ここは別世界。
夢の場所。

生きる事に疲れた男達が、ひと時の夢を買いに来る場所。

一歩、店の外に足を踏み出せば
そこには容赦ない現実が待っている。

それでも、それを分かっていても
今日も男達は夢を買いに店にやってくる。


そしてその店で働く者たちにとっては
店こそ現実。
容赦のない、報われる事のない・・・悲しい世界。

ここでは本気になったら負け。
いつも心に蓋をして、真実を見せないよう
いつも誰にでも笑顔で夢を振りまいて・・・・奈落の底で・・・ただ、生きる。
















すっかり常連となってしまったこの男。
いつものようにその部屋で、いつもの注文をお願いしていた。

「とりあえず吾郎くんをお願いします。衣装は裸エプロン、白ブリーフで。」
「かしこまりました。」


そして暫くすると。

「・・・・。白ブリーフだけならともかく!裸エプロンだけならともかく!!
ブリーフと裸エプロンって・・・なんだか嫌な予感がする・・・・・・・。」
悪寒による寒気に震えながら吾郎が扉をガラガラと開けた。
「やあ、吾郎くん!待ってたよ。」
白い歯がキラリと光る、爽やかなその笑顔。
「・・・・やっぱりお前かよ・・・・寿。」
「部屋に入る前から僕だって分かってくれたの?嬉しいな。」
「こんな変態マニアックな希望を出す奴なんてお前以外にいないって意味だよ!!」
「そう?別に普通じゃない?」
「普通じゃねー!!」
吾郎は寿也の目の前で仁王立ちをして抗議する。
「まあ・・そんな事より。いいね、そのポーズ。」
ニコニコと満足げに吾郎の全身を見つめる寿也。
「・・・っ!」
「見られるだけで感じちゃうの?」
「か、感じてねー!」
「じゃ、証拠見せて?」
「証拠?」
「ああ。そのエプロン、持ち上げてくれる?ちゃんとソコを僕に見せて。」
「い、嫌だ・・・・。」
「なんで?感じてないならどうって事ないでしょ?」
「嫌なもんは嫌だ!!」
既にソコは盛り上がっている。
エプロン越しでもそれは明らか。
それに、吾郎は客の言う事には絶対服従の筈。
「イヤイヤ」と焦らしてみせるのならともかく
「嫌だ」を通す事は許されない。
それを掲げて言う事を聞かせるのは簡単だが
寿也はこの状況も楽しみたかった。
「相変わらずのきかん坊だね、君は。」
「・・・っ!」
頬を染めてプイ、と横を向いてしまった吾郎。
そんな仕草も可愛くて。
寿也は手にしていたビールをテーブルに置いて立ち上がった。
そして吾郎の両手に手を添えてエプロンを持ち上げる手伝いをしてやる。
「な、やめろったら!このスケベ野郎!!」
「酷い言いようだな・・。
でも君を目の前にしたらどんな男だってこうなっちゃうと思うけど?
ホラ・・・もう、こんなになってる。」
結局持ち上げられてしまったエプロン。
白いブリーフが淫猥に盛り上がって既にシミまで。
「この・・白が眩しいね。」
「エロ親父みたいな事、言うな!!」
「みんな君がいけないんだよ?君がこんなに可愛いから・・・。」
「俺は、可愛くなんか・・・ない・・・っ!!」
ブリーフの上で寿也の指が蠢いている。
「可愛いよ。君は・・・十分過ぎるほど。」
耳元で囁きながら、乳輪をエプロン越しに触れる。
耳に触れる唇が熱い。
なのに肝心な所へは邪魔な布越しにしか触れてくれない。
でも早く直接触ってくれ、だなんて言えない。口が裂けても。

・・・・。
お前に会いたかったなんて・・・
今度はいつ、お前が来てくれるか・・・いつも考えていたなんて・・・・・
言えない・・・言っちゃいけない。

「吾郎・・くん・・・・。」
可愛い。
必死に葛藤している君。抵抗の仕草を見せる君。
でも体は素直に感じている。
僕の唇を、指先を。

君をどこかに閉じ込めておけたら。
今すぐ君とここから飛び出して、どこか二人だけの場所で・・・・。

本当は、君を誰の目にも触れさせたくない。
誰にも指一本触れさせたくない。
君を他のヤツに抱かせたくなんか!

