いつまでも子供のままではいられない。
いつまでも、子供のままの恋を引きずってもいられない。
それが立場のある者、同性同士なら尚の事、許される筈も無い。
誰もがそうやって大人になっていくんだ。
良い意味であれ、悪い意味であれ。
中国の奥地。
ごく限られた者のみにしか、その存在さえも知られていない小さな村で。
「そろそろ、一族の長として、身を固めてもらわねば、レイよ。」
「・・・・・。」
「どうした。」
「・・・・長老。俺は世界というものから隔絶されたこの村だけで、一生を終えたいとは思わない。
子供の頃から世界中を渡り歩く事を許され、世界を旅して・・・いろいろな事を知り、勉強できた。
俺はもっともっと世界を巡りたい。
俺はもっともっと世界を知りたい。
そんな俺に、白虎族の長になど・・・。務まるはずも無い。」
「・・・・そんな話は何度も出たな。」
「長老!長にはライの方が合っています。俺のような根無し草を長にしたって・・・!!」
「レイ。白虎が認めた者が白虎族の長だ。それは変わらん。」
レイは絶望にその金色の瞳を見開き、そして唇を噛んだ。
「しかしな、レイよ。
お前は世界を渡り歩く度に強くなっていった。それは村中の誰もが知っていることだ。
だからお前がまた旅に出たいと言えば、止める者はいないだろう。」
「・・・・・。」
「お前は好きなように世界に出ればいい。その間はライに任せて。」
「え・・・・?」
「これからはお前が長だ。そして長たるものは強くなければならない。
長であるお前は、お前の信じるままに世界に飛び出して、そしてこの村を変えていけばいい。ライと共に。」
「長老・・・・・。ありがとうございます!」
レイは深々と頭を下げた。
「しかし、その身だけは固めてもらう。
お前の子が次の長になれるかどうかは白虎次第で、それはまた別の話だが
長たるもの、妻を娶って子を持たねば。
しっかりした家庭を築いて、ようやく一人前なのだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
レイは長い沈黙の後、承諾した。
身を固めると言っても、レイの場合、大した問題ではない。
レイはやはり世界へ出たかった。
となると、事実上の長はライだ。
レイは名前だけの長。白虎が宿っているから、というだけの。
結婚なんて・・・真実、心がそこになければ、なんの意味も無い。
今までと同じだ。
今までだって好きな人がいたけれど、別のヤツを何人抱いたか。
その「妻」だって、俺にとっては「別のヤツ」の一人だ。
その「別のヤツの一人」が「妻」という名目になるだけ。
「誰だって同じだ。カイでないのなら・・・・誰だって・・・・マオだって・・・・・・・。」
日本。
とあるマンションの一室で。
「やはり・・・どう考えても無理だ。」
「そんな馬鹿な話があるかよ!俺達、子供の頃からずっと・・・!!」
「木ノ宮。俺達はもう子供じゃない。日本は・・・世界は・・・・俺達の事など認めようとすらしないだろう。」
「カイ、お前、いつの間にそんなに人目を気にするようになったんだよ。
昔からお前が一番、やりたい放題だっただろ?こんな時だけ、らしくない事・・・言うなよ・・・・!」
タカオの瞳は涙で潤んでいた。
「大人になるということは、こういうことだ。お前も・・・・いい加減、大人になれ。」
「なんなんだよ、大人って!!
好きな人を好きだって言っちゃいけないのか?それが大人なのか?
なら、俺は一生、大人になんてなりたくねー!!」
「木ノ宮!!」
タカオはカイを抱きしめながら涙を流していた。
口では「嫌だ」と言いながらも・・・タカオにも分かっていた。
本当は、分かり過ぎるほどに分かっていたのだ。
「嫌だ・・・・カイと別れるなんて・・・・絶対、嫌だ・・・・・・!!」
さらに強く、強くカイを抱きしめる。
「タカオ・・・・・。」
カイはタカオの背に腕を回した。
タカオはゆっくりとカイの体を倒していく。
最後の唇付け、最後の愛撫、最後の・・・・・・・・。
愛してる・・・・愛してる・・・・・・。
離れても、会えなくても・・・・お前だけを愛している・・・・・。
子供のころから、初めて会った、あの日から、ずっと・・・・・・。
いつかこんな日が来る。
それは心のどこかで、いつも考えていたように思う。
それが今日、ついにやって来てしまったんだ。
明日からは違う道を。
でも心は、心だけは、お前に。
お前だけを愛している。
泣きながら抱き合って、そして。
今夜だけ・・・今夜が最後の・・・。
朝など、永遠に来なければいい。
ずっとこのまま・・・・・ずっと・・・・・・。
そう、願いながら。
そして時は流れた。
木ノ宮と別れてから暫くして。
木ノ宮が結婚したと聞いた。
あの時、駄々をこねる木ノ宮をあんなに必死に俺は説き伏せたのに。
その木ノ宮の方がさっさと結婚して・・・・俺は取り残されてしまった。
そんな時だ。
縁談が持ち上がったのは。
相手は火渡に有利な、どこかの大会社の社長令嬢。
誰だって同じだった。
タカオでないのなら、誰だって・・・・。
俺は何の異議も唱えず写真すら見ずに、承諾した。
結婚の最大の目的は跡継ぎを作ること。
だから子作りの作業だと割り切って、初めて「抱く」という行為をした。
今まで「女」という生き物を、そういう対象と考えた事すらなかった俺にとって
女との、しかも気持ちの伴わないセックスは、吐き気がするほど、おぞましい行為だった。
そもそも・・・女になど・・・勃たない。
薬で無理やり勃たせて行うそれは
何の意味もない、ただの排泄のようにも思えた。
だが・・・息子はできた。
これで役目は終わった。
これで二度とあの女に触れなくていい。
それでも、その後も何度か媚びた声でその体を意味ありげに押し付けられ迫られたが
愛撫も何もなく、いきなり突き入れるだけの行為を、まだこの女はしたいというのか。
愛情の欠片もない事など明らかではないか。
その声も、くねる体も、世間が美しいと賞賛するその容姿も・・・・
気持ち悪い、汚らわしい、おぞましい・・・・・憎悪の対象でしかなかった。
弱々しさを装いながら男に媚びて、突かれて喘いでよがる事しか生きる術を知らない。
その美しい仮面の下には・・・打算、エゴ、自己顕示・・・そう、欲の塊。
・・・・吐き気がする!!
