとなんでもない事のように言うと、寿也がムッとしているのがこちらにまで伝わってきた。
「覚えてるのにそんな言い回しをする吾郎くんは・・・意地が悪いとしか言いようがないよ。」
「なんで。覚えてるからこそ、そういう言い方をしたんだよ。」
「・・・・・・。」
ますます寿也が腹を立てている。怒りのあまり、絶句の寿也。
でも、こう言ったら・・・・少しは機嫌を直してくれるだろうか?
「デートしようぜ。そしてまた抱いてくれよ。」
「・・・・なっ・・・!」
「デート、しようぜ?」
「・・・・。吾郎くん。どういうつもり?シたいだけなら別の相手を探しなよ。僕はもうゴメンだ。」
ところが機嫌が直るどころか・・・寿也の怒りは氷点下へと。
「ちょ、待てって!切るな!!」
慌てて吾郎が言うと、寿也は電話を切ることだけは思い止まってくれたようだった。
あの見覚えのある冷え切った寿也の瞳が見えるようで怖かったが
しかし・・・・。
これはなんの偽りもない、吾郎の本音。本当の気持ち。
「あのさ。・・・・・。俺・・・わかんねえんだよ。アメリカでお前の事ばっかり思い出して何度も抜いた。
なんでだかわからねえ。とは言っても清水の事を嫌いになったか、と言われると・・・それもわからねえ。
散々考えて悩んで・・・そして・・・会ってみなくちゃわからないだろうと、気付いた。」
「会って抱かれれば分かるだろうって事?
随分勝手な言い様だね。僕は君のセックスフレンドになるつもりなんかないよ。」
「違う、そんなつもりじゃ!!」
「じゃあどういうつもり?去年のアレは一度きりの過ちだった。好奇心故だった。
そんな事は僕も分かってるさ。だから君にしつこくするつもりなんて全くなかった。
君にとっては、ただ一度きりのお遊び、好奇心でも・・・僕は本気だった。
本気で君を抱いた。僕はもう、あれで十分だ。
例え君相手でも、遊びのセックスを僕はもう二度とするつもりはない。
もう二度と、そんな理由で僕を誘わないでくれ。」
「寿!」
「何?」
「・・・すまないが怒らないで最後まで聞いてくれないか?」
「・・・・・・。」
その無言を承諾と受け取って吾郎は話し始めた。
本当の気持ちを素直に話すから・・・だから受け止めてくれ、という願いを込めて。
「俺・・・去年アメリカに発つ前に・・清水を抱いたんだ。」
「・・・そう。良かったね。」
まるで棒読みのような冷たい返事。
「でも・・・違うんだ。俺は裸のアイツを前にしても野獣になれなかった。」
「へえ・・・・。」
「お前との時は終わって欲しくなかった。ずっとこうしていたいと・・・思った。
お前との時は幸せとか安らぎとか・・そんなものまで感じたのに、俺はアイツを抱いた時、そう思えなかったんだ。」
「そして?」
「・・・。アメリカに帰っても、気付けばオナニーする時お前との事ばかり思い出している自分に気付いて愕然とした。
意識的に清水を思い出してオナろうとしたけど萎えちゃうんだ。」
「・・・・・・。」
「お前に抱きしめられた時・・・とか・・・その・・・突き上げられた時、とか・・・・・そんな事ばっかで俺・・・・・。」
「・・・・・・。」
「でさ、信頼できる・・ホーネッツの・・・ワッツやキーンに・・あ、あいつ等、知ってるか?」
「情報として知ってるだけだけどね。」
「あいつ等に相談したら俺はお前に抱かれたいんだ、と気付かされた。」
「・・・・・。」
「その後も色々あったけど・・・・清水の事は正直わからねえ!
でも俺はお前に抱かれたいんだって・・・分かったんだ。」
「・・・・・・。吾郎くん、自分が何言ってるか分かってる?」
「ああ。わかってる。清水にはまだ会ってねえ。最初にお前に会いたかった。」
また寿也が溜息をついた。
「一つだけ聞いてもいい?」
「ああ。」
「君が欲しいのは僕?それとも君を抱く男?」
「・・・・・。俺は・・・。」
違う、違うんだ。
それならあの時キーンに身を委ねれば済んだ話だ。
俺が求めているのは、俺が欲しいのは・・・・。
「俺は・・・。俺はお前が・・欲しい・・・・。」
「でも清水さんに関しては、まだわからない・・んだね。」
「・・・!待っ・・俺・・・。」
「いいよ、わかった。そういう事なら・・・・とにかく一度会おうか。・・もう一回だけシよう。
そして君は別の機会に彼女に会って・・そして抱く。それで君の結論がどう出るか。そういう事なんだろ?」
「・・・・・・。」
そういう事なのだ。
それは初めから決まっていた。
寿也ならきちんと話せば分かってくれると・・・・。
しかし。
当の寿也の口から聞くと、自分がとても汚い人間のように思えた。
そして
「・・・すまねえ・・・・。」
心の底から、吾郎はそう思った。
「・・・しょうがないよ。
吾郎くんがまた好奇心だけとか、気持ちよくシて欲しいから僕を誘ったのだとしたら
さすがに怒ったかもしれないけど・・・
吾郎くんが迷ってるんだとしたら、僕にとってはチャンスでもあるんだからね。
でも・・・テストはこれっきりだ。
僕を選ぶのでない限り、もう僕は君を抱かない。それだけは覚えておいてくれる?」
吾郎は返す言葉もなかった。
「じゃあ早速だけど、今から会おうか。」
「今から?」
「ああ。帰国したのに、あんまり彼女を待たせたら変だろ?君さえ良かったらだけど・・。」
「俺は・・・何の予定もない。」
「そう。じゃ、決まりだね。待ち合わせは・・・・・。」
そして電話を切った。
会う。
これから。
寿也に。
アメリカにいた間、ずっと・・・思い出してはシた・・・寿也に。
胸の奥から、湧き上がるような喜び。
こんな喜びを、どう表現したらよいのか吾郎は知らなかった。
それくらい、嬉しかった。
しあわせについて 4→
あのまま、キーンに抱かれる展開にしたいのをグッ・・・!!と堪えました(笑)。
ボツネタのオマケとして書いちゃおうかな・・・と考え中ですv。