こんな店で・・・お金さえ払えば誰の手にも落ちる君。

やめておけ、と友達は、先輩は言う。
「遊びならともかく・・あんな奴に深く関わるとお前の人生が駄目になる。
お前はこのチームの期待の星なんだぞ?」
何度も言われた。
だけど僕は出会ってしまった。君に。

無邪気に笑う君。
本気で怒ったり拗ねたり・・笑ったり。
僕の心を、皆の心をいとも簡単に惹き付けて虜にする。

初めて君を見た、あの瞬間の事を・・僕はどう表現したら良いのか分からない。
ただ、間違いないのは・・あの瞬間から、君は僕の心に住み着いてしまった。
僕にとって大きな存在となってしまった。
自分でも驚いているんだ。
止まらない・・・・んだ・・・・・・。


皆の助言は良く分かる。
それは正しい分別のある判断。
でも僕は君に出会ってしまった。
分かってる・・・分かってるさ、皆の言いたい事は痛いほどに!
・・・でもこれが僕の真実。
それを通す事で、周りが言う事は目に見えていた。
もしかしたら僕を育ててくれた祖父母にまで被害が及ぶかもしれない。
僕だって悩んだ。悩み抜いた。
しかし結論はいつも同じ。
君が好きだ、という事に辿り着く。
僕は自分の心に嘘はつけない。
愛してしまったのだ、君を。
世間を敵に回しても、何を捨ててでも・・・・・君が欲しい。


「吾郎くん・・・。この店を出る気はないの?」
「またその話かよ。俺はここの女将に拾われなければ死ぬしかなかった。だから恩がある。」
「でももう、君は立派な大人だ。いつまでも小さな子供じゃない。」
「やめようぜ?俺は・・・金さえ払ってくれたら、どこの誰とでも・・・こういう事をするんだよ。
お前みたいな輝かしい未来のある奴は・・・俺なんかに関わっちゃいけないんだ。」
「僕は・・・・。」
「お前は・・どうかしちゃってるんだよ。ここは魔物の巣窟みたいなもんだから。
その魔法で目くらましでもかけられてんだよ。
ここじゃない、外で俺といたら・・・お前はきっと目を覚ます。
そして俺なんか捨てて・・・さっさと可愛い女の子の所へでも走って行くさ。
それくらいなら・・・・ここでお前に・・・例えかりそめでも・・・お前にここで愛された方がいい。」
「僕は嫌だ。君がここで・・・他の男達に抱かれるなんて・・・・。」
「寿也。外へ出たら夢は終わりだ。俺は目覚めたくない。
例え夢でも・・・お前に愛されるなら・・・・夢の中にいたい。」
「・・・・・。」
「どうかしちゃってるんだよ、お前は。ここは大人の遊び場。
俺とお前の関係も遊び。
割り切ろうぜ?お客さん!ご贔屓にしてくれてありがとな!?」
ニッコリ笑う吾郎。
・・・・やりきれない。
「・・・そう言い方はするな。」
「え?」
「僕は君を買ったなどと思っていない。僕は客なんかじゃない。
ここに来なければ君に会えない。君はここから一歩たりとも外へ出ないから。
だから僕はここに来る。」
「・・・・ありがとう、寿。」
「・・・・・。」
「こんな俺に・・・俺、こんなに汚れちゃってるのに
そんな風に思ってくれる人が一人でもいてくれた事が・・・・凄く嬉しい。
俺は一生、こんな生活さ。そしてこんな汚れた世界で人知れず死んでいくんだろう。
こんな俺だけど・・・こんな事を言ってくれる人に会えた。
お前に会って初めて生きてて良かった、生まれてきて良かったって・・・・心から、そう思えた。お前に会えて・・・良かった。」
「吾郎くん・・・。」
「湿っぽい話は終わりにしようぜ?そんな事より、時間、ねーんだからさ。」
「・・・・そうだね・・・・・。」
寿也は納得のいかない顔をしながらも吾郎に唇付けた。
そして自らのネクタイを緩める。
そして・・いつものように・・・・・・・・。


寿也に抱かれる度に・・・愛おしさが溢れるほどに募っていく。
哀しみはその何倍にも・・・・。
俺とお前は・・・こんな所でしか結ばれない。

所詮・・・どう考えても・・・どうにもなりはしない。
アブナイ衣装を着せられて喜んだ客とそういうコトに至る毎日。
どう考えても・・・俺なんかが寿也を望むのは・・・身の程知らずにも程がある。