「失せろ。二度と俺の視界に現れるな。」
氷点下の眼差しで射るようにそう言い放ってからは、あの女も寄って来なくなった。
これで、いい・・・・。
あとは火渡の社長をこなすだけ。
狂ったように仕事に明け暮れる日々。
何も・・・下らない事など・・・あいつの事など考えずにすむように
俺は毎日、仕事にのみ、打ち込む。
仕事、仕事だ。
仕事さえしていれば・・・・俺は・・・・・・。
・・・・・・。
そしていつしか俺は、感情の無い人形に・・・・・
歓びも哀しみも、何もかもが忘却の彼方。
俺は・・・・仕事だけの・・・人形・・・・・・・。
「どうしたんだよ、しけた面しちゃって。」
いきなりのよく知った声に振り向くと、そこには懐かしい笑顔。
金の瞳、そして口元から覗く牙が魅力的な青年。
「貴様・・・このセキュリティをどうやって突破した。」
そうだ、ここは火渡本社の社長室。しかもかなりの高層階。
「セキュリティ?俺にはオモチャにしか見えなかったぞ?」
俺は溜息をついた。
「で、何の用だ。」
「別に。ただ、元気かな〜って思っただけさ。」
レイは誰をも魅了する、笑顔を見せた。
「・・・・仕事の邪魔だ。失せろ。」
「酷いな〜。せっかく久し振りに、わざわざ会いに来たのに。」
「会いに来てくれ、と頼んだ覚えは無い。」
「・・・・。そういう所は相変わらずだけど・・・・カイ、お前、なんか変わったな。」
「変わらないのは貴様くらいだ。相変らず能天気な色情魔をやってるのだろう。」
「まあ、な。しかし・・・あーーーーーーっ!!
結婚なんてするんじゃなかった!マオのヤツ、嫉妬が普通じゃないんだ。
いくら結婚したからって、一人の女で満足できると思うか?この俺が!!最初から分かってた筈じゃないか!」
レイは「この俺が!」という言葉を特に強調して親指で自らを指し
ウンザリ・・という調子で愚痴をこぼした。
それにしても、「この俺が!」というのは妙に説得力がある。
俺は思わず吹き出しそうになった。
「お前の発情ぶりのほうが普通じゃないんだ。そのくらい気付け。
わざわざそんな愚痴を聞かせに来たのか、貴様は。」
すると、レイは暫くの間の後。
「いや・・・・。たまには気晴らしがしたくなって、さ。
お前も、めっきり夫婦仲が冷え込んでるようじゃないか。」
あの女の事を言われて、俺は露骨に嫌悪を顔に出した。
「求める者と結ばれなかった者同士・・・たまにはいいんじゃないか?」
「・・・・。」
気付けば、レイは俺のすぐ脇から社長机に手を突いて・・・それに向かっていた俺の至近距離にいて、俺を見下ろしていた。
その瞳は相変らず月光のように美しく、惹き込まれずにはいられない。
その笑顔も・・・一体何人の女を、男を惑わせてきた事だろう。
そう思わずにはいられないほどに、昔と変わらず美しかった。
「傷を舐め合おう、とでも?フン、馬鹿馬鹿しい。俺は貴様のように暇ではない。」
「そうやって自分で自分を追い込むところも相変らずだな。
そういう時のお前には・・・・誰かが必要なんだ。
本来なら、それはタカオの役目だ。しかし・・・。」
タカオ、と言われて。
俺は振り切るように机に拳を叩きつけた。
そしてレイを見上げて不適に微笑んで見せた。
「いいだろう。相手になってやる。」
そして、レイの腕を引き込んだ。
いつから放置していたか分からないくらい放置していました。
少しづつ上げていこうと思います。
それから、これはもうレイカイなんじゃ?ってくらいにレイが絡んできます。
純粋なタカカイしか嫌だ!!って方は避けておいた方が無難かと・・・。
グダグダな話で申し訳ありません。
こんな話、誰が読むんだろ、と思ったものの、止まらなかった・・・・。
あ、タイトルは仮です。
上げるにあたって苦肉の策で、とある歌から拝借しましたが
いまだ悩み中なので、途中でいきなり変わるかもしれません。
それでは少々長いですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
(2016.5.10)