俺の上で寿也が切羽詰った切なそうな表情で・・俺を見下ろしている。
絶頂が近いんだ。
俺、寿也のこの顔、すんげー好き。
好き・・・好き・・・・。
この顔も・・・俺にアブナイ格好させて喜んでる寿也も
俺を苛める寿也も・・・耳元で囁く寿也も・・・・・
テレビで見る・・・野球をやってる、最高にカッコいい寿也も。

でもダメ、なんだ・・・・。
わかるだろ?お前なら・・・
わかってくれ・・頭の良い、お前なら・・・わかる筈だ。


「吾郎くん・・・吾郎くん・・・・。」
もう終わる、寿也との夢のひと時。
終わって欲しくない・・・。けど・・。
ここはそういう店だ。そういう場所。
日常に疲れた男達が、ひと時の夢を買いに来る場所。
お前との夢の時間は、もう・・・・。

なのに。


「吾郎くん・・・・出るんだ、ここを。」
「何度も・・・同じ事、言わせんなっ!!」
「出、よう・・・。僕が・・・キミ、を・・っ!守る・・から・・・っ!!」
最後のピストン運動のさなか。
「だから、俺は・・・っ!!」
「僕は君をさらって行く!そのつもりで来た!」
「・・・・・・。」
「お金だけで君が解放されるなら簡単なことだ。
でもお金なんかよりも一番大事なのは君の心だ。」
「何、言って・・・。」
「僕は君といたい。君が好きだ。
好き、なんだ・・・こんな気持ちは・・・初めて・・・吾郎、くん・・・っ!!」
「あ・・・・。」
「行こう、行くんだ、君は。僕と一緒に。」
答えることが出来なかった。
「一緒だ、これからは・・・ずっと。」
緩やかに、でも確実に吾郎のイイ所を突きながら
寿也自身も絶頂の一歩手前の心地よさに浸りながら・・・でも確固たる口調で説いていく。
吾郎は返事が出来なかった。
ただ、とめどなく涙が溢れた。












そして。
「君の母親代わりの・・女将に会えないかな。」
「・・・母さんに?」
「ああ。正式に申し込ませてくれ。」
「・・・ちょ、ちょっと・・・待ってくれ・・!!」
俺はあまりに急な事に取り乱してしまって。
「こういう事は早い方がいい。
それとも君のお母さんは君を一生、ここでこき使おうと思っているような・・そんなタイプ?」
「・・・違う!!母さんはそんな人じゃ・・・!!」
「良かった・・・。僕だって出来れば強硬手段を取りたくない。
場合によっては、このまま君とここを逃げ出す事まで考えてたんだけど・・・。」
そう言って寿也は男物の着替え一式をバッグから覗かせた。
「これを君に着せて隙を見て・・・ね。」
「お前・・・準備良すぎるだろ!!」
「だって・・・女将に反対されて、って話、よく聞くじゃない。「足抜け」っていうの?」
「足抜けって・・・いつの時代の話だよ!!」
ふふ・・と寿也は笑った。
「その、大昔の吉原みたいに・・身請けして全てに決着が着くなら簡単なんだけど・・・。」
「・・・・・・。」
「君を縛っているものは、お金じゃないんだろ?」
「俺は・・・・。」

違う・・・。お金なんかじゃない。
母さんに恩があるから?
勿論そうなんだけど・・・それも違う・・・・。
何故、だろう・・・。
俺は寿也が好きだ。世界中の誰よりも・・・。
でも、俺は寿也とここを出て行ってもいいのだろうか?
出たい。出たいさ!寿也と。
でも・・・・?なんで・・・?
何故だか・・とても恐ろしい事のように思える。
決して踏み出してはいけない領域に飛び込もうとしているような
どこかで神か悪魔が嘲笑を浮かべながら俺の選択を見守っているような・・・・。















「ねえ吾郎。」
「あん?」
「あのベビーフェイスだけど大物の野球選手さん、随分貴方にご執心のようね。」
「そ、そうか?」
「分かってるとは思うけど、変な気は起こさない方が貴方の為でもあるし彼の為でもあるのよ?」
「変な気、って・・・。」
「私が気付いてないとでも思ってるの?」
「・・・・・。」
「いいお客さんだったけど、潮時ね。彼の清潔なイメージに泥は塗りたくないし。」
「泥・・・・。」
「そう、泥よ。
・・・アンタをこんな道に引き込んじゃって・・母さん、悪かったって思ってる。
想う人と結ばれないのは辛いわよね・・・・。」
桃子はフィアンセだった吾郎の父親を想った。
遠い昔に起きた、酷い事故。
父親を失い天涯孤独になった、まだ5歳だった吾郎を引き取り育ててくれたのは桃子。
本当の子供のように育ててくれて愛を注いでくれた。
吾郎の幸せを一番願っているのも桃子だ。

「店に上がりたい」と言い出したのは吾郎のほうだった。
少しでも恩返しが出来れば、という思い故だった。
桃子は反対したのだが・・・しかし吾郎には「その才能」があった。
その才ゆえ、あっという間に店の看板になってしまった。
一度この道に入ってしまった者にとって、普通の人生を夢見るのは無理な話。
可哀想な事をしてしまった、と桃子は密かに思い続けてきたものの・・・。

しかし桃子はキッパリと言い放った。
「彼が来ても、もう貴方は出さないわ。いいわね?」
「・・・・ああ。」


そう桃子にハッキリ言われて、吾郎はどこか安堵していた。



寿也に出会えて・・俺は幸せだった。
あいつに会う度に、抱かれる度に俺の中の寿也の存在は大きくなる一方で。
気付けば自分ではどうしようもない程、寿也を愛してしまっていた。
その寿也にあんな事を言われて、泣きたくなるほどの幸せに・・・俺は抗う事も出来なくて。
でも何故か現実感が全くなかったんだ。
そうなったらいいね、と・・起こり得る筈もない絵空事を語るような・・・。
そうだ、寿也に言った言葉、あれは俺自身に言った言葉だ。
寿也とのあの時間は・・・・・・夢。



分かっていた。
俺なんかが愛する人と共に生きる資格なんてない事を。

昨日の寿也の言葉。
あれで俺は十分だ。
あの言葉だけで俺は生きていける。
そう言ってくれた人が、確かにいた。
それで俺は・・・・・。

母さんにキッパリ言われて、俺は自分の立場を思い出せた。
だから俺はホッと・・安堵している。


怖かったのだ。俺は。
幸せになることが。
それがいかに自分とは無縁のものか・・・心のどこかでハッキリと分かっていたから。
こんな所で生きている人間が
栄光の道をひたすらに駆け抜ける・・・
そう、超一流のスラッガーで名捕手なんかと・・・・一緒にいていいはずがない。
寿也の未来は輝いている。
俺は寿也にとって・・・汚点にしかならない。


ここは魔物たちの巣窟、はきだめの底。

ここが俺の棲む世界。
ここにいれば、これ以上悪い事になどなり得ない。
これ以上の絶望を味わう事もない。

そんな世界と、あの幸せは、まるで紙一重。
それはナイフの上を素足で歩いているような不安定感。恐怖感。
歩き方を間違えれば深く傷がつき、また一歩踏み外せば真っ逆様。

寿也といると、とても幸せだった。
でも、その反面、いつも恐れていた。
そんな思いはもう、しなくてもいい。

日本中の注目を浴びている寿也と・・・・ちっぽけな俺。
輝かしい未来を持つ寿也と・・・ここで朽ち果てるしかない俺。

良かった・・・気付くのが遅すぎなくて。

俺は・・明らかに安堵している。
終わりを恐れる事は・・・もう、ないんだ・・・・・・。










それから。
寿也が門前払いを食らい続けている話は、桃子が何も言わなくても噂話として耳に入ってきた。
聞こえない、聞こえない・・・・聞くんじゃない!!

携帯も着信拒否、メール受信拒否も設定して
そして日々だけが虚しく流れていった。


何も変わらない。
少し前の自分に戻っただけ。
寿也に出会う前も俺はちゃんと生きていた。
だから寿也に会わなくても俺は生きられる。
・・・・・大丈夫・・・・・・。

俺の生きる世界はここだ。ここだけ・・・・。











「・・・・セーラー服に下着なし?ったく・・・あ?分かってるって、着りゃーいいんだろ?」

寿也じゃない男に組み敷かれて。
でも感じてしまう、浅ましいこの体。
汚らわしい俺。

母さんの言った通りだ。


泥・・・いや、もっと汚い・・・俺は。

毎日毎日、違う男、違う男。
毎日毎日ソコをあの肉の塊でいっぱいにされて、あの液体でいっぱいにされて。


これが俺。
俺の生きる場所。






